ディストピア・サイバーシティに転生した   作:イッツ

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 夜空に煌めく摩天楼。空を飛ぶ車。電波を飛ばし続けるコード。こちらを覗く監視用カメラ。

 旧アメリカ合衆国ワシントン──今はやけにサイケな夜の街並みを、俺は上司と同僚と歩いていた。

 

「ひゃあっ! ちょうどいい所に(ポイント)を持ってそうな奴らがいるじゃねえかあっ」

「"あからさまな不良だ……"」

()()()、あのヒューマンは私が対処いたします」

 

 チェリーレッドの髪を揺らして、同僚の女の子──コードネーム:アントワネットがやけにメカニックな警棒を構えた。完全にやる気である。勿論ダブルミーニングという意味で。

 それを上司である指揮官が止めた。指揮官の顔はガイ・フォークスの仮面で見えないから、不良からすれば不審者に他ならないだろう。

 

「"ダメだよマリー。ドイルさんも峰打ちで"」

「あれ? これオジサンも戦う流れなんですかね?」

「"うん。峰打ちでね"」

「オジサンに無茶を言うなあ……」

 

 痺れを切らしヒャッハーと襲いかかってくる不良を、俺、コードネーム:コナンが足をひっかけ転ばせる。

 格闘技の心得はないのか転びかけた不良くんに膝十字固めキメて、俺はデカい声を出した。この歳になるとデカイ声出すだけでも疲れるのだが、今回はしょうがない。

 

「投降せよ! こちらは信用委員会により武装を許可された組織である」

「──繰り返す、こちらは信用委員会により、攻撃を許可された組織である。我等はそちらの攻撃に正当防衛が許可されている。直ちに投降せよ」

 

 アントワネットが俺のセリフを奪い、警棒を不良の首に当てる。

 

「信用委員会、ってことはアンタら……!」

「"ああ、我らは治安維持特別局 S・Y・Sである……なんてね"」

「指揮官くん、オジサンいつまでこれしてればいいの〜?」

「"とりあえず拘束しましょうか"」

「指揮官、コナンのショルダーに電子手錠が入っております」

 

 アントワネットが勝手に指揮官に報告し、それを聞いて指揮官くんは俺の腰のショルダーを勝手にまさぐった。いくら上司とはいえ問答無用は酷くないかという俺の愚痴は無視されたが、不良は無事に赤いラインの光る合金製手錠でお縄である。

 

「はあ、よいしょっと。いい歳の大人に格闘技とか酷じゃないかなあ」

「"ドイルさんは優秀ですし……"」

「それ言ってればオジサンがノッてくれるって思ってるだろ」

「"わはは"」

「わははじゃない。まあ、これを貰える分には働きますがね」

 

 親指と人差し指でジェスチャーしながら、俺は顔の見えない指揮官と眼福な美少女を斜め後ろで見た。

 

 ──いや絶対こいつらソシャゲ主人公とヒロインだよなあ……

 

 明らかにそうだろう。顔の分からない指揮能力に優れた戦闘能力皆無の主人公と喧嘩っ早い赤髪巨乳美少女ヒロイン。二人で手とり足とり戦いながら、サイバー犯罪者をとっちめる。

 俺は生憎そのゲームをご存知じゃないが、前世で似たようなソーシャルゲームならプレイしたことがある。そのオタクとしての経験が、俺の認識を支えていた。

 

「指揮官、談笑中失礼します。あの不良の始末について、指示を求めます」

「"うーん、後は治安維持警察に任せた方がいいんじゃないかな"」

「これはあくまで私の個人的な意見ですが、あの男は組織の要である指揮官を狙う暗殺者の可能性があると考えます」

「"つまり?"」

「つまり、」

 

 横が熱いなと横を見ると、彼女は松明のように火を噴く警棒を掲げていた。それに俺と不良が甲高い悲鳴を上げたのは言うまでもない。

 

「燃やすべきです」

「"ダメだよ?"」

「ちょ、ちょっと一旦落ち着きなよ。それを置いてドリンクでも飲もう? ね?」

「しかし……暗殺者ならば殺さねば増援を呼ぶかもしれません。」

「アントワネットちゃんが治安維持警察に逮捕されちゃうからやめた方がいいとオジサン思うなあ! あとそれ置ける?」

「ああ、それならば大丈夫です」

 

 ムフーと何故か胸を張りながら、アントワネットは火の勢いを強めた。

 

「S・Y・Sには不逮捕特権があります」

「「うわあああ!!」」

「"うわあああ!!"」

「……不良はともかく、お二人は何故叫んでおられるので?」

「"目の前で部下が人燃やそうとしてたら叫ぶに決まってるでしょ!"」

 

 指揮官くんの発言にインコのように頷いて、俺は不良の首根っこを掴みながら腕の端末でお巡りさんに通報した。指揮官には勝手な行動して申し訳ないが、流石に警察に任せるべきだ。

 そんで何やら火種を持って自由の女神のようにポーズを取りだした彼女の注意が他所に向いているうちに、俺は指揮官に囁きかける

 

「……指揮官くん、オジサン通報しておいたから」

「"……ありがとうございます"」

「大変だとは思うけど、部下の手網握るのも指揮官の仕事だぜ」

「"ええはい、本当、それはしみじみ思いますよ"」

 

 若いのに大変だとは思うが、彼は戦闘力だけ常人越えの連中を束ねなきゃいけない捕物ソシャゲの主人公くんなのだからこれくらいはジャブと思ってくれねばならない。

 ──勿論俺もサポートするが、本部に数人しかいない今のうちから絶叫しているのはまずいような気がするなあ……。

 

 ヘリコプターのような独特な音がして上を見ると、お巡りさんが綱を掴んで降りてきていた。SF的な空を飛ぶ警察車両に乗ってきたお巡りさんは、冷や汗をかいて目をかっぴらいて俺の方へ走ってくる。

 

「人が燃やされる寸前との通報がありました!」

「あーうん。まあ間違ってない。この不良くんがワタシ達に殴りかかってきたんですけど、同僚がちょっとヒートアップしちゃってて」

 

 合衆国にありそうな銅像のポーズをとるアントワネットに、お巡りさんは明らかに動揺していた。

 

「し、失礼ながら、あなた方は」

「治安維持特別局のものです」

「あ、あの蛮族の!」

「あの蛮族の!?」

 

 仰天して叫ぶと、お巡りさんと指揮官は冷や汗をかいていた。二人の冷や汗はたぶん別種のものだと思う。というかどうやって仮面の上から汗かいてるんだ。

 それよりも。蛮族って何だ。差別か? 差別なのか?

 

「し、失礼。」

「"これで本当に失礼なことってあるんだ"」

「ゴホン、大変失礼致しました。それで、その男が犯人ですね?」

 

 肯定すると、お巡りさんはいつの間にか泡を吹いていた男の顔を光学スキャンした。淡く光っていた端末が赤く染まり、ビーッと警告音が鳴る。

 あれは警察専用のスキャン装置であり、この世界中の人間の顔や指紋が登録されていて、そこからその個人が犯罪者かとかなんとか調べられる優れものだと同僚の技術者が話していた……はずである。

 

「"どうですか?"」

「ええ、ああ……サイバー犯罪者です。住居侵入を繰り返す泥棒ですね。確保の協力、感謝いたします」

 

 丁寧に敬礼をしたあと、お巡りさんは何故か逃げるように犯人の首根っこを掴んで去っていった。

 何故だろうかは、考えたくない。

 

 タイミングを見計らったように指揮官の腕の端末のホログラムが起動した。

 

「ヘイガイズ。元気してる?」

「何だ、石燕(セキエン)か」

「何だとは何だ、ドイル!」

 

 軽いツッコミに俺は気を抜いた。いつものオカルティスト・鳥山石燕である。

 石燕はホログラム越しにタイトなスーツに包まれた豊満なボインを見せつけながら、切り替えるように咳払いした。ホログラムが二つに増え、石燕のド派手な紫髪に重なるように黒いコートを着たサングラスの男の写真が映る。

 

「ヘイ、指揮官クン! 新手の犯罪者が旧ニューヨーク方面に現れた。しかもマヌケなことに、監視カメラにも映っている。是非こいつを引っ捕えるために向かってくれたまえ。」

「"この男が犯罪者ですか"」

「ああ。ハンドルネームはチャールズ。恐らくはチャールズ・チャップリンから取っているのだろう。チンケな思想犯だよ」

 

 分かりやすく口髭を生やしたジェルトルメンって感じの、正しくエセチャップリンくんはどうやら監視カメラ……いや、お巡りさんの巡回監視ドローンに写っちゃったようである。

 思想犯がそんな凡ミスするなよとも思うが、まあそこも含めての"チンケな思想犯"なのだろう。

 

「こいつをしょっぴく罪状は信用委員会へのテロリズムだ。文字通り、今まで何度も各地を爆破してきている」

「テロリズムってそんな意味だったかなあ石燕」

「まあ聞けドイル! こいつは"信用委員会の現体制に文句を言っていた"ことが"確認"されている。そいつが爆破行為を繰り返したんだ、これは信用委員会に対するテロリズムである──のさ」

「なるほど、だから思想犯。いやー怖いねえ」

 

 爆破なんて行為を繰り返すヤツも、そいつの言動一つで罪状を盛れるディストピアの権力も。まあ粛清(ZAP)が怖いので明言はしないが。

 

「フン、変な親爺が口を挟んだようだが続けるぞ。こいつは今、偶然自身を目撃した女性を誘拐している。つまりだ、指揮官クン。絶対に人質に傷を付けるな。いいね」

「"はい"」

 

 それじゃあなんて言って、石燕はプツリと接続を切ってしまった。それはいい。あいつがだらだら喋るたちでは無いのはまあ知っている。しかしだ。

 ──今のは命令としてはおかしくないか?

 

「"行きましょう"」

「イエス、サー」

「行こうか」

 

 あいつは人質を救助しろとは言わなかった。なのに人質に傷を付けるな、か。

 それにこの命令を下したのは元を辿ると信用委員会のわけだが、信用委員会のクセに"いのちだいじに"とか今更──ではなかろうか。

 まあ、指揮官とアントワネットは特に違和感を感じていないようだし、ここは若人の判断を期待すべきなのだろう。ソシャゲとかでよくあるチュートリアル、みたいなものや導入の選択肢のない戦闘とか、ゲームにはよくある気がするし。

 

 まあ、大丈夫だろ……知らないけど……

 

「うえーーーーん!!! うええーーん!! たーーすけてぇー!!」

「おまっ、喋るんじゃね、っぎゃあ!」

「こーーわーーいーーよーー!」

 

 ……ダメな気がする!

 旧ニューヨーク、治安維持警察……まあ警察による交通規制命令の結果、道路は閑散としていた。この辺は個人用住宅(ハウス)があるので人口が多いはずだが──まあ、この泣き声を聞けばみんな逃げるだろう。

 

「おじさんにはきつい」

「"デシベルがっ……!"」

「み、耳栓の着用を推奨……いえ、発生源に近付いていますので無駄ですね。発言を撤回いたします」

 

 ──パーカー姿の女の子が、交差点の真ん中で犯罪者相手にマウントを取ってボコボコに殴りつけている。たぶんあの子が人質である。茶髪の、見るからに気弱そうな、お清楚な美少女。人質にはうってつけだろう。

 

「落ち着いて! 犯罪者から離れてください。今あなたを救出します」

「へ? だ、誰だよぉ!」

「S・Y・Sのものです」

「だからなんだよーっ!」

 

 襟首を掴んでいた手を離して、人質ちゃんはややへっぴり腰に構えた。それを見て俺が懐の銃を確認すると、人質ちゃんは怯えた声で叫ぶ。

 

「お、お前! お前今チャカ確認したねぇ!?」

「オジサン何もしてないよー」

「嘘つけっ絶対打つ気だっただろ! もう分かった! お前らも命令されて来たんだな、この犯罪者ァ!」

 

 人質は完全にヒートアップしている様子である。余程警戒心が高いのか、そうせざるおえない身の上なのか、指揮官の"落ち着いてください人質さん!"という言葉を無視して向かってきている。

 すぐに隠していた銃を威嚇として引き抜くと、人質はまず俺に殴りかかってきた。

 素人丸出しのへっぴり腰──なのだが

 

「うあああっやっぱりこいつ違法銃器所有者だーっ助けてくれーっ!!」

「違法じゃないんだけどなっ、と!」

 

 やけに鋭く殴り付ける拳をひょいと交わして、腕を掴む。落ち着くまで制圧しようとした途端、手首が勢いよく殴り付けられた。──なんてバカ(じから)だ!

 

「犯されるぅぅっ!」

「おっと、お嬢ちゃんそれは誤解──」

 

 心外な言葉を叫び、人質は俺の腹に蹴りを入れて凄く下がる。同時に俺も少し後退した。咄嗟に悶絶しなかったのはアドレナリンが出ていたからで、ここが平時なら泣いて蹲っていた。

 

「S・Y・S職員への暴行……許されざる行いです! 指揮官、ドイルから離れておいてください」

「"人質の人も混乱してると思うから優しく! 優しくね!"」

 

 カシューと音を立てて警棒が起動する音と共に、ヒロインが参戦した。






 エージェント・ブック

コードネーム:アントワネット
赤い髪、赤い目の美少女。あまり表情の変わらぬクールビューティーだが、実態は戦闘になるとあまり抑え(ブレーキ)の効かない野蛮人である。武器として特別製の伸び縮み出来るスタンガン・バーナー機能の搭載された警棒を所有している。あまりにもニッチな需要を満たす武器故に、「は! こんなのまともに使えるわけないだろう」や「え? これ使いこなせって? まあ普通に使う分にはいいけど……嫌だなあ」などという声も上がっている。
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