汽車はゆっくりと速度を落とし、一息の慣性を詰まらせて停止した。
アナウンスはない。終着駅の様にも思えるが、終点の文字はどこにもない。ただ、扉は開いた。乾いた風が流れ込み、列車は駅に到着した。霧が薄く立ち込め、朝とも夕ともつかない光が駅舎を満たしていた。
あなたは立ち上がる。誰に言われるでもなく腰を上げる。手繰り寄せた携帯ゲーム機と、いくつかのコイン。そして、那由多鉄道の乗車券が今のあなたの全てだった。
薄い霧の立ち込める駅舎には疎に人がいた。
皆一様に帯刀している。しかし一つとして同じものは無い。到着を待つ生徒や先を急ぐ大人達は、日々の生活が生む熱と冷たさを持っていた。
ーーー終着ではないみたいだ。
誰に向けた言葉でもなく、答えを求めた訳でもない。立ち尽くすあなたを置いて、列車は過ぎ去る。後ろ髪を引く風が身体を揺する。揺り返す風を受けて、あなたは歩き出した。
「失礼します」
改札を抜けるところで、声をかけられた。振り向くと、少女が一人立っていた。和服だろうか。薄い灰色の、制服とも私服ともつかない控えめな装い。首元で綺麗に閉められたネクタイと、羽織の様なカーディガン。栗色の髪の上には、やはり光輪があった。
「遍照会、那由多局の者です。少し、お時間をいただけますか」
「急ぎません」と、彼女は言葉を続けた。優しく囁く様な声だ。柔らかい物腰と彼女自身の雰囲気が、そう感じさせているのかもしれない。
「ただ…今、知っておいた方がいい話です」
断る理由は、特に見当たらない。むしろ、行く宛のなかった貴方にとっては嬉しい提案だ。貴方は頷き、彼女の後に続いた。
遍照会の建物は寺院に似ていた。だが、線香の匂いはしない。木造のアパートメントにも見えるが、どこか厳粛で重々しい。信仰の気配はやはり無く、記録の匂いがする。積まれた書類の束と、差し込む光の反射がある。
「こちらには何度か?」
あなたは素直に首を振った。
右も左も分からない、まさしく新天地であった。しかし、どこか懐かしい景色を見ている感覚もある。
「私はシズカです。語封シズカ、以後お見知り置きを」
私はーーー。
名乗る貴方に語封シズカは、カピラの現状を掻い摘んで話してくれた。
増加傾向の異変。
独自性を保つ各学寮。
保守的思想の蔓延。
どれも生徒達で対処可能であるが、それがいつまで持つか。
その間にも歩みを止めることはなかった。余白の目立つロビーを抜けて、積み上がるデスクを横目に階段を上がる。報告というより、愚痴に近いものだろう。語封シズカは一つの扉の前で止まり、最後に一言付け加えた。
「そうですね、では」
ーーーようこそ、カピラへ。