トラブルデイズ!〜若き隠者の東奔西走物語〜 作:テムテムLvMAX
魔法において右に出るものがない、最強の魔法使いの称号である【魔人】という肩書き。
その名に相応しく魔人は魔人であった。
神の末席から血を引く古竜を倒した、空に都市を浮遊させ暮らした、山を蹴っ飛ばして地形を変えたなどなど……、挙げればきりが無い偉業の数々、まぁ山を蹴っ飛ばしたって話は信憑性が怪しいがな。
そんな肩書を俺は目指した、まぁ挫折したけどな。
【魔人】になろうと毎日躍起になって魔法を研究していたよ、魔法が普遍的な技術になってからもう百年、すこし学べば誰でも魔法が扱える世の中だ。
その中で最強を目指そうと思った当時の自分は、ちょっとイカれてたね。
当時は盲目に目指すあまりに自分の体を代償にした儀式もやったし、俺しか使えないトンチキ魔法も作ってしまった、そんな方法じゃ魔人になれるわけがないと同期の奴らには散々笑われたのは記憶に新しいね、今でも忘れられない。
……どのみち今の時代に魔人と呼ばれる人間は少ない、今存在している魔人は5人と言われている、その5人も魔人と呼ばれるまでには紆余曲折あったと聞くし、一様に国に多大な貢献を示したから魔人と言われるんだ。
それが先に挙げた偉業だ、俺には竜は倒せない、倒す魔法も思いつかない、と言うか俺の魔法は誰かのための魔法じゃないしな。
だから俺は挫折した、目指す場所の果てしなさに心が折れた。
今は競争から離れてのんびりと一人暮らしさ、森の中にひっそりとね。
魔法のあるご時世で20代で隠居生活してると色々と良くない噂をされたりするが、そこは社会から離れたツケとして受け取っているよ。
自給自足の生活は大変だ、けどそれで満足しようと思ったら満足できる、あの競争の日々が嘘のように思えて心が軽い。
今は季節ごとに花を育てることに夢中になっている、今は暑い日が続く季節だから熱に強い花を育てよう、そんな具合にな。
今の生活は平穏だ、実に穏やかだ、このまま森の中で花畑を作り一人幸せに暮らしていきたい、俺の両親はそれを応援してくれているからもう街で暮らす必要もない。
ちょっとだけ自衛のために力はいるが、それだけだ。
ああ、今日も晴れやかないい日だ、今日の予定はなんだったかな、ああそうだった、新しい花を見つけに森の奥に行こうと思っていたんだった。
「あー道具はどこだったかな……」
この家は自分で建てた木造平屋だけど時々何処に何をおいたか忘れてしまう。
原因は簡単にめんどくさがってキッチンに採取用のスコップを置いたり、ベッド横の本棚の余ったスペースに荷物を押し込んだりしているせいだ。
けど一人暮らしだから片付けるのめんどくせぇ〜って思うんです、仕方ないですよね?
「背負籠、よし! 獣避け、よし! ナイフよし! スコップよし! 全部よし!」
自分のクセは自分がよくわかってるのでとっとと荷物を整えて、森へ繰り出す。
俺の家も森の中にあるけどこの辺りは木を伐採しならしてある、つまり見渡しの効く平地と変わらない、そこに畑や庭を作ってあるから鳥獣対策しないとすぐに荒らされる、もちろん対策済みでござい。
それがこの案山子くんである! 鮮烈な赤を纏わせたひょうきんな顔つきの彼は、良き守護者である、彼が来てからというもの畑は荒らされなくなったのだ!
「それじゃ案山子くんや、いってくるぜーい」
「イッテラッシャイ」
我が家の畑の守護者の案山子くんには魔法で返事を出来るようにしておいた、キーワードに合わせて返事をするだけのデクであるが、人の声は獣避けにバッチリ使えるんだ。
今から行く森は危険だ、この辺りはエルマン山脈から下ってきた魔物の住処でもある、エルマン山脈は古いダンジョンが山脈全体に広がっているせいで魔物が蔓延っている危険地帯だ、そこから漏れ出た魔物はこの森に居着くと言うのは珍しい話じゃない。
だが、俺も魔人、最強の魔法使いを目指した身、伊達にこんな秘境に居を構えたわけじゃないぜ……人に見せたら笑われるような魔法だったとしても、な。
俺の左腕は 〝肩から指先まで鉱石で出来上がっている〟 それも魔法の触媒としてよく用いられるカルマリーア鉱石だ、赤黒く波のようなまだら模様から刀剣型の魔法器によく使われる鉱石を、俺はそのまま腕にしちまった。
当時の俺は触媒を身体に埋め込めばもっと魔法がうまく使えると思ったんだ、せいぜい手の甲に埋め込むつもりが、使った魔法がオリジナルで未知の部分もあったせいで腕全体が鉱石に置き換わってしまった。
お陰で肩が凝るわ、触ったものがよく割れるわ、魔法の威力が高まりすぎて暴走するわ、良いことはなかった。
この腕に慣れたのは最近だ、やっと付き合い方が分かってきた。
こんな腕でも危険な森の中だと頼れる相棒だ、どんな者も物も性質をよく学べば使い道が分かる。
例えば俺の腕は魔法の威力を高めるカルマリーア鉱石だが、刀剣に使える程度の硬さもある、魔法で更に腕の硬度を増せば逸品の砥石代りになる。
左の人差し指にナイフを当て、ジョリジョリと三回引けば名刀に勝る切れ味を持たせることができる。
「……研ぎすぎたか?」
そんな日もある。
いよいよ研いだナイフ片手に籠を背負って森へ入る、険しい道が続く、良質の革ブーツでも足を引っ掛ければダメにするような茨や刺のある植物が行く手を阻む。
それをかわしてナイフで切り進む、登ったり下ったり、谷に入っては川を見つけて水を飲んだりして目印を付けつつ進んだ。
花のために危険を犯すのは酔狂が過ぎると言わることがある、だけどな、魔法のために命を捧げて研究するのも同じじゃねぇか?
俺は少なくともそう思った、それならば俺は自分が気に入ったことに命をかける、それが間違いだったと思うのは死んだあとだ。
だが、今日は少なくともその日じゃないと言うのは確かだったな、運よく花を見つけた。
「こんな所に……お前すごいな……」
切り立った断崖にせり出す枯れた大木のうろの中に真っ赤な薔薇が咲いていた、微弱な魔力を感じる、恐らくこの地で死んだ魔物の魔力を吸い上げて養分にしているんだ。
つくづく自然の力に頭が下がる、人が暮らせない所でも花は綺麗に咲く、それも誰も観てないところで。
この薔薇はきっと高潔な性格をしていることだろう、そんな妄想もしてみたりする。
「……これは、そっとしておくか」
この薔薇は普通の花とは違う、魔力を帯びる植物は珍しい、人が手を加えずに自然な魔力を帯びた植物はそれだけで価値がある、魔力に適応した植物は魔力を注げば永遠にその姿を保つと言われているからだ。
だけど俺はそっとしておきたい、この薔薇は。
……俺もこの薔薇のようになりたいからだろうな。
誰もいない所でひっそりと、だが綺麗に咲く、カッコいい生き様を望んでる。
「じゃあな」
その薔薇を十分目に焼き付けて、帰ろうとしたその時、森に焦げ臭い匂いが漂う。
歩いてきた目印とエルマン山脈の位置から、その方角は俺の家がある場所だと断定できた。
「……俺の家ぇっ!?」
冷静に分析している場合じゃない!
急いで来た道を引き返しているとだんだんと黒煙が森に漂い始め、次第に呼吸も辛くなる、風上に立っているはずなのにこの事態、何が起きているんだ?
「オカエリ……オカエリ……」
「案山子くん!」
たどり着いたが、家は全焼……丸焦げどころではない、畑や庭、残らず燃えていた。
俺の理想の人生計画がまたたく間に崩れていく、呆然とする中、案山子の声だけが虚しく森に響いた。
「なんでだ……」
未だ燃え盛る家から離れ、木を背もたれにして座るのが精一杯だ。
正直、立ち直れない……家が燃えただけならいい、だけど時間をかけて集めて育てた花や作物が全部無に帰したのは辛い、幸いこの辺は切り開いてあるから森に引火はしてないが……。
ショックのあまり顔を覆って立ち上がれなくなった、辛すぎる……。
馬の足音が聞こえる、誰かがいる?
「ほう、生きていたか……」
俺の前に馬が現れた、その馬は見事な甲冑に身を包みまるで……軍用の戦争馬であるように見れた。
鞍上にいるのは、案の定と言うべきか黒の甲冑に身を包んだ騎士だった、さっきの声はこの騎士の声のようだ。
騎士は馬から俺を見下ろしている、兜の奥に顔を隠しているので見えないがかなり若い年頃の男だと思った。
騎士は偉そうに物を言う、事情を知らない俺を馬鹿にしたいという意志が嫌味なほど伝わってきた。
「くくく……哀れな者よ、焼け死んでいれば良かったものを……可哀想にな、おい、連れて行け」
騎士の声掛けで奴の背後から続々と甲冑に身を包む騎士が現れ、俺を囲む、そのどれもが憎たらしい騎士と同じ文様を刻んでいる。
クソ憎たらしい騎士は声高らかに、明らかに悦に入った様子で語りはじめた。
「喜べ、お前は我らの主に選ばれたのだよ! 我々の素晴らしき時代の礎となるのだ! ンフハハハハ!」
言ってる意味は分からない、分かってたまるか。
「……ふぅむ、戯れはこれくらいにしておこう、『神授騎士』たちよ、すみやかに拘束せよ、『皇帝陛下』はそう命ぜられた」
……おいおいどうなってんだ、思ったよりヤバい組織が出てきたなぁ〜?
神授騎士は皇帝陛下直属の部隊の名前だ、皇帝陛下は恐らくフレイグン3世の事だ、この国の皇帝フレイグン3世が俺を狙っている?
神授騎士は表舞台に立つことのない組織だと言うが、じゃあこれは表に出せない話なのか? 森の一軒家を焼いたんだぞ、何処から情報が漏れてもおかしくないはずだ、神授騎士がそんな杜撰な……
……何かヤバいことが起きそうな予感がする、それも良くない方向にだ、俺がどうとか言うんじゃねぇ、国全体がおかしくなりそうだ……。
「大人しく従うな? ロイ・ロッドラン君?」
傲慢クソ野郎に身元もバレてるのか、この先生きて帰れるかな……はは……。
俺は抗う事なくこいつらの拘束を受け入れた、目指していた平穏が燃やし尽くされた今、俺は何処かヤケになっていた。
奴らの親玉も巻き添えにしてやろう、そんな思いも秘めつつゆっくりと目を閉じ、引かれるがまま歩いた。