ディストピア・サイバーシティに転生した   作:イッツ

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人質 なんか強い 対処法 検索

 

 

 

 バチバチと電気を散らして、アントワネットが警棒を下からスイングする。

 

「制圧します!」

「ひ、卑怯者ぉ! 武器はずるいだろーがぁ!」

 

 それを後転してきり抜け、人質はすぐに鋭い蹴りをアントワネットに向け──たので、間に腕を入れて、パシッと黒いタイツに包まれた足を摑んだ。ひゎあ! と謎の悲鳴を上げる人質の脚を持ってぶん投げると、数メートル向こうで砂埃が立つ。

 

蹴り(それ)はダメでしょ。アントワネットちゃんは嫁入り前なんだしさ」

「訂正してください、ドイル。私は生涯独身の予定です」

「おっと、そりゃ失敬」

 

 砂埃が消えていく隙間から、人影が見えた。

 顔にかかる茶髪をかき上げて、ゴールドの瞳が露わになる。

 

「今回の誘拐犯は強いわね…マジでね。油断してた。少し調子に乗り過ぎてたかも……」

 

 オドオドビクビクとこちらを窺うゴールドの目は、確かに手弱女的な女の子らしさを持っていたが、その言葉とへっぴり腰な佇まいは──確かにその細身に合わぬ実力を覗かせていた。

 

「"手加減、出来そう?"」

「勿論です」

 

 指揮官が聞いた。アントワネットが答えたが、バチバチと超科学の火花を散らす警棒を伸ばした所から見るに、口先だけな気もする。

 ……ここは彼女に花を持たせるべきだろう。

 

「負けたいやつからかかって来なさい!」

「あなたの敗北が決定しているのです!」

 

 真っ直ぐに飛び込んできた人質の拳と警棒ぶつかり合い、とんでもない音を鳴らした。俺は数歩後ろの指揮官を守るために立つ。指揮官は下がったまま何もしない──訳でなく、すぐにギリギリ鍔迫り合う二人の所に檄を飛ばした。

 

「"マリー、痺れさせろ"」

「了解です!」

 

 指揮官とは優秀な指揮者である。常に戦局を見極め「"攻めに転じさせるな!"」──戦闘員らに指示を出す。勿論一挙手一投足まで掣肘するわけではない。むしろ逆だ。細かい部分は戦闘員らの判断に委ねつつも、有利にするための戦術を決めていくのだ。

 常人の何倍の戦闘力を持つ改造手術済み戦闘員は、制御するための騎手がいる。当然、暴れ馬より人の乗った馬の方が優秀である。

 しかしそれも余っ程の馬力があれば別だ。

 

「その棒、やっかいだねえ!」

「ッ、なんというパワー……!」

 

 最弱の威力でもコロッと人を気絶させるとんでもないスタンガン(警棒)を素手で握り、ぐっと引っ張り寄せたところを叩く。ライオン(肉食獣)とかの戦い方かな?と思うほど力任せである。しかし強い。

 こういう俺のようなオッサンでは出来ない乱暴な戦い方は、確かに"格下"には強いのだが──今回は人質ちゃんの判断ミスだ。

 アントワネットは格下じゃない。

 

「──革命の熱狂よ、"ここ"に断裂を!!」

 

 カッとバーナーから燃え盛る火炎を纏い、叩き付けられた警棒は必殺の一撃。悪を滅する女神のように、名の通り革命の熱狂をそこに発露させて人質ちゃんにフルスイング(カチ当たる)

 まともに当たればヤバい一撃を腹に食らって、人質ちゃんは膝をついた。燃えた服の、腹の部分からは白い地肌が覗いており、そこには一つも傷はない。うーん、なんでそれだけで済んでるんだ……? もっとこう、なんかあるだろうに。

 

 相手が座り込んでも、まだアントワネットは警戒を解かずに、けれど過剰防衛にならないように警棒を離さないでいる。背後の指揮官が近寄りたそうなので俺達も歩くと、人質ちゃんが真っ青な顔で咳をした。

 

「っ、げほ、ごほごほ、ぜえっぜえっ……!」

「まだやりますか。()()の貴女」

「降参! 降参ですッ。金目の物なら右のポケットに財布があるので、どうか命だけは〜〜!」

「金品は必要ありません。ですが、そうですね……それ相応の情報提供(ブツ)を頂きましょうか。」

「"一気にカツアゲムードだ……"」

「言ってやんなよ、指揮官くん。たぶんこのお嬢ちゃん、素人だぜ」

 

 そうなの? と若者二人が言った。指揮官が分からないのも問題だけどアントワネットが分からないのはもっと問題である……が、まあいいだろ……知らんけど……石燕がなんとかするはずだ。

 

「うん。このお嬢ちゃん、さっきから力任せに暴れるだけだったしさ。まあ、その身体能力はちょっとしたワケがあるんだろうけどね?」

「あ、あはは……」

「さて、お嬢ちゃん。少しオジサン達とお喋りする気はあるかな」

「ひゃい! モチロンですぅ!」

 

 素直に頷いてくれたお嬢さんにニッコリ笑いかけると、隣の指揮官が「"事案"」と呟いた。俺はお前らが怖い警官やる気ないだろうから言ってるんだよなあ。

 

「私はレイチェル……ですはい。旧アメリカ国地区出身の──む、無職です……」

「"無職?"」

「シティは一定の収入を安定して確保する手段を持たない場合、定職に就くことを推奨しているはずですが」

「ひいん、目線が痛い……」

 

 いい歳の──まあ二十代前半くらいの、それでもアントワネットよりは年上だろう人質、レイチェルはメソメソモジモジしながら話し出した。

 

「親がめっちゃ金持ってて……私もめっちゃ犯罪者に狙われて……だから外出るのとか嫌んなっちゃって、何だかんだ無職でも生きれててイマココ……みたいな? はは……」

「へえ、外出るのが嫌なのに一人で外出かい。まあ若い子にはずっとお家の中なんて退屈だろうからね」

「アッ……」

 

 本当のことを話さないのはまあしょうがない。けれど、この状況で雑な嘘ついてなんとかなると思ってるのはちょっと見通しが甘いんじゃなかろうか、このお嬢さん。

 

「と、とにかく、私はさっき急にそこのちょび髭のオジサンに襲われて! ホントに怖かったんですぅ!」

「"なるほど。じゃあ、レイチェルさんは私達と行動しようか"」

「ええと……はい?」

「"二人が強いのは分かるでしょ? 護衛として施設まで運ぶよ。さっさと混乱を落ち着かせられなかったはこちらの責任だしね"」

 

 "それでいいかな"と俺達に言ったが、既に彼の中では決定事項なのだとマスク越しでも分かった。でもさっさとなんとか出来なかったのかよというのは少しパワハラを感じるぞ。

 

「オジサンは構いませんよ。じゃあ、そこの犯罪者にワッパを掛けましょうかね」

「……今更ですが、」

「うん?」

「やりすぎてしまったような……」

「本当に今更だなあ。まあ大丈夫でしょ、怪我はさせてないし。服は……あれだけど……まあ大丈夫!」

 

 アントワネットが今更モジモジし出すのを見て、俺は犯罪者の片腕を持って背負い、割と無責任に言った。……まあこれには根拠がある。人質が身体改造人間並の強さを持って、戦闘員に襲いかかってきたのを適切に鎮圧したからって文句は言われない。そのはずだ。

 きっと大丈夫だ。たぶんきっとメイビー。

 

「いいわけないだろボケが」

 

「"……ダメだったか"」

「えっ、えっ? どちら様ですかぁ!?」

「初めましてレイチェル嬢。ワタシはコードネーム:石燕、ただの技術者だ。話は聞かせてもらっていた。無断で悪いがね?」

 

 急に指揮官の腕のホログラムが起動して、青白いブルーライトに包まれた石燕は随分苛立ったように紫の髪をぐしゃぐしゃかいていた。

 おっどうした? カルシウム取る?

 

「それよりだドイル! お前が居てこの体たらくは何だ。お前なら女子(おなご)の一人や二人ちょちょいのちょいだろう」

「普通の女子(おなご)だったらそうだけど。というか情報提供を怠ったそっちにも責任はあるんじゃないのかい?」

「フン、改造人間(初見殺し)くらいなんだ。やってみせろよ色男! 千人斬りの異名はどうしたッ」

 

 やってみせろよ色男と言われても。流石に怪我させずに制圧とか大変だし、あの場ではアントワネットが飛び出してたから指揮官守らなきゃだし、あと俺童貞だし。

 

「"まあまあ石燕先生、ドイルさんを怒らないであげてください"」

「指揮官クン……チッ、運がいいなコナン・ドイル。彼が庇わなきゃ手痛い折檻を加えてやったのに!」

「せ、折檻……?」

 

 何やら想像してカタカタ震えるレイチェルを敢えてかスルーして、石燕は続けた。

 

「もういい。さっさとレイチェル嬢を連れて本部まで来い。そこで詳しい検査と然るべき報告をしてもらうぞ」

 

 






 エージェント・ブック

コードネーム:石燕
江戸時代に名を馳せた、妖怪文化のパイオニアである鳥山石燕の名を冠しているオカルティスト。この高度科学文明社会では異端とされるオカルト肯定派。その中の異端でもある彼女は様々な科学的素養を持ち合わせる技術職件戦闘員として活躍している。治安維持特別局S・Y・Sの実質的な頭は彼女であるが、彼女自身は己を通すことを第一に考えるので他人に媚びを売ることがなく、それ故に他との衝突が多々ある問題児。
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