【完結】渋谷の中心でマハムドバリオンを唱えた馬鹿者   作:双子座流星群

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こういう事柄って、海外と国内で温度差できそうですよね


贖罪:英雄か、偽善者か

 パリの風は、東京のそれよりも幾分か乾燥していて、石畳を撫でるように吹き抜けていく。

 テラス席のパラソルの下、俺たちは周囲の優雅な空気に溶け込むカモフラージュをしながら、しかし話題だけは世界を揺るがすトップシークレットに興じていた。

 

「いやあ、しかし改めて見ても壮観ですねえ。これ、完全に映画のCGかなんかですよ」

 

 相田が操作するタブレットの画面には、上空からのドローン映像らしきものが再生されている。

 場所は南米、アマゾン熱帯雨林の奥地。

 数日前まで、そこは地獄の業火に包まれていた。乾燥と強風により燃え広がった火災は、数千ヘクタールを焼き尽くし、現地の消防隊もお手上げ状態だった場所だ。

 

 映像の中で黒い煙を吐き出す広大な森の上空に、一粒の豆粒のような影が飛んでいる。

 俺だ。もちろん、映像では黒いローブの塊にしか見えないが。

 

「この時の機動、完璧でしたね。ハリー・ポッター魔法による天候操作と、メガテン魔法による物理的な水量の暴力。このハイブリッドこそが、今の貴方様の真骨頂です」

 

 相田が指差す先で、映像の中の俺が杖を振るう。

 俺はこの時のことを鮮明に覚えていた。

 熱気が凄まじかった。上空にいても肌がチリチリと焼けるようで酸素が薄く、呼吸をするだけで肺が痛かった。すぐに魔法で対処しなければそれだけで死んでいたかもしれない。

 

 俺はまず、広範囲に雨雲を呼び寄せる必要があった。

 メガテンにも「アクア」などの水撃魔法はあるが、あれはあくまで攻撃用だ。広大な森林火災を鎮めるには、局所的な放水ではなく環境そのものを変える必要があった。

 だから俺は選んだ。ホグワーツの魔法、気象呪いを。

 

 

『……メテオロジンクス(雨よ降れ)

 

 そうやって乾燥しきった空に無理やり雨雲を引きずり込んだ。

 だが、それだけでは足りない。自然の雨を待っていては、森が燃え尽きてしまう。

 だから俺は、トリガーを切り替えた。

 杖を指揮棒のように振りかぶり、俺という風穴を通して“異界”から漏れ出す無尽蔵の魔力を引き出した。

 イメージするのは、全てを押し流す激流。女神転生シリーズにおける、最上位の水撃魔法。

 

マハ(全体)アクア(水撃)ダイン(上級)ッ!!

 

 映像の中の空が、歪んだ。雨雲から降り注ぐのは雨粒ではない。

 まるで空に巨大なダムが決壊したかのような、圧倒的な質量の「水の塊」が、爆撃のように森林へと叩きつけられたのだ。

 

——ジュウウウウウウウ……ッ!!!

 

 画面越しでも聞こえてきそうな、凄まじい水蒸気爆発。

 白煙がきのこ雲のように舞い上がり、紅蓮の炎を一瞬で圧殺していく。

 通常ならMPが枯渇して気絶、あるいは即死してもおかしくないだけの大魔術の連発。それを、俺は広大な火災現場の端から端まで、飛び回りながら乱れ撃ち続けた。

 

 

「現地メディアの反応も上々ですよ。『神の涙』だとか『奇跡の豪雨』だとか。まあ、一部では『気象兵器の実験だ』なんて騒いでる連中もいますが」

 

 相田はニヤニヤしながら画面をスクロールさせる。

 そこには、各国のニュースサイトの見出しや、SNSの反応がまとめられていた。

 


 

【海外の反応まとめ】アマゾン火災現場に「例の魔法使い」が出現!? ネットが大騒ぎに!

ソース:Reddit / Twitter(X)

 

ブラジルの現地民 @Rio_Watcher_BR ・ 2時間

信じられない。あんな光景、生まれて初めて見た。

空が割れたかと思ったよ。

雨なんてレベルじゃない、滝が空から落ちてきたんだ。

神の奇跡だろこんなの!燃え盛る森が一瞬で鎮圧された!

ドローンで撮影してた奴がいるらしいけど、黒い服の男が空を飛んでたってマジか?

| 返信 @Amazon_Survivor

| マジだ

| 俺の村の近くも燃えてたけど、黒い煙になって空を飛ぶ男を見た

| 神様が遣わした天使かと思ったけど、見た目完全に死喰い人だったぞ

 

魔法省広報(非公式)✔ @Ministry_Leak_UK ・ 1時間

【速報】南米の火災現場にて、未登録の魔法使いによる大規模な魔法行使が確認されました。

使用されたのは気象操作呪文と、正体不明の水系大魔法です。

彼が杖を持っていたことは確認されていますが、箒なしで飛行していた点から、相当な手練れの闇祓いか、あるいは……闇の帝王級の術者かと思われます。

#WizardingWorld #AmazonFire

 

USAニュース速報✅ @Breaking_News_US ・ 45分

NASAの衛星画像でも、アマゾン上空に局地的な異常気象が発生したことが確認されました。

専門家は「自然現象では説明がつかない」とコメント。

 

ホグワーツ入学希望者 @Magic_Wand_11 ・ 30分

動画見た!? あれヤバすぎでしょ!

杖を一振りしただけで、あの水量はありえない!

『アグアメンティ』にしては規模がデカすぎる

あれは間違いなく、オリジナルの古代魔法だよ

ついに魔法界がマグルに正体を明かしたんだ!

 

アニメアイコンの外国人 @Otaku_Samurai_X ・ 20分

みんなハリポタ、ハリポタ言ってるけどさ。

現場の音声を解析した動画、聞いたか?

風切り音で聞き取りにくいけど、こう叫んでるように聞こえるんだ。

「MA-HA...A-KU-A...DA-I-N」って。

これ、日本のRPG『女神転生』の魔法じゃね?

| 返信 @Persona_Fan_99

| HAHAHA! 君はゲームのやりすぎだ。

| でも確かに、あの水の出方はとんでもない威力だったな。

| 返信 @JRPG_Lover_EU

| もしそうだとしたら、彼はデビルサマナーってことになる

| でも杖を持ってるし、ローブも着てる

| 世界観がごちゃ混ぜだ。カオスルート確定だな

 

 


 

 

 こうやって活動が面白おかしく話題にされているのは正直照れくさい。だが、悪い気はしなかった。

 俺の力を、破壊ではなく再生のために使い、誰かの命を奪うのではなく守るために機能した。

 その事実は、ささくれ立った俺の精神にとって何よりの精神安定剤になっていたからだ。

 

「……まあ、なんとか役に立ててよかったよ」

 

 俺はリンゴ酒(シードル)を口に含み、少しだけ安堵の息を吐いた。

 そう、これでいい。こうやって少しずつ、マイナスを埋めていくしかないんだ。

 

 だが。相田が適当にタップしたページを見た瞬間、俺の喉の奥がキュッと引き攣った。

 それは、日本の匿名掲示板やSNSのまとめサイトだった。

 そこには海外の称賛とは異なる、冷たく、鋭利な日本語のナイフが並んでいた。

 

 


 

 

【悲報】渋谷のマハムドバリオン男、今度はアマゾンで水遊び

 

142:名無しさん@魔法アンチ

 映像見たけど、これ絶対あの時の犯人だろ

 黒いローブ着て杖振ってるけど、やってる規模がおかしい

 人殺しがヒーロー気取りかよ

 

156:名無しさん@魔法アンチ

 >>142

 それな

 渋谷で400人殺しておいてボランティアすればチャラになるとでも思ってんのか?

 遺族の気持ち考えろよ

 

168:名無しさん@魔法アンチ

 いくら償いをしても、死んだ人は帰ってこない

 こいつがどれだけ人を助けようが、俺は絶対に応援できない

 まず自首して死刑になれよ

 

175:名無しさん@魔法アンチ

 こんな凄い魔法使えるならなんであの時助けなかったんだ?

 即死魔法ぶっ放した後回復魔法とか蘇生魔法とか使えなかったのか?

 仮にわざと殺したんじゃなかったとしても見殺しにしたんだろ結局

 

189:名無しさん@魔法アンチ

 偽善者。

 吐き気がする。死ねよ。

 


 

 

 指先が冷たくなる。

 美味しいはずのガレットの味が、急に砂のように感じられた。

 言葉の刃は、俺が一番触れられたくない、柔らかく膿んだ傷口を正確に抉ってきた。

 

 ……分かっている。

 彼らの言うことは、正論だ。

 どんなに森を救おうが、洪水を止めようが、俺があの日奪った四〇〇の命は戻らない。

 そして何より、>>175の書き込み。

 

『なんであの時助けなかったんだ?』

 

 それは、俺自身も毎晩のように自問自答する最大の十字架だった。

 

 あの日。あの時。

 俺が『マハ(全体)ムド(呪殺)バリオン(最上級)』を放ち、人々が倒れた直後。

 もし俺が、すぐに事態を飲み込み、即座にリカーム(蘇生)サマ(完全)リカーム(蘇生)を連発していれば?

 

 ……助かったかもしれない。

 全員とは言わずとも多くの人が息を吹き返したかもしれない。

 当時の俺も今と変わらずMPは無限だったはずだ。連発すれば、可能性はあった。

 

 でも、俺はしなかった。

 できなかった。

 

 なぜか?

 頭が真っ白だったから。それは事実だ。

 魔法だと信じたくなかったから。それも事実だ。

 だが、もっと醜い、根源的な理由がある。

 

——怖かったからだ。

 

 もし蘇生魔法を使って、死んだはずの人間が生き返らせて回れば。

 倒れた人の縁者である生存者もいたのだから、ぐったりとした家族や友人を謎の言葉とともに意識を取り戻して回るやつが居れば絶対に目立つ。明確に俺という人間は記憶されていた。

 中にはすぐに心臓が止まってることを確認した人も居るはずだ。

 不思議な事が起こって人が死んだあと、不思議な力でそれを蘇生して回る男。

 

 それはもう、こいつが犯人だと推察するには十分な情報だ。

 

 俺は、自分が「犯人」だとバレるのが怖かった。

 化け物扱いされるのが怖かった。責任を負うのが怖かった。

 だから、「ただのパニックになった生存者」のフリをして蹲って震えていた。

 助かるかもしれない命が路上に横たわっていたのに。

 

 俺は、保身のために見殺しにしたのだ。

 

「……ッ」

 

 吐き気が込み上げてくる。

 その後、俺はコップの水を凍らせて魔法の実在を確信した。

 その時点からでも、遅くはなかったかもしれない。

 なんとかして各遺体の安置場所を突き止めて忍び込み、片っ端からリカーム(蘇生)をかけて回れば、何人かは蘇生できたかもしれない。

 

 でも、しなかった。

 今度は別の恐怖が俺を止めた。

 

 「死の超越」だ。

 死者を蘇らせることができると知れ渡れば、世界はどうなる?

 俺を探す手は、警察やネット特定班だけではなくなる。

 各国の政府、軍部、大富豪、カルト教団。

 権力者たちは自分の寿命を延ばすために、あるいは死んだ愛する者を蘇らせるために、血眼になって俺を狩り出そうとするだろう。俺の関与しない不慮の事故、殺人、あるいは病気による死者まで生き返らせてほしいと遺族が殺到するだろう。

 

 「人殺しの魔法使い」への憎悪よりも「死を克服する魔法使い」への欲望の方が遥かに執拗で、狂気じみている。俺はモルモットどころか、生きた「賢者の石」として、一生どこかの地下施設に監禁され、死体を蘇らせる機械にされるかもしれない。

 

 だから、俺は今でも救助活動において一線を引いている。

 『メシアライザー(全体完全快癒)』で怪我や病気を治すことはあっても、既に心肺停止して時間が経過した「死者」に対しては、決して魔法を使わない。

 蘇生系の魔法は、一度も試していない。

 試して、「本当にできてしまう」ことが確定するのが怖いからだ。

 

 できると分かってしまえば、俺は見殺しにするたびにより深い罪を背負うことになる。

 できないかもしれないと思っている方が、まだ精神が保つ。

 俺は、魔法の存在を隠さなくなった今でも逃げ続けているのだ。

 あの日の自分からも、死者たちからも。

 

 相田が、無言で画面をスクロールさせた。

 俺の沈黙を察したのか、それとも単に次の話題に移りたかったのか。

 彼の指が止まったのは、あるスレッドの書き込みだった。

 

 


 

 

203:名無しさん@魔法アンチ

 つーかさ、この魔法使い、マジで何者なん?

 最初は大量殺人して、今は人助けしまくってる

 情緒不安定すぎね?

 

215:名無しさん@魔法アンチ

 >>203

 個人的な推測だけど渋谷の時は能力に目覚めたばっかりで制御できなくて暴走したとかじゃね?

 ゲームとか漫画でよくあるじゃん、覚醒イベントで周り巻き込んで死なせちゃうやつ

 たぶん本人もパニックだったと思うよ

 

222:名無しさん@魔法アンチ

 >>215

 あー、あるかも

 だから今、必死に償いムーブかましてるってことか

 『贖罪の魔法使い』って呼ばれてるのも、そういう背景があるって皆なんとなく察してるからだろ?

 

230:名無しさん@魔法アンチ

 やってることはチグハグだけど、行動原理としては筋が通ってるな。罪悪感で押しつぶされそうになりながら、それでも力を使ってるなら、まあ……少しは同情するわ

 許しはしないけどな

 


 

「…………」

 

 真を突かれていた。

 顔も知らない名無しの誰かが、俺の心情を恐ろしいほど正確に分析している。

 

『許しはしないけどな』

 

 その一言が、逆に今の俺には救いだった。

 無条件の称賛よりも、拒絶を含んだ理解の方が今の俺にはリアルで、誠実に思えたからだ。

 

「……鋭いな、ネットの連中は」

「ええ。集合知というのは時に、シャーロック・ホームズをも凌駕する推理力を発揮しますからね」

 

 相田は淡々と言った。

 彼は俺の苦悩を知っている。知った上で、あえて深くは触れない。

 その距離感が、今はありがたかった。もしここでマリンカリンを掛けていた時のように「貴方様は悪くありません!」と全肯定されていたら、俺は自己嫌悪で押しつぶされていただろう。

 

 相田はさらに画面をスクロールさせる。

 今度は、株価チャートのような画面が表示された。

 

「ほら、見てください堀田さん。これ、今朝のアトラス社の株価です

「……アトラス?」

「ええ。貴方様が『メシアライザー』だの『マハアクアダイン』だのを使って世界を救うたびに、ネット上では『またメガテン魔法だ!』『ペルソナだ!』と祭りになります。その宣伝効果たるや凄まじいの一言」

 

 チャートは俺達が活動を始めた後から綺麗な右肩上がりを描いており、特に今回の南米の件の後、垂直に近い上昇を見せている。

 

「当初は『人殺しのゲーム』なんて風評被害もありましたが、今や『世界を救う魔法の元ネタ』として海外からの注目度も爆上がりです。過去作のリメイク版なんて、発表された瞬間に予約完売です。パッケージ版は転売ヤーが出てるレベルですね」

 

「……そう、か」

 

 俺の胸の中に、温かいものが広がった。

 あの日俺が大好きなゲームの名前に泥を塗ってしまったこと。

 開発者やファンへの申し訳なさで、スマホに向かって謝り続けた夜。

 その罪滅ぼしが、少しだけでもできたのだろうか。

 

 俺という最悪のユーザーが引き起こしたマイナスを、俺自身の手でプラスに転じさせることができたなら。それは、亡くなった人への償いとは別の次元で俺の心を救う事実だった。

 

「ちなみに僕、渋谷の事件後に大暴落し続けてた底値の時に、全財産ツッ込んで株を買い占めておきました。ちょうどこの活動を始める直前くらいですね」

 

 相田がサラリと言った。

 

「……は?」

「いやあ、読み通りでした。貴方様が活躍すればするほど、僕の資産も右肩上がり。今や僕も億り人ですよ

「おま……ッ!!」

 

 俺は絶句した。

 こいつ、俺の苦悩や世間の騒動を横目にちゃっかりインサイダー紛いのマネーゲームで大勝利していたのか。

 俺が無償のボランティアで心身を削っている間に、こいつは俺の活動を燃料にして大儲けしていた。それでいてなんかあっさりとしてるのが余計にムカつく。

 

「活動資金ですよ、活動資金」

 

 相田は悪びれもせず、リンゴ酒(シードル)を煽った。

 魔法を前にしたときのような興奮もなく、ただ淡々と事実を述べる。

 

「そりゃあ交通費はゼロですが、こうして食事をとったり気晴らしに観光地で何かするにはお金がかかります。慎ましやかな貴方にはスポンサーが必要でしょう? 自分で稼いだだけです」

 

 ……ぐうの音も出ない。正論だ。

 このパリでの優雅なランチも、こいつの財布から出ているのだから。

 俺は溜息をつき、ガレットの最後の一切れを口に運んだ。

 本当に、食えない男だ。

 

 相田はさらに、ニヤニヤしながら別の画像を見せてきた。

 それは南米のニュースサイトの記事だった。

 

「あと、これ見てください。現地の人が撮った、消火活動中の映像の切り抜きなんですけど」

 

 拡大された画像。

 豪雨の空を飛ぶ黒いローブの魔法使いのすぐ後ろに、何やら歪んだ空間の揺らぎが写り込んでいる。

 俺が透明化させて引っ張っていた、風船状態の相田だ。

 雨粒がその見えない球体に当たり、不自然な空間の歪みを生み出している。

 

『謎の魔法使い、未知の使い魔を使役か?』

『透明な巨体を伴って飛行する姿が目撃される』

『あれは高位の悪魔か、精霊か?』

 

 記事には、そんなまことしやかな推測が書かれていた。

 

「見ましたか! 僕、ついに『仲魔』扱いですよ!」

 

 相田は子供のように目を輝かせている。

 

透明な巨体! 未知の使い魔! いやあ、ゾクゾクしますねえ。ついに僕も、貴方の伝説の一部として神話的体系に組み込まれたわけです」

「……お前、風船にされて引きずり回されてただけだぞ」

「結果が全てです。世間から見れば、僕は貴方様に従う強力な見えざる守護者(インビジブル・ガーディアン)なわけですから」

 

 彼は本当に嬉しそうだ。

 自分が風船扱いされたことなどどうでもよく、「魔法使いの相棒(バディ)として認知された事実だけで、ご飯三杯はいけるといった顔をしている。

 

 ……気を使っているのかもしれない。

 俺がネットの批判コメントを見て落ち込んでいたから、わざと明るい話題、馬鹿げた話題を振って、空気を変えようとしたのかもしれない。

 あるいは、本当にただのサイコパスで、自分の興味のあること以外はどうでもいいだけなのかもしれない。

 

 どちらにせよ。

 俺は少しだけ、呼吸が楽になっていた。

 

「……ありがとな、相田」

「はい? 何がです?」

「いや。……会計、頼むわ。億万長者様」

「お任せください。チップも弾んでおきましょう」

 

 相田はパチッとウィンクして、ウェイターを呼んだ。

 俺は空になったグラスを見つめた。

 

 罪は消えない。死者は戻らない。だから、俺は一生マハムドバリオンの男として十字架を背負って生きていかなければならない。

 でも、この奇妙でタフな「仲魔」がいれば……あるいはもう少しだけ前に進めるかもしれない。

 

 とりあえず、帰ったらまた仕事だ。

 世界を救う魔法使いも、平日は企業に務める社畜に戻らなければならないのだから。

 

 俺たちは席を立った。パリの午後は、まだ明るい。

 だが俺の帰る場所は極東の夜と、終わりのない贖罪の日々だった。




次回からは堀田くんと相田の魔法探求を中心とした和気あいあいとした小話集となります
女神転生やハリー・ポッター以外の魔法や、魔法っぽいものの探求をしたりします
堀田くんの使える魔法のより詳細な条件が明かされたりも?
それでは引き続きお楽しみに!
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