咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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第十七巡 再会

 あの日。

アカギさん……ううん、アカギさんを名乗る誰かと打った日。

私は勝つ事が出来なかった。

……違う。勝負自体は勝てた。でも、あの人は[駄目だ]と分かっている牌を、それでも捨てた。

自分の気持ちに正直になる為に。

もしもあそこであの人が思い止まっていたら……。

 

 ーー勝負は、分からなかった。

 

 『なんにしても勝ちは勝ちよ。貴女の強さはどこにだって通用する。それでいいんじゃないかしら』

 

竹井先輩はそう言ってくれたけど……。

私はそうは思わない。

もっと強ければ。私が圧倒的に強ければ。

あの人が読み切れないくらい強ければ。

 

 ーーもっと楽しいまま、あの人だって対局を終われたんだ。

 

今年の県大会が始まる頃になっても私は私の弱さが許せなかった。

もしも同じ事が県大会や全国大会でも起きたりしたら。

……そう思うと震えが止まらなかった。

 

 「……咲さん?」

 

 「和ちゃん…」

 

 「そろそろ一回戦目、始まりますよ。……大丈夫ですか?」

 

 「うん。……大丈夫。何があっても負けないから」

 

 「……ええ。一緒に、頑張りましょう!今年も全国に行けるように!」

 

 「うん……!」

 

トイレの鏡の前で立ち竦んでいた私を呼びに来てくれた和ちゃんに握られるまま手を引かれてみんなの居る場所に戻る。

色んな人がいる。

色んな制服が目に映る。

みんな、私が倒すべき相手。

その中には去年よりも強くなった衣ちゃ…さんだっている。

池田先輩だって対策を打ってきてるはず。

 

 ーー間違っても出来無い。あの人の時みたいな打ち方。

 

誰が勝っても楽しめるように打つんだ。

 

 「おー。また迷っとったんか?」

 

 「咲は相変わらずだなぁ。そろそろGPSでも持ち歩くか?」

 

 「阿呆。それで分かるんは咲の居場所だけじゃろが。咲が場所分からんと意味なかろうが」

 

 「むむ!?とすれば、きょーたろーが持ってれば……」

 

 「最近はプライバシーもうるさいしこの案はやっぱり無しだな!良いよな、咲!」

 

 「え?あ、うん。よく分かんないけど、無しでいいんじゃ…ない?」

 

見慣れたみんなの中にいない見慣れたはずの人。

でも、大丈夫。

竹井先輩はもういないけど、これから一緒に戦ってくれる新しい仲間がいる。

その人にも恥ずかしくないように頑張るんだ。

私が全部、倒すんだ。

もうインターハイにはいないおねぇちゃんにも、麻雀が好きな気持ちは変わってないって届くように。

麻雀を通して……!

 

 

        ーーーー    ーーーー    ーーーー    ーーーー

 

 「……やっと見つけた」

 

 誰も知らないだろう山の奥。

寂れた墓所の一角にあいつの墓はあった。

 

 「随分と探した。全く、死んでからもどこにいるか分からないなんてな」

 

上着の内ポケットから煙草を二箱取り出し、一つを墓石の正面に立てかけてやる。

そして既に開いているもう一つから一本取り出して火を点けた。

 

 「悪いが、お前の好きな銘柄も知らなければ俺にそういう趣味も無いんだ。吸いたければ自分で火を付けろ」

 

煙を吸い込み、吐き出し、自分の箱を元の場所に戻してから左手をズボンのポケットに入れる。

……神域の男、とまで言われた男も死ねばこの様か。なんとも救い難い話だ。

 

 「アルツハイマー、だったか?天才も老いには勝てなかったか。これで少なくともお前は神なんて大層な野郎じゃない事だけは分かったな」

 

携帯灰皿に灰を捨てて更に煙を吸い込む。

随分と俺もこの時代に慣れたものだ。自由なようで不自由、生き易いようで生き難い、難儀な時代だ。

 

 「……今更だが、お前とは一度打ってみたかったんだ。命を賭けて。……そう思っていたが、今は少し違う。賭けもヤクザも関係の無い場で、自由に、朝まで。今はそう思っている」

 

根元まで灼けてしまった吸殻を携帯灰皿に捨てて更にもう一本、火を点ける。

不思議なモノだ。アテも無いからこいつの果てを見に来ただけのはずが思いの外思うところがある。

どれだけ口達者に話したところで届くわけも無いのにだ。

 

 「自由な麻雀と言うのも存外悪く無い。お前のような変人だ、鷲巣との麻雀こそを至高と思うだろうが、あんなのは沙汰じゃない。狂気のそれ……。人のする事じゃない」

 

煙を吐き捨て、二本目も携帯灰皿に捨てる。

 

 「俺の言っている事が気になるのなら死に戻ってこい。俺のように。そうしたらあいつらを紹介してやる。……鷲巣に負けず劣らずの打ち手だ。眠け覚ましには丁度良いだろう」

 

一方的に吐き出し、踵を返す。

言いたい事は言った。後はお前が聞きたくなったかどうかだけだ。

 

 「話はそれだけだ。死ぬまでに気が向いたらまた来てやる。……今日は約束があるんでな」

 

返ってくるはずも無い返事を鼓膜で待ちながら俺は墓所を後にした。

次に向かうのはあいつらの待つ場所。麻雀の県大会が行われているところだ。

一回戦に間に合うかは分からないが、決勝までには確実に着くだろう。

あいつらなら、なんて事も無く辿り着くはずだ。

 

 「……自由な場所で、か。治安の良い雀荘でも探してみるか?」

 

知らぬ間に口を吐いた言葉に小さく笑い、駅を目指して進む。

 

 ーー煙草。……は、やめておくか。こんな事でまたサツに目を付けられたら面倒だ。

 

本当によくもこれほど丸くなれたものだと我ながら感心する。

死に戻りの影響なのか、裏世界から足を洗ったからなのか。

それとも。

 

 「……いや、いっそ自分で開くか。麻雀教室」

 

あの子供達と打ったからなのか。

いずれにしろ皮肉な話だ。

麻雀で死んだ男が、麻雀で生まれ変わるんだからな。

 

 

 

 

終局。

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