完璧な僕の嘘を、嫌われ者の君だけが「正論」で壊した 作:テレサ二号
初めましての人も、そうじゃない人もこんばんわ。
テレサ2号と申します。
直近でかぐや様は告らせたいを読んでて、久しぶりに執筆活動がしたいなと思って筆を取りました。
原作の勉強不足な所は多々あると思いますが、寛大な心で読んでいただけると幸いです!
原作とは違う動きをする事もあると思いますので、予めご容赦ください(*・ω・)*_ _)ペコリ
では、本編です!
いつからだろう。
毎朝、鏡の前で吐くようになったのは。
鏡の向こうでは両親が作り上げた「最高傑作」が、一点の曇りもない微笑みを浮かべている。
求められるままに色を変え、形を変え、動きを変え、僕は今日も「理想の息子」「模範となる生徒」という役を完遂する。
指を喉の奥へ突き立て、せり上がる酸っぱい液体とともに己への嫌悪をシンクへぶちまけた。
飛び散る水滴が完璧なはずの僕の顔を汚していく。
剥がし方のわからなくなったこの仮面こそが、僕を絞め殺し続ける一番の凶器となった。
鏡の向こうの自分への嫌悪感を抑え込み、洗いたてのシャツに袖を通し、襟を正す。
彼の名前は杉原 耀(すぎはら よう)。
政治家の父とアパレルブランドの社長を勤める母の間に生まれ、父の家庭は代々政治家を世に輩出しており、先祖には外務大臣を務めた人物が存在するほどの名家である。
秀知院学園では学業において1学年で常に成績5番以内を維持し、学業以外では生徒会の広報として他校との交流会や学内行事の調整を完璧にこなす。
生徒会長:白銀御行や副会長:四宮かぐやは、その高貴な立ち振る舞いから声を掛けるのもおこがましいと敬遠されがちだが、彼の秀でたコミュニケーション能力が生徒会と在校生の架け橋となっており、白銀御行からも高い評価を受けている。
その高いスペックの中で特出している語学力と交渉術を駆使し、身の回りで起こる問題を次々と解決していく彼の姿に周囲の大人たちからも「さすが杉原家の血筋」と称賛される。
そんな彼が生徒会に入るキッカケとなったのは、生徒会長である白銀御行への敬意である。
庶民の出でありながら、弛まぬ努力で自身を磨き上げ、生徒会長へ登りつめた彼に耀は憧れにも似た敬意を抱いていた。
そんな白銀御行は、睡眠不足で極限まで釣り上げられたツリ目と、高いプライドから来る上からの物言いにより交渉や広報活動をやや不得手としていた。
そんな彼の力になりたいと思った耀は自ら生徒会広報を志願し、「広報に就きたいのであれば、俺を説き伏せてみせろ」と言う白銀御行の難題をその場でクリアし、生徒会広報という地位に着いたのである。
1年B組の教室。
石上優は机に突っ伏し、周囲の喧騒から逃れるようにヘッドホンをつけている。
対して、耀の周りには自然と人が集まっていた。
「杉原くん、ここの解き方教えてくれない?」
「ああ、そこはね……」
耀は完璧に、かつ謙虚に教える。
クラスメイトたちは「杉原は性格まで完璧だな」と口々に称賛し、耀は「そんなことないよ」と、全く嫌味の無い照れ笑いで返す。
その視線の端で、同じ生徒会で会計を務める石上優の丸まった背中を見つめる。
(……石上くん、君はいいな。そうやって『やる気がない』という免罪符を盾に、自分を隠していられるんだから。)
同じ生徒会という立場にいながら、皆が求める秀知院学園の生徒会役員という理想像に近づこうともしない石上に軽蔑にも近い、諦めのような視線を心の中で彼に向けた。
「私たちと同じクラスの杉原くんが、あの白銀会長やかぐや様と肩を並べて生徒会役員を務めているなんて、私たちも誇らしいわ」
「いやいや、僕なんておふたりに比べたらまだまだで、いつも自分の役割を全うする事に精一杯だから」
心からの賞賛を耀は上辺だけで受け取り、完璧な謙虚な姿勢を見せた。
放課後の生徒会室。
いつもなら、白銀御行と四宮かぐやの間に流れる、密度の高い頭脳戦の気配がある場所だ。
だが今日は、藤原千花の能天気な声がその空気を塗り替えていた。
「はーい! 皆さん注目です! 今日はとっておきのゲームを持ってきましたよ!」
”ドンッ”と効果音が付く勢いで彼女が机に広げたのは、豪奢な金縁のカードセット。
「その名も『ロイヤル・ブラフ・ポーカー』です! 嘘をついている人を見抜く、まさに生徒会に相応しいゲームです!」
「……ほう、面白そうだな」
白銀が興味を示す。
耀は、広報としていつもの通りの穏やかで上品な微笑みを貼り付け、椅子を引きテーブルに着いた。
「いいですね、藤原先輩。僕も混ぜてもらえますか?」
教室ではあまり人と関わろうとしない石上も、心を許している生徒会メンバーとのゲームには乗り気である。
この当たり前のような、微笑ましい生徒会の光景に、耀の心に冷ややかな苛立ちが広がっていく。
白銀や四宮のように、己を律し、役割を全うしようとする強者には敬意を抱ける。
だが、自分の立場を弁えず、学業や私生活において無防備な失態を見せる藤原や石上は、耀の価値観からすれば「義務の放棄」でしかない。
だが同時に、どれほど望んでも「剥き出しの自分」になることが許されず自らにも許していない耀にとって、彼らのその姿は、眩しすぎて直視できない毒のような羨望でもあった。
ゲームが始まる直前。
藤原がカードを配ろうとしたその手に、耀はそっと自分の手を重ねた。
「藤原先輩。……始める前に、一つだけ確認してもいいですか?」
「はい? なんですか、杉原くん。そんなに真剣な顔をして」
耀は椅子に深く腰掛けたまま、藤原の瞳をじっと見つめる。
「藤原先輩、本当に、このまま始めていいんですね?」
「え……? は、はい。もちろんです。何が問題なんですか?」
藤原の声が、わずかに震えた。
耀はそこで、あえて無言の「間」を置いた。
”杉原耀にはすべて見えている”という、相手の勝手な先入観を利用する。
「……そうですか。先輩がそう仰るなら、信じます。ただ、僕は先輩に誰からも指を差されるような人であってほしくないだけなんです。僕の……『憧れの先輩』のままでいてほしいですから。ねえ、藤原先輩? 今なら、みんな笑って許してくれますよ?」
耀の笑顔は、慈愛に満ちた聖人のそれだった。
だがその実、彼は自らの評価という名の重しを使い、藤原の良心を内側から押し潰していく。
「……っ……あ、あ、あああああ!」
藤原の顔が真っ赤になり、ついに決壊した。
「ごめんなさーーーい!! 実はカードの束の隙間に一枚隠し持ってましたぁー!! 杉原くんの、あの真っ直ぐな瞳に嘘をつき通すなんて、私には無理ですぅーー!!」
「えぇ……!?」
白銀とかぐやが声を揃えて驚愕する中、藤原は涙を流しながら生徒会室から駆け出した。
石上は
「僕も……先に失礼します。なんというか……ここ、空気が薄いっていうか、息苦しいんで」
と、耀の「完璧すぎる善人性」に形容しがたい違和感を覚えたように、静かに席を立った。
騒がしい異分子が消え、室内に残ったのは白銀、かぐや、耀の三人だけになった。
「いやはや、杉原。お前の観察眼には恐れ入るよ。よく見抜けたな」
白銀が心底感心したように言う。
耀は穏やかな微笑みを崩さないまま、ティーカップを傾け紅茶を口に運んだ。
「……いえ。実は僕、藤原先輩が何かしていたなんて確証は一ミリもなかったんです」
白銀の動きが止まる。
かぐやの瞳に、鋭い光が宿った。
「確証がなかった……? では、あの問いかけは……」
「ただのブラフですよ。藤原先輩なら、僕が『当然気づいている』という空気を出せば、勝手に自白してくれるだろうと予測しただけです」
耀は、まるで庭の花を愛でるようなトーンで淡々と続けた。
「癖が無いなら作ればいいんです。僕が藤原先輩の癖に気づいていると先輩自身が思い込めば、いつも通りでいようとし過ぎたり、逆に癖を装おうとして綻びが生まれますから。僕はただ、その自滅を待っていただけですよ」
「…………」
室内に、重苦しいまでの静寂が落ちる。
かぐやの背中を、説明のつかない奇妙な戦慄が走った。
相手の「信頼」さえも心理誘導の道具として扱う、耀の冷徹な知性。
だが、その緊張を切り裂いたのは、耀のあどけない苦笑いだった。
「……なんて。昨日読んだ心理学の本に書いてあったんですけど、本当に上手くいくものですね。ちょっと驚きました」
耀は気恥ずかしそうに頬を掻き、いつもの「出来の良すぎる、謙虚な後輩」の顔に戻って見せた。
(……今の説明も嘘? それとも、今の『誤魔化し』こそが嘘なの……?)
かぐやは言葉を失う。
耀の言葉のどこまでが本心で、どこまでが虚飾なのか。その境界線が言葉という霧の中に消えていく。
「四宮先輩? ……どうかされましたか?」
「……いえ。杉原さん。あなたは、時々……本当に得体の知れない空気を纏われますわね」
「大袈裟ですよ。先輩は僕を過大評価し過ぎです。では僕はこれにて失礼します」
耀は完璧なマナーで一礼し、生徒会室を退出した。
一人になった廊下を過ぎ、中庭を抜け、校外に出た。
ポケットの中でスマートフォンが震える。
画面に映し出されたのは、事務的な文字列だった。
父
『今週末の政財界レセプション、18時に車を出す。出席者は私の仕事上の知人ばかりだ。杉原家の跡取りとして、一寸の隙もない振る舞いをしろ。お前が「完璧」であることは、我が家の安泰に直結すると心得ておけ』
母
『日曜日の午後は予定通りあけておいて。一宮商事の専務夫人たちとのお茶会よ。あなたのその笑顔は評判がいいから、しっかり接待してちょうだいね』
彼らにとっての耀は、愛すべき息子ではなく、一族の価値を維持するための高品質な「装置」に過ぎない。
スマートフォンを閉じ、ふと停まっている車に写る、聖人のようなほほえみを浮かべる自分を見た。
「……気持ち悪い」
これは自分に向けた物なのか、それとも両親に向けた物なのか。
不意に零れた嫌悪感の塊は、誰にも届かず虚しく宙を待った。
最後までご覧いただきありがとうございました!
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