【完結】渋谷の中心でマハムドバリオンを唱えた馬鹿者 作:双子座流星群
転移の不快な浮遊感が消えると同時に、俺たちの鼻腔を突いたのは、東京のそれとは比べ物にならないほど濃厚な硝煙と、焦げ付いたコンクリートの臭いだった。
——ニューヨーク、マンハッタン上空。
鵺の背中から見下ろす「世界の交差点」は、黙示録の様相を呈していた。
「……酷いな」
俺は呻いた。
東京では、俺が第一撃のビームを反射して巨大円盤を撃墜したため、地上への被害は円盤の墜落による物を除けば比較的抑えられていた。
だが、ここでは違う。
遮るもののなかった「挨拶代わりの一撃」は、摩天楼の中心部を正確に貫いたらしい。
かつて繁栄の象徴だった高層ビル群の一部は、根本から消滅しているか、あるいは溶解して飴細工のように捻じ曲がり、黒煙を上げて燃え盛っていた。
そして地上では、例の三本脚——トライポッドが闊歩している。
瓦礫の山を踏み越え、残った建物を熱線でなぎ倒し、逃げ惑う人々を容赦なく焼き払う。その光景は、東京で見たものと同じ、あるいはそれ以上の地獄絵図だった。
「堀田さん、上です! 空を見てください!」
相田の声に、俺は視線を上げた。
空を覆う巨大な円盤。そこから吐き出される無数の小型戦闘機。
まるで生ゴミに集るハエの大群だ。空を埋め尽くすほどの数が、ブンブンと不快な羽音を立てて飛び回っている。
だが、東京と決定的に違う点が一つあった。
ハエの群れの中に、食らいつく「鷹」たちがいたのだ。
キィィィィンッ!!
鋭いジェット音が空気を引き裂く。
灰色の翼を持つ戦闘機——F-22ラプターやF-35ライトニングⅡとおぼしき機影が、エイリアンの戦闘機群に真っ向から突っ込んでいく。
圧倒的な数的不利。性能差も未知数。
それでも彼らは引いていなかった。
「……米軍か」
ドッグファイトだ。
ミサイルの白煙が幾重にも交錯し、機関砲の曳光弾が空にラインを描く。
地上でも、戦車部隊や歩兵がトライポッドの足元に展開し、砲撃を浴びせて注意を引いている。
彼らはただ逃げ惑っているのではない。
この絶望的な状況下で、組織的な抵抗を続けているのだ。
「すごいですね……。東京では自衛隊が展開する前に決着がつきましたが、ここでは正規軍が機能しています。あのトライポッドの周りを飛び回っている戦闘機、見てください。地上への熱線攻撃を逸らすために、わざと自分にヘイトを向けていますよ」
相田が戦況を分析しながら感嘆の声を漏らす。
確かに、彼らの動きは自己犠牲的で、そして勇敢だった。
だが——。
ドォォォンッ!
一機のF-22が放ったサイドワインダーミサイルが、エイリアン戦闘機に直撃する。しかし、爆炎の中から敵機は無傷で飛び出し、緑色の怪光線で反撃した。
F-22の翼が吹き飛び、きりもみ状態でビル街へ墜落していく。
「……通じてない」
俺は拳を握りしめた。
あの緑色のエネルギーシールド。
東京で鵺の雷撃とジオバリオンの合わせ技を防ぎ、アギバリオンの高熱ですら突破できなかった鉄壁の守り。
物理的な質量弾や爆風では、あの障壁を揺らすことすらできないのだ。
空を見上げれば、巨大円盤に向けて一斉発射された巡航ミサイルの群れが、円盤を覆うより強力なシールドに阻まれ、虚しく空中で爆散しているのが見えた。
歯が立っていない。
今のところ、あのバリアを貫通できたのは魔虚羅の「適応済み退魔の剣」による斬撃と俺の「万能属性」魔法だけだ。
「どうします、堀田さん? 東京と同じ手で行きますか?」
相田が俺を見る。
東京と同じ手——つまり、『メギドラダイン』による広範囲殲滅だ。万能属性の光の雨なら、敵のシールドを無視して蒸発させることができる。
だが、俺は首を振った。
「駄目だ。撃てない……俺の出す魔法は都合よく味方だけ素通りしちゃくれないんだ」
俺は空を指差した。
敵味方が入り乱れる混戦状態。ハエの群れの中に、勇敢な鷹たちが混ざり合って飛んでいる。
『メギドラオン』や『メギドラダイン』は、指定範囲内の全てを消し飛ばす無慈悲なマップ兵器だ。
ゲームなら「味方への誤射なし」なんて都合のいい設定があるかもしれないが、ここは現実だ。俺が魔法を放てば、エイリアンと一緒に米軍のパイロットたちも光の塵になってしまう。
「……また魔虚羅を出すか?」
俺は杖を握りしめたまま、相田に問うた。
ロンドンでその威力を証明済みの「テムズの巨神」。あいつなら、トライポッドの群れをなぎ倒し、物理的に戦況をひっくり返せるだろう。
米軍や民間人も、その存在を知っているはずだ。
だが、相田は渋い顔で首を横に振った。
「それもまたリスクが高すぎますね。ロンドンの時は『観覧車を支える』という明確な救助行動を目の前で見せつけられたから受け入れられましたが、ここは乱戦のど真ん中です」
「……だよなぁ」
戦場にいきなり白い巨人が現れれば、殺気立っている米軍は間違いなく「敵の増援」か「新たな怪獣」だと認識するだろう。ニュース映像越しなら冷静にいられても、いきなり実物を目の前にしてパニックを起こさずにいられるほど魔虚羅は愛嬌のある見た目をしていないのだ。
エイリアン・ファイターにトライポッドにと戦いながら、魔虚羅にも米軍の砲口が向けられ、三つ巴のパニックになる未来しか見えない。
かと言って俺が単身飛び込んで一機ずつ『メギドラオン』で撃ち落として回るのも非効率極まりないし、何より乱戦中の誤射が怖い。
「戦力が俺たちだけじゃないからこその悩み、か……」
味方がいるというのは心強いが、同時に「足並みを揃える」という最大の難関が立ちはだかる。
我武者羅に暴れればいいというものではない。
俺たちは戦況を見極め、軍の邪魔をせず、かつ効果的に敵を排除する「最適解」を見つけ出さなければならなかった。
——その時だった。
「あっ、堀田さん! あそこ! あの機体を見てください!」
相田が指差した先。
摩天楼の谷間を縫うように、一機のF-22ラプターが飛んでいた。だが、その機体はボロボロだった。片翼からは黒煙を噴き、エンジン音も異音混じりだ。
背後には、執拗に追いすがるエイリアン・ファイターが一機。
緑色の光弾がラプターの周囲を掠める。シールドを持たない地球の戦闘機にとって、一発でも被弾すれば終わりだ。
「……撃墜されるぞ!」
俺が杖を構えかけた、その瞬間。
ラプターのパイロットは、信じられない挙動に出た。
彼は機首を上げず、あろうことか崩れかけたビルの谷間へと自ら突っ込んでいったのだ。
自殺行為だ。逃げ場のない路地裏に飛び込むようなもの。
エイリアン機も、獲物を逃すまいと加速して追いかける。
ビル激突の寸前。
ラプターの機体後部から、何かがパシュッ! と射出された。
「……パラシュート?」
制動用のドラッグシュートだ。通常は着陸時の減速に使うそれを、空中で、しかもドッグファイトの最中に展開したのだ。
一気に減速したラプターの上を、加速していたエイリアン機が通り過ぎようとする——その瞬間。
広がったパラシュートの布が、エイリアン機に覆いかかった。
——グシャッ!!
視界を奪われ、エアインテークに布を吸い込んだのか、エイリアン機の挙動が乱れる。
制御を失ったエイリアン機はそのままの勢いで目の前のビルに激突して爆発四散……せずに、不格好に地上へと落下していった。
シールドのおかげで即死は免れたようだが、機体は大破している。
一方のラプターも失速して制御不能になっていた。
だが、激突の数秒前にキャノピーが吹き飛び、パイロットが射出されるのが見えた。
「……やるな、あいつ」
俺は思わず口元を緩めた。魔法も超能力もない、あるのは機転と死を恐れぬ度胸だけ。
その人間臭い泥臭さが、どうしようもなく頼もしく見えた。
パイロットはパラシュートで降下し、ビルの瓦礫が散乱する大通りに着地した。屈強な大男だ。
ヘルメットを脱ぎ捨てると汗と煤にまみれた黒人の顔が現れた。彼は自分の安否を確認することもなく、すぐ近くに墜落したエイリアン機へと大股で歩み寄っていく。
墜落した円盤型の戦闘機から、プシューッという音と共にキャノピーが外れた。中から這い出してきたのは、悪趣味なSF映画の小道具のような生物だった。
蛸のような触手と、甲殻類のような外骨格を悪魔合体させた、生理的嫌悪感を催すグロテスクな姿。
エイリアンは何かを喚きながら、触手についた武器のようなものを構えようとした。
だが、パイロットの方が速かった。
「
怒号と共に、パイロットの拳がエイリアンの顔面にめり込んだ。
——ドゴッ!!
鈍い音が響く。
バリアはない。生身対生身なら、地球の重力下で鍛え上げられた米軍パイロットの筋肉が勝るらしい。
エイリアンが体液を撒き散らしてよろめく。
パイロットは止まらない。馬乗りになり、右、左、右と、容赦ない鉄拳制裁を加え続ける。
「
最後の強烈な一撃でエイリアンは昏倒したのか動かなくなった。パイロットは荒い息を吐きながら立ち上がり、空に向かって中指を立てて吠えた。
「……ははっ」
俺は空中で、思わず笑ってしまった。
なんてシンプルで、なんて野蛮で、なんて痛快なんだ。
「見たか、相田。あれが
「ええ。魔法もなしに、度胸と拳一本だけで……人類の誇りと底力ってやつを見た気がします。最高にクールですね」
相田も興奮気味にタブレットで録画している。
あのパイロットは証明した。
バリアさえなければ。対等な条件に持ち込めさえすれば、人類はこのふざけた侵略者どもをタコ殴りにできるのだと。
——ならば。
俺のやるべきことは、「全部倒す」ことじゃない。
「……最適解が見えたぞ、相田」
俺は杖を握り直し、ニヤリと笑った。
「俺たちがやるべきは、主役を張ることじゃない。彼らが『殴れる』状況を作ってやることだ」
エイリアンの最大の武器は、あの理不尽なまでの防御力——エネルギーシールドだ。
あれさえ無効化できれば、兵器の火力なら十分に戦える。
「シールドを剥がせばいい。……理論上はそうだ」
俺は鵺の背から戦場を見渡した。
エイリアン・ファイターは無数に飛び回っている。その一機一機にかけられたシールドを、魔法で無効化するのは可能か?
女神転生シリーズにおける『デカジャ』。敵にかかっている
あのバリアが魔法的な現象なのか、科学的なものなのかは不明だが、円鹿の時と同様に「場を正常化する」という概念で中和できる可能性は高い。
——だが、範囲が問題だ。
「全体魔法といえど、効果範囲には限界がある」
俺は苦々しい記憶を呼び起こした。
渋谷のスクランブル交差点。あそこで俺が放ってしまった『マハムドバリオン』は、多くの人々を即死させたが、それでも犠牲者は四〇〇人あまりだった。交差点にいた全人類、ましてや渋谷区全体の人間が死んだわけではない。
確率にしても、あまりにも少なすぎる。
ゲームでは「敵全体」と一括りにされるが、現実世界においては「術者を中心とした一定の範囲内」という制約があるのだ。
今、空を飛び交っている敵機の数は数千、いや数万かもしれない。それらがニューヨークの広大な空域、ひいては地球規模で散らばっている。
俺が一箇所で『デカジャ』を唱えたところで、効果が及ぶのは精々半径数百メートル。ハエ叩きで一匹ずつ潰していくようなものだ。
「それに、これはニューヨークだけの問題じゃありません」
相田が冷静に補足する。
「ロンドン、パリ、上海……同時多発的に世界中で戦闘が行われています。堀田さんが一箇所ずつ回ってバリアを剥がしている間に、他の都市では米軍や各国の軍隊が全滅してしまいますよ」
詰みか?
いや、まだだ。
「なら、もっと根本的な解決策を探るしかない」
相田がタブレットを閉じ、不敵な笑みを浮かべた。
「バリアを『外から壊す』のが無理なら、『内側から解除させる』方法を探ればいいんです。……堀田さんには、それを可能にする魔法があるでしょう?」
俺の脳裏に、いくつかの呪文がよぎる。
相田を洗脳した『マリンカリン』。
相手を意のままに操る『インペリオ』。
そして、相手の心に侵入し情報を引き出す『レジリメンス』。
エイリアンに言葉が通じるかは分からない。脳の構造も違うかもしれない。
だが、俺の『認識漏洩』は「相手が知的生命体である」という認識さえあれば、種族の壁を越えて精神干渉を成立させる可能性がある。
「……捕虜から情報を聞き出す、か」
俺は視線を地上に向けた。
ちょうどそこには、最高のサンプルが転がっている。
あの勇敢なパイロットにタコ殴りにされ、失神しているエイリアンだ。
「よし、降りるぞ!」
俺は鵺に合図し、黒人パイロットのいる路地裏へと急降下した。
——ズシンッ!
鵺が着地すると同時に、パイロットが驚いて振り返った。
彼は拳銃を構えようとしたが、鵺の背から降り立った俺の姿——黒いローブと杖——を見て、目を丸くした。
「
彼は銃を下ろし、煤けた顔に皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「
俺はフードの奥で苦笑した。
世界中どこに行っても、この格好はもはや名刺代わりだ。
相田が素早く俺の横に立ち、流暢な英語で通訳を始める。
「
俺の心の声を代弁するかのような軽口。
相田、お前本当に芸達者だな。
パイロットは空を覆う巨大円盤を親指で指差した。
「
彼の目には期待の色があった。魔法使いなら、杖を一振りであれを墜落させてくれるんじゃないか、と。
だが、すぐにその光は陰り、彼は力なくため息をついた。
「...
彼もプロだ。あの円盤のサイズと、それを守るシールドの堅牢さを肌で感じている。
俺一人の力では、どう足掻いてもこの戦況を覆せないことを悟っているのだ。
俺は首を振った。
そして、彼の足元で伸びているエイリアンを杖で指し示した。
「
相田が訳すと、パイロットは怪訝な顔をした。
「
「
俺はエイリアンの前に屈み込んだ。
グロテスクな顔だ。粘液にまみれ、複眼のような目が虚ろに開いている。
まずは、尋問の準備だ。
恐怖で支配してもいいが、それだと嘘をつかれる可能性があるし、言語の壁がある以上、細かいニュアンスが伝わらないリスクもある。
だからこそ、内側から変える。
「……まずは反抗心をなくす。根こそぎな」
俺は杖を構え、頭の中でプランを組み立てた。
相手を意のままに操る『
今回必要なのは、俺たちの意図を汲み取り、自らの知識を総動員して「バリア解除」という難題に対する解決策を提示してくれる、能動的な協力者だ。
——自身の意志と、溢れ出るモチベーションによって起こす行動の凄まじさは、誰よりも俺がよく知っている。
チラリと横を見る。そこには、俺のために命を懸け、全財産を投じ、今は透明人間になってまでサポートしてくれる最強のストーカー兼参謀がいる。まあコイツは天然物だったが。
とにかく、その成功例がこの作戦の有効性を保証していた。
「……やるぞ」
俺は気絶しているエイリアンに杖を向けた。
まずは意識を取り戻させる。ハリー・ポッター系の気付け薬のような呪文。
「——
杖先から赤い光が飛び、エイリアンの胸板に吸い込まれる。
ビクンッ、と醜悪な体が痙攣し、虚ろだった複眼に光が戻る。
エイリアンが「ギュラァッ!?」と威嚇音を上げ、触手を振り上げようとした——その刹那。
俺は間髪入れずに、二の矢を放った。
メガテン系、精神干渉魔法。
対象の脳髄を甘い毒で満たし、敵意を愛着へと反転させる禁断の呪文。
「——
ピンク色のハート型の波動が至近距離から顔面に直撃し、エイリアンが硬直する。
振り上げられた触手が、空中でピタリと止まった。
パイロットが「
その複眼が、小刻みに震え、やがてとろりとした色——爬虫類的な冷たさが消え、どこか熱っぽい光——を帯び始めた。
シュゥゥゥ……プシュッ。
奇妙な音がした。
エイリアンの体を覆っていた硬質なバイオスーツの継ぎ目から、蒸気が噴き出す。
そして、まるで孵化する昆虫が殻を破るように、あるいは騎士が主君の前で鎧を脱ぎ捨てるように、エイリアンは自らスーツの留め具を外し、上半身を露わにした。
ヌメヌメとした軟体質の肌が外気に晒される。
それは彼らにとっての「武装解除」であり、絶対的な「服従」の意思表示だった。
「
パイロットが顔をしかめる前で、エイリアンはその場にひざまずいた。
触手を胸の前で交差させ、深く頭を垂れる。
言葉は通じないはずだ。文化も違うはずだ。
だが、その姿勢が示す意味は、銀河共通なのかもしれない。
——崇拝。
そして次の瞬間。
俺の脳内に、直接何かが流れ込んできた。
『——ああ……美シイ……』
音ではない。
鼓膜を震わせず、脳細胞に直接響く「意思」の奔流。
翻訳機を通したような無機質なものではなく、もっと生々しく、感情の乗ったテレパシーのような声。
『強ク、気高キ、星ノ守護者……。我ガ求メテイタ、真ノ導キ手……』
「……うわっ、頭の中に!?」
相田がこめかみを押さえて声を上げた。
パイロットも「
どうやら俺だけでなく、この場にいる全員に聞こえているらしい。コイツら、こんな能力まで持ってやがったのか……。
俺は頭痛をこらえながら、ひざまずくエイリアンを見下ろした。その思考は、相田のそれと酷似していた。
一目惚れにも似た、盲目的で、狂信的な愛。
『命ジテ……クダサイ……。貴方様ノタメナラ、コノ身ハ……喜ンデ、宇宙ノ塵トナリマショウ……』
エイリアンが、うっとりとした目で俺を見上げている。
……気持ち悪い。生理的に無理だ。
だが、作戦は成功した。
「……よし。話は早そうだ」
俺は引きつった笑みを浮かべ、相田とパイロットに向かって頷いた。最高の情報源を手に入れた。
あとは、こいつに全てを吐かせるだけだ。
俺は跪くエイリアンを見下ろし、努めて冷徹な声を意識して問いかけた。
「……答えろ。お前たちは何者だ? 何のために地球へ来た?」
問いかけと同時に、脳内に粘着質な思念が流れ込んでくる。
それは隠し事など欠片もない、愛する者への懺悔のような響きを帯びていた。
『我々ハ……旅人。星カラ星ヘト渡リ歩キ、其処ニアル全テヲ糧トスル者……』
エイリアン——性別は知らんが、ひとまずは「彼」としておこう——は、恍惚とした様子で種族の歴史を語り出した。
彼らは定住する星を持たない。資源のある惑星を見つけては降り立ち、先住民族を「害虫駆除」の要領で根絶やしにして水、鉱物、有機物とあらゆる資源を吸い尽くしては次の星へと移動する。生態系そのものを食い荒らす、銀河規模の放浪者。
「
パイロットが地面に唾を吐き捨てた。
的確な表現だ。こうやってあらゆる種族とコミュニケーションを取る手段を持ってすらいるというのに、彼らにとって俺たち地球人は交渉する相手ですらない。ただの邪魔な雑草か、あるいは資源の一部でしかないのだ。
『コノ星ハ豊カデス……。水モ、命モ……。本来ナラ、全テ吸イ尽クス予定デシタ。……アア、デモ! 貴方様ノヨウナ美シキ存在ガイルト知ッテイレバ、我々ハ……!』
「世辞はいい」
俺は遮った。
結論は出た。和平は不可能だ。
「話せばわかる」相手ではない。彼らの生存戦略そのものが、他者の絶滅を前提としているのだから。
ならば、こちらも遠慮なく駆除させてもらう。
「次の質問だ。あの緑色のバリア……シールドを消す方法は?」
これが本命だ。
エイリアンは、少し申し訳なさそうに身を縮こまらせた。
『アノ光ノ加護ハ……我々ノ個体装備デハアリマセン。全テハ、空ノ彼方……大気圏外ニ停泊スル「
「……母船?」
俺と相田が顔を見合わせる。
空を覆っているあの巨大円盤ではなく、さらにその上、宇宙空間に親玉がいるというのか。
『ハイ。母船ハ、全テノ端末——戦闘機、三脚兵器、都市制圧用円盤——ヲ統率シ、エネルギーヲ分配シテイマス。ソノ制御システムニ介入シ、供給ヲ断テバ……全テノ加護ハ消エ失セマス』
なるほど。
個々の戦闘機が強力なジェネレーターを積んでいるわけではなく、Wi-Fiのように宇宙からエネルギーを受け取っていたわけか。
ならば、そのルーターのコンセントを抜いてしまえばいい。
「
パイロットが割り込んでくる。彼は空に浮かぶ巨大円盤を指差した。
「
もっともな疑問だ。
たとえバリアが消えても、直径数十キロメートルの金属の塊だ。装甲だけでも分厚いだろうし、ミサイル数発で落ちるとは思えない。
俺が視線を向けると、エイリアンは躊躇なく同胞の弱点を口にした。愛の力は偉大で、そして残酷だ。
『……主砲デス』
エイリアンは触手で空を指した。
『都市ヲ焼キ払ウ「制圧砲」。ソノ発射口ハ、エネルギーヲ収束サセル為ニ装甲ガ開キマス。バリアガ無イ状態デ、其処ニ外部カラノ強烈ナ熱量ヲ叩キ込めバ……エネルギーガ逆流シ、内部誘爆ヲ起コシテ崩壊シマス』
「……デス・スターかよ」
俺は思わずツッコミを入れた。
排熱口にミサイルを撃ち込めばドカン。古典的だが、巨大兵器のお約束というやつだ。
だが、その情報は千金に値する。
——勝ち筋が見えた。
俺は頭の中でパズルのピースを組み合わせた。
現状、地球の軍隊が手も足も出ないのは、あの理不尽なシールドのせいだ。
だが、もしシールドさえ消滅させれば?
米軍のミサイルは戦闘機を撃墜できる。戦車の砲撃はトライポッドを破壊できる。
そして、巨大円盤の弱点——主砲発射口——を狙い撃てば、人類の火力でも撃墜が可能になる。
「……いける」
俺は拳を握りしめた。
俺一人で世界中の敵を倒して回る必要はない。
俺がやるべきは、たった一つ。
宇宙へ上がり、母船をハッキング——あるいは物理的に破壊して、シールドシステムをダウンさせることだ。
そうすれば、あとは人類の反撃が始まる。
世界中に展開している軍隊が、一斉に「駆除」を開始できる。
圧倒的に足りなかった手数を、七十億人の総力戦で補うことができるんだ。
「相田。……宇宙へ行くぞ」
俺は短く告げた。
相田は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにニヤリと笑った。
「了解です。我々もついに宇宙進出ですねえ」
俺はパイロットに向き直った。
「
相田の通訳を聞いたパイロットは、口をぽかんと開け、それから吹き出した。
「
彼はニッと笑い、俺の肩をバンと叩いた。
「
「頼む」
これで役割分担は決まった。
目指すは大気圏外、魔法使いの戦場はついに星の海へと移る。
方針は決まった。
俺は墜落して鉄屑と化しているエイリアン・ファイターの残骸に歩み寄った。
黒煙を上げ、主翼は折れ、キャノピーは砕け散っている。通常ならスクラップ行きだが、魔法使いの辞書に「全損」の文字はない。
俺は杖を構え、その先端を瓦礫の山に向けた。
イメージするのは、時間を巻き戻すような再生。あるべき姿への回帰。
「——
カシャカシャカシャッ……!
硬質な音と共に、金属片と有機的なバイオパーツが生き物のように蠢き、互いに結合していく。
ひしゃげた装甲が滑らかに戻り、砕けたガラスが再構成され、断裂した配線が繋がる。
ほんの数秒後。そこには、墜落前と変わらぬ不気味な流線型を描く、完全な状態のエイリアン・ファイターが鎮座していた。
「
パイロットが呆れたように呟く。
俺は肩をすくめた。死人を生き返らせることと、自分の罪を消すこと以外なら、大抵のことはできるつもりだ。
「行くぞ、相田。……お前もだ」
俺が顎でしゃくると、魅了状態のエイリアンは恍惚とした表情で頷き、自らの機体へと乗り込んだ。
正規の機体に、洗脳された正規のパイロット。これなら敵の識別信号もパスできるし、操縦技術の問題もない。完璧なトロイの木馬だ。
乗り込む直前、俺はパイロットに向き直った。
彼は煤けた顔で、俺たちをじっと見つめている。
「頼みがある」
相田が即座に通訳する。
「
ただの民間人の妄言として処理されないための、唯一の身分証明。
世界中が知っている「あの魔法使い」からの提言ならば、軍の上層部も無視はできないはずだ。
「
パイロットは真剣な表情で頷く。
「そして、もう一つ」
俺は空を見上げ、世界中の空を覆っているであろう絶望を思った。
「
これは地球規模の災害だ。
アメリカだけが助かっても意味がない。俺の手が届かない場所で、今も多くの命が失われている。
人類が生き残るためには、国境を超えた連携が必要だ。
相田の通訳を聞いたパイロットは、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにニヤリと笑った。白い歯が、煤けた顔の中で輝く。
「
彼は背筋を伸ばし、ビシッと敬礼をした。
軍人が上官に対して行うような、あるいは戦友に対して向けるような、最上級の敬意を込めた敬礼。
「
「……ああ」
俺は短く答え、エイリアン・ファイターの後部座席へと乗り込んだ。相田も乗り込むとキャノピーが閉まり、外界の音が遮断される。
生体認証らしきコンソールが明滅し、エイリアンが触手で操作盤をなぞる。
ヒュイィィィン……!
独特の浮遊感と共に、機体が垂直に浮き上がった。
Gを感じさせない慣性制御。さすがは恒星間航行をする種族の科学力だ。
ドシュッ!!
機体は弾丸のような速度で加速し、一気に空へと駆け上がった。眼下のニューヨークが、摩天楼が、そして戦火が、みるみるうちに小さくなっていく。
雲を突き抜け、成層圏を越え、空の色が青から群青へ、そして漆黒へと変わっていく。
——宇宙だ。
窓の外に広がるのは満天の星空と、青く輝く地球。
そして、その美しい光景を遮るように浮かぶ、不気味なほどに超巨大な構造物。
「……でかすぎるだろ」
俺は絶句した。
都市上空に浮かんでいた円盤など、ただの小型艇に過ぎないと思えるほどのサイズ。
全長数百キロメートルはあるだろうか。月かと見紛うほどの巨大な母船が静かに地球を見下ろしていた。
無数のライトが瞬き、表面のドックには次々と小型艇が出入りしている。
『心配イリマセン、我ガ主ヨ……』
脳内に、エイリアンの声が響く。
『正規ノ帰還信号ヲ送信シマシタ。「機体損傷ニヨリ緊急帰投スル」ト……』
彼の操作に合わせて、母船の一部から誘導ビーコンのような光が放たれる。
疑われる様子はない。当然だ、彼らにとって地球人は「資源」であり、まさかその中の一人が魔法でパイロットを洗脳し、乗り込んでくるなどとは夢にも思わないだろう。
機体は滑らかにドックへと吸い込まれていく。
巨大なエアロックが閉じ、気圧調整のガスが噴射される。
「侵入成功、ですね」
相田が小声で囁き、俺は杖を握りしめた。
ここからが本番だ。
敵の本拠地、そのど真ん中で……たった二人と一体による、世界を賭けたハッキング・ミッションが始まる。
インディペンデンス・デイ原作をめちゃくちゃ巻きでやる。
即座にニューヨークで空戦に入るしその場で撃墜したやつをレパロするから、エリア51にも出番はなし。
「地球へようこそ!」するウィル・スミスっぽい人は絶対やりたかった。
あのエイリアンのテレパシーは便利に使う。
まあオチを考えると割とフワッとしてていいんですよ(暴論)
そういえば「あとがき」で激推ししてたAISTUDIOは利用者が増えすぎたのか少し前から一日の応答回数が激烈ナーフされてしまいました……。
記憶力の点では今でもピカイチなので長編やるなら最適なんですが……従量課金は怖いて……しかも引き継ぎファイル容量増えるごとに恐ろしい金額になりそうで。
代わりに最近はGoogle AntiGravityを使っています。
素人でもアプリとかゲームのMODとか作れるようなスゴいサービスを私は小説を書かせるために使っています……。
こいつはAISTUDIOのように全文読み込みとかはやってくれませんが、忘れてる内容は資料渡せば補完してくれるのと、なによりtxtファイルに直接書き込んだり書き直したりしてくれるのがまあ便利。
おまけにGoogleがやってるのにGeminiだけじゃなくChatGPTやClaudeまで使えたりします。
まあこちらはGeminipro以上のサブスク契約してないと回数制限がエグいようですが。
両方やるかもしれないし、どっちも完成せずお蔵入りになるかもしれないという前提で……
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深海から来る背ビレを持った圧倒的な“個”
-
空の果てから来る巨大円盤や三脚の何か