完璧な僕の嘘を、嫌われ者の君だけが「正論」で壊した   作:テレサ二号

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皆さん、こんばんは!テレサ二号です!

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ありがとうございます!⸜(*˙꒳˙*)⸝

これからも気軽に読んでいただけると嬉しいです!!

では、本編です!!


第三話:気持ちの名を知らない

 

 

放課後の図書室。

 

窓から差し込む夕日は、耀の端正な横顔をオレンジ色に染めていた。

 

彼は猛烈な勢いでタブレットを操作している。

画面に躍るのは、複雑に絡み合う物流網のシミュレーションと、一般人には理解不能な関数群だ。

 

「……昨日、父上に連れられて出席したレセプションで相談された問題点。地方自治体のDX化停滞による経済損失は年間で数百億規模……。既存の利権構造を回避し、リソースを最適化するアルゴリズムの暫定指針(ガイドライン)はっと……これで、よし」

 

耀にとって、国家レベルの難問を解くことは、他の高校生がパズルを解くのと同義の「遊び」に過ぎない。

耀は小学校の頃から、父と交流がある政財界の重鎮からの無理難題を知恵を働かせて解決する遊びを繰り返している。

 

「なぞなぞ(課題)」を一つクリアし、ふと顔を上げた瞬間――。

非情な通知音が鳴り響き、画面がブラックアウトした。

 

「…………あ。……しまった。シミュレーションにリソースを割きすぎて、外部出力(画面)の維持を失念していた....」

 

端末の死は、耀にとって「現在地の消失」を意味する。

 

極度の方向音痴である彼は、デジタル地図という「脳の外付けハードディスク」を失った瞬間、現実世界での座標を見失うのだ。

 

 

 

 

「……現在地、推定不能。風向と太陽の角度から算出すれば、生徒会室は北北西に300メートル……のはずだが」

 

自信満々に歩き出した耀が、5分後に辿り着いたのは、女子寮裏の行き止まりだった。

 

「……杉原くん? 何してんすか、そんなところで。新種の修行?杉原くんみたいな好青年じゃなきゃ今頃通報されてますよ?」

 

ヘッドホンを外して首にかけ、不審そうに耀を見つめるのは石上優だった。

耀は、砂漠でオアシスを見つけた旅人のような顔で石上の肩を掴む。

 

「石上くん! 救世主だ。僕を……僕の『命(充電器)』がある場所まで導いてほしい!このままでは僕は、この校舎という閉鎖空間でロジスティクスが破綻して死んでしまう....」

 

「……いや、大げさすぎでしょ。いいっすよ、生徒会室までですよね」

 

石上に先導され、まるで幼稚園児のようにトボトボと歩く耀。

 

影では「天才」と呼ばれ、政財界の重鎮たちを感服させた少年が、放課後の校内で迷子になっている。

石上は呆れながらも、この「怪物」の意外なポンコツさに、少しだけ親近感を覚えていた。

 

 

生徒会室に辿り着き、電源を引き込んだ耀は、深い溜息をついた。

 

「……助かったよ石上くん、君は自分がどれだけ偉大なことをしたか分かっていない。お礼として、君のゲーム機のOSを人類最高スペックまで加速させようか?」

 

「いや、それだと基盤が焼ききれちゃうでしょうが」

 

普段、教室で見せている聖人:杉原 耀というよりかはこちらが私生活の人格に近いのかと思うと、今まで壁を感じていた石上にとっては急速に耀との距離を縮めたような感覚を得ていた。

 

「なんか、杉原くんってもっと完璧超人、聖人君子みたいな人だと思ってましたけど、そんな顔もするんすね」

 

「はっ!!?」

 

そこで耀はいつものように聖人君子の仮面を被っていない事を思い出した。

 

耀は慌てて自身を取り繕うと無意識に襟元を正す。

その瞬間、耀は昨日の会長とかぐやとの出来事を思い出していた。

 

『そんなに四六時中気持ちを引き締めていたら、いつか心が酸欠になってしまうぞ』

 

耀に微笑みかけてくれた会長の言葉が暖かくようを包んでいく。

 

(...もしかしたら生徒会では少しくらい気を許してもいいのかな?)

 

「くっ...」

 

「く?」

 

「クラスのみんなには内緒にしてくれたら助かるよ...」

 

耀は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、石上に懇願した。

 

「僕が女の子だったら、とっくにフラグが立ってますよ...」

 

石上は耀と同性でありながらも、一瞬心がときめくような不思議な感覚に陥った。

 

「それより、杉原くんって、データとか数字には強いのに、なんでそんなに人間味がないっていうか、抜けてるんすか?」

 

「そんなに僕、人間味無いかな?」

 

「ハッキリ言って僕は昨日まで、杉原くんをサイボーグか何かと思ってましたよ。あ、そだこれっ」

 

そう言って石上が差し出したのは、一本のゲームソフトだった。

 

『乙女の祈りはクリティカル』

 

「これ、やってみてください。人間理解のトレーニングっす。感情という予測不能な変数に、あなたの脳がどこまで通用するか」

 

「……美少女ゲーム? 選択肢を選んで好感度を最適化するだけのシミュレーションですね。……10分もあれば全ルートを論理的に完遂できると思いますよ?」

 

だが、1時間後。耀はモニターの前で、かつてないほどの戦慄に震えていた。

 

「……おかしい。石上くん、このヒロインの行動原理が支離滅裂だ。僕が良かれと思って『効率的な家事の分担』を提案したら、好感度がマイナス50になった。なぜだ? 負担の軽減は喜ぶべき事象ではないのか?」

 

「……杉原くん。女の子は『正論』が欲しいんじゃなくて『共感』が欲しいんすよ」

 

「共感……? 実体のない概念を優先して、全体の利益を損なうのか? ……石上くん、この『感情』というバグ、僕のデータベースには存在しない。恐ろしいな、恋というやつは」

 

耀は本気で頭を抱えていた。

国家予算の配分を1円単位で計算できる頭脳が、ゲーム内の少女の「……別に」という一言にさえ踊らされている。

 

「杉原くん、あなた高いところの景色は見えても、足元の花の名前は一つも知らないんすね」

 

石上の何気ない一言が、耀の胸に小さな棘としてグサッと刺さった。

 

 

 

 

「――石上くん。もう一度聞くが、このヒロインのバグはいつ修正されるんだ?」

 

それからしばらくの間、耀と石上は会長、かぐや、藤原の2年生トリオがいない生徒会室で乙女ゲーを楽しんでいた。

 

「いや、だからバグじゃないんすよ。彼女、今『察してほしいモード』なんです。そこで『君の論理的欠陥はここだ』なんて指摘したら、誰だってキレますよ」

 

「察してほしいモード?背外側前頭前野の反応に問題が?……いや、理解不能だ。問題を指摘し、改善案を提示する。これ以上の誠実な対応があるだろうか?」

 

耀がタブレットに「論理的解決(ロジカル・ソリューション)」を打ち込もうとしたその時、生徒会室のドアが、それ自体が悲鳴を上げるような勢いで開け放たれた。

 

「ちょっと優っ!生徒会の権限で中庭なんてもの無くしてしまってよぉ! あの二人が、また中庭で、あんなに私に見せつけるようにイチャイチャとぉ!!」

 

乱入してきたのは、四宮かぐやと双璧をなす四条家の令嬢、四条眞妃だった。

 

彼女は机に突っ伏して泣き喚こうとした瞬間、モニターの前で死神のような形相を浮かべている耀と目が合った。

 

「……あら。誰よ、その優をさらに暗くして、顔だけかなり整えましたみたいな男は」

 

「……四条、眞妃さんですね。お初にお目にかかります、杉原 耀と申します。失礼、今は『乙女』という名のカオス理論を解明中でして。挨拶は端的に済ませ、解明に戻っても問題ないでしょうか」

 

耀の、寸分の狂いもない――そして温度の一切ない完璧な一礼。

 

眞妃はその所作と、耀の瞳の奥にある「自分と同じ種類の、高すぎるプライドと孤独」を敏感に察知した。

 

「なっ……! 何よその態度は! 私を誰だと思ってるの? それに……あんたがやってるそのゲーム、私が昨日優にさせて貰ってバッドエンドを15回叩き出した伝説のクソゲーじゃない!」

 

「15回……? 四条様ほどの知能があれば、選択肢の全パターンを網羅して真エンドに辿り着くのは容易なはずですが」

 

「それができないから苦労してるんでしょ!!」

 

眞妃は耀の隣に陣取ると、奪い取るようにコントローラーを握った。

 

画面上では、攻略対象が『最近、元気ないね?』と問いかけてきている。

 

「見てなさい。ここはね、『別に、何でもないわよ』って、身を引くのが美しいのよ!」

 

「四条様、答えは否(いな)です。その選択は情報の隠蔽であり、相互理解の機会を自ら放棄する自殺行為です。ここは『具体的な体調不良の有無と、精神的ストレスの因源を箇条書きで伝える』が正解です」

 

「あんたバカ!? そんなこと言ったら『可愛くないやつ』って思われて終わるわよ!」

 

「可愛さという不確定要素のために、真実を曲げるなど論理の敗北です!」

 

「……あの、二人とも。それ選んだ瞬間に好感度が爆死してゲームオーバーになるんで……」

 

石上の制止も虚しく、二人の天才たちは、同時にボタンを押した。

 

その瞬間、画面に非情な『GAME OVER』の文字が躍る。

 

「……おかしい」

「……信じられないわ」

 

二人の天才は、全く同じ角度で頭を抱えた。

 

「四条様。あなたは……自分が損をすると理解していながら、あえて茨の道(バッドエンド)を選んでいるのですか?」

 

「……。そんなの、分かってるわよ。でもね、止められないのが『感情』でしょ。頭では分かってても、心が付いてこないのよ」

 

耀は、自分のデータベースには存在しないその「心の動き」を、隣に座る少女の中に見た。

 

世の中に滞在する問題の真因を読み取り、問題解決の最適解を安易に弾き出す自分。

世界を股にかける四条グループの本家令嬢。

 

それほどのスペックを持ちながら、画面の中の、あるいは現実の「誰か」の一言に、これほどまで無様に、情熱的に振り回されている。

 

(四条様の仰っている事は……非効率だ。だが……)

 

「四条様。その『バグ』……解析の余地があります。石上くん、このゲームを僕に預けてくれないか?この『感情』という名の変数を数式化できれば、僕は……」

 

眞妃の心理を解析すれば、乙女の感情という難攻不落の城を攻略するヒントが見つかるかもしれない。

 

「ふん、精々頑張りなさい。それと私の事は四条様じゃなくて眞妃でいいわ。まぁ次に会う時までに、そのガチガチの頭を少しはマシにしておくことね。耀……あんた、顔だけはマシなんだから、黙ってればモテるんでしょうけどね!」

 

嵐のように去っていく眞妃を見送りながら、耀はボソリと呟いた。

 

「石上くん。彼女は……素晴らしいサンプルだ。そして、恐ろしく『人間』だ」

 

「……杉原くん。あなた、高いところの景色は見えても、足元の花の名前は一つも知らなかった。でも今、初めてその花を『踏んづけて』痛みに気づいたみたいっすね」

 

耀の手は、先ほど眞妃が触れたコントローラーの熱を、静かに感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

更に翌日。

 

生徒会室には、昨日からほぼ徹夜で『乙女の祈りはクリティカル』を完遂し、さらに十数本の関連作品を並列処理で解析し終えた耀がいた。

 

彼の脳内は今、膨大な「感情の相関データ」で埋め尽くされている。

 

そこへ耀に忍び寄る影。

そしてドアが勢いよく開いた。

 

「失礼します! 杉原くん、昨日の報告書……って、なっ、何をしてるの!?」

 

書類を抱えた伊井野ミコが絶叫した。

モニターには、頬を染めた美少女が「……私のこと、どう思ってるの?」と潤んだ瞳で問いかけている。

 

「……伊井野さん。お疲れ様です。丁度いいところに。現在、人間の非合理的な反応についてのシミュレーションを行っていたのですが、いくつか実証が必要なケースが生じまして」

 

「シミュレーション!? 杉原くん、あなた生徒会室で……そんな、不純で不適切なゲームをしてるなんて! 風紀の乱れよ! 没収! 即座に没収です!」

 

顔を真っ赤にして詰め寄るミコ。

だが、今の耀にとって、その怒声は解析済みである

(『定型パターン:拒絶と規律の表出』に過ぎないな。...実証開始。昨日の学習データによれば、ここでは『正論による論破』は相手の反発を招き、状況を膠着させる。選択すべきは『身体的な接近を伴う、情緒的ケア』の出力……)

 

耀は、音もなく椅子から立ち上がった。

いつもなら「校則の第◯条によれば……」と自身の無罪放免の根拠を並べるはずの少年が、一歩、また一歩と、無言でミコとの距離を詰めていく。

 

「な、何よ……。言い訳があるなら……ひゃっ!?」

 

ミコが後ずさるより早く、耀がその間合いを完全に潰した。

ふわり、と耀の体温が混じった石鹸のような清潔な香りが、ミコの鼻腔をくすぐる。

さらに耀は、ミコの手からこぼれ落ちそうになった報告書を、背後から包み込むようにそっと支えた。

 

「……っ、す、杉原くん!?」

 

背後から覆いかぶさるような形になり、ミコの小さな体は、耀の腕の中にすっぽりと収まってしまう。

 

至近距離。

耳元。

耀の整った顔が、ミコのうなじに触れそうなほど接近していた。

 

「……伊井野さん。君はいつも、誰よりも高く正義という旗を掲げているけれど。その旗を支える腕が、今日はいつもより少し疲れているように見える」

 

低く、心地よいバリトンの響き。

それは、ミコが夜な夜なイヤホンを耳に押し当てて聴いている「理想の王子様」の声と重なった。

 

「な……な、何を……」

 

ミコの心臓が、耳のすぐそばで警鐘のように鳴り響く。

パニックで思考が真っ白になり、握り締めた拳が小さく震える。

 

「君は、誰に求められなくても、自分の中の理想を完璧に維持しようとする。その、妥協のない高潔さと、それゆえに時に見せる繊細な戸惑い……。僕は、そういう君の在り方が、とても『美しい』と感じるんだ」

 

耀の手が、書類を支えるついでに、ミコの震える指先に一瞬だけ触れた。

指先から熱が伝播するような錯覚に、ミコはめまいを覚える。

 

「あまり、無理をして自身のパフォーマンスを下げるようなことはしないでほしい。僕がいる以上、君の負担は僕がフォローする。……これからは、僕を頼ってほしい。君が笑顔でいることが、この学園の管理運営において最も重要な事なのだから」

 

耀は、淡々と、けれど慈しむような深い眼差しで、呆然とするミコの瞳をじっと見つめた。

 

耀にとっては「実験データの出力」でしかない言葉が、ミコの乙女ゲー脳には「人生最大の口説き文句」として受理されていく。

 

「あ…………ぁ…………」

 

ミコは喉の奥で、小さな、子猫のような声を漏らした。

 

ダメだ。

 

これは不純だ。

 

不適切だ。

 

没収対象だ。

 

頭では分かっているのに、彼女の「本能」が、この状況を『至高の甘やかしイベント』だと判定して、全身の力を抜いてしまう。

 

「……伊井野さん?」

 

耀が不思議そうに、さらに顔を覗き込んだその瞬間、ミコの脳内の許容容量(キャパシティ)が、ついに限界を超えて決壊した。

 

「ば……っ、バカぁーーーーーーーっ!!!!!」

 

ミコは弾かれたように跳び上がると、手元の報告書を耀の胸に力いっぱい押し付けた。

瞳には今にもこぼれそうなほど、純粋な羞恥の涙が浮かんでいる。

 

「知らない! 杉原くんなんて、もう知らないっ!!!!」

 

ミコは一度も振り返ることなく、スカートの裾を翻して生徒会室を飛び出した。

廊下に響き渡る絶叫と、バタバタという激しい足音。

 

その足取りは明らかに千鳥足で、曲がり角で盛大に躓きそうになりながらも、彼女は必死に逃げ去っていった。

 

一人残された耀は、胸に押し付けられた書類を整え、乱れた前髪を無造作に払った。

 

「……反応から推測するに、羞恥心による一時的な回避行動か。しかし、去り際の心拍数と紅潮の度合いからすれば、僕の『共感』は正しく伝わったと見ていいだろう。……実証成功、かな」

 

耀は淡々と、手元のタブレットに「検証結果:有効」と記録した。

彼にとって、すべては目的を達成するための「手段」でしかない。

 

「なんとか没収というゲームオーバーは回避できたな」

 

そう自分に言い聞かせ、耀はカバンを持って立ち上がった。

 

しかし。廊下に出た瞬間、窓から入り込む夜風が、ふわりとミコの残していった「花の香り」を運んできた。

 

その瞬間。

 

「…………っ」

 

耀の足が、ほんの一瞬だけ、もつれた。

脳内のロジックが、ほんのコンマ数秒、処理落ちを起こす。

 

「……顔面の表面温度が急激に上昇している。……熱放射による毛細血管の拡張か? だが、室温は22度で安定しており、感染症の初期症状としての発熱を裏付ける他のバイタルサインは見当たらない……」

 

耀は、自らの頬に触れた。

指先に伝わるのは、これまでの人生で経験したことのない、熱を孕んだ自分の肌の感触だった。

 

「……理解不能だ。論理的な原因が特定できない。……脳内物質の過剰分泌による一時的な認知エラーか。……北北東に、200メートル……目的地への最短ルートさえ、座標が歪んで見える……」

 

耀は、乱れた呼吸を整えるように深く溜息をつき、一歩を踏み出す。

 

その頬は、夕闇の廊下でもわかるほど、淡く、けれど確かに赤く染まっていた。

 

彼がまだ知らない「本当の感情」という名のバグが、彼の完璧な世界を侵食し始めている。

 

自分が仕掛けた「攻略」という名の実験に、実は自分自身が最も深く感染してしまったことに、天才はまだ、気づいていなかった。

 

 




今回はほのぼの回でした!!
やっとミコを出せたのは嬉しい限りでした!!

良かったら引き続き見てくれたら嬉しいです!

高評価、お気に入り登録、ドシドシお待ちしてます!
モチベが上がるので是非に(ㅅ´ ˘ `)

ではまた、次回!!
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