D/N/A   作:アイホート

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 徐々に主人公の姿が明らかになります。
 では、いってみましょう。


爪牙

 破壊者と幼獣。

 地を蹴った両者は、肉薄すると同時に互いの武器を振り下ろした。

 空気が裂かれ、鳴き上げる。

 瞬間、爪撃がぶつかり合う。

 ギャリギャリと甲高い衝突音が鋭く響き渡った。

 

 ─────初撃の打ち合いにて早くも信じ難い事が起きた。

 ジャガーノートの俊脚と破爪から繰り出される紫紺の斬撃。

 この破壊者に備わった最大の凶器である。

 色こそ宝石のようであるが、形状は禍々しく研ぎ上げられている。

 これぞ破壊の爪、すなわち「破爪」である。

 何人もこの爪の斬撃を受けてはならない。

 これを受けることは寸断と絶死を意味する。

 それが人間であろうと、怪物であろうと。

 しかし─────彼は受け止めた。

 絶死の破爪を正面から止めてみせたのだ。

 

 だが、両者はその事実に大した感動などなかった。

 一方は今の打ち合いから、彼我の能力差を分析しつつ次の手を観察する。

 もう一方は二撃目を敵の肩部目掛けて振り下ろそうとする。

 

 そうして先手を取ったのは彼だった。

 膂力と重量のどちらでも勝る彼は敵の二撃目よりも先に、接触した腕部の力でジャガーノートを押し飛ばした。

 片方の破爪が空を切り、ジャガーノートは後方へと飛ばされていく。

 彼は片目でそれを見つつ、もう片方の目をぐるりと回転させる。

 視界に収めるのは側方、続いて背後。

 襲い来るのは三つの爪撃。

 しかし、彼の両腕と尾はそれらを迎え撃つべくすでに動いていた。

 着撃位置を違える事なく、三つの衝撃音が重なる。

 

 

 

 

 

 それが意味するのは即ち─────新たな三体のジャガーノートである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地の底にて起こった、間髪を許さぬ異常事態の連発。

 これを感知し、老神は弾かれたように立ち上がった。

 元よりこの事態に気づけたのはこの老神のみ。

 どの有力派閥でも遭遇することのなかった異常事態は、すぐさま私兵へと伝えられる。

 しかし、内情が内情ゆえに有効策などない。

 そんな中で老神とその私兵は対応ないし隠蔽を余儀なくされることとなるのだが、今ここで語ることではない。

 

 

 

 

 

 そして場所を戻すと、激化する戦場がある。

 

 紫紺の破爪が雨のように彼へ降り注ぐ。

 さらには押し飛ばされた一体目のジャガーノートが彼目掛けて突進してきた。

 先ほどは遅れを取ったが、二度はない。

 意趣返しとばかりに突き出される破爪。

 対する当の彼は、三方向から襲い来るジャガーノートの攻撃を弾くために駆動している。

 

 ─────三体の攻撃を防ぐので手一杯。

 

 同族たちの猛攻に晒される彼を見て、ジャガーノートはそう結論づけた。

 距離を詰めるごとに毒々しい殺意が膨らみ、瞳が紅く輝く。

 破爪の切先が眼前へと迫る。

 

 一方、三体のジャガーノートは苛立ちを募らせていた。

 破爪を振るえども防がれる。

 尾を振るえども止められる。

 ありとあらゆる角度から紫紺の斬線を描くも、どれ一つとして敵を傷つけることはできずにいた。

 その理由は至って単純。

 敵の防御が堅牢に過ぎた。

 身を覆う皮骨板と巨爪で狙い違わず破爪を迎撃してくる。

 弾かれ、いなされ、逸らされる。

 必殺となるはずの爪撃が届かない。

 血の一滴さえこぼれず、苛酷を強いられる声も聞こえない。

 だが、それもここまでだと破壊者たちは断じた。

 敵の真正面へ同族が突進している。

 もう逃げることも出来まい。

 殺意に塗れた凶撃が彼の眼前に躍り出た。

 

 四方を取り囲まれた彼は、前方から突進してくるジャガーノートを片目で見据える。

 速い。

 しかし見えている。

 直線攻撃だ、今さら向こうも逸らせまい。

 先ほどの一撃を放つか?

 いや、考えたいことも確かめたいこともある、惜しい。

 ならば─────

 

 迫り来る破爪は彼の頭部へと紫線を描く。

 四体の破壊者の眼がその瞬間を映す。

 

 すると。

 突如彼の顎が開き─────破爪を噛み捉えた。

 不揃いの牙がぎりぎりと鳴る。

 ついに破壊者たちの目が驚愕に染まった。

 

 動揺による一瞬の静止が生じる。

 しかし、彼だけは止まらなかった。

 絶好の潮を逃すことなく、彼の牙が威勢を増した。

 抵抗など許さぬとばかりに、ジャガーノートが誇る最強の武装を噛み砕き、飲み込む。

 さらに身を翻すように回転させ、その勢いのままジャガーノートたちの頭を、肩を、胴を、顎を拳撃と蹴撃で打ち抜き、吹き飛ばした。

 

 しかし、その程度で片付くジャガーノートではない。

 それぞれ腕や下半身を失い、果ては頭部まで欠損したものもいたが、四体全て健在だった。

 というより、死ぬことができなかった。

 この時の彼は当然知らぬことであるが、元来ジャガーノートとは使い捨て同然の兵器である。

 基本、存在する限り外敵を殺しにかかるが、言い換えれば殺すことしかしない。

 食事をするでもなく、強化を図るでもなく、全身が朽ちるまで殺し続けるのだ。

 そして彼と対峙する四体も同じだった。

 つまり戦闘はまだ終わらないのである。

 跳躍するジャガーノートたち。

 殺意を滾らせ、自らに残された暴威を余さず叩きつけようとする。

 

 ここで彼は、思考を分割した。

 一つ目はジャガーノートたちの対処に。

 二つ目はジャガーノートたちが纏う紫紺の殻への推量に。

 三つ目はジャガーノートが現れた原因の推量である。

 ─────頭部が欠けたもの、片腕が欠けたもの、下顎が欠けたもの、下半身が欠けたもの。さて、手負いの彼らは最早先ほどの力も出せていない。しかし依然敵だというのならば迎え撃つまでだ。ああも欠損して動けるとなれば、全身を破壊する必要があると考えていいだろう。彼らは周囲を跳び回って隙を窺っている。ならばいっそ撒き餌を─────

 

 ─────彼らが纏う殻は一体何であろうか?戦ってはみたものの、用途が見えてこない。打撃で苦も無く壊れたことから、耐久を補うわけでもないようだ。それとも、装甲としての耐久限界をあの一撃で超過しただけのことだろうか?いや、そうだったとしても用途がそれだけとはどうしても思えない。しかし、それを突き止める術が今の自分にあるという感覚もない─────

 

 ─────最初は単なる敵の後続かと思ったが、違う。これまでに見たどの敵にも、もちろん自分の姿とも似ない。偶然遭遇しなかっただけか?違う。あの姿、あの現れ方、違和感が拭えない。何か理由があるはずだ。彼らも自分も総じてこの世界が産んでいる。何かのきっかけで特別に産んだのか?さあ、元よりこの場での推量に過ぎないのだから、より飛躍させてみよう。そう、自らが起こしたことが原因と仮定してみろ。自分はこの世界の一部を焼いた。地形が大きく変わるほどに。それをこの世界は重く見たということは考えられないか?それでは彼らは自分を討つために─────

 

 頭を回し、彼は三つ同時にひとまずの結論を出す。

 手負いのジャガーノートたちが再び彼に襲い掛かったのは、その直後だった。

 

 四体のジャガーノートの破爪は、今度こそ彼に叩き込まれた。

 巨体である彼の死角と思しき背後。

 今度は間違いない。

 ジャガーノートたちは彼の背後を一斉に狙い、直撃。

 跳躍の勢いが残ったか、ジャガーノートたちの体がまだ宙に浮かんでいる。

 手負いの破壊者たちの渾身だった。

 

 だが、その瞬間。

 彼の背中で列を成している、剣竜にも似た突起が突如うねりながら伸び出す。

 即ち、突起が触手に変貌を遂げたのだ。

 そして、ジャガーノートたちは依然空中にいた。

 機動力に優れる彼らといえど、飛行能力があるわけではない。

 さらには破爪で迎撃しようとしても、できなかった。

 これも理由は単純。

 その触手は伸縮から拘束に至るまで、機敏に過ぎたのだ。

 ジャガーノートすら成す術のない速さは、もはや筆舌に尽くし難かった。

 そのままジャガーノートたちは触手で雁字搦めになったが、彼の攻撃はここからだった。

 

 ─────がふぁッ。

 

 彼の口が開いた。

 それも口だけにとどまらない。

 顎に続いて首までもが裂けるように不気味に開く。

 「変形」が始まった。

 ジャガーノートの赤眼に彼の異形の口腔が映る。

 舌が退化して見えなくなり、次々と牙が生え、迫り上がってくる。

 それはもはや動物の歯列と呼べるものではなく、歪な剣山と化していた。

 大きさの不揃いな牙が無数に生え並ぶ剣山が、口蓋や口底にも及んでいる。

 彼は常軌を逸したその大口へジャガーノートたちを一気に押し込み、バキリバキリと音を立てて咀嚼した。

 一体、また一体と。

 技ですらない、淡々とした捕食。

 攻撃と言うべきか、単なる食事か。

 そこに悦楽はなく、後悔もまたない。

 やがて、破壊者の残骸がずるりと彼の体内に取り込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや周囲に漿液を抱えた亀裂はなかった。

 つまり、新手の破壊者の兆しもなくなった。

 世界が少しずつ修復を始めているのを視界に収め、彼は再び歩き出した。

 

 カタカタカタと、顫動音が響いていく。




 そろそろ彼の全貌を露わにしたいところ。

 では、また次回。
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