学校自衛隊ー特別武装親衛隊 異世界に行ったり銀河に行ったり別の世界に行ったりする最強の部隊の物語 小説家になろうでも投稿してますが一部内容が異なります 作:kanioiC
第一訓練日 ――歪んだ日常の始まり
朝の空気は、やけに澄んでいた。
それがかえって不気味に感じられるほどに。
校門の前には、見慣れない車両が数台並んでいた。
濃い緑色の無骨なトラック。
車体には、学校には似つかわしくない政府の紋章が刻まれている。
「……本当に始まるんだな」
誰かが小さく呟いた。
yunは無言でそれを見つめていた。
胸の奥が、少しだけ高鳴っている。
怖さよりも、正体の分からない期待の方が勝っていた。
校庭には、学年ごとに整列させられた生徒たちが並んでいた。
制服姿のまま、ぎこちなく列を作るその光景は、どこか現実感がない。
橋田の号令が響く。
「静粛に! 本日より諸君らは、学校自衛隊候補生だ!」
教師たちは一歩下がり、完全に脇役となっていた。
代わりに前に立つのは、迷彩服に身を包んだ大人たち。
「まず言っておく。
ここは“学校”だが、今日からは訓練施設でもある」
生徒たちの背筋が自然と伸びる。
「だが安心しろ。
いきなり危険なことはしない。
今日は――基礎中の基礎だ」
最初の訓練は、走ることだった。
「校庭十周! 時間制限あり!」
不満の声が上がるが、誰も逆らえない。
走り出すと、すぐに現実を思い知らされる。
「は、はぁ……きつ……」
「なんでこんなの……」
体力に差があり、列はすぐに崩れた。
転びそうになる者、早くも歩き出す者。
yunは――
淡々と、一定のペースで走り続けていた。
息は乱れているが、表情は変わらない。
橋田がそれを見て、わずかに眉を動かす。
「……あの子、名前は?」
「記録上は“yun”です」
「ほう……」
次は整列訓練。
「右向け右! 左向け左! 前へならえ!」
声が重なる。
動きが合わず、何度もやり直しになる。
「違う! 遅い!」
怒号が飛ぶたび、生徒たちは肩をすくめた。
yunは、周囲をさりげなく観察していた。
誰が動けて、誰が苦手なのか。
自分でも理由は分からないが、自然とそうしていた。
休憩時間。
地面に座り込み、皆が水を飲む。
「なぁ……本当に銃とか使うのかな」
「やめてよ……冗談でも怖い」
「でも航空機操縦……ちょっと憧れるよな」
そんな会話を、yunは聞き流していた。
視線の先には、校庭の端に置かれた黒いケース。
明らかに、体育用具ではない。
――あれは、まだ使わない。
なぜか、そう確信していた。
最後は、姿勢訓練。
「立て。
“気をつけ”の意味を教える」
橋田の声は、先ほどより低い。
「諸君らは、まだ子供だ。
それは事実だ」
一瞬、空気が緩む。
「だが――
政府は、諸君らを“戦力”として扱う”」
その言葉で、空気が凍りついた。
「だから、ここでは甘えは通用しない。
泣いても、嫌がっても、訓練は続く」
沈黙。
yunは、まっすぐ前を見ていた。
恐怖は、ない。
ただ――
何かが始まったという感覚だけがあった。
訓練終了の号令がかかる。
「本日はここまで!
明日も同じ時間に集合!」
解散の声がかかると、生徒たちは一斉に力を抜いた。
帰り道、誰もが疲れ切っている。
だがyunだけは、心の奥で思っていた。
(……もっと、やれる)
なぜそう思うのか、自分でも分からない。
その時、校舎の二階から、誰かが彼を見ていた。
それは偶然か――
それとも、最初から決められていたことなのか。
こうして、
歪んだ訓練の日常が、静かに幕を開けた。
解散の号令がかかったはずなのに、生徒たちの足取りは重かった。
校庭から校舎へ戻るその短い距離が、異様に長く感じられる。
yunは、自分の脚がわずかに震えていることに気づいた。
疲労のせいだけではない。
胸の内側に、言葉にできない違和感が溜まっていた。
(……これで終わり、なわけがない)
そんな予感が、離れない。
午後の時間割は「座学」とされた。
だが、その内容は、これまでの授業とは根本的に異なっていた。
教室の黒板には、白いチョークで簡潔な文字が書かれている。
・国家
・秩序
・敵性存在
・正当防衛
教師ではなく、橋田が前に立っていた。
教師は教室の隅に控え、発言することはない。
「いいか。
まず理解してもらう必要があるのは、国家は常に正しいという前提だ」
その言葉に、生徒たちは反応できなかった。
肯定も否定もできない。
ただ、聞くしかない。
「国家が決定した以上、それは“誤りではない”。
誤りだと感じるのは、個人の理解が追いついていないだけだ」
yunは、無意識に視線を落とした。
その理屈が、どこか危険な匂いを帯びていることだけは分かった。
「次に、“敵”について説明する」
黒板に、新たな文字が加えられる。
・反政府組織
・思想的敵対者
・非協力的存在
「敵とは、武器を持っている者だけを指すわけではない。
国家の秩序を乱す存在すべてが該当する」
誰かが、小さく息を呑む音がした。
「諸君らは、将来的にその“敵”を識別する側に立つ。
だからこそ、今のうちから思考を矯正する」
――矯正。
その言葉が、yunの耳に妙に引っかかった。
数時間に及ぶ講義は、淡々と進められた。
専門用語が多く、難解で、どこか現実感がない。
それでも、yunは必死に聞いていた。
理解できているかどうかは別として、
聞き逃してはいけないという直感だけがあった。
(知らないと……まずい)
なぜそう思うのか、自分でも分からない。
だが、知らないことが「危険」になる世界に入ったのだと、本能が告げていた。
再び校庭へ出される。
今度は、姿勢保持訓練だった。
「動くな。
指一本でも動いたら、やり直しだ」
直立不動のまま、時間だけが過ぎていく。
風が吹き、汗が頬を伝っても、拭うことは許されない。
yunの脚は、すぐに悲鳴を上げ始めた。
体力がないことは、自分が一番よく知っている。
(……きつい)
だが、周囲を見ると、もっと苦しそうな生徒もいる。
倒れそうになりながら、必死に耐えている者。
歯を食いしばり、目を閉じている者。
誰も声を上げない。
上げられない。
「――よし、そこまで」
その一言で、全員が一斉に力を抜いた。
何人かは、その場に座り込んだ。
橋田は、それを咎めなかった。
ただ、冷静に記録を取っている。
「今日の訓練で、諸君らの基礎的傾向は把握した」
生徒たちの視線が集まる。
「体力に優れる者、そうでない者。
規律に適応できる者、抵抗を示す者」
yunは、なんとなく分かっていた。
自分は――評価される側ではない。
実際、橋田の視線は、彼の上を素通りしていった。
解散。
その言葉を聞いた瞬間、生徒たちの表情が一斉に緩んだ。
「帰れる」という事実が、何よりの救いだった。
教室に戻り、荷物をまとめる。
いつもと同じはずの行動なのに、妙に現実感がない。
yunは席を立つ前、ふと窓の外を見た。
校庭の隅。
午前中に見かけた、あの厳重に管理されたケースが、まだそこにあった。
誰も触れない。
誰も近づかない。
だが、なぜか――
視線だけは、自然とそこへ向いてしまう。
(……関係ない)
自分に言い聞かせるように、yunは目を逸らした。
今の自分には、体力もない。
評価される理由もない。
なのに。
胸の奥で、小さな違和感が、消えずに残っていた。
校門を出ると、夕方の光が街を照らしていた。
見慣れた風景。
いつもの帰り道。
それでも、世界が一段階ずれてしまったような感覚がある。
(明日も……ある)
そう思った瞬間、
yunは、なぜか「逃げたい」とは思わなかった。
怖い。
苦しい。
理解できない。
それでも――
知りたいという感情だけが、静かに残っていた。
こうして、第一訓練日は終わった。
だがそれは、
身体ではなく、思考と価値観を削り始める工程の、ほんの導入部に過ぎなかった。