【完結】渋谷の中心でマハムドバリオンを唱えた馬鹿者 作:双子座流星群
ネットという名の電子の海に溺れかけた俺は、縋るような思いでリモコンを手に取った。
スマートフォンの画面を伏せ、テレビの電源を入れる。
SNSのタイムラインを流れる無責任な悪意や、鋭すぎる考察から逃れたかった。テレビなら、もっと大衆向けで、当たり障りのない報道をしているはずだ。コメンテーターたちが「原因究明が待たれますね」などと、神妙な顔つきで定型文を繰り返しているだけの、退屈で安全な空間がそこにあると信じていた。
——だが、映し出された4K画質の現実は、俺の淡い期待を粉々に粉砕した。
『——さあ、続いては今、SNSを中心にまことしやかに囁かれている、ある衝撃的な説について検証します。名付けて、"渋谷大量昏倒事件、その原因はゲームの呪文だった!?"』
派手な効果音と共に、毒々しい配色のテロップが画面いっぱいに踊る。
司会の男性アナウンサーが深刻そうな表情を作りながらも、どこか隠しきれない好奇心を滲ませてカメラを見据えていた。
スタジオには巨大なボードが運び込まれ、そこにはデカデカと『マハムドバリオン』の文字。
俺はリモコンを取り落としそうになりながら、ソファの上で凍りついた。
逃げ場なんて、どこにもなかった。
テレビという、この国で最も巨大で、最も影響力のあるメディアが、ついに「魔法説」という禁断の果実にかじりついたのだ。
『ええー、まさかそんな。魔法だなんて、映画や漫画じゃあるまいし……』
コメンテーター席に座るベテラン女優が、眉をひそめて常識的な反応を示す。そうだ、それが普通の反応だ。もっと言ってくれ。そんな馬鹿な話はないと、笑い飛ばしてくれ。
『ですが皆さん、こちらの映像をご覧ください。これはネット上で拡散されている、現場の音声データを専門家が解析したものです』
司会者の合図で、VTRが切り替わる。
波形モニターの映像。そして、ノイズキャンセリング処理を施された、あのクリアな音声が、全国のお茶の間に向けて放送された。
『ああもう……! マハムドバリオン……ッ!』
テレビの高性能スピーカーを通すと、俺の声はより一層生々しく、切迫した響きを持って部屋に反響した。
——自分の声が、地上波に乗って流れている。
北海道から沖縄まで、何千万という人々が今、この瞬間に俺の「殺人詠唱」を聞いている。
その事実だけで、胃の中身が逆流しそうなほどの吐き気に襲われた。
『いかがでしょうか。かなりはっきりと聞こえますね』
『確かに……男性の怒鳴り声のような』
『そして、この言葉の意味について、今日は詳しい方にお越しいただいています。ゲームに精通している、タレントの〇〇さんです』
カメラが切り替わり、サブカルチャー好きで知られる若い男性タレントが映し出された。彼は神妙な顔を作ってはいるが、その瞳の奥には「自分の得意分野が来た」という隠しきれない高揚感が宿っていた。
『はい、よろしくお願いします。いやあ、正直このニュースを聞いた時、僕も耳を疑いましたよ。まさか現実のニュース番組で、この言葉を聞くことになるとは』
『〇〇さん、この"マハムドバリオン"というのは、一体どういう意味なんでしょうか?』
タレントは待ってましたとばかりに、手元のフリップをめくった。
『はい。これはですね、長年愛されているRPGシリーズ、“女神転生”や“ペルソナ”などに登場する、非常に有名な呪文なんです。ズバリ、その効果は……』
タレントは一拍置き、カメラ目線で言い放った。
『敵全体に対する、即死攻撃、です』
スタジオから「ええーっ!」という、わざとらしい驚きの声が上がる。
俺は頭を抱え、耳を塞ぎたくなった。やめろ。解説するな。
そんな丁寧に、分かりやすく、全国の主婦や老人たちにまで「殺人手口」を広めないでくれ。
『即死、ですか……』
『はい。ダメージを与えるんじゃなくて、確率で相手の息の根を止める。成功すれば一撃で終わりです。しかも"マハ"がついているので、これは全体魔法。敵のグループ全員を一気に葬り去る、最強クラスの呪殺魔法なんですよ』
タレントの解説は続く。
『ゲームの中では運が悪いとこれでパーティーが全滅してコントローラーを投げたくなるような、トラウマ級の呪文なんです。それがまさか渋谷の交差点で、これだけの人数が一度に……状況があまりにも効果と一致しすぎているんですよね』
専門的な知識が、テレビという権威のお墨付きを得て、視聴者の脳内に刷り込まれていく。
ただの都市伝説ではない。
偶然の一致にしては、出来すぎている。
そんな空気が、スタジオのみならず日本中を覆い尽くしていくのが分かる。
『さらに、番組では音声の専門家である日本音響研究所にも分析を依頼しました』
ナレーションと共に、白衣を着た所長らしき人物が登場する。
画面には複雑な声紋データが表示され、赤いラインや青い波形が点滅している。
『この音声ですが、AIによる合成音声である可能性は極めて低いですね。喉の緊張状態、腹圧のかかり方、語尾の空気の漏れ方。これは、極度のストレス下にある人間が、叫ぶように発した肉声であると断定できます』
科学による追撃。
「誰かのイタズラで作られた合成音声」という逃げ道すらも、完全に塞がれた。
俺は実在する。俺の声は本物だ。
そして、俺が唱えた言葉と、四〇〇人の死因は、オカルトと呼ぶにはあまりに奇妙にリンクしている。
『——とまあ、このように科学的な分析も出ているわけですが……』
司会者がまとめるように口を開く。
『もちろん、魔法なんてものが実在するとは考えにくい。ですが、何らかのテロリストが、犯行の合図としてこの言葉を使った、あるいは新型の兵器を使用した際のカモフラージュとして叫んだ、という可能性もゼロではないのかもしれません』
もっともらしい顔をして、司会者は締めくくった。
だが、そんなフォローは何の意味もなさなかった。
視聴者の記憶に残るのは、「テロ」や「兵器」といったありきたりな単語ではない。
「マハムドバリオン」というキャッチーな呪文と、「即死魔法」という衝撃的なキーワードだけだ。
俺は震える手でテレビの電源を切った。
画面が黒くなり、そこに映った自分の顔は、死人のように蒼白だった。
特定に関わる情報は出なかった。
名前も、住所も、顔写真も出ていない。
だが、これは包囲網の完成を意味していた。
ネットの一部オタクだけでなく、一般大衆までもが「魔法使い」という敵の存在を認識したのだ。
近所のコンビニに行けば、店員が俺の顔を見て「あの声に似てないか?」と思うかもしれない。
道ですれ違った小学生が、ふざけて「マハムドバリオン!」と叫び、俺がそれに過剰反応してしまったら?
「……ふざけんなよ」
乾いた笑いが漏れる。女神転生? ペルソナ?
大好きだったゲームの名前が、今は俺を絞首台へと導く死刑判決文のように聞こえる。
あんなに熱中してレベル上げをした記憶が、仲間と攻略法を語り合った楽しい思い出が、全て黒く塗り潰されていく。
俺は膝を抱え、薄暗いリビングの隅にうずくまった。
テレビの熱気だけが残る静寂の中で、俺はとてつもない孤独を感じていた。
この世界には、もう俺の居場所はない。
テレビの中の華やかな世界も、ネットの向こうの広大な世界も、すべてが俺を追い詰める敵意に満ちている。
俺に残されたのは、このアパートの一室と、制御不能な魔法の力だけ。
そして、その力さえもいつ暴発するか分からない爆弾だ。
ふと、視界の端でさっき氷漬けにして割ってしまったコップの破片がキラリと光った。
片付ける気力さえ起きない。
あれは、砕け散った俺の日常の墓標そのものだった。
※※※
会社から与えられた「特別休暇」という名の猶予期間は、まるで砂時計の砂が落ちるように、サラサラと、しかし確実に過ぎ去っていった。
最初の数日は、恐怖とパニックで一秒が一時間にも感じられた。だが、人間というのは恐ろしいもので、異常な状況にも奇妙な適応を見せる。恐怖が消えるわけではない。ただ、その恐怖が日常のBGMとして定着し、俺は薄暗い部屋の中でただひたすらに情報を摂取し続けるだけの受信機へと成り下がっていた。
カーテンを閉め切った部屋は、昼夜の区別すら曖昧だ。
食事はデリバリーで済ませ、配達員と顔を合わせないように「置き配」を指定する。トイレと風呂以外ではソファから動かず、光る長方形の画面——スマートフォンだけが、俺と世界を繋ぐ唯一のへその緒だった。
そのへその緒から送り込まれてくる栄養分は、毒以外の何物でもなかった。
指先一つで更新されるトレンド欄。
そこには、俺が引き起こした惨劇が、キャッチーな単語へと変換され、記号として消費される様が映し出されていた。
『トレンド:日本』
#渋谷スクランブル交差点集団即死事件
125,490件のツイート
#マハムドバリオン
89,200件のツイート
#魔法
240,000件のツイート
#即死魔法
56,000件のツイート
#女神転生
42,000件のツイート
画面を埋め尽くすハッシュタグの羅列。
それはまるで俺の罪状を並べ立てた起訴状のようでもあり、現代社会が生み出した悪趣味なネオンサインのようでもあった。
タップしてみると、そこには混沌が広がっていた。
『#渋谷スクランブル交差点集団即死事件』のタグでは、深刻な議論と、不謹慎なネタ画像が入り乱れている。
現場の花束の写真をアップして哀悼の意を示す者がいれば、倒れた人々のシルエットをTシャツのデザインにして販売しようとする不届き者もいる。
「政府の陰謀だ」「宇宙人の仕業だ」と叫ぶ陰謀論者たちと、それを冷笑する現実主義者たちの終わらないレスバトル。
四〇〇人の死は、ここでは単なる「話題の燃料」でしかなかった。
『#マハムドバリオン』のタグに至っては、もはや大喜利会場と化していた。
「会社に行きたくないから上司にマハムドバリオン唱えたい」
「満員電車でマハムドバリオンしたら座れるかな」
「俺の財布の中身がマハムドバリオンで即死してる件」
日常の些細な不満や自虐ネタに、俺が放った殺戮の呪文が添えられている。
——彼らは知らないのだ。
その言葉が、本当に人の命を奪ってしまった時の重みを。
画面の向こうで「w」を連打している彼らの指先が、もし俺と同じように「トリガー」になっていたらどうするつもりなのか。
無知とは、時に残酷なまでに罪深い。
そして、俺の胸を最も締め付けたのが、『#女神転生』や『#ペルソナ』といった、ゲームタイトルに関連するタグだった。
俺が愛したゲーム。
青春を費やし、世界観に没頭し、悪魔合体に熱中した、あの大切な作品群。
それが今、殺人事件の代名詞として語られている。
『このゲームやってる奴は予備軍』
『不謹慎だから発売中止にしろ』
『開発元は責任取ってコメント出せ』
『悪魔崇拝のゲームなんでしょ? 怖すぎ』
的外れな批判、偏見に満ちたバッシング。
一方で、ファンたちは必死に擁護している。
『ゲームと現実は違うだろ』
『作品に罪はない』
『ただのこじつけだ』
その通りだ。作品に罪はない。
悪いのは、その作品から言葉を借りて、現実世界で大量殺戮を行ってしまった俺だ。
俺という存在が、俺の大好きな世界を汚し、泥を塗り、社会的な制裁の対象へと引きずり込んでしまった。
「……すいません、本当に……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
誰もいない部屋で、俺はスマホに向かって謝罪した。
開発者に対して、ファンに対して、そしてゲームそのものに対して。だが、いくら謝ったところで、一度貼られたレッテルは剥がれない。
今後、このシリーズの新作が出るたびに、人々は思い出すだろう。「ああ、あの渋谷の事件の」と。
下手すると、シリーズの販売の自粛すらありえてしまう。
俺は、自分が愛した文化そのものに、消えない呪いをかけてしまったのだ。
テレビをつけても状況は同じだった。
ワイドショーのコメンテーターは、したり顔で語る。
『やはり、仮想空間と現実の区別がつかなくなっている現代人の病理と言えるのではないでしょうか』
ネットニュースの記者は書き立てる。
「”即死魔法”ブーム到来? 若者の間で流行する危険な遊び」
週刊誌の中吊り広告が踊る。
「渋谷の魔術師、その正体に迫る! 独占スクープ!」
メディアも、ネットも、こぞってこの「祭り」に参加している。真実などどうでもいい。
面白ければいい。数字が取れればいい。恐怖と好奇心を煽り、広告収入が得られればそれでいい。
その巨大なエンターテイメントの中心に、俺がいる。
顔も名前も明かされない、シルエットだけの「魔王」として。
俺はソファに深く沈み込み、天井を見上げた。
天井のシミが、人の顔に見える。
あの日、交差点で倒れた人々の顔に。
休暇はあと数日で終わる。
そうすれば、俺はまたあの「日常」に戻らなければならない。
何もなかった顔をして出社し、仕事をし、同僚と会話をする。
「怖いですよね、あの事件」なんて話を振られたら、「そうですね」と怯えたふりをして頷かなければならない。
——できるのか?
こんなにも世界中が俺を探し、俺を語り、俺を断罪しようとしている中で。俺の精神は、ハッシュタグの数だけ千切られ、拡散され、消費され尽くしていた。
自分の輪郭が溶けていくような感覚。
俺は「マハムドバリオンを唱えた男」という都市伝説の一部になり果てて、人間としての俺——ただの、小心者でゲーム好きなサラリーマン——は、もうどこにもいないような気がした。
指先が、また無意識に画面をスワイプする。
新しい投稿が流れてくる。
新しい憶測が生まれる。
その終わりのない濁流を眺めながら、俺は自分が唱えた魔法よりも、この情報社会という名の巨大な魔法陣の方が、よほど恐ろしく、そして逃れられない呪いなのだと思い知らされていた。
もう、俺には味方などいない。
俺はいつか秘密を暴かれる恐怖に怯えながら生涯を過ごすしかないのだ————
——ピロン。
静まり返った部屋に、軽快な通知音が鳴り響いた。
それは、俺が世界から孤立するために作り上げた結界——カーテンを閉め切り、情報を遮断しようとしていた薄暗い空間——を、容赦なく切り裂く音だった。
ビクリと体が跳ねる。
心臓が早鐘を打ち、喉が干上がる。
通知音の出どころは、手元のメインのアカウントではない。
テーブルの隅に放り出していた、古いサブ端末の方だった。
そこに入れているアカウントは一つしかない。
あの「狂信者の騎士」を遠ざけるためだけに作ったあの捨て垢、『@secret_guardian_only』だ。
(……誰だ?)
嫌な汗が背中を伝う。
あのアカウントを知っているのは、世界でたった一人、あの男だけだ。
だが、彼は俺の「命令」に従ってアカウントを削除し、去っていったはずだ。痕跡は消えたはずだ。
まさか、警察か? 運営か?
それとも——。
俺は恐る恐る端末を手に取り、画面を点灯させた。
ロック画面に表示された通知バナー。
差出人は、意味のない英数字の羅列で構成された、作成されたばかりの新規アカウント。アイコンは初期設定のグレーの人型のままだ。
そこに記されたメッセージは、あまりに短く、そしてあまりに重かった。
『私です、自分が被りましょうか』
呼吸が止まった。
「私です」。
名乗る必要すらないという、その確信に満ちた書き出し。
そして「自分が被りましょうか」という、文脈を極限まで省略した、しかし俺には痛いほど意味が通じてしまう提案。
——戻ってきたんだ。
あの男だ。
俺が『
彼は去っていなかった。いや、物理的には去ったのかもしれないが、精神的には片時も俺のそばを離れていなかったのだ。
ネットの海に潜り初期アイコンという透明マントを被り、じっと「主」である俺の動向を監視し続けていたのだ。
そして今、俺がSNSやテレビ報道で追い詰められ、魔法説という包囲網に晒されている窮地を察知し、最上級の忠誠心をもって救いの手を差し伸べてきた。
「被る、だって……?」
声が震えた。
その言葉の意味するところは、明白だった。
身代わりだ。
彼が、自ら大々的に「私が渋谷の事件の犯人です」と名乗り出るということだ。
もちろん、彼に魔法は使えない。
だが、今の世間が求めているのは「魔法使い」という真実ではない。「こいつが犯人だ」と納得できる、具体的な生贄だ。
彼が自首し、「自分が変な機械を使って音波攻撃をした」とか「毒ガスを撒いた」とか、あるいは「自分がマハムドバリオンと叫んだ張本人だ」と供述すればどうなる?
警察は飛びつくだろう。原因不明の事件に、一応の解決の糸口が見えるのだから。証拠がなくても、不能犯でも、何かしらの罪を課して見せしめにすることで鎮静を図るかもしれない。
マスコミは歓喜するだろう。格好のネタ、「異常な犯罪者」の顔と名前が手に入るのだから。
ネットの特定班たちは勝利宣言をするだろう。「やはり俺たちの睨んだ通りだった」と。
……そして遺族たちの怒りは、全て彼一人へと集中砲火される。
彼は、社会的に抹殺される。場合によっては、極刑もあり得るかもしれない。四〇〇人を殺したと自称するのだから。
彼はそれを理解した上で、「被りましょうか」と軽く言っているのだ。「雨が降ってきたから傘を貸しましょうか」くらいのテンションで、自分の人生そのものをドブに捨てようとしている。
「……あいつ、イカれてる」
スマホを持つ手が激しく震え、カチカチと端末がテーブルに当たる音がした。
——イカれさせたのは誰だ?
俺だ。俺の『
「守ってあげないと」というあの時の呟きは、ここまで及ぶものだったのか。
自己犠牲すら厭わない、盲目的で破壊的な愛。
俺は画面を見つめたまま、動けなかった。
吐き気がするほどの罪悪感。
だが、その罪悪感の泥沼の底から、どす黒く、甘い誘惑が泡となって浮き上がってくるのを、俺は否定できなかった。
(もし、頼んだら?)
悪魔が耳元で囁く。頼んでしまえよ。
『頼む』と一言送れば、全て終わるぞ。
彼は喜んで警察に行き、お前の身代わりになってくれる。
世間の目は彼に向き、お前は「可哀想な生存者」のまま、平和な日常に戻れる。
誰も傷つかない……いや、彼一人が犠牲になるだけで、お前は助かるんだ。
指先が、キーボードの上で迷う。
『
それを入力するだけで、この地獄から抜け出せる。
だが、それは人間としての最後の一線だ。
見ず知らずの他人を洗脳し、操り、あまつさえ自分の犯した大量殺人の罪を被せて死なせる。
そんなことをすれば、俺は魔法使いどころか、本物の悪魔だ。
——人の皮を被った外道だ。
「……う、ううっ……」
俺は呻き声を上げ、スマホを握りしめたまま、額をテーブルに押し付けた。
怖い。自分が怖い。
その一言を送ってしまいそうになる、自分の弱さと浅ましさが、何よりも恐ろしい。
DMの画面は、静かに俺の決断を待っている。
『私です、自分が被りましょうか』
その文字は、俺への救済の提案であると同時に、俺が人間でいられるかどうかの、残酷な踏み絵でもあった。
私は多分、頼んじゃいます……(弱い人間)