イナズマイレブンNC -零から壱へ- 作:イナズマペンギン
1-1.大宣言
腐れ親父の無茶振り命令から翌日。
俺は自身の通う中学校『北條学園』の屋上にて放課後を過ごしていた。
無論、ただ過ごしているだけではない。
昨日出された命令に対しどうするのか考えるためだ。
俺は深くため息をついて、机を挟んで反対側に座る女子に向けて文句を吐き捨てる。
「クソ……あのイカれ親父、遂にボケやがったか?」
「志堂様、そのような言い方をなされては泣かれてしまいますよ」
「あの血も涙もない男が泣くと思うか?」
はぁ、と再度深いため息をつく。
俺の目の前に座る女子こと、
「……何しているんだ?」
「サッカー部を設立なさると聞いたので、サッカー部に加入してくれそうな生徒を纏めておりました」
「そ、そうか。助かるのは助かるんだが、それ終わるのか……?」
「まぁ、これが私の役目ですから」
彼女、天峰 示夜はいわゆる俺の秘書という奴である。
と言っても親父が同年代で能力の高い奴を勝手付けてきた、って話なのだが。
いらない、と言って聞くような男ではないので、仕方なく連れ回している。
まぁ、やつが選んだだけのことはあり、やはりそんじょそこらの中学生と比べても能力は遥かに高い。
だからサッカーができそうなものだが──
「やはりサッカーはやらないのか?」
「はい、私は……──
やれないのではなく、やりませんと来ている。
それが何を意味するのか、俺にはわからないがやらないと言っている以上は深くは追求するまいと、選択肢から除外している。
そもそもこの学園ならば、彼女以外の選択肢も潤沢にあるから問題はない……はずだ。
『北條学園』。
中四国、最大級の私立中学。
世間からはマンモス校と呼ばれるほどの大きさであり、近くに獅子谷中というサッカー大国があること、そしてサッカー部が存在しないことを除けば、それ以外はこれといって変哲のない普通の中学校だ。
ちなみに設立には俺の先祖──条院家が携わっているらしいが、真偽の程はわかっていない。
ともかく。
人の多さに関しては中四国で確実に一番だということ。
「……今の時点で目星のつけた生徒は何人ほどいる?」
「過去の経歴から大雑把に絞り込んだところ、まずサッカー経験者が36人ほどでした」
ふと、勝手に個人情報を漁っているのはいいのだろうか、と思ったが、今の俺に手段を選んでいる余裕はない。
この際、個人情報を勝手に見ていることは置いておくとしよう。
「生徒数1000人を超えていて、経験者たったの36……」
「しかも全員が消極的、はっきり言って経験者から集めるのは不可能と言えます」
「消極的ってのは……もう見に行ったのか」
「はい。ですので経験者には見切りをつけ、それ以外の生徒からなんとかなりそうな生徒を纏めていま──」
と言ったところで示夜の手が止まる。
じっ、と画面を見つめる彼女は少々の思考の後、その手に持っていタブレットの画面をこちらに差し出す。
「どうした、急に」
「経験者の中で一人、可能性がある生徒を見つけました」
「本当か!?」
タブレットの画面に表示されたその情報を視線を向ける。
貼られた写真は亜麻色の髪を束ねた少女を写していた。
少し気弱そうな様子が写真から見て取れる。
名前は……
小学生の頃はサッカーのスポーツクラブに入っていた、と書かれている。
ここまで調べ上げた事に関しては、流石だと言わざるを得ないだろう。
俺はタブレットの画面をスクロールしながら、示夜の調べ上げた情報へと目を通す。
「一年生か」
「私たちの一個下ですから、勧誘もやりやすいほうかと」
「勧誘……勧誘か……」
ほんの少し『勧誘』という言葉に思考を巡らす。
サッカー未経験の俺がいきなり、サッカーやろうぜ、とか言い出してもただの不審者でしかない。
理詰めで行くか、金に任せるか。
どのような手段を取るべきか、と考えていたところに一つ、気になることが頭に浮かんだ。
「そもそも何故、彼女なんだ?」
「と、言いますと?」
「可能性がある、って言っていただろう。何故彼女に目をつけた?」
「……放課後、彼女が校舎裏でサッカーボールを蹴ってある様子が数日間に渡って確認されています」
「辞めはしたが、まだ未練があると?」
「少なくとも私はそのように考えています」
未練がある、か。
実際のところはどうなのか、俺からはわかりやしないが話してみる価値はありそうだ。
と、なれば。
「……フットボールフロンティアは何月からだ?」
「いわゆる春季大会ですので、6月辺り……まぁ、一ヶ月あるかないか、と言ったところですね」
「……時間ねぇな、あのクソ親父」
少し唸りながら考え込んだが、もはやその時間すらもったいなく感じ始めていた俺はタブレットを机に置き立ち上がる。
当たって砕けろ、こうなればヤケだ。
「取り敢えず、示夜はサッカー部設立の申請書を頼む。俺はこいつの勧誘へ向かう」
「しかし、どのように勧誘を?」
「ぶっつけ本番だ。取り敢えず呼び出すさ」
「と、言うわけでだな」
「ど、ど、どういうわけですかぁ!?」
やると決めてからの動きは早かった。
まず無断で放送室に入り込んだ俺は、来宮 楯香を屋上へと呼び出した。
放課後になってすぐだったということもあり、まだ帰っておらずおどおどとした姿勢で彼女は屋上へとやってきた。
……が、当然、方法が方法だったがために、野次馬がそれなりの数集まってしまっていた。
『もしかして告白?』『決闘とか』『でもあの条院くんだよ?』
などと言った周囲の声が煩わしく感じる。
しかしさっきも言った通りそんな事を気にしている余裕は、今の俺には存在していない。
多少強引だろうが、無茶だろうが、やるしかない。
「来宮 楯香」
「ひゃ、ひゃい!?」
「サッカーをやるぞ」
「へぁ……?」
突然の俺の言葉に意表を突かれたのか、気の抜けたような返事と共に周囲の野次馬の声が騒がしくなる。
まぁ、いきなりサッカーをやるぞとか、冷静に考えて気が触れたとしか思えないだろう。
周りの声はうるさいが、俺は彼女に向けて──咄嗟に、それだけでは足りない、という思考に行き着いた。
そこで俺は深く息を吸い込み右腕を高く掲げると、
「俺は今日ッ!! サッカー部設立を宣言するッッ!!!」
俺の声に周囲の野次馬は静まり帰り、来宮 楯香は呆然として俺を見上げた。
「今年中にフットボールフロンティアに出場を果たし! 日本一を奪い取る!!! これは目標ではない!
日本一を取るという宣言に、周囲は再度ざわめき出す。
時折笑い声やヤジのよう声が漏れ聞こえるが、もはやそんなものはどうでもいい。
今、必要なものは一つ。
俺の宣言に耳を傾ける
「笑いたいやつは笑えばいいッ! だが、現状に思い悩む者! 不満を持つ者! 変えたい者! そして俺と共に日本一を取りたい奴は……俺のところに来いッ!!!」
ふぅ、と深く息を吐き、ざわめきの止まらない周囲を無視して目の前の尻餅をついている少女に視線を向ける。
一瞬、目線が合うが、少し怯えた様子で体を震わせ視線をそらす。
そんな彼女に対し俺は容赦なく手を差し出す。
「と、言うわけでだな。サッカー、するぞ」
「や、や、やりませんけどぉ!?」
と言って慌てて立ち上がると、顔を真っ赤に染めながら急いで走り去ってしまったのだった。