ディストピア・サイバーシティに転生した   作:イッツ

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ロボット 性格の差 ある? 検索

 

 

 

「先ニレイチェルチャンヲ診ルカラ、隣ノ休憩室デ待ッテテネドイルクン」

「はいよ」

「うわーーん見捨てないでぇ!」

 

 泣き叫ぶ声とウィンウィン唸るアームの音を背後に、プシューとドアが閉扉された。それと同時に優秀な防音設備のせいで声がピッタリ聞こえなくなった。

 

「くわばらくわばら……」

 

 隣の休憩室──まあ仮眠室のベッドに寝っ転がる。職員用の個室も用意されているが、今回はお医者さんの命令に従うということで。

 今日はベートーヴェンもトーマスも居ないし、この神経質なまでに白いベッドは俺のもの。痛み止めが効いているから少しだけ内臓の浮く、ジェットコースターの落ちる時のような感覚があるが、それくらいなら気にならない。

 目を瞑ると、宇宙に居る感覚になる。勿論比喩だ。

 いつも自分が体から抜けているような、離れている気がしている。痛いとか暑いとか不味いとか感じられるくせに、現実感が無い。

 どいつもこいつも派手な髪色してやがるし、とんでもない超人だらけだし、この"サイバーシティ"の全てがアニメ的である。

 じゃあ、この世は全部──ゲームか何かで、紛い物なんじゃあなかろうか。

 

「ドイルクン! 起キテ!」

「んあ」

 

 人がポエミーになってる時に、モランは容赦なく人のセンチメンタルを破壊した。

 

「早いね」

「オ怪我ガナカッタカラ……服ガアンナニ破ケテタノニ……」

 

 何でかしょんぼりとしたモランに体重を掛けて起き上がり、如何にもエージェントって感じの服の皺を直した。黒いタクティカルスーツに見栄えもクソもないが、一応身なりには気を使っているのだ。

 

「オイデドイルクン。オテテ繋グ?」

「大丈夫」

 

 ウィーンと首が回転して、寸胴がホバー移動みたいな動きをする。

 

「気になってたんだけど、それってホバー移動?」

「下ニローラーガツイテルンダ」

「思ったよりロマンがない」

 

 自動検査室のベッドに横になると、大仰な機械が俺の体にライトを当てた。

 

「眩しっ」

「我慢シテ!」

 

 そのライトが頭からつま先までを何往復かすると、ピピピと機械的な音がして光が消えた。もう終わったのかと起き上がりたかったが、モランがSTOP!と標識マークを出していたから動かないでいた。

 たぶん数分くらい待った。検査結果を確かめたらしいモランの触診用アームが腹に伸びると、そのまま腹を揉んだり押したりし始めた。

 

「痛イ?」

「痛てぇよそりゃ。改造人間に蹴られたんだぜ? こりゃ骨逝ってるね」

「骨ハ無事ダヨドイルクン。デモ、打撲ニナッテルカラ安静ニ……」

 

 無視して起き上がって、ぼんやりとまた痛み出した腹を摩る。グイグイ押されて繊細なお腹がポンポンペインだ。

 

「ドイルクン、マダ安静ニシナサイ」

「悪いねスーパードクター。オジサンドクターストップとか無視するタイプなんだ。ちなみにレイチェル嬢って何処に居るか分かるかい?」

「患者ノ個人情報ハプライバシー的ニ言エマセン」

「あっそ」

 

 あのレイチェルとかいうお嬢ちゃん、絶対何かある。じゃないと石燕が敬語なんて使わないし、車なんて出されない。不自然なくらい権力の影が見えるのに、それを誰も指摘しないでいる。若者二人とレイチェル(本人)は置いといて、石燕が報連相しないのが大きな疑問だった。

 が、それもここがソシャゲか何かの世界だと思えば納得だ。

 ──きっとレイチェルは信用委員会のお偉方のご息女で、だから信用委員会から派遣された立場の石燕は何も言わない、言えないのだ。そうして指揮官とヒロインはいざこざに巻き込まれていく……こういう筋書きだろう。

 なら、俺はどう動くか?

 

「やあ、レイチェル嬢。ご機嫌いかが?」

「あ、あは……ご機嫌麗しゅう〜……」

 

 確信が必要だ。

 彼女の背後の権力者に迫る情報を手に入れて、少しでも指揮官達に利を作るべきだ。

 

「悪いね、こんなオジサンが女の子の部屋に押しかけるのもあれだろうけど、聞きたいことがあってさあ」

「……何ですか?」

 

 警戒した様子で──元々常にビクビクしてるレイチェルは俺を見た。 服は破けたパーカーではなく、既に白いシャツを用意されているようだ。仕事がお早くて結構なことで。

 

「君が外出した理由って、親御さんの所為かな?」

 

 ──ゴールドの瞳が開かれた。

 

 人工的な、ただの人間では一般的に発色しないだろうキャッツ・アイが慄いて、一気に顔の色を失わせた。そうすると可愛らしい顔は何処かホラー映画のヒロインのように、眼前の対象へ恐怖を滲ませる。

 気取られていないつもりだった? ──イヤ、触られたくない場所だっただけか。

 

「どうして……」

 

 冷えた空気を切り裂く鋭い警報が鳴った。ウーウー唸るサイレンに、思わず笑いそうになった。なんというジャストタイミング。まるで映画のワンシーンじゃないか。

 腕のガジェットが勝手に起動して、ホログラムが浮き出た。石燕からだ。

 

「ドイルッ、今何処にいる!」

「レイチェル嬢のとこだけど」

「何でだよ! いや、もういい! ドイル、レイチェル嬢を護衛しろ。そして今から来る客人には決して無礼のないように──分かったな」

 

 早口で言い含めると、石燕は自分勝手に接続を切ってしまった。余程焦っていたのだろう、隣に居たレイチェルがホロを覗いているのも気にせずに捲し立てやがった。

 

「まさか、もう──もう()()の?」

「親御さんかい?」

「ち、違う。違う──パパじゃない、来るのはきっとあいつだ……!」

 

 ドイルさん、と袖が引かれた。細い、白い手が脅えて震えて、俺に縋ってきている。あいつが誰かは分からないが、余っ程恐ろしいのだろう。声が酷くブレて、ヒステリック一歩手前に聞こえた。

 

「お願いします、ドイルさん、私を隠して!」

 

 その手を取るべきか躊躇した途端、電子式扉の開く音がした。

 







 エージェント・ブック
治安維持特別局S・Y・S指揮官、通称指揮官
陽気で明るく人とのコミュニケーションを楽しむものとする新人指揮官。信用委員会から石燕が指示を送られ、その石燕から指示された場所で本来の才能を発揮する。優秀なる観察眼と天稟の指揮は、エージェント達を乗り熟す騎手となり、一度彼の指揮を味わったエージェントは病みつきになるとも……?
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