バンクジョブ・トゥ・デイズ・ゴーン・バイ   作:nallowship

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バンクジョブ・トゥ・デイズ・ゴーン・バイ #5

◆◆◆カラテが高まりゆく……◆◆◆

 

 

「……私たちが今見ている星は、遥か何億光年の彼方から届いた――つまり何億年も前の光です」

「どうしたの部長? いつもの占い?」

「そうでもありますね」

チヒロとコタマがヒマリを見る。――3人のタイプ速度はいささかも衰えない。

数分前、ミレニアムを中心に配された電子ナリコの1つが反応したのにコタマが気付いた。期限を切ってニンジャを急かす、まずは予定通り。

ヒマリは続ける。

「1つの星座を構成する星々の間でも、何億年、何億光年の差がありますが、星空を見上げる私たちには同じ時です。お互いでは、一方は過去、一方は未来……同じように今この瞬間、これらの銀河に時を超えてどれほどの意味が凝縮されているのか――そして私たちも同様に、数億年先の未来から何を見い出されるのか。決して重ならない過去と今と未来が、しかしここに確かにあって無限に広がる。だからこそ、どれだけの悲劇を内包しても美しいのでしょうね。星空も、思い出も……さて」

ややトランスして見えたヒマリが、居ずまいを正した。

「始めましょうか、私たちの戦いを。……コトダマ空間認識能力者にはネットワークの世界が現実の物理法則と同じに見えるそうですが、今宵のミレニアムはさぞ美しく見えることで――」

「部長、ひたるのが長いです」

「……あら?」

コタマの声でヒマリは気付いた。自身の指先、ワン・インチ離れたホロキーボードの実行キーが既にタイプされ、『システム総じ緑な』の文字が重なっている。

――ピポッ!

『いけなかったでしょうか? 今のは暗黒組織のボスが手下に命令する号令かとばかり』

「……いえ、問題ありませんよ」

苦笑するヒマリの後方にもう1人、生徒が腰かけていた。

目を閉じ、手を膝の上に置き、人形めいてピクリとも動かない。――否。実際、人形だ。明るいオレンジ色の髪、翡翠色の髪留め型ガジェットから4枚翼のオイランエンジェルを簡略化した意匠のヘイローが頭上に投影されている。首の後ろから伸びるLANケーブルが、外部ハッキング専用に調達した最新鋭UNIXに直結されていた。ネオサイタマ製のオイランドロイドだ。

(この期に及んで躊躇いますか、私も)

オホン、と咳払いで誤魔化してヒマリは告げた。

「ではC&Cおよび戦闘待機メンバーは警戒態勢に移行――作戦名『カムパネルラ』、開始です」

 

 

【バンクジョブ・トゥ・デイズ・ゴーン・バイ】#5

 

 

「――――!」

声にならない悲鳴が時を再始動させた。塞き止められていた痛みが溶岩めいて血管を奔り、感覚神経を焼き尽くされた’シロコ’はその姿勢を保てず、膝から崩れ落ちる。セリカが咄嗟に抱え、右腕を打ち付けるのはかろうじて防いだ。

先生は2人のシロコに駆け寄ろうとして、しかし足が止まる。あの忌々しいニンジャは――

「アイサツせよ」

サツバツナイトが言った。巣を乱され地に落ちたクモめいたレクデップの背筋がビクリと震える。意を汲んだ先生は踵を返した。

「ドーモ、レクデップです。お前がシャーレのヨージンボ……しかも色違いかよ、カラテ格闘ゲームか?」

「ゲームであれば女王が最適解で殺した。私は迂遠なチャートで惨たらしく殺す」

「殺す? ナンデ?」

「生徒を害するニンジャ、殺さぬ理由がない」

決断的に宣言し、サツバツナイトはジュー・ジツを構えた。レクデップはカラテ警戒しつつ鼻を鳴らす。

「正義の味方気取りかよ。ソイツが救う価値のない銀行強盗の常習犯だって分かってるんだろうな?」

「無論だ。私には生徒を裁く資格も、救う資格もない。だが悪逆無道のニンジャは殺す」

「話が通じやしねェ……」

殺気が交錯し、風がドロリと濁る。背後では先生がネクタイを引き抜き、舌を噛まないよう’シロコ’に噛ませて、腕の折れた箇所に触れた。「んっ」といううめき声。――それがイクサの合図となった!

「イヤーッ!」

「構わねェ! 撃てるヤツ全員撃ち殺せ! イヤーッ!」

サツバツナイトが投げたスリケンを連続バク転で回避し、レクデップは警備システムに命じた。一瞬、夜風に破裂音めいた音が混じり、次の瞬間には高速演算する無人機たちの不吉な駆動音に変じる。――同時にサツバツナイトが投げてよこした黒いライフルを、シロコが代わりに受け止めた。

「ニンジャは抑える、指揮せよ!」

「ボトク・ニンジャクラン、ニューロハック・ジツ――それをデン・ジツで拡張! サンズ・オブ・ケオスです!」

互いに返事は不要だ。サツバツナイトは多脚戦車の残骸を踏み潰しながら跳躍、2人のニンジャは瞬く間に色付きの風となり、ドローンの群れへと身を踊らせた。そこに向けて銃を構えるシロコ、セリカ、そしてノノミ。向かい合う射線、命なき数十機に対するは僅か3人……いかに精鋭といえど、平安時代の伝説的剣豪ミヤモト・マサシの残したコトワザ「大勢で一人を攻撃すれば楽に倒せる」を想起せざるを得ない圧倒的劣勢! 先生は動けぬ’シロコ’を庇うように抱き、ノアも思わず自らの銃に手をかける。

――その時、逆方向から閃光がさした。続けて硬いタイヤがアスファルトに削られる音がみるみる近付く!

「お待たせしました!」

稲妻めいて走り来るオフロード車! 対策委員会最後の1人、アヤネのエントリーだ!

激しくドリフトしながら対策委員会たちの横を走り抜け、180度回転して停車! と同時に解錠された荷台から大型アタッシュケースめいた鉄塊が3つ振り落とされ、瞬く間に展開した。ホシノのものと同じ機構を備えた盾だ。中心には燦然と輝くアビドス烈日紋!

「ヌンヌンヌン――」

ドローンの動きが止まった。治安維持権限を有する新たなアビドス生徒の出現――警備システムの正常なプロトコルが、射撃開始命令の論理的正統性を見失っているのだ。

「アヤネちゃんナイス!」

「ん、助かる」

BRATATATATA! セリカとシロコが前進、左右の盾からドローンを迎撃する。アヤネ自身も加勢しようと銃に手をかけるが、先生が止めた。

「アヤネはそのまま、出番だノア! ――あと何か硬い棒を!」

「は、はい!」

「――分かりました!」

アヤネが工具箱から投げたレンチと入れ替わりに、すれ違いざまに先生の指示を受けたノアが助手席に駆け込む。ギャリギャリギャリギャリ! 激しい擦過音を残し、レンチを副木に’シロコ’の腕を縛る先生に見送られて、車は瞬く間に交差点を曲がって消えた。

BRATATATATA! BRATATATATA! 「ピガーッ!」「ピガガーッ!」

3銃の銃火がドローンを、AMASを削り、貫く。だがシロコは足元がおぼつかず盾に半ば身を預け、ノノミは姿勢と射線を上に向けられない。警備システムの物量を押し戻すには不足、まさにゴジュッポ・ヒャッポ!

ZAP! ZAP!

隙間を抜けた幾発かの銃弾が、中空で火花を散らした。直後!

「イヤーッ!」

「イ、イヤーッ!」

ZAP! 稲光が炸裂、鉄と樹脂の陰影を闇に焼き付けた。黒と錆色のニンジャ装束が一瞬浮かぶ。

「ピガガーッ!」

間に入ったドローンが両断され、赤熱した断面を晒す。電光の残滓をまとったボトルネックカットチョップ、その先にジゴクめいた「殺」「伐」のカンジが浮かぶ。

「イヤーッ!」

「イヤーッ!」

激突するポン・パンチとポン・パンチ! デン・ジツを帯びたカラテと、一点の不純物なく研ぎ澄まされたカラテが、対策委員会たちの銃火を潜りながら激突する。

「ピガガーッ!」

サツバツナイトに盾にされたAMASが大破、機能停止! ニンジャ第六感によって銃弾を最低限の動きでかわす。数発が装束を掠めるがイクサへの影響は僅かだ。決断的なカラテに、デン・ジツのバリアを張るレクデップが徐々に押されていく。

――その時!

KABOOOM!

「ヌゥーッ!」

突然の爆発! 連続バク転で回避したサツバツナイトに追いすがるドローンが2機、不意に電光を帯び、そして――

「ピガガーッ!」

CABOOOM! おもむろに自爆!

「舐めるなカラテモンスター! イヤーッ!」

「ピガガーッ!」「ピガガーッ!」

ヤバレカバレめいた電撃が放たれ、サツバツナイトを取り巻くドローンが、AMASが連鎖爆発を起こす。さらにオートマタによる一斉射撃! BRATATATATATATATA!

「ヌゥーッ!」

距離を取るサツバツナイト。彼に向かってきた超重量の足音は……ナ、ナムアミダブツ! 何たるミレニアム工学技術と暴走過剰火力信仰の結晶たる二脚歩行重火器過剰積載大型オートマタか! 道路を踏みしめ、陥没させながら迫る巨大オートマタ「ゴリアテ」のモノアイが、砲口でくゆる硝煙に揺らめく。しかも1機ではない、視界には2機――否、3機!

思わぬ猶予を得たレクデップ。自身も無傷ではないが、サツバツナイト相手に正面からのカラテはあからさまにジリー・プアー(徐々に不利)だ。躊躇いは許されない。懐から取り出したのは1枚のフロッピーディスク、それを指揮機ドローンの違法増設した挿入口に押し込む。

(ジツの欠点を補うための切り札……いや、思えばコイツが運の尽きか!クソ!)

「しょうがねェ! イヤーッ!」

心中毒づきながらジツを発動! 指揮機ドローンのマーキング――帯電させた端子金属からニューロンに見立てた電子基板へと直結、強制的に命令を実行する。

『ピガガーッ!』『ピガガーッ!』

規格外のプログラムが強引に流し込まれ、警備システム中枢を介して周辺の機体へと拡散し、そして――

『ドー001モ、モー0ター0101ド00ロ01デス。ゼンメツ・アクション・モード起動!』

『ゼンメツ!』

『スシ!スシを下さい!』

制御モニタが01ノイズで埋め尽くされ、次の瞬間、三つ巴めいた雷神紋のアスキーアートに変わった。

「あれは……オムラ・エンパイアの⁉」

「ヌゥーッ……」

重工業系暗黒メガコーポ、オムラ・エンパイア――その前身であるオムラ・インダストリの製品に搭載された対ニンジャ戦用プログラムだ。サツバツナイトには幾つかのイクサと、今はないオオヌギ・ジャンク・クラスターヤードでの苦い記憶があった。レクデップの狙いはその再現だ。

犯罪者制圧の範疇でしかないミレニアム製品に、端末単位で、ニンジャソウル検知機能が前提の劣悪なオムラ製プログラムをねじ込むことで意図的に暴走、無差別攻撃させる。恐らく自身は元の警備システム上、認識できないようにして。

生徒にとって敵の殺傷力は変わらない。だが、レクデップの手は完全に空く。そして――

(急所は……私か!)

先生が殺傷前提の攻撃対象になる。生徒たちは先生を守ろうとするだろう。自由なニンジャと、無尽蔵の増援に対して、機動力が半減した状態で。

猶予はどれだけある? 先のドローン自爆でサツバツナイトは妨害できる間合いには――

「スゥーッ!ハァーッ!」

ひと息分のチャド―呼吸。サツバツナイトは正面にいた。

振り返る視線と視線が一瞬合う。彼の手から鎖の音が鳴った。無機質な白とナノカーボンの鎖、金色に閃く小さなミレニアム校章、――剛性・柔軟性・カラテ伝導率を兼ね備えた新素材開発部製のヌンチャクがヒュンと風を切る。

「……先生」

吐息のような声が耳朶を揺らす。折り畳んだネクタイが背中越しに落ちた。

「シロコ?」

「ありがとう……ん、もう、戦える」

「……そっか」

風の音が絶える。'シロコ'の体温がゆっくりと離れる。ソーマト・リコール現象による猶予……いや、もう不要だ。

風の音が戻る。加速する。8つの殺気が世界に充ちる。

「イヤーッ!」

「トドメヲサセ―ッ!」

BLATATATATATATATA!BRATATATATA!

数えきれぬほどの火薬と金属が閃く。号令一下、無人機が吐き出す重金属弾の洪水を、オクラホマ荒野のサイクロンめいたヌンチャクワークが弾き、押し返す! 銃弾の幾つかが黒い装束を裂き、貫き、微かな血飛沫を吹きはらう。狙いは一点――ソウル検知機能なきシステムすら銃口を逸らすことを許さぬサツバツナイトのニンジャ存在感!

「イヤアアアアアーッ!」

「死ね! サツバツナイト=サン、死ね!」

ジゴクめいたシャウトに、その眼光に、レクデップの声が上ずる。だが!

(所詮はニンジャ1人! 10秒もあればオムラに感染したドローンどもの包囲殲滅射撃でネギトロだ、乾燥粉末としてアビドス砂漠の塵になれ!)

市役所を取り巻くビルの縁、その全てがじわりと赤く染まる。ニンジャとモーター理念の笛に狂うドブネズミめいた無人機の波が、メイルシュトロームめいて1点へと集約していく。鍛え上げられたカラテといえど、悪意無き暴力の波濤のただ中においてはもはやロウソク・ビフォア・ザ・ウィンド! 無数の矢を射かけられ滅びたマイニユ・ニンジャの運命が、かつてその憑依者を爆発四散せしめたサツバツナイトの身に返ってきたとでもいうのか? おお、ブッダ!寝ているのですか!?

「イヤアアアアーッ!」

「ピガーッ!」「ピガガーッ!」

だがサツバツナイトは意に介さず、ただ無心にヌンチャクワークを加速させる。狙った跳弾が僅かばかりのドローンを貫き、AMASの関節を削る。客観視すればあまりにもささやかな抵抗……しかしそれはやがてゼンめいた静謐、カラテ宇宙の中心で全てを無へと帰すブラックホールめいて――

「――アイエッ!」

その時、レクデップはふいに恐怖を覚えた。銃火の中でなおセンコめいた火をたたえるサツバツナイトの目に――否!

「イヤーッ!」

「イヤーッ!?」

眼前で火花が散った。生徒の誰かが撃った銃弾、牽制にもならないはずの1発だ。だが、意識の空隙に挟まったその金属片が、このニンジャを無性に苛立たせた。

(そうだ、生徒たちを先に始末しよう)

(カラテモンスターの始末は機械に任せる。目当ての2人を残して、他を殺す)

(当然、先生も殺す……いや! ガキ2人のニューロンをかき回し、全身絞り尽くしてダシガラになるのを見せつけてからだ! ファック!アンドサヨナラ!アンドファック!)

ひきつる顔を嗜虐心でさらに歪ませ、レクデップは銃撃の出所を見た。

当然、ヤツだ。

この世界の者ではない方の砂狼シロコ。死を司る神――ユーレイめいた、ただの小娘。ベイビー・サブミッションだ。コトワザ通り、まずは残りの腕をねじ折ってから……

「――ア?」

レクデップの見込みは外れた。

死神はいなかった。黒い盾の向こうには、喪服めいたドレスの、左腕でアサルトライフルを構えた生徒がいた。何の変哲もない、1人の生徒が。

銃口と、左右で異なる色の虹彩が、眉間の一点に向けられている。

レクデップは息を呑んだ。与える側としか思っていなかった死の実感が、己の脳髄を抉っていた。もう一度ニューロハック・ジツを……ああ、駄目だ。白い。こいつの銃じゃない。――直後に眼前1インチで銃弾がデン・ジツの障壁に刺さり、四散した。

のけぞるレクデップ。銃弾の残響によって瞬間、周囲の音が凪ぐ。頭ひとつ分の視界が広がり、そして目を剥いた。

「バカナーッ!?」

視界の中に、サツバツナイトの姿がない。

依然として注がれ続ける銃火は、しかし、ヌンチャクではなく黒い壁に阻まれていた。横倒しで上下に重ねられた、一方がわずかに色褪せた、2枚のホシノの盾に。

「ニンジャ――」

盾の陰から、ジゴクめいた声がした。

渦巻く規格外のカラテが、細く、高く、引き絞られているのは明らかだ。それが開放されればどうなる? ――レクデップは小さな悲鳴を上げ、ブザマに大型オートマタ「ゴリアテ」の陰に逃げ込んだ。

「――殺すべし!」

「全員!伏せろ!」

先生の合図と共に、生徒たちは一斉に盾を引き倒し、伏せた己の身体の上に覆い被せた。チカを抱いて転がり込む先生を、ノノミが自分の盾の陰に引き寄せる。サツバツナイトの前に立ちはだかるホシノも、だ。

顕になったサツバツナイトが――赤熱する「殺」「伐」のカンジが高速回転し、サブリミナルめいて無人機のカメラアイを尽く焼く。次の瞬間!

「イイイイヤアアアーッ!」

「ピガガーッ!」「ピガガーッ!」「ピガガーッ!」「ピガガーッ!」

最前列のドローンが壊滅! AMASとオートマタが次々と火花を上げ、バクチクめいて連鎖爆発! ゴリアテの右脚関節が砕け、自重でフレームがねじ曲がる!行動不能! 突き刺さっているのは鋼鉄の刃、スリケンだ。タツマキ回転からの全方位スリケン連続投射、「ヘルタツマキ」!

――何が起きたのか、読者諸兄には説明せねばなるまい。先生はたった一言、ノノミに告げた。『ホシノをサツバツナイトへ投げろ』と。聞いたのはノノミと、傍らの’シロコ’。ノノミは指示通りに盾ごとホシノを投げ、’シロコ’はこちら側のシロコの銃でレクデップを牽制しつつ、ポータルで僅かな時間、サツバツナイトへの銃撃を防いだ。一呼吸分のチャドー呼吸を纏ったサツバツナイトのカラテが、盾に仕込まれたレクデップのジツを破壊し、解放されたホシノが盾となりサツバツナイトのカラテ初動を守る。――こうして盤面は完全に反転した。何たる歴戦の強者たちにしかなし得ぬ一糸乱れぬイクサ運びか! ゴウランガ!

「ピガガーッ」「ピガガーッ!」「ピガガーッ!」

小型無人機が全滅! だがサツバツナイトの回転は止まらず、さらに加速してゆく。第二波――第三波――さらに襲来する無人機たち。だがそれらはもはや、ベイルファイアに自ら身を投げ落としていく哀れなモスキートの群れだ。オムラに狂った端末には、死地への行進を止める術はない。

「ピガガーッ!」「ピガガーッ」

第二波が壊滅!

「ピガガーッ!」「ピガガーッ!」「ピガガーッ!」

第三波が壊滅! さらにゴリアテのカメラアイと砲身が大破!

「ピガーッ!」

唯一、上空に逃れていた指揮機ドローンが撃ち抜かれ、盾の下でセリカが小さくガッツポーズを決めた。墜落したドローンはヘルタツマキに巻き込まれ、フロッピーディスクごと瞬く間に金属と樹脂の破片へと解体された。

回転! 回転! サツバツナイトは今やタツマキを超え、フーリンカザンそのものであった。高速回転はやがて激しい上昇気流となり、盾の重さにしがみつくホシノの傍を、無人機の残骸が吸い寄せられてゆく。風の中心でカラテが、チャドー呼吸が練り上げられ、重金属がスリケンに鍛え上げられ、更なる破壊を生成する。それは正に、無限拡大するカラテ永久機関だ!

遂に無人機が壊滅、だがサツバツナイトの回転はさらに加速! そして――

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

身長の8倍の高さで跳躍! ファギュアスケート競技めいて軸を研ぎ澄ませ、きりもみ回転しながらレクデップが隠れたゴリアテの頭部に垂直落下! ひしゃげた頭部がスラッグ弾めいて胸までめり込み圧潰、機能停止! レクデップはカラテ衝撃に弾かれ、地面を転がるように2番目のゴリアテの陰へ逃げ込む。

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

サツバツナイトは身長の16倍の高さで跳躍! ファギュアスケート競技めいて軸を研ぎ澄ませ、きりもみ回転しながらレクデップが隠れたゴリアテの頭部に垂直落下! 潰れた頭部がダムダム弾めいて胴までめり込み破裂、機能停止! レクデップはカラテ衝撃に弾かれ、地面を転がるように3番目のゴリアテの陰へ逃げ込む。

「イヤーッ!」

サツバツナイトは身長の32倍の高さで跳躍! ファギュアスケート競技めいて軸を研ぎ澄ませ、きりもみ回転しながらレクデップが隠れた最後のゴリアテの頭部へと垂直落下! ――だが!

「付き合ってられるかよ! オレはここでオサラバだ!」

「ヌゥーッ!」

サツバツナイトのニンジャ動体視力は、恐怖と殺意がモザイク状に貼り付いたレクデップの表情と、3番目のゴリアテが引きずる防弾仕様の高速通信規格LANケーブルを捉えた。レクデップの右人差し指がこめかみに触れる。

「オタッシャデー! イヤーッ!」

「イヤーッ!」

ZAP!

凄まじい電光と破裂音が炸裂し、次の瞬間、高速回転するサツバツナイトがそれを貫いて垂直落下した。ゴリアテの頭部だったものがバンカーバスターめいて機体を貫通! 一拍置いてゴリアテの機体全身が――そして地に延びたLANケーブルが火花を吹き、焼けただれた中身を爆ぜ飛ばした。機能停止。

バチィ!

「――カハッ!?」

……先生の胸元で、小さな電光が散った。AED救命装置を当てられたかのようにチカがビクリと痙攣し、激しく咳き込みながら意識を取り戻す。右袖から年代物の腕時計が地に落ち、細く白い煙が昇った。――同時に、市役所の中でもいくつかの小さな電光が走ったのを、シロコが見ていた。

「……逃がした?」

「先生! 今のは確か!」

ノノミが先生の袖を引いた。ホシノとセリカも同じ表情を見合わせた。目の前の焼けたLANケーブルは、規模こそ違えど昨夜ノアから見せられた地下ケーブル破壊と同じ現象だ。

――ふいに先生はアロナを呼び、ある事を確かめる。

あのニンジャは「逃げた」。何らかのジツだ。爆発四散していない。ではどこに? 焼けたLANケーブルが逃走経路であるなら、その先は――

「サツバツナイト=サン、お願いします!」

先生は叫んだ。

ザンシンし振り向いたサツバツナイトを、盾をどかして立ち上がるアビドスの生徒たちが、先生が、見返して頷いた。周囲には微かな赤い光と駆動音……ゼンメツ・プログラムに感染した無人機の最終波だ。

サツバツナイトは逡巡なく身を屈め、そして夜空へと跳んだ。

「Wasshoi!」

それを見送る間もなく、先生を庇うように陣形を整え、各々の銃を構える生徒たち。その中で、’シロコ’の立てた耳だけがふと、漆黒のニンジャを先導するかのように飛ぶ「何か」に気付いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ターン!

カードキー認証を待たず、監視カメラの顔認証、声紋認証システムが、表面のホロモニタに緊急コマンドを走らせる透明ショウジ戸を開いた。中にいた数人の生徒と常駐スタッフがざわめく。

「セミナー書記、生塩ノアです。みなさんご無事ですか? 警備システムは緊急停止できますか?」

「セミナーの! 助かった!」

「暴走状態です、我々の権限レベルでは――生徒会クラスの権限がないと」

「そっちは私が。あ!アビドス対策委――生徒会の者です! 警備システムなら私の権限でも通るので!」

「お願いします。私とそちらの、ナカダ社のみなさんはメインサーバの緊急隔離、他はセミナーとの通信復旧をお願いします」

ノアは指示を飛ばし、自らも最奥の端末に向かった。

先生の指示を受けて2人が向かったのはアビドスデータセンター中枢、オペレーションルームだ。二重行政が生み出したもうひとつの、ミレニアム側の最重要拠点。警備システムの制御端末はここにもあった。

大小様々なモニタが、壁やデスクで目まぐるしく表示を変える。部屋の一面は防弾仕様クリアケースのUNIXサーバ、隣の一面を占めるのは大窓、いずれも不吉な夜に悲鳴を上げるように無数の小さな光を瞬かせている。遠くには市役所の輪郭――未だイクサの気配は消えていない。急がねば。

「操作方法は?」

「大丈夫です。各地区の警備システム連携解除……は時間がかかる。ごめんなさい、全体をいったん停止します。治安維持頼める先に連絡を」

モニタを見つめるアヤネの眼鏡に、ウサギがカエルの群れからヤリやボーを奪う進捗バーが映る。隣の中型モニタでは彼女のタイプに合わせ、再起動にあわせて警備システムをロールバックさせるためのコマンドが高速で流れる。その背景では、アニメーションのウサギが武者鎧をフルプレートメイルに着替えていた。

BEEP! BEEP !

ノアたちが操作する端末からは、電子音が次々と鳴る。地下のメインサーバが外部から物理的に切り離されて休止し、メインモニタに同型で区分表示されたプロパティが、タタミが裏返るようにブラックアウトしていく。

アビドスとミレニアム、生徒会の権限は絶大な効果を発揮していた。複雑な手順を跳ばし、ハッキングごとシステム動作を強引に切り替えていく。

「……はい、後は自動です。みなさんはシェルターへ退避を」

「通信回復しました!」

「分かりました。後は私が――」

最後のコマンドを実行し、ノアは振り返った。アヤネもタイプを終え、視線を上げたところだ。後はセミナーに支援要請を……肝心のニンジャはサツバツナイト=サンに任せる他ないのが歯がゆいが……

通信用の端末に手を伸ばす。だが――

ZAP!

「え……」

その時ふいに、背後のUNIX端末から青白い電光が散った。光と音、静電気の痛み、何よりその不吉な気配に、ノアは後ずさった。

「これは……まさか!」

ZZZAPPP!

稲妻が炸裂した。日常的に爆発に慣れた生徒たちですら怯む衝撃に、全員の視線が部屋の中心へと集まり、そして逸らせなくなった。

「イヤーッ!」

「みなさん!すぐに逃げて!」

ノアが叫び、銃を抜こうとした手首を、ニンジャ装束の腕が掴んだ。

「アイエエエエ!」

「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

「コワイ!」

ニンジャ・リアリティ・ショックを発症し恐慌状態に陥った生徒たちが、転がるように逃げてゆく。ただひとり、「コモンセンス」を抜いたアヤネの射線を、ニンジャは後ろ手に捻り上げたノアの身体で遮った。

「……お前は、まだだったな……ドーモ、レクデップです」

血走った目。アヤネはまっすぐに見返し、アイサツを返す。先生から聞いていた通りに……意味はよく分からないが。

「どうも……アビドス廃校対策委員会、奥空アヤネです」

「さっきはよく見えなかったが、覚えがあるぜ。その顔は。まあデスマスクだったがなあ」

「そうですか」

アヤネは落ち着いていた。自分でも不思議に思うほどに。

このニンジャが’シロコ’にしたことも、自分がその踏み台に、凶器に使われたことも、おおよその検討はついていた。高純度の怒りが、爆発する間もなく、堪忍袋を燃やしている。全身を焼くその熱量と、魂との温度差が、そうさせていた。

故に、過剰な熱の逃げ場を作るように、アヤネは聞いた。

「どうでしたか? シロコ先輩が最後に見た、私は」

「笑ってやがった」

「なるほど」

虚を突かれ、レクデップはつい覗き見たままを答えた。負の感情を圧し殺して無理に作った、ブザマの顔だったはずだ。――シロコがどう感じたかは知らないが。

「笑うのは間違いですね。次があれば、無理せず泣くことにします」

「――ア?」

レクデップは訝しんだ。アヤネの声が――いや、周囲の全てが急速に遠ざかる。まるでコトダマ空間の無限地平に立ったときのように。

時間感覚が急激に鈍化する。視界が一瞬、グリッチノイズめいて揺らぎ、奇怪なものに切り替わった。

砂の色、感触、ハラハラと落ちる音と軌道。その下には色褪せたインクがグラデーションとなって……元は蛍光色だった線……「サイクリング部員募集!」の文字。乾燥してひび割れたようなインク表面の皺。そして……砂を軽く払う女の指――淀みのないスローモーションで動いている。

(なんだ、これは……)

レクデップは困惑し、それが何かを推し量ろうと意識を――

「アバババババーッ!」

ニューロンへの凄まじい負荷がレクデップを襲い、思わずノアの腕を放す。と同時に、視界は元のデータセンターに戻った。

何たるウカツ! 彼はジツの余塵とアヤネの質問によって、そうと気付かぬまま、触れた腕からノアのニューロンに潜行していた。ニンジャ記憶力すらも凌駕する彼女の記憶力、暴力的なまでの情報量のただ中へ! まさにインガオホー!

BLAM! ノアを引き寄せながらアヤネが発砲する。だがレクデップは首を傾けてかわした。衝撃こそ強かったが、ニューロンへのダメージは軽微だった。

(今回は諦めるしかねえ……アイツに追われる! せめて人質を! コイツは危ねえ、こっちのメガネ女だ!)

レクデップはアヤネへと掴みかかる。

 

――その時。

アヤネの視線がふと、わずかに窓へと向いた。

レクデップのニンジャ第六感は鈍っていた。故に気付くのが遅れた。

――窓の外に、何かがある。

音もなく、巨大な質量がすぐそこまで迫っていた。

 

KRAAAAAAASH!

 

轟音と共にそれは――夜間飛行用無音ヘリから投下されたコンテナが、窓を突き破ってエントリーした。

 

 

(#6ヘ続く)




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