謎の一般通過強者面したい転生者と特異点幼女の勘違い戦線 作:蓋然性生存戦略
「思ったより似てますね。どうですか?」
「ん……かんぺき。わたしはいもーと」
クロマちゃんを家に連れ帰って数十分。
手持ちの道具でできることを可能な限りやり尽くし。
鏡の前には、歳の離れた姉妹と言っても違和感のない二人が映っていました。
我ながら良い仕事をしました。
ひとまず謎の人物であるためには変装技術は必須ですからね。
もちろん腕を磨きましたとも。
あと残していた幼少期の頃の服が役に立ちました。
コンテンツ的に幼児化も美味しいと思って取っておいてたんですよね。
過去の私、グッジョブ。
「ひとまず偽名も考えましょうか。クロマと呼んでいてはすぐバレますし。コヨイなど如何でしょう」
「ヤヨイおねーちゃんとにたひびき、わるくないとおもう」
「ではこれから私は貴女をコヨイと呼びます。というわけでコヨイ」
「ん」
「お腹は空いていませんか?」
「すいてる」
「では昼食にしましょう。少し待っててくださいね」
お腹を空かせているのなら、何か作ってさしあげましょう。
オムライスにでもしましょう。
「てつだう」
「……お皿とか、全部高い所にあるので……気持ちは嬉しいのですが……」
「……はやく、おおきくなりたい……!」
台とか無いんですよね、我が家。
もう必要ないものでしたし。
ああでも、幼児化を是とするのなら今度買っておきましょうか。
コヨイも使うでしょうしね。
それはそれとして、コヨイにホットミルクを差し出して待っててもらい、パパっとオムライスを作ります。
ケチャップライスは作るのが面倒くさいので塩コショウで味を付けたチャーハン風味のご飯ですが。
卵の方は良い感じにできたと自負しています。
「お待たせしました」
「いいにおい……それに、きれいないろ……」
「冷めないうちにどうぞ。ホットミルクのおかわりも出しておきますね」
「いただき、ます」
計算した絶妙な火加減のおかげで、アツアツすぎるということはないはず。
火傷することもないでしょう。
「おいしい!」
あまり動かない表情筋ですが、コヨイは笑うといっそう可愛らしいですね。
守護らねば、と思わされます。
そうでした、私はお姉ちゃんなのです。
という冗談はさておき。
「ところでコヨイ。あまり深くは聞きませんが、どうしたいですか?」
「ん……」
「正直なところ、コヨイが何故私に助けを求めたのか、なにから助けて欲しいのか、分かりません」
「うん」
「分からないので手あたり次第ボコボコにしようと思います」
「なんで?」
いやだって、ヒーローもヴィランも信用ならないというのなら殴るしか無いじゃないですか。
これは立派な自助努力ですよ。
そもそもの話として、常人と異なる感覚を有する人間が、わざわざ私を選んでいる時点で、現場はともかく上はヒーローも信用ならないということで。
「ヴィランから身を隠したい、ヒーローも信用できない」
「うん」
「であれば、自分の生存権を確保するために殴るしかないんです」
「こわい」
「良いですか、こんな格言があります」
「ぜったいろくなものじゃない」
「『やはり暴力、暴力は全てを解決する』です」
「だめかも」
私は一般通過一般人なので、法で守られています。
ですが、この子たぶん戸籍も何もないので法律で守られない可能性が高くてですね。
そうなると暴力に対して暴力しか無くて……。
「あながち冗談でもなくてですね」
「……このくには、まもってくれない」
「恐らくは」
「……わたしのおかあさんも、まもってくれなかった」
「それでも私に賭けたのでしょう?ならば私はそれに応えましょう。私はお姉ちゃんですから」
私は難しいことは考えません。
意味がありませんから。
重要なのはたった一つの二者択一。
コヨイを守るか、見捨てるかです。
私は守ることにしました。
だって、そっちの方がドラマチックで素敵でしょう?
麻薬カルテル違法実験摘発から一か月。
ヒーローもヴィランも黒幕も、捜索の手が進まないまま、月日が経ちました。
いや、正確には《ノクトレス》の目撃情報自体はありますけどね。
ただ、私が強いというだけの話で。
ヒーローもヴィランも関係なく一蹴し、ヒーローには意味深な言葉を残して去っていく。
そんなロールプレイが捗りました。
ちなみにその間、親は一度も帰ってきていません。
あの人達、ひと月も家に帰らず娘を放っておいて何してるんでしょうね、よく分かりません。
おかげで自由にしていますが。
コヨイが可愛くて仕方ありません。
しかも賢い。
最強ですね。
「毎日が楽しいですねぇ……」
「たのしいんだ……」
「私の欲求がずっと満たされ続けてますからね」
「まあ、ひーろーも、うたがわれてるから、いいんだけど」
「『この薄氷の秩序に意味はあるのか』。我ながらいいセリフでした……」
「もうおねーちゃんだけでいいんじゃないかな」
まあ、とはいえ、です。
そろそろ主力と呼ばれる方が来てもおかしくはないなと。
一か所で活動しているわけではないのでかち合う可能性は低いとは思いますが。
ぶっちゃけ私、最強格である自負はありますが、胸を張って最強とは言えませんし。
《ガーディアンズ》の現最強が出てきたらちょっと分かりません。
相性悪いんですよね……圧倒的フィジカルってやっぱりシンプルに最強なんですよ。
どんなに強い能力を持っていても、反応する前に右ストレートで殴られたら負けるんです。
遍く世界で通用する真理です。
「そういえばおねーちゃん」
「なんですかコヨイ」
「おねーちゃんは、わたしのいのう、きにならないの?」
「気になりますが、気にしても意味がないので聞かないだけです」
「そうなの……?」
気にならないと言えば嘘になりますが。
私の美学と矜持の問題で聞かないだけですし。
推定ではありますが、視覚に影響を及ぼし、恐らく嘘などをある程度見分けることができ、なおかつ相手の善悪もある程度区別ができる能力である、ということは把握できていますし。
「私にとって重要な情報はたったひとつだけなんですよ、コヨイ。今展開されている
「……わたし、だね」
「そうです。勝利条件はコヨイの所在。であれば私の勝利条件はコヨイの防衛であり、それをクリアするのにコヨイの能力を詳しく知る必要はありません。護衛対象の能力に頼るのは三流以下ですし」
「それで、しょうりつがあがるとしても?」
「んー……悩みどころではありますが」
なんですか、頼って欲しいんですか?
可愛いですね。
ですがまあ……火遊びは危ないですからね。
「さて、今日も出かけます。留守を頼みましたよ」
「ん……いってらっしゃい」
私の火遊びで可愛い妹(仮)が救えるというのなら、気合を入れますとも。
《ノクトレス》。
並のヒーロー単体では鎧袖一触とされる、強力な中立存在。
現状、捕縛しようとすれば撃退されるだけで、ヒーローや民間には被害が出ておらず、むしろ目につくヴィランを鎮圧しているため、ヴィジランテと分類される。
ただし、その戦闘力の高さから《ガーディアンズ》上層部からは危険視され、《ノクトレス》が出現する夜間は4名以上のヒーローでチームを組んで《ノクトレス》捕縛に動くよう、命令が下された。
とはいえ、だ。
一度現場で彼女に遭遇したヒーローは、彼女から余裕を奪うということの意味を理解していた。
余裕があったから被害が出ていないだけ。
彼女から余裕を奪えば、余計な被害が出るだけだと。
ヒーローとして戦うことを是として育ったならば、見ればわかる。
異能の扱いは、確かに上手い。
だが、その身のこなしは、決して訓練された人間のソレではない。
むしろ平均的な一般人のそれである。
彼女自身もそれが分かっているから、有利を押し付けるようにして戦い、長時間の戦闘は避け、すぐに姿を晦ませていく。
故に。
今日この日、そうなるのは必然だった。
「おや。なるほど、私を釣り出すためでしたか」
彼女は、《ノクトレス》は闇から突如として現れる。
遭遇できるかは運だ。
だが、彼女を引き寄せられる例外がある。
それは、ヴィランとヒーローの戦闘である。
彼女は積極的にヴィランとヒーローの戦闘に赴き、必要であればヴィラン退治に加担する。
ならばそれを逆手に取れば良い。
そう考えたチームがあった。
結果として、そのチームは全治数か月の大怪我を負うことになる。
ヴィラン役とヒーロー役、そして隠れて待機するチームメイト。
それが、彼らの敷いた布陣であり、最適解にして最大の過ち。
《ノクトレス》が出現した瞬間、そのチームは見事な連携で捕縛に移った。
1秒にも満たない、迅速かつ的確な行動だった。
「ふふ、見事です。釣られてしまいました」
異能封じの枷を取り付けられ、新たに異能を発動できない状態であっという間に拘束された《ノクトレス》。
しかし、彼女から焦りは見えない。
「手荒な真似になったが、同行してもらう」
「それはそれは……困りました。幼子も怯える秩序に、信頼は置けませんので。恐ろしくていけませんよ」
「何が言いたい」
「枝葉が健全でも、根が腐っていては意味がないということですよ」
故に警戒した。
それはあまりにも遅きに失したが、しかしそれでもマシだった。
下手をすれば、死が待っていたのだから。
「申し訳ありませんが、家で待っている家族がいますので、少々本気を出させていただきますね」
『彼方より、涙がひとつ、舞い落ちる』
彼女がそう呟いた瞬間。
辺り一帯は、暗闇に……否。
夜そのものに包まれた。
都市部を彩る照明は見当たらない。
明かりとなるのは、夜空を彩る月星の輝きだけ。
異能封じの枷は、きちんと機能している。
ならばこれは、彼女の異能によって動いているわけではない。
「蹂躙なさい、《
夜は瞬く間に蠢き、《ノクトレス》を抑えていた全てを薙ぎ払った。
枷も、ヒーローも、何もかも。
その中で、何が起きたか、理解できたものはいない。
ただ、ただ夜が蠢いた。
そう表現するしかない。
「重ねて申し訳ありませんが、あまり手加減は得意ではありませんので、お怪我をされたのなら謝罪しておきます。それはそれとして、お暇させていただきますね。どうにもはしゃぎ過ぎたようなので」
そう言葉を残して、彼女は闇に消えた。
これを機に、《ノクトレス》は正式にヴィランとして指定されることになる。
だが、彼女が蒔いた種は、刈り取ることは間に合わず、すくすくと育った。
疑念。
今の《ガーディアンズ》上層部は信用ならぬという、流言。
それは現場のヒーローと民間に瞬く間に広がっていき、小さく、しかし確かな波紋となって影響を及ぼしていた。
尤も、当の本人はそこまで深く考えていないのだが。
「驚きましたね。まさか戦闘がヤラセで私を釣り出すための罠とは」
「……おねーちゃん」
「分かっていますよ。いやはや、ヒーローというものを過大評価していました。しょうもない手を使うものです」
「しばらく、じっとしてたら?」
「それもそうですね。流石に疲れました……流石は本職、捕縛行動に淀みがありません」
しばらくはお休みします。
コヨイを愛でて英気を養うのです。
好きで趣味でやっていますが、それはそれとして疲れるのは疲れるんです。
怖かったです……。