友人の勧めで咲を観たら病的にハマったので書きました。
麻雀歴は無いです。
どぞ。
第一巡 帰郷
なんの変哲も無い道を行く男がいる。
彼にしてみればまるで見慣れない建造物や自然の数々。
否、正しくは見覚えはある。ただ、詳細が異なる。
瓦屋根は激減し、オーソドックスな形をしていない建物が目立ち、生き生きとした田んぼや自然が目に入る。
ーーなんなんだ、ここ。日本に違いは無いようだが……。
上下銀のスーツに赤のワイシャツ。朱い逆三角形のサングラス。
それらを制して余りある逆立つ銀の髪。
どう見てもスジ者にしか見えないその男、名を平山幸雄。
生前は闇に降り立った天才・赤木しげるの偽者として悪徳刑事・安岡に連れられ浦部と賭け麻雀を打ち、あえなく敗北した男。
以降、鷲巣 巌という日本を裏から牛耳った狂人に目を付けられ、再び麻雀で敗北。鷲巣の金と、己の致死量に達する血を賭けた鷲巣麻雀によって、死ぬまで血を抜かれた男。
そう、本来ならこの男は死んでいる。
それをこの男は正しく理解している。
故に。何も理解出来ないまま、整備された小川の走る林道のような場所を歩いていた。
「…ちっ、結構歩いたはずだが、誰も見かけないな」
目覚めて最初に疑ったのはここがあの世かどうかという事。
しかし、認識できる全てと死後の世界と言われるモノの知識を繋げてもここはあの世とは思えなかった。
だが、決定的な確信をもって[自分は蘇った]と言う事も出来ない。
「それともアレか?人っこ一人いない場所があの世だって言うのか?」
平山幸雄が目覚め、歩き出して約一時間、誰とも会えていない。だからこその独り言。
ーーの、はずだった。
「うわっ」
幸雄、少年の声に気付く。
出どころは少し離れた場所。急ぎ足で向かえば逃げられる事も無い距離。
「良かった、やっと人が居た」
本心からの言葉だった。
「そこの金髪の少年!悪い、ここが何処か教えてくれないか!」
出来るだけ警戒心を駆り立てないように声色を和らげ、可能な限り善人であるとアピールする為に笑顔で駆け寄る幸雄。
が、こんな見た目の男がどう繕っても無害な人間に見えるはずも無い。
少年、最大級の警戒。
「あの、えっとぉ……」
「ん?あぁ、そうだよな、こんな見た目の男が寄って来たらそうなるよな」
「ま、まぁ、言い辛いですけど……」
「はは、素直でいい。安心してくれ、取って喰ったり、金をたかろうとしてるわけじゃ無い」
この平山幸雄と言う男、見た目や生き方こそ道を外れた者である事に違いは無い。
だが、その思考回路は常に合理的。彼の麻雀の打ち方からしても、不必要に危険を冒す男ではない。
それがこの少年ーー須賀 京太郎にも伝わったのか、警戒心が少しばかり緩んた。
「……そうだな。俺が聞きたいのは一つだけだ。そしたら直ぐ帰ろう」
「……そういう、事でしたら」
「助かる。で、聞きたい事なんだが」
幸雄はそう言い、一度辺りを見回す。
それから京太郎に向き直ると、少しだけ呆れ気味になりながらも質問を口にした。
「この辺で麻雀を打てるところは無いか?」
「ま、麻雀、ですか?」
京太郎、返答に戸惑う。
何故なら、どこからどう見てもこの辺りに雀荘は無いからだ。
ただ一か所、雀荘では無くとも打てる場所を除いては。
「ああ。初対面の君に言っても仕方が無いんだが、俺は麻雀が好きでね。困ったら近場で打つ事にしてるんだ」
でまかせである。そんな人間いるわけが無い。
しかし、何も分からず、下手をすれば持っている知識の殆どが役に立たないかもしれない場所で詳細に尋ね事が出来るわけも無い。
一先ずは不特定多数の人間が出入りする場所で情報を集め、今後の方針を決める。
雀荘に向う理由はそれだが、馬鹿正直に答えても不審がられて逃げられるに違いない。
結果、ある種の博打に出るしかなかった。
ーー全く、最初にやる事が賭けか。つくづく俺は真っ当には生きられないらしい。
「えっと……言い難いん、ですけど……」
「…やっぱりか」
「はい。ここら辺に雀荘は無いです。一応、打てる場所自体は、あるんですが……」
京太郎に電流走る。
言ってしまう余計な事。圧倒的に不用意な発言。
「何っ!本当か!?ならとりあえずそこを教えてくれ!」
幸雄、当然尋ねる。
なんであれ人が何人もいる場所であれば情報を集めようはある。
「あ、えっとぉ……」
後に引けない京太郎。どうやら悪い人間ではなさそうではあるがこの見た目。嘘や冗談を許してくれるとは思えない。
「……俺の学校にある麻雀部……なんですけど」
であれば、行く所まで行く。相手の常識に賭けて……ッ!
「な……学校で……麻雀……?」
「え…?あ、はい。そうですけど…」
しかし。京太郎の考えていた反応とはまるで違うモノが返って来る。
ーーこの人、何を驚いてるんだ?今時麻雀部なんて珍しくも無いだろうに。
困惑している。
赤と銀のツートンカラーヤクザ擬きが頭を悩ませている。
ーー学生とは言え麻雀を打ちながらならある程度は話を聞けるか?……上手くすれば大
人よりも簡単に警戒を解いて会話してくれるかもしれないが……。
そして。
ーーいや、良いじゃないか。既に賭けをしているんだ、一度目も二度目も似たようなものじゃないか。
「……行って、良いか?」
「ずがーーん!!」
「ず…何だって?」
「あ、いえ!一応俺、そこの部員なんで、大丈夫だと思います!!」
京太郎、再びの失言。つかない取り返し。
ーーええい、こうなったらどうにでもなれ!どうせ部……元部長はもう暫く学生議会長だ!このおっさんが何も悪さし無けりゃ何とかしてくれるだろ!!
「そうか、それなら良かった。大丈夫、安心してくれ。絶対に迷惑はかけない」
「あ、あははは。そんなの心配してないですよ」
「そうか?こんな見た目だと勘違いされる事も多くてな。そう言ってもらえると助かるよ」
「た、ただ、流石に誰かに見られた時に言い訳が立たないとマズいんで……」
「…確かにそうだな。なら、遠い親族って事にでもしておくか?」
「そ、そうですね。それが良いと思います!」
「だとしたら、その畏まった話し方は良くないな。もっと気楽な感じで頼む。大丈夫、こう見えて冗談は通じる方だ」
「ほ、ホントですか?……なら、こういう感じでもいいっスかね?」
「ああ!少し距離感はあるけど、親しさも出したい。そういう微妙な距離感が出てていいと思うぞ…えぇっと?」
「あ、京太郎です。須賀京太郎」
「そうか、俺は……そうだな……」
逡巡する幸雄。
本名を名乗るという選択肢は当然ある。しかし、裏社会を生きて来た彼にとって表の人間に本名を名乗るというのはあまりにリスク。無謀。
下手をすればこの少年に何かしらの面倒が降りかかりかねなくもある。
ーー……流石にそれは問題か。
今自分がどういう状態なのかが分からない以上は安易に個人情報は出せない。
自分が反応しやすく、それでいてどこにでも居そうな名……。そう考えた時。
幸雄、閃く。
自分に馴染みがありながらも無難な名を。
「アカギ、とでも呼んでくれ」
「『赤木』っスか?お、お兄さん?」
「ああ。……変だったか?」
「あ、いや、寧ろありきたりと言うか……」
「なら良かった。それと、俺の事は『おじさん』で良い。……この見た目でお兄さんはちょっと、やばいだろ?」
「あ、確かに」
「ははっ、それじゃあ、早速行こうか。京太郎!」
「そーっスね!赤木おじさん!」
かくして、平山幸雄ーーもとい、アカギはこの地で麻雀を打つ事となる。
ーーまた野郎の名を借りるとは。因果な話だ。
須賀 京太郎と名乗ったその少年からは想像もできない程の打ち手が集う、魔窟で。
ーー……それにしても、随分と気軽な話し方が出来たもんだ。『馬鹿は死ななきゃ…』なんて言うが、俺も少しは日の光を浴びれるようになったのか?
果たして。
次巡へ続く。
こんな感じで進んでいきます。