完璧な僕の嘘を、嫌われ者の君だけが「正論」で壊した   作:テレサ二号

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どうもテレサ二号です!
いつも御愛読いただきありがとうございます!(*・ω・)*_ _)ペコリ
前回でお気に入り登録が30人突破しました!
少しずつ読んでくれてる人が増えていると実感して、それに応えなければと筆を走らせていました!

高評価や感想もとても嬉しかったです!
励みになりました( *´꒳`* )


さてさて今回は、前回の続きからとなっておりますので内容よく覚えてないなって人は1度5話を読んでから続けて読むと読みやすいかと思います!

では、本編です!!




第六話:偽造工作の裏側に本心を隠して

 

ミコは息を吸い込むことさえ忘れていた。

舞台は引き続き、耀とミコの2人きりの教室。

 

ミコは耀からの”今のままで充分”だとありままの自分を受け入れて貰えている事を思わせる発言にダウン寸前だった。

 

脳内では、風紀委員としての自分が「こんな非論理的な言葉に惑わされてはダメ」と必死に警鐘を鳴らし続けてている。

けれどそれ以上に、胸の奥が甘い痺れのような熱を帯びて侵食されていく。

 

(……ズルい。こんなの、ズルいわ……!)

 

今まで誰かに『がんばれ』と言われることはあっても、『もう頑張らなくていい』と言われたことなんてなかった。

誰もが彼女の背筋が伸びていることに気づかず、また気づいたとしても当然だと思い、彼女自身もそうあるべきだと自らを律してきた。

 

それをこの目の前の少年は、まるで数式の答えを導き出すような平然とした顔で、彼女の最も柔らかく誰も触れなかった、そして触れさせなかった孤独な部分を掬い上げてしまった。

 

ミコは震える手で、耀が描いてくれたノートをそっと抱きしめた。

 

乱暴に扱うなんてとてもできない。

ページの中のクマは、耀の優しさが形になった温もりそのもののように思えて、汚さないように、折らないように、割れ物を扱うような手つきで大切に、大切に胸に押し当てた。

 

「伊井野さん? 顔がさっきより赤いけれど、室温が高いかな?……少し窓でも開ける?」

 

耀が心配そうに身を乗り出し、机越しに顔を近づけてくる。

 

ふわり、と耀の体温が混じったフローラルのような清潔な香りが、再びミコの鼻腔をくすぐった。

 

視界いっぱいに広がる、耀の整った顔立ちと、吸い込まれそうなほど真っ直ぐで宝石の様な瞳。

 

「……っつ! あ、あの、杉原くん……近、近いっ……!」

 

ミコは弾かれたように椅子から立ち上がったが、ノートだけは落とさないよう、愛おしそうに両手で抱え込んだ。

 

「あ、ごめん。……伊井野さんの体調が心配だったんだ」

 

「……だ、大丈夫よ。ただ、その……あまりにも、あなたの言葉が……優しすぎて、少し驚いただけ。……杉原くん」

 

ミコは真っ赤な顔で、俯きながらも、消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。

 

「あなたの理論通り、私の効率は……今、飛躍的に向上したわ。だから……このノートも、あなたのくれた言葉も、一文字だって忘れないように……一生……じゃなくてっ、大切に、大切にするわね」

 

「……そう言ってもらえると、クマを描いた甲斐があったよ。有効活用してほしい」

 

耀が満足そうに、春の陽だまりのような微笑みを浮かべると、ミコの心臓はトクトクと甘い音を立てて早鐘を打った。

 

「……ねえ、杉原くん。私はまだ勉強していても構わないけど、あなたの予定はどうなってるの?私の風紀委員としての仕事はあなたの警護……あなたが帰るまでは、ここに残る義務があるわ」

 

ミコは照れ隠しをするように、あえて風紀委員としての硬い口調で尋ねた。

本当は、このままもう少しだけ二人きりでいたい。

けれど、あまりの鼓動の速さに、これ以上平静を保てる自信も正直なかった。

 

「ああ、気遣ってくれてありがとう。僕も、あと少しでこの石上くん用レジュメを書き終えるところだよ。これを秘密裏に図書室の彼に渡し終えたら、今日のタスクは終了だ」

 

耀は手元の作業を一度整理すると、腕時計を見てから顔を上げてミコを真っ直ぐに見つめた。

 

「だから伊井野さん、今日はもう帰って大丈夫だよ。僕の警護という名目で、君の貴重な放課後の時間をこれ以上奪うわけにはいかないからね。……今日はゆっくり休んで、脳の消耗を回復させてほしい」

 

「……そうなの。……そう、あなたが言うなら、そうしましょうか」

 

ミコは少しだけ名残惜しそうに、けれど耀の配慮が嬉しくて、カバンにノートを収めた。

 

「......えっと、そのっ、……あ、ありがとう、杉原くん。その、クマ……今まで見たどんなものより、可愛かったわ。それと……『頑張りすぎなくていい』って言ってくれたこと……忘れないね」

 

ミコは熱を帯びた瞳で一瞬だけ耀を見つめると、宝物を抱える少女のようにカバンを抱え、教室の入り口へと向かった。

 

廊下に出ても、足元がふわふわと雲の上を歩いているような感覚が消えない。

 

ミコは誰もいない階段の踊り場で足を止め、再びカバンの中のノートがある場所をそっと撫でた。

 

「……バカね、私。効率だなんて言いくるめられて……こんなに、幸せな気持ちになるなんて」

 

ミコは誰もいないのをいいことに、ノートをもう一度取り出し、耀が描いたクマにそっと自分の頬を寄せた。

 

「『偉いクマ』……だって。……ふふ」

 

夕闇に溶けていく校舎の中で、ミコは自分の頬がいつまでも熱いのを感じながら、溶けるような甘い溜息を一つ吐いた。

 

 

 

 

 

 

ところ変わって放課後の図書室は、不気味なほど静かだった。

 

窓から差し込む西日が、埃のダンスをオレンジ色に照らしている。

その静寂を切り裂くように、石上の深いため何度も息が漏れていた。

 

「……無理。もう無理です。四宮先輩、この関数のグラフ、僕には幾何学模様の呪いにしか見えません」

 

対面に座る四宮かぐやが、冷徹な手つきで石上のノートを指先で叩く。

 

「石上くん、さっきから同じところで止まっているわよ。これは呪いじゃなくて、ただの基礎問題。xに値を代入する、ただそれだけのことじゃない」

 

「その『ただそれだけ』が、今の僕にはエベレスト登頂くらい高く感じるんですよ……。あー、脳みそが完全にオーバーヒートしたー!」

 

石上はシャーペンを投げ出すと、椅子の背もたれにぐったりと体を預けた。

かぐやの視線が呆れたように彼を射抜く。

 

「……集中力が切れるのが早すぎるわ。少しは忍耐という言葉を覚えなさい」

 

「忍耐ならさっきから十分発揮してますって。……休憩。ちょっとトイレ行って、自販機で飲み物買ってきます」

 

石上はよろよろと立ち上がると、机の上に散らかった消しゴムのカスを適当に払い、ポケットを弄った。

 

「四宮先輩も、何か飲みます? 糖分、必要ですよね」

 

「……そうね。カフェオレでいいわ。甘すぎないものを選んできて」

 

「了解でーす」

 

 

石上は逃げるように図書室の扉を抜けた。

重厚な扉が静かに閉まり、廊下のひんやりとした空気が肌を撫でる。

石上は首の骨をボキボキと鳴らしながら、自販機があるコーナーへと足を向けた。

 

石上が自販機へ向かい、かぐやが一人図書室に残り石上のノートの苦戦の跡を眺めていたその時。

 

背後から衣擦れの音さえさせずに耀がかぐやに歩み寄った。

 

「……四宮先輩。お疲れ様です。石上くん、頑張っているようですね」

 

「杉原くん。広報の仕事は終わったの? あなたも、同じ1年生の石上くんが心配で見に来たのかしら?」

 

「心配……というより、確信しています。彼には、この壁を乗り越えるだけのポテンシャルがある。ただ、今はそのための『足場』が少し足りないだけだと」

 

耀はそう言って、手に持っていた数十枚のレジュメと、その上に一つのキットカットを重ねて、石上のノートの横に丁寧に置いた。

 

かぐやの鋭い目が、瞬時にその内容を読み解く。

 

「……これは。石上くんが躓きやすいポイントを、すべて視覚的に整理してあるのね。広報の仕事の合間に、これほど精緻な資料を……。それに、このお菓子は?」

 

「効率の問題です。彼がこの試験を突破することは、生徒会全体の士気向上に繋がります。キットカット……テオブロミンと糖分は、消耗した彼の脳細胞への即効性のある解決策です。そしてこのレジュメは、彼の努力を最短ルートで結果に結びつけるための、論理的なサポートに過ぎません」

 

耀は淡々と答える。

しかし、かぐやはレジュメの端、重要事項の横に描かれた小さな「クマ」のイラストを見逃さなかった。

 

かぐやはノートで口元を隠し、わずかに目を細めて耀を見つめる。

 

「……論理的なサポート。ふふ、それにしてもこのクマのイラスト……ずいぶんとお可愛いこと」

 

「……っつ」

 

その射抜くような、すべてを見透かしたような言葉に、耀は一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 

「……それは、差出人の特定を困難にするための偽造工作です。僕の筆跡や作成癖をこのマスコットキャラクターの背後に隠蔽することで、余計な先入観を与えず、彼が純粋に知識のみを吸収できるように資料を構築しました。あくまで認知科学的な……その、隠蔽工作の一環です」

 

耀は視線をわずかに逸らし、早口でまくしたてた。

 

かぐやはその様子を見て、彼がどれほど真剣に、そして照れ隠しをしながら同じ1年生である石上の自尊心を傷つけないよう心を砕いたのかを察し、小さく微笑んだ。

 

「四宮先輩。一つ、お願いがあります。……これを僕が届けたことは、石上くんには伏せておいていただけませんか?」

 

「あら、どうして? あなたの助けだと知れば、彼もきっと心強く思うはずよ?」

 

「……彼は今、自分の力で困難を乗り越えようとしています。そこに僕の顔が見えてしまうと、彼は無意識に僕への遠慮や引け目を感じてしまうかもしれない。……僕は彼に、余計な気遣いをさせたくないんです。ただ純粋に、彼自身の力でこのテストを勝ち取ってほしい」

 

耀の瞳には冷徹な効率論の裏側に、仲間に対する確かな信頼が宿っていた。

 

「……分かったわ。あなたがそこまで彼の自尊心を大切にしたいと言うのなら。これはあなたが用意したとは言わない。『気づいたらそこにあった』とだけ伝えておくわ。嘘はつきたくないけれど、あなたの配慮を無下にするほど野暮でもないから」

 

「助かります。……よろしくお願いします、四宮先輩」

 

耀は深く一礼すると、廊下から戻ってくる石上の足音を察知し、影が消えるように図書室の奥へと去っていった。

 

 

 

「……あー、生き返る。四宮先輩、カフェオレ買ってきまし……え? なんですか!これ!?」

 

戻ってきた石上が、自分の席に置かれた見慣れないレジュメと、その上のキットカットを見て目を丸くした。

 

「四宮先輩、これ、先輩が作ってくれたんですか?」

 

「いいえ?私が作った物じゃないわ」

 

「え?それじゃあ、誰が......

 

「さぁ?私以外にもあなたを気にかけている人がいるみたいね。お可愛いイラストもあるみたいですし、きっとイラストと同じでお可愛い子ね」

 

石上はレジュメの端に書いてある

『ここはテストに出るから覚えておくクマっ!』

と言う言葉とキットカットを眺めていた。

 

「本当に四宮先輩じゃないんですよね?」

 

「さっきも言ったけどその通りよ」

 

「だったら差出人が分かっちゃいました」

 

「へぇ?石上くんは誰が差出人だと推理したんですか?」

 

「僕の周りでこんなに綺麗で整った字を書くのは四宮先輩と”彼”くらいしかいませんから。それにたまに彼、キットカット食べてるんですよ授業の合間に」

 

石上はキットカットを食べ、自身に気合いを入れ直す。

 

「四宮先輩、僕は彼の期待に応えたいです」

 

「だったら赤点を回避するしかありませんね」

 

「はい!引き続きお願いします!」

 

(ふふっ、石上くんの集中力を高めるのにいい起爆剤になったようですね)

 

レジュメを見ながら、勉強に熱が入る石上を見てかぐやは2人の可愛い後輩が微笑ましくなって石上から見えない角度で微笑んだ。

 

 

 

 

 

実力テストの翌週、秀知院学園の廊下には独特の緊張感が漂っていた。

 

掲示板の前には、成績上位五十名の名を刻んだ張り出しをひと目見ようと、多くの生徒が群がっている。

 

その人だかりから少し離れた位置にミコと耀は並んで立っていた。

 

「……見るのが、怖い」

 

ミコは制服の裾をぎゅっと握りしめ、掲示板を直視できずにいた。

 

放課後の教室、隣の席で黙々とペンを走らせる耀の気配を感じながら、自分も限界まで追い込んできた。

期待と不安が入り混じり、心臓の音が耳元まで響いてくる。

 

「伊井野さん。君がどれだけの熱量を持って机に向かっていたか、隣にいた僕が一番よく知っている。……大丈夫、自分を信じて顔を上げるといい」

 

耀の落ち着いた声に背中を押され、ミコは恐る恐る掲示板を見上げた。

 

最上段。そこには、燦然と輝く名前があった。

 

【第1位:492点 伊井野 ミコ】

 

「……っ! 1位……。私、本当に、獲れたのね……!」

 

「おめでとう。……素晴らしいよ、伊井野さん。君が掲げていた理想を、君自身の努力の積み重ねで手繰り寄せたんだ。心から、尊敬するよ」

 

耀の声には一切の打算がなく、ただ純粋な賞賛だけが込められていた。

ミコは歓喜に震えながら、すぐその下の名前へ目を向ける。

 

【第2位:491点 杉原 耀】

 

ミコは隣に立つ耀を盗み見た。

 

2位という結果、しかも自分に1点差で敗れたというのに、彼は悔しがるどころか、自分のことのように柔らかい眼差しを掲示板に向けている。

 

「……1点差。杉原くん、あなただってあんなに一生懸命に勉強していたのに……」

 

「完敗だよ」

 

耀はそう言って、ミコと視線を合わせた。

宝石のように澄んだ瞳が彼女を捉える。

 

「正直に言えば、僕も2位になるつもりで試験に臨んだわけじゃない。隣で君が呼吸を忘れるほど真剣にペンを動かしているのを見て、僕なりに全力で取り組んだ結果だ。……その上で、君に届かなかった。君の努力が僕を超えたんだ。……伊井野さん、君は本当にかっこいいね」

 

「……っつ!? か、かっこいい……だなんて……っ」

 

不意打ちだった。

 

心臓が跳ね、視界が急激に熱を帯びる。

1位を獲った達成感など、彼のその一言でどこかへ吹き飛んでしまった。

 

(……そんなふうに笑うのは、ズルい……!)

 

ミコは溢れ出しそうな「何か」を誤魔化すように、ぎゅっと自分の胸元を掴んだ。

 

自分一人で頑張っていた時とは違う。

隣に彼がいて同じ時間を共有し、そして今こうして努力の結果を認められている。

 

「……もう。負けたのに、どうしてそんなに優しいのよ……」

 

ミコは照れ隠しに唇を尖らせたが、その瞳は潤み、隠しきれない情熱が漏れていた。

 

彼女は周囲に誰もいないことを確認してから、吸い寄せられるように一歩、耀の方へ歩み寄った。

 

「杉原くん。……ありがとう。私、あなたの隣にいたから、最後まで走りきれた。……あのクマだって、ずっと私を応援してくれてたんだから」

 

ミコは耀の制服の袖を、指先で少しだけ、けれど離したくないというように掴んだ。

 

「……次も、絶対に負けないわ。あなたが1位で、私が2位……なんてこともさせない。次は、二人で……こうして並んで、1位を2人で独占しましょう?

上目遣いで、けれど力強く告げたその挑戦状。

 

ミコの顔はリンゴのように真っ赤だったが、その瞳には耀への深い敬愛と、甘い独占欲が微かに混じっていた。

 

「……じゃあ頑張ってみようかな。次回は、二人揃って同点1位……500点満点を目指すとしようか」

 

耀が優しく微笑み、ミコの手を、あるいは彼女の心そのものを包み込むような静かな沈黙が流れた。

 

「さて、教室に戻ろうか」

 

「うん」

 

結果に満足した二人は掲示板の前を後にした。

 

 

 

 

 

 

今回のテストで五教科全てで赤点を回避した石上は、かぐやと耀にお礼を言う為に2人を探していた。

 

渡り廊下から少し離れたところに耀を見かけ、走って近づこうとしたが、天敵の伊井野ミコが傍にいることに直前で気づいて、廊下の影に身を隠した。

 

「危ねぇ、伊井野と一緒じゃん。見つかったらまたなんて小言を言われるか......」

 

影からこっそり2人を見ていた石上だったが、耀が同じクラスの男子に話しかけられていることに気づいた。

そして、その内容が聞こえてくる。

 

「杉原くんって石上と仲良くしてるの?もったいないよ、杉原くんみたいなカーストトップが石上みたいな底辺と付き合ってんの」

 

思わぬクラスメイトの意見を聞いて、石上はその場に立ち尽くしてしまう。

分かっている、自分のクラスメイトからの評価はそれくらいなものだと。

 

「アイツ、ストーカーまがいな事してたらしくて、その上暴力事件で停学になってたんだよ。ハッキリ言ってウチのクラスのお荷物だよな。普段も暗くてクラスの雰囲気悪くしてるしさ笑」

 

石上は体がズンと重くなるのを感じた。

それも自覚している事ではあったが、耀という最近仲良くなれた気がしていた人にこんな話をされているのを聞くのは素直に辛かった。

 

「伊井野さんも、石上なんていなくなればいいのにって思わない?笑」

 

「あなたっ!」

 

クラスメイトに食って掛かろうとするミコを耀が手で遮った。

 

「止めないでっ!っつ!?」

 

ミコは耀の瞳の異変に気づいた。

先程までの宝石のように潤んでいた暖かい瞳が温度を無くし絶対零度のようにその瞳を漆黒に染めていた。

 

耀は1歩前に出る。

 

「君の言いたいことは理解したよ。それで君は僕に何を言いたいんだい?」

 

「だからさ?杉原くんは俺たちのカースト上位のグループにっ!?」

 

クラスメイトはやっと耀の瞳が絶対零度の領域まで冷めている事に気づいた。

 

「僕の悪口ならいい。自らに誤りがあればそれを正していけばいいだけの話だから。だけど君は今、僕の大切な友達を貶した。とても不快で遺憾だ」

 

耀のような聖人君子が”不快”や”遺憾”などという敵意をむき出しにした言葉を持ち出した。

それ程、耀にとってこの言葉が許せなかった。

 

クラスメイトは耀と近づきたかったのだが、方法を間違えた。

虎の尾を踏み抜き、漆黒の闇に足を踏み入れてしまったのだと自覚した。

 

「だ、だけどさ?石上が暴力事件を起こしたのは事実で....杉原くんも知っているだろ?」

 

「僕は中等部時代は特別休学制度を使って、秀知院学園に在籍しながら海外に語学留学していたからその場にいた訳じゃない。その話も人づてに聞いて知ってはいる」

 

耀は敵意を剥き出しにした絶対零度の瞳を通常の瞳に戻して、ミコに視線を向ける。

 

「石上くんは、停学中の課題提出などは全て提出したんだよね?」

 

「う、うん。石上は不真面目ではあるけど、停学中の提出物は全て提出していたわ」

 

「ありがとう」

 

耀は再び絶対零度の瞳に戻る。

 

「石上くんは、自分のやった事を反省しそれに準ずるだけの罰を受けている。それをいつまでも、こんなふうに陰口を言われている彼が不憫でならないよ」

 

耀は更に1歩前に出る。

 

「確かに彼のした事は手段として正しく無かったかもしれない。だけど、人間ってそんな立派な物かい?君は1度足りとも誤った行動をしていないのかい?」

 

耀は自分が屋上から飛び降りようとして、白銀から助けられた事を思い返していた。

 

「彼は、石上くんは、生徒会会計としてこの学園をより良い学園にする為に尽力している。そんな彼の努力も見ていない人が彼を評価するなんて、ハッキリ言って反吐が出る」

 

耀はクラスメイトに更に近づき続ける。

 

「石上くんはね、君と違って陰口をしてる所を見た事が無いんだよ。確かに自分の事となると、いつも自信が無く1歩引いてしまう所はあるけど、その分純真で誠実な人なんだ」

 

「わ、分かったよ、杉原くんっ!ごめん!俺が悪かった!」

 

「謝る相手が違うだろ」

 

耀に謝りながら去ろうとするクラスメイトに耀は呟き、更に続けた。

 

「忠告しておくよ?百歩譲って、君が勝手に石上くんを悪く思うのは別にいい。だけどもし、君の言葉が石上くんに届く事があり、彼を傷つける事があったら、僕は絶対君を許さない」

 

”クラスにいられないようにしてやる”とまで言われるような耀の迫力にクラスメイトは走ってその場から逃げた。

 

再びいつも通りの瞳の輝きに戻った耀は「時間を取らせてすまない」とミコに謝罪して、一緒にクラスに戻った。

 

一方の石上は影に潜んだまま、動けなくなっていた。

 

ずっと自分を縛っていた過去。

 

それを『不憫だ』と言い、あまつさえ『僕の大切な友達を貶した』と、あの完璧超人の杉原耀が自分なんかの為に激昂してくれた。

 

泣くことさえ忘れて、石上は呆然と自分の手を見つめる。

 

「……なんだよ、それ。……僕が、友達……?」

 

視界がじわりと滲む。

 

けれど、ここで泣いたら、耀が守ってくれた自分の『強さ』を否定してしまう気がした。

 

石上は鼻をすすり、グイッと袖で目を拭うと、全力でその場から逃げ出した。

 

走りながら、口角がどうしても上がってしまうのを止められない。

 

「……バカじゃないの、杉原くん。あんな奴相手にマジになって……カッコよすぎだろ……クソが……っ」

 

嗚咽ではなく、震えるような笑い混じりの独り言。

それが石上の、精一杯の「救われた証」だった。

 

 





いかがでしょうか?
サラッと書くつもりだった石上くんの赤点回避回が思わぬ文字量になりましたが、まぁ個人的には満足です!


引き続き、お気に入り登録、高評価、感想をドシドシお待ちしてます!

では、また次回!!
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