食堂でまた指揮官達と合流できたレイチェルの背後で
はっきり言ってそれって不審者と間違えられるからお前今後は控えろよとナウいヤングな若者に指摘されたため、大変意気消沈している次第である。
しょんぼりと空になったパウチをポッケに仕舞って、談話室の白い椅子にもたれかかる石燕
「どうする」
主語がない。だが、流石に分かる。レイチェル・ギルドの
「指揮官くんに従うさ」
「兵六玉め」
テーブルに置かれたチェス盤は今どき珍しく、実物の駒が置かれていた。駒をひとつ手に取ってみると、随分作りが荒い。石燕の方にフラフラ見せ付けると、フンと鼻を鳴らされた。石燕の私物らしい。
「お前に後々文句を言われても困る。分かるな?」
「いやー、だからドイルさんは指揮官くんに」
「お前、賛成してないだろう」
よく通る声に苦笑うと、石燕はお綺麗なお顔を不機嫌そうにさせて口を開く。
「何だかんだ動きはしてやったがそれとこれは別。俺は賛成していない、だからレイチェル嬢は帰らせる──そう言う可能性があるなら」
カン、と乱暴にビショップが盤を進む。
「ワタシは
「杞憂だよ」
──まあ、そういうつもりも、場合によっては無くはなかったが。
釘は刺した。立場は示した。意思表明もした。
オジサンは指揮官くんの味方ですよと、俺ははっきり言っている。
「ドイル、お前はお前の陰湿さと無駄な悪巧みの上手さを知らんからそう言えるのだ」
「お前、オジサンのことなんだと思ってるのさ」
「バカ。」
「おい!」
思わずツッコんだが石燕は無表情に近い不機嫌を変えずに首を傾げた。違うのか?と言いたげである。
「違うのか?」
「おい……」
どうやら本当に違うのか?と、俺はバカだと思っていたらしい。まさかのカミングアウトに戦慄が走って、俺は恐ろしい子と少し仰け反った。
そんな茶番を打ち止めして、逆に、と俺は言った。
「逆に、お前こそなんでわざわざ
これは何気に疑問だったことである。どうして、何で、どういう理由で石燕はレイチェルに良くしてやるのか。
ぶっちゃけ、レイチェルに良くして得は無い。酷い話だが、立場ある人間はそうして利害を考えないといけない。レイチェル・ギルドには金も権力も無い。面がいい強い
中の上、それか上の下くらいの能力で、唯一という特性はなく、無駄に七面倒な立場のしがらみだけはある女──理由が無いのだ。
なので、俺は石燕を見た。問うた。
お前はどうしてそうするのかと。
「──趣味だ」
へ、と変な声が漏れた。
「だから、趣味だ。」
「──趣味?」
「そうだ! 慈善活動ってわけじゃない。単なる趣味だ。酔狂な好事家の娯楽だ! 悪いかッ」
「いや悪くはないけどさぁ……」
誤魔化されたのか、真実なのか。とんと見分けがつかない。
これは
俺はお手上げだと両手を上げて、アメリカンに肩を竦ませた。
文字通りのお手上げポーズに鼻で笑い、鳥山石燕はやっと顔を緩ませる。菖蒲色のうちひと房が顔に垂れて、何だか楚々とした女のように笑うから──
「しょうがないにゃあ。いいよ。それで納得してやるよ。(趣味が)溜まってるってやつなのかな?」
「何がだッ?」
誤魔化すために通じないネットミームを唱えて、俺はひとつ、駒を手に取る。
荒削りな、ちょっとささくれている駒。黒い塗装がされているが、本来は木製だと一目でわかるそれは丸い王冠を被ったキングで、王冠には宝石か何かを表したかったのだろう痕跡がある。
「お前も可愛いとこあるんだね。ドイルさん知らなかったや」
「おい、お前まさかッ」
「工作とか好きなタイプだったんだ? 分かるよ小学生の時の図工の授業とか楽しいもんね」
「──ッドイル! それを置け!」
わなわなと震えた石燕は前のめって俺に掴みかかってくるが、軽く避けて椅子から立ち上がる。カツンと良い音を立てた盤にキングを戻して、俺は努めて生暖かな目線を向ける。
「お前ってばわかり易すぎるけどまっ精々頑張ってくださいよ」
華麗なるエスケープを決めた俺の背後を追いたそうにする気配から離れるために、俺は軽やかに足を動かした。
サイバーシティ丸わかりブック〜共存領域のことを知る〜 より
治安維持特別局S・Y・S──チアンイジトクベツキョク
このサイバーシティの通常の治安維持警察が対処できない重大な問題をスピーディーに解決してくれる人達です。
皆さんの平和を守る人達と、その統括局である信用委員会のことを勉強して、街の一員として相応しくなれるよう頑張りましょう!