バンクジョブ・トゥ・デイズ・ゴーン・バイ   作:nallowship

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バンクジョブ・トゥ・デイズ・ゴーン・バイ #6

◆カラテが高まりゆく……◆

 

 

――その時。

アヤネの視線がふと、わずかに窓へと向いた。

レクデップのニンジャ第六感は鈍っていた。故に気付くのが遅れた。

――窓の外に、何かがある。

音もなく、巨大な質量がすぐそこまで迫っていた。

 

KRAAAAAAASH!

 

轟音と共にそれは――夜間飛行用無音ヘリから投下されたコンテナが、窓を突き破ってエントリーした。

「ンアーッ!」

「イヤーッ!」

装甲板とブースターが夜空に振り落とされた。ノアを抱えて倒れ込んだアヤネと、バク転で距離を取ったレクデップの間を、奇妙な鉄塊がUNIXを蹴散らしながら通り抜け、巧みな逆噴射によって壁までタタミ1枚で止まった。と同時に、甲高い金属音と遠雷のような駆動音を鳴らして、その鉄塊――オリガミめいて圧縮された機械のシルエットが膨張した。

3連装ガトリングガンの太い腕が唸り、残ったコンテナの部品をはね除け、航空機めいた白い装甲の脚が床を踏みしめる。

「重サイバネか!? ドーモ、レクデップで……す……?」

先手を打ってアイサツしたレクデップは、しかし唖然とした。

身を起こしたのは7フィートを越える巨体だ。――胴体ががらんどうの。

唯一、それが何かを知るノアが叫んだ。

「――アビ・エシュフ!?」

リオが製作した、トキ専用のパワードスーツだ。だがトキはいない。ジツに対抗しうる最上位の電子戦・EMP対策は施されているが、自律稼働できるようには作られていない。誰がこんなものを?

レクデップは訝しみつつ、カラテ警戒を向ける。理由はノアとは別だ。エントリーと同時に室内を充たした音と衝撃、粉塵、破損したUNIXの火花――そしてむせ返るほどの殺気!

(バカな、ただの無人機が出所なわけが――!?)

ニンジャ第六感が警告する。

模糊とした殺気がその瞬間、明確なビジョンへと変わる。――闇夜のジャングルに潜む飢えたレオパルドめいて、己の背を狙う2つの銃口!

(背後――天井ッ!?)

「メガネ! ノアの目と耳ふさげ!」

BRATATATATATATA!BRATATATATATATA!

「グワーッ!」

天井を蹴る音、そして叫び声と共に、鉛の雨がレクデップに降り注いだ! 跳弾と空薬莢が、断続的なマズルフラッシュに照らされてコマ送りに宙を舞う。ノアに被さり、まくり上げたジャケットで頭を覆うアヤネの背に、熱を帯びた破片がバラバラと散る。

「グワーッ」

幾ばくかの銃弾がレクデップの装束を削り、皮膚を削る。痛みと血が焼ける匂い。

――だが、軽い。過剰分泌されたニンジャアドレナリンがイクサの勘をクリアにした。火薬を減らして反動を押さえた、取り回し重視の銃弾だ。多少かすろうと支障なし! 火線を外しながら側面へ回り込み、

「イヤーッ!」

着地直後を狙った回し蹴りが直撃! サツバツ! 硬質の何かが砕ける音と感触を残し、襲撃者の影がピンボールめいてデスクを、天井を跳ね、壁に叩きつけられ完熟カキめいて破裂する。――レクデップはその光景を脳裏に浮かべる。だが!

「なめんなッ!」

BRATATATATATATA!

「グワーッ!」

飛来する銃弾のカウンター! 襲撃者は自らデスクを、天井を蹴り、勢いを殺して壁面に着地、そのままワラビモチめいて波うつ防弾仕様サーバケースを横に走る。その間も2つの銃口はレクデップを捉えて逃さない。ゴウランガ! 何たる身体制御か!

レクデップはザンシンの暇もなく、デン・ジツでかろうじて致命傷を防ぐ。散った銃弾と雷でUNIXが連鎖爆発し、視界がホワイトアウトする。

――と同時に銃撃が止まった。

「チッ……マトモに当たりゃしねえ。ふざけやがって」

アウトオブアモー、割れた窓の端で少女が悪態をつく。

空の弾倉と、スカジャンの懐から跳ね上がった対ニンジャ戦用重金属弾の弾倉が2つずつ宙に浮き、振り抜いた二挺のサブマシンガンに後者がかみ合った。リロード。微かな夜風が硝煙を吹き払う。

アビ・エシュフを揚陸艇に使いアンブッシュを仕掛けた小柄な赤毛の生徒は、切れた鎖を鳴らし、獰猛な笑みをニンジャに向けて、ひと息に、高らかにアイサツした!

「ミレニアム3年、Cleaning & Crearing部長、美甘ネル! ドーモ!」

 

 

【バンクジョブ・トゥ・デイズ・ゴーン・バイ】#6

 

 

ニンジャのイクサにおいて、アイサツは神聖不可侵の行為。古事記にも書かれている。

アイサツはされれば、返さなければ、ならない。ニンジャであれば。

(そうだ……アイサツを……)

内なるソウルが、ニンジャの本能が、レクデップにアイサツを強いる。

ただの生徒に!

明らかにニンジャの掟を知り、利用する敵に!

今まさに銃爪を引こうとする相手に、無防備に!

――たかがモータルのガキに!

(アイサツを、だと!? ――クソッ!)

「ドーモ、レクデップです! イヤーッ!」

「オラオラオラオラァ!」

BRATATATATATATA! ZZZZZAPPPPP!

銃火とジツが激突! アイサツ終了を待たぬネルの射撃は回避不可能。ワン・インチ距離で張った障壁が重金属弾でさらに押し込まれ、振動が骨に響く。

所詮はサツガイに与えられたジツだ。このサウザンド・デイズ・ショーギの盤面を返すワザマエは、レクデップにはない。銃を狙いニューロハックを飛ばすも、何故かタバスコの刺激臭しか感じ取れない。耐えるしかない!

(ジツで防ぎきれるか!? リロードまで――撃ち切るまで後何秒だ!? 血中カラテはギリギリか?)

冷や汗が一筋、レクデップの額を伝う。ネルの頬にも。

カラテ切れ、弾切れ、すなわち死。時間感覚が鈍化し、互いにその瞬間までの時間を数える。ガラパゴスゾウガメを追うイダテン・ニンジャの故事を想起せざるを得ない、無限の時間経過の中で――

だが。

「……ア!?」

レクデップのニンジャ視力は見た。見てしまった。

遠く、窓の外――ビル屋上に違法設置された送電線・高速LANケーブル用鉄塔の一つに、蛍めいて小さな火が灯っている。

(オイオイオイオイ――!?)

ニンジャ視力が集束、判別する。見間違うはずもない。

――赤熱する「殺」「伐」のカンジ。

サツバツナイトがいる。鉄塔を踏みしめ、身体を大きく捻った姿勢で。その背には縄めいた筋肉が浮かんでいる。蘇るヘルタツマキの悪夢。スリケンによる狙撃だ!

(弾切れはまだか!? ダメだ!まだある!避け――避けられねえ!銃弾が!あのカラテがジツで防げるわけが!)

狼狽するが、逃れる術はなかった。

銃弾が1発砕け、電光が閃き、消えた。再びその姿を捉えた時には既に、サツバツナイトは投擲動作を終えていた。反動で鉄塔がしなる。放たれた刃が迫る。――チャドー奥義、ツヨイ・スリケン!

「ザッケンナコラー!!」

――絶望に満ちたレクデップの悲鳴と、サツバツナイトのカラテシャウトを、銃弾とスリケンに貫かれて爆ぜたデン・ジツがかき消した。

血飛沫が白い壁と割れたモニタを染めた。

 

「ア……アバッ……」

レクデップは壁にもたれ、割れたモニタの縁を掴み身体を支える。

とっさに身体を捻り即死は免れた。だが右上腕は骨まで砕かれて力無くぶら下がり、右胸の裂傷は肺に達していた。メンポの中に血の味と匂いが充満し、血泡を吐く音が漏れた。

「ドーモ、サツバツナイトです」

「『ダブルオー』美甘ネル、ドーモ」

「早かったな」

「勘のいい仲間がいんだよ。『今夜状況が動く』が『待機してても戦闘はない』、つまり現場はミレニアムじゃない。ならここかD.U.、後はあたしの勘だ」

「上出来だ」

サツバツナイトは既に目の前にいた。遠く、跳躍の反動で違法設置鉄塔が折れ曲がり、焼き切れた送電線がセンコ花火めいて揺れていた。

目だけで逃げ道を探る。

窓の前にはサツバツナイト。油断なくジュー・ジツを構える。隣にネル……今度は迅速だが丁寧にリロードを終えた。

部屋の奥ではアヤネが銃を構える。ノアが隣で銃を構えつつアビ・エシュフの電源を落とし、ハッキングを未然に阻止。

残るは……

――ZAP

「…………」

オペレーションルームの入り口は、黒く深い闇に遮られていた。

闇からまず、微かに血のにじむ包帯を巻いた素足が現れ、床に触れた。そこからのびる白磁めいた長い脚が続いた。

灰色の長い髪と、同じ毛並みの狼の耳が、流れるように現れた。

暗い淀みが夜空を写す湖面のように揺れ、黒いドレスへと形を変え、消えた。

 

「ドーモ……”砂狼シロコ”です。返事は要らない」

 

異なる色の深い光をたたえた瞳が、レクデップを捉えた。殺気は消え、静かな死のアトモスフィアが、夜風とともにゆるやかに暗い室内をたゆたっていた。

「殺すつもりか」

「ん」

「先生が許したか?」

「聞いてない。……これは、私の、エゴ」

「ならばなおさら、オヌシに撃たせる訳にはいかぬ」

「あたし抜きで進めんなよ。せっかく来たってのに」

レクデップは理解し、戦慄した。

サツバツナイトも、生徒たちも、意識は既に誰がどのように自分を始末するか、させないかに移っている。死は確定事項なのだ。実際、それに怒りと屈辱を覚える余力も、抗うワザマエもなかった。銃弾の1、2発なら躱せるやもしれぬ。だがそれだけだ。

「ア、アバッ……待て、と、取引だ……そうだ、取引しねえか……?」

銀行で’シロコ’を嘲笑った台詞を、レクデップは再び言った。

「あるだろ!? 嫌な記憶、どうしても思い出したい記憶! ジツだ! 消すのも思い出すのもオレなら思いのままだ! こんなチャンスねえぞ!? 見逃してくれるなら! だから――」

ブザマにわめくレクデップを、サツバツナイトとノアは冷ややかに、アヤネとネルは不快そうに見る。勝算などない。ただのヤバレカバレだ。命乞いの声が上ずっていき、それがブザマさに拍車をかけた。

と、

「ん、なら答えて」

‘シロコ’が言った。

「私のなくしたマフラーは、今どこにある?」

「ヒヒッ……は、話が分かるじゃねえか……」

レクデップの表情が一瞬消え、弛緩する。顔を’シロコ’に向ける。――背後で訝しむアヤネには気付かぬまま。

「後生大事にしてたあの、水色のマフラーだよな? いいぜ、すぐに分かる。この俺のジツがありゃあ……」

震える左の人差し指を、こめかみにあてる。

だが。

「ん、もういい」

「……ア?」

「私のマフラーは、この世界にはない。前の世界に置いてきた」

間のぬけたレクデップの顔へ、それだけ言ってシロコは銃を向けた。無感情ではない、無慈悲な表情で。

(何だこいつ……何がしたいんだ? 訳が分からねぇ――)

視線が自然と銃口に向く。吸い込まれるようなライフリングの奥に、弾頭が見えた。その上では照準器越しに髪が揺れる。

「――ッ!」

黒。

先ほどまでシロコと交換していた、白い銃ではない。彼女本来の――ニューロハック・ジツが通るはずの銃だ! ウカツ!

(――シマッタ! こいつ分かっててジツを使わせようと……ジツが完全に切れてるか確かめるために!)

「ま、待て! 俺はまだ!」

「もう終わり。ただのスクラップブックに用はない」

少し血のにじんだ指が、銃爪にかかる。他の3人も、だ。1秒も経てば誰かが撃つ。撃たれる。そして生徒に撃たせないために、サツバツナイトがカイシャクの一撃を放つ。チョップか、スリケンか。逃れる術は、もう――

「アイエエエエエエッ!――」

「イヤーッ!」

BRATATATATATA! BLAM!BLAM!

ブザマな悲鳴が上がり、銃弾とスリケンが風を切る音が鳴った。

 

――ZAP!

一瞬、その合間に激しい雷鳴を挟んで。

 

静寂。

傾いたデスクから薬莢が落ち、虚ろな音が鳴る。そして再びの静寂。

「……逃げたな」

「ウム」

ネルは銃を下ろした。鎖を巻いていた腕から、思い出したように血の雫が落ちる。

アヤネとノアはそろって、糸が切れたジョルリ人形めいて腰を抜かした。軽度のニンジャ・リアリティ・ショックだ。――2人の後方、ノアが操作していたデータベース管理用端末が、激しく火花を散らしている。

4つの銃口は、細い硝煙をくゆらせていた。

血で濡れていた壁は、人の形に黒く焼け焦げていた。まさにマンターゲットだ。喉笛、心臓、股間の位置にスリケンが、左腕に2発、脚にそれぞれ7、8発の弾痕があった。

「よかったのだな?」

「……」

ザンシンを解くサツバツナイトの問い掛けに、‘シロコ’は何も言わず、小さく頷いてアサルトライフルを下ろす。アヤネを見て、少しばつが悪そうな顔をして、ゆっくりと目を閉じて息を吐いた。

彼女の銃にだけは、硝煙はなかった。

「でも……よかったんですか?」

「ミレニアムからの依頼は、ニンジャの捕獲もしくは討伐。ただし最優先の条件として『ニンジャをミレニアムの外に逃がさぬこと』。オーテ・ツミだ、あやつに逃げ場などない」

アヤネの問いに、サツバツナイトは――トレンチコート姿のフジキド・ケンジはそう答えて、ハンチング帽を被った。

なおも不安そうなアヤネとノアに、ネルが視線で促す。部屋の隅、ノイズで明滅する液晶モニタの画面には、ウインクするヒマリのアスキーアートが焼き付いていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「アババババーッ!」

レクデップは固く冷たい床に這いつくばり、電流を浴びたカエルめいて激しく痙攣した。ずれたメンポの隙間から血反吐があふれる。だが腕と胸の傷は、焼かれたように塞がっていた。

他者の肉体に一時的に同化し、ニューロンに干渉するニューロハック・ジツ。これにサツガイに与えられたデン・ジツを合わせ、ニューロンに見立てた物理ネットワークに己を同化させることで、UNIXからUNIXへと跳び移る。まさに切り札だ。

だが血の気の引いた顔には、死地を逃れた安堵はなく、依然として恐怖の相を浮かべていた。

「アバッ! 何だ……今のは……?」

左手で頭をかきむしり、五感を確かめる。右腕は動かない。全身が酷く重い。

ジツを使ったのは3度目だ。1度目は全身が四散するような感覚を覚えた。記憶の感覚を徐々に馴染ませ、2度目は支障なく使えた。3度目は傷と血中カラテの枯渇から躊躇ったが、結果として命を拾った。死ぬ覚悟のないやつから死ぬのだ。

だが代わりに、3度目は一瞬だけ、転移中に意識があった。コトダマ空間に入ったかと思ったが、違った。

――銀河だった。

夜空ではない。文字通り天文学的な数の星々が、銀河を、星雲を構成し、神々の造りたまいし完璧な物理演算に従って天地四方にひしめき、生と死、時の流れが幾重にも、幾重にも折り重なり、そのただ中に己の意識が放り込まれていた。

そして己を無為に、アルカイックな笑みで見下ろす数も知れぬ者たち……おそらくボディサットヴァか。

あれこそがブッダの識る一切の世界。

――果てしなき虚空。

自我が意識を保ったまま、無限の時に稀釈されていく、その恐怖。

「ゴボボーッ!」

こみ上げた胃液とともに肺の血を吐き出し、激しく咳き込む。

……そこでレクデップは我に返り、顔を上げた。

「……なんだ、ここは?」

何もない部屋だ。壁と天井、埋め込みのLED照明。直接は見えない隙間から、空調らしき音がする。それだけだ。

人が生活する空間ではない。密閉され覗き窓もない、外界と隔絶するための部屋だ。おそらくはサーバ室あるいは金庫室のような。だが一方で、人の気配の残り香、生活臭のようなアトモスフィアがあった。家具を引き払った空き家、それもただの部屋ではなく――

「……子供部屋?」

 

「回線を切れ、コトブキ。子どもは寝る時間だ」

 

背後で声がした。

物理開閉装置なしでは動かない扉が重々しく閉ざされ、濁流めいたロック機構の駆動音と排気音が壁に響く。

心臓をわしづかみにされた感覚を覚え、レクデップは振り向いた。

部屋の中央にはUNIXの残骸が乗ったチャブ。焼けた高速規格LANケーブルが部屋の入り口――巨大な鉄扉へとのび、手前で断ち切られている。その傍らに、青年が立っていた。

部屋の角で監視カメラのLEDが赤く瞬き、沈黙した。その光を受けた合金製の円い鉄扉に、レクデップはふと、「インガオホー」と告げるネオサイタマの割れた月を思い出した。

 

 

『閉鎖完了です、お疲れさまでした』

「ありがとうございます。第三線は通信封鎖の解除を。戦闘班はビル周辺で待機、警備班は区域への通信機器持ち込みを警戒してください」

「コタマ、中の様子は?」

「音質最悪、ASMRなら鼓膜が壊れます。声は拾えます」

「その方がいいんですよ? 万が一にも逃がす訳にはいきませんから」

数秒前まで幾百ものBEEP音がけたたましく多重再生されていたヴェリタス部室は、急速に平静を取り戻していた。脱力したチヒロとコタマの椅子がきしむ。

「コトブキ=サンもお疲れさまでした」

「はい! わたしは大丈夫です、後は任せて休んでください」

「駄目ですよ、あなたは一応部外者ですから」

チャットではない快活な声。制服姿のオイランドロイド――ウキヨのコトブキがLAN直結を解除し、ケーブルを外した。

「でも、お言葉には甘えますね。チーちゃん、先に休んでていいですよ。コタマはもう少し警戒お願いします」

「…………」

「……部長」

コタマが小声で言う。限界だったのだろう、チヒロは既に机に突っ伏して寝息を立てていた。コトブキが毛布をかけ、UNIXにシャットダウンのコマンドを入力した。

ヒマリたちの仕掛は終わった。後はただ、旧式盗聴器を通してイクサの趨勢を見守るだけだ。

ミレニアム-D.U.間――実際にはさらにキヴォトス外へと続く通信ケーブルの大規模破壊。その分析結果は、「あくまで物理ネットワークの破壊であること」「強い負荷がかかっているサーバやプロキシを機械的に回避すること」を示した。さらに終点、ミレニアム内のとあるサーバルームには、内部から侵入した痕跡があった。この段階でヒマリは、「色彩」や「預言者」ではなくニンジャのジツだと察した。リオのレポートがそれを裏付けた。

ジツの性質上、ニンジャは通信網のあるミレニアム周辺に潜んでいる。ならばネットワークを掌握し、ジツを使うタイミングで狙った地点に過負荷をかければ、ニンジャを任意のUNIXに誘導できる――と。「仕掛」はシンプルだ。

ユウカとチヒロが自治区中を駆け回り、損害補填のための予算をかき集め、通信企業各社に頭を下げた。非合法設備はヒマリがバックドアを仕込み、待った。ミレニアムのどこでジツを使おうとも、予測パターンに従い仕込んだメガデモ「ギャラクシー胎内マントラ美男子」が通信網をせき止め、最終的に元・銀行の金庫室――コユキの反省部屋へと導く準備を整えて。

そして狙い通り、ニンジャは誘い込まれた。周囲の通信設備は全て撤去、進入路は片道切符。当初は餓死寸前まで幽閉、確保するつもりだったが、生徒には危険だと「彼」に止められた。

自分の選択、その結果は確定した。イクサはもうすぐ終わる。それが正しかったか否か……

「まあ、それは未来の私に任せるとしましょう」

ヒマリは呟く。かわいい後輩たちを守れた、今はそれで良しとしましょう。

チヒロがうなされている。きっと小塗マキのことだ。コトブキに見せてもらったネオサイタマの風景、知人のグラフィティを見て飛び出して行った。謝罪に行くのはどこだ? 明日、目が覚めれば、またいつもの騒がしい日常だ。

「後は番狂わせが起きなければいいのですが」

「大丈夫です、専門家ですから――」

コトブキは反省部屋にいたニンジャの名を上げる。

 

リオが救援を求めるよう指示したのは、サツバツナイトではない。今朝、コトブキとともにミレニアムに到着した「彼」のことだ。――

 

 

「お! お前は! どうしてここに!?」

レクデップは悲鳴を上げ、後ずさった。

(昨日、ゼンメツ・プログラムを求めてキヴォトスの外に行き、コイツに会った。狙いは売人のニンジャ。カラテで殺された。次は俺だと――ネオサイタマで抜き取った誰かだかの記憶を、俺ごと殺して消すのだと!)

無我夢中でジツを使い、逃げた。あの時から計画の目的が変わった。このニンジャの手が届かないところに、一刻も早く逃げるために――

「言ったはずだ。お前を殺しに来た」

青年は決断的に告げた。その周囲が暗く、陽炎めいて揺らめいた。

「ま、待て! 俺は――」

「お前の事などどうでもいい。サツガイを知っているようだが、今さら吐かせることもない。日付が変わるまでには片付ける」

焼け付くような風が、金庫室の中を奔った。

青年の姿が一瞬で変わっていた。ミレニアムのジャケットから、赤黒のニンジャ装束へ。首のボロ布から散った不浄の炎が集まり、縄めいてブレーサーに巻き付いた。

「今日、ここで、ニンジャが1人、死ぬ。それで終わりだ」

赤黒のニンジャの口元を、鋼鉄のメンポが覆った。――「忍」「殺」と刻まれたメンポが。

 

「お前に明日はない。ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

 

「アイエエエエッ! ナンデ! ニンジャナンデ!?」

レクデップは発狂した。

右腕の傷が開き、したたる血が飛んで、視界の右下に小さく赤黒い点を打った。

 

 

ほどなくして。

「サヨナラ!」

ニンジャスレイヤー――マスラダ・カイが言った通りの記録が、ミレニアムのデータベースに残された。

記録はまとめてドゥアト渓谷の地下データベースに送られ、ノアが記憶しなかったため、やがて忘れ去られた。

 

 

◆◆◆エピローグに続く◆◆◆




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