ディストピア・サイバーシティに転生した   作:イッツ

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カウンセリング 効果 欺瞞では?(アルミホイル) 検索

 

 

 

 

「それにしても、僕は苗字(ラストネーム)持ちの人に初めて会ったかもしれない。握手はOKかな? おっと、家庭のことに言及されるのは嫌?」

「ひゃ、ひゃい…大丈夫れす……」

 

 軽くハンドシェイクするベートーヴェンとレイチェルの間に、レイチェルの隣に座っていた石燕が大人気なく割り込んだ。

 

「ワタシもラストネーム持ちだから初めてというのは違うぞベートーヴェン!」

「石燕先生、あまり嘘をつくのは感心しないな」

「おい、嘘吐き扱いするんじゃあないッ! 減給されたいのか!」

「なんて流れるようなパワハラなんだ……」

 

 「つぶ、つぶれる……助けて…」と呻くレイチェルを気にせずに、二人は同時に俺に「どう思う!」と聞いてきた。どう思うもクソもないが、まあ石燕がラストネーム持ちは嘘だろ。あとレイチェルを胸で窒息させるな。

 

「石燕よう、あんまり後輩に話盛るのはやめとけよ」

「おい。お前達の間でワタシを嘘つき扱いするのが決定しているのは何でだ?」

「うーんたぶん日頃のおこな、あっ潰れる潰れる」

 

 レイチェルが石燕の胸に潰されかけると、アントワネットはよくやくカレーを食べ終わったのか立ち上がり、レイチェルを椅子から引っこ抜いて救出した。

 

「た、助かったぁ! ありがとうアントワネットさん」

「マリーで構いません」

「マリー様ッ」

「独特なあだ名ですね。上流階級(そちら)の方々はそう呼び合うのでしょうか」

「あ、ち、違う。」

「"あんまりレイチェルさんを虐めないであげて……"」

 

 またヤイヤイガヤガヤし始めた空間に、ウィーンとモーターの唸る音が軽く響いた。全員が食堂に入室したその銀色の異質さに見つめると、"それ"は喚いた。

 

「オ食事中失礼シマス!! レイチェルチャン!! モウトックニカウンセリングノ時間デスヨ!!」

「あっ、あの時のロボ!」

「ワタシハスーパーカリスマワールドワイドロボット・ドクターモランデス!! サボリハ許シマセンヨ!」

 

 ローラーで移動していると言ったそれは突っ立っていたレイチェルの傍まで来ると、バッと網を吐き出してレイチェルに引っ掛けた。

 

「うわあっ!?」

「悪イ子ゲットネットデス。サ、行キマスヨ」

「嫌だぁあーーっ! こーーわーーいーーよーー!!」

 

 ピチピチと悪い子ゲットネット(捕獲網)の中で暴れるレイチェルに皆が呆然としているうちに、モランは網ごと地べたに引き摺って動き出した。

 

「"待って待って待って!"」

「モラン! モランストップだ!」

「ベートーヴェン、お前ハサミとか持ってない!?」

「ナイフしかないよ!」

 

 慌てて指揮官とベートーヴェンと俺で追いかけて網を掴んだが、それで分かった。硬すぎる。

 

「これステンレスとか入ってるだろ絶対!」

「"患者用に害獣捕獲用ネットを使ってるって……コト!?"」

「ちょっ、ちょっと──確かにこれ僕でも無理だっ。本当に硬い!」

「皆サン ネットニ触レナイデクダサイ」

 

 ノータッチ(触らないで)と画面に表示するモランの前にベートーヴェンがカバディのように道を塞いで立ち、食堂から逃がさないようにする。俺と指揮官が網を開こうとしたが、「ひいい助けて助けて」と言う声に気が散ったせいかやはりダメだった。

 

「石燕先生、マリー! 協力してくれないかなっ」

「ン? お前達さっきから何してるんだ。カウンセリングはさせないといけないだろうに」

「"だからって社長令嬢を網釣りするのはダメだろ……"」

 

 どうやら石燕はモラン(ロボット)と同じ価値観を共有しているらしく、さっさと行かせてやれと雑に言われた。確かにそうだけど、なんかこう……ダメだろ! 人倫的に!

 だが人工知能搭載ロボットであるモランは気にせずにベートーヴェンに体当たりしてボーリングのピンのように跳ね飛ばし、またウィーンと進んで行ってしまった。

 背の高い青年(ボーリングのピン)が食堂の入口の端に倒れ込んだのを指揮官が慌てて抱え起こした。

 

「"ベートーヴェン、大丈夫?"」

「ヤムチャしやがって……」

 

 綺麗な顔してるだろ。嘘みたいだろ。生きてるんだぜ、これで……

 ヤムチャしている美青年の頬を指揮官がペチペチ叩くと、煩わしそうに目を開けた。見事な青と緑のオッドアイが指揮官を見て、それから俺を見る。

 

「楽しくない痛さだ──指揮官、痛みが安らぐまで君の膝の上を占領しても?」

 

 何やらエロゲの美少女みたいなことを言い出した青年の頭にチョップを入れる。そういうのは部屋でやれ。

 

「ここは食堂だぜベートーヴェン」

「ドイルさん、沈黙は金と言うよ」

「オジサンは金より銀派なんだ。この歳になると世間話が楽しくていけない」

 

 ベートーヴェンは嫌そうに起き上がって、膝を着いていた指揮官に手を伸ばして立ち上がらせる。好き嫌いの激しいやつだとは思っていたが、こいつ指揮官に入れ込みすぎでは?

 マイナーな嗜好の人間の唯一の理解者っていうのは、そんなに大切なものなのか──

 

「ドイルさん?」

「ん、ああいや、何でもないよ。それより、今回の仕事は長引いたね」

 

 露骨に話を逸らしたが、戦果を自慢したいのかベートーヴェンは気にせずに椅子に戻ると、俺と指揮官が着席したのを確認して語り出した。

 

「今回は違法な品──違法な娯楽を生産・販売していたブラックマーケットの殲滅だったんだ。利用する人間には()()危害を与えないようにとは言われてたけど、まあ最終的に爆発で人を退避させてから全部ドカーン、でおしまい。」

「"報告書はこれから?"」

「そうだね、まあ僕は直接戦闘は無かったから、破壊した場所と手に入れた情報を書くだけで済みそうだ。こういうのも大切だとは思うけど、つまらない作業だよ。」

 

 どうかな、僕を助けてくれないかい? と爆弾魔は指揮官に微笑んだが当然、誰だって面倒臭い事務仕事をやりたがるわけもなく。

 

「"マリーに手伝って貰うといいよ"」

「そうか……うん。そうしよう。ありがとう指揮官、適切なアドバイスだ」

 

 指揮官はアントワネットを人身御供にすることで逃れたようだった。アントワネットのことだから気にせず手助けするだろうが、だからって部下を平然と差し出すのは手馴れすぎている。

 

「──それにしても、このご時世にブラックマーケットで売る物なんてあるのかねえ。米でも売るのかな?」

「ライス? いや、今回は違法娯楽品を販売していたんだ。小説、絵画、音楽データ──個人の作る創造物は目新しく感じるけれど、どれも信用委員会に認められていないものだった。」

「へえ、コミ、いや、即売会って感じかな? 公に出さなきゃセーフなのに、よくやるよねえみんな」

「気持ちは分からでもないよ。趣味のものが上手くできたら誰だって見せびらかしたくなる。勿論、だからと言って違法行為が許される訳では無いけど。」

 

 俺も小説を書くタイプのオタクなので気持ちはわかるが、だからと言って堂々とコミケ開いたらダメだろ……と思うのは、俺が権力側に寄りすぎたせいか?

 不特定多数に見せるのが許されないであって、例えば手紙のように誰かに詩や小説を一通送る()()ならお目こぼしされる。ベートーヴェンの案件は、それで満足できなくなった市民たちの現れだ。

 ここでは前時代の偉大なる文豪や作曲者、画家達の創造物しか公的なものとして許されていないからこそ、余計に創作者はやるせないのかもしれない。

 

「違法な作品を見て、どう思った?」

「僕かい? ううん、そうだなあ。拙いと思ったよ。悪く言いたいわけじゃないけど、やっぱりわざわざ作る意図は理解出来ないな。」

「……まあ、正論だわな」

 

 正論だ。このディストピア……いや、サイバーシティでわざわざ逮捕・粛清される違法行為を行うのはバカのすることだ。

 ──その不自由さに目眩がしてくるのは、俺がここに適応できていない異分子である証左なだけで、こいつらが悪いわけじゃないんだ。






 サイバーシティ丸わかりブック〜共存領域のことを知る〜 より
 信用委員会──シンヨウイインカイ
 信用委員会とは、前時代の国連同士が国を捨てサイバーシティを結成した際に作られたサイバーシティをより良くするための委員会です。前時代の大統領や王と違い、信用委員会には汚職や間違いがありません。
 信用委員会とは、サイバーシティのためにあるシステムです。
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