咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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 終わりとは言ったのですが、実は十七話までを書きながら続きも考えていまして。
評判が良かったら書こうかな、なんて思っていたら本当に評判が良かったので調子に乗って書きました。

評価・感想を書いてくださった皆様、本当に有難うございます。
一日の気分が変わるくらい励みになってます。


どうにか頑張って、十七話までの面白さや完成度を損なわないように書いていく所存ですので、もう少しお付き合いしていただけると嬉しいです。


東京編
第十八巡 経過


 「しっかしすまんなー。いきなり『東京案内してくれ~』なんて言ってもうて」

 

 「……別に。ただ、どうして?とは思ったけど」

 

 「まぁせやろな。別にウチら、最後の全国で接点があったわけでも無し」

 

 「そーそー。ずぅずぅしいったらないよ。ねー、テルー?」

 

 「そこまでは言わないけどね。……一応、私の妹が迷惑かけたみたいだし」

 

 「迷惑だなんてそんな!あの時は単にウチらが及ばなかっただけですんで…」

 

 「ま、結局あの嶺上使いがいる間は姫松も相当苦戦しとったからなぁ。迷惑と言えば迷惑だったかもしれんな?」

 

 「ちょ、おねぇちゃん!」

 

 「じょーだんや、絹」

 

 帳が降りた街を四人で歩く。

隣にはいつも通り淡と、反対隣には元姫松高校の代表だった愛宕姉妹。

想像もした事も無かった不思議な組み合わせで、私達は半日くらい一緒に居た。

 

 『もしかしたら東京のプロ団体に行くかもしれんから、めぼしい雀荘下見したいわ。案内してくれんか?』

 

そんな風な電話が来たのが確か一週間前。

 

 『土産に大阪の有名どころのお菓子ぎょーさんもってったるさかい、頼めんか?』

 

何処で私の弱みを耳にしたのか、断れない策略まで用意して。

 

 ーー……本当にたくさん持ってきてくれたな。どこの記者がそんな風に書いたんだろ。私、そこまで卑しんぼじゃないのに。……多分。

 

愛宕姉妹と合流してからかれこれ四時間くらい。

何処で聞きつけたのか待ち合わせ場所に居た淡も連れて一緒に回った雀荘は五軒。

どれも男女問わずプロが時折訪れる場所で、だからこそ普段の来客達の腕前も凄い。この辺で腕を磨くなら間違いない場所。

事実、私だってたまに行ってるし、その時は大体菫か淡か誠子か堯深とかがいる。

だから多分、お菓子の分の情報は渡せてるはず。

他にも雀荘はあるにはあるけど、あんまり有名になりたくないとかって店員さんが言っていたし、このくらいで良いのかな……。

 

 「それで雀荘なんだけど、取り合えず紹介できそうな場所はこのくらいかな。気に入りそうなところはあった?」

 

私の隣の少し後ろを歩いている洋榎さんに声を掛けながら立ち止まる。

それに倣って三人は脚を止めて、ちょっとした円形で見合うようにして道の端に立ち止まった。

 

 「おー、助かったわ。特に二軒目と四軒目が良かったなー。店ん中の雰囲気もそやけど、店員さんの様子がウチらのよく行く雀荘の店員さんらと似てて居心地良さそうやったわ」

 

 「せやね。お客さんの気さくさも気に入りました」

 

 「そう。なら良かった」

 

 「いやぁ。お土産持ってきた甲斐もあるってもんや。ほんま有難うな、照」

 

 「ちょ!何いきなりテルーの事呼び捨てしてるの!?」

 

洋榎さんのいきなりの呼び捨てになんでか淡が反応する。

私の代わりに怒ってくれてる……のかは分からないけど、そんなに気にしなくていいのにな。

 

 「ん~、半日近く一緒におったからなぁ。なんかもう他人の気がしーひんわ」

 

 「だ、だとしてもいきなり呼び捨てはどうやろか……」

 

それに続く感じで妹の絹恵さんが困った顔をしながら私の方を見る。

……大阪ってフレンドリーなイメージあったからこのくらいは普通なのかと思った。

 

 「別にいいよ。私も二人の事下の名前で呼んでるし。呼び捨てでもいい?」

 

 「かまへんで!」

 

 「ウチも大丈夫です」

 

どっちにしても大した事じゃ無いし、そのままで良いと伝える。

…すると、淡は、今度は私にふくれっ面を見せた。

 

 「む~。テルーってそーいうとこあるよね!そんなの姉妹だからじゃん!変な男に騙されても知らないよ!」

 

……久々だな。淡のこういうの。

最近、いろんなところで試合してるせいで全然会えて無かったし、ちょっと嬉しい。

 

 「おぉう。随分急に飛躍すんなぁおたく。ジェットコースターかいな」

 

 「うっさい!ネコみたいな口して!」

 

 「どないな口やねん!?」

 

 「ちょお、それおねぇちゃんのチャームポイントやん!悪口みたいに言わんでくれる!?」

 

 「え、そーなん?」

 

 「そっちもうっさい!テルーの髪の毛みたいな色のメガネして!!!」

 

 「べ、別に何色でもええやん!」

 

 「はいはい。その辺にして、淡。私の友達にそれ以上酷い事言うとあんまりくっつかせてあげないよ」

 

 「友達認定!!むぅ~~!!テルーのバカ!」

 

そう言って淡はあっかんべーをして走り出す。

……私にしてみれば学校に居た頃はよく見た光景だから別に気にはならない。

だけど、初めて見ただろう愛宕姉妹は少しだけバツが悪そうに困った顔で見合ってしまった。

 

 「淡がごめんね。あの子、元々あんな感じだから気にしないで。本気で言ってるわけじゃ無いだろうし」

 

 「そ、そうなんか?まぁ、怒り方が子供っぽ過ぎるんはそうか……」

 

 「というか、悪口やったんか……?アレ」

 

 「多分。まぁ、慣れれば可愛く……」

 

そこまで言って、淡の声が耳に届く。

 

 「ねーテルー?こんなとこにこんなのあったっけー!」

 

 「ね。大丈夫でしょ?」

 

 「ほ、ほんまに怒っとらんかったな……」

 

 「なんか気まぐれぇ言うか、不思議な娘ですね」

 

 「かもね」

 

 「ねーテルーってば~~」

 

 「はいはい、今行くから。あんまり大きい声出さないで。他の人に迷惑でしょ」

 

呆気にとられたような表情の二人から離れ、看板を見上げる淡の傍へと向う。

……そこには、確かに見覚えの無い看板があった。

 

 「[平山麻雀教室]……?」

 

 「うん。こんなのあったっけ?」

 

 「……無かったと思う」

 

最近の看板にしては珍しい、質素で簡素な看板の作り。

緑色に塗った板にただ教室名を書いているだけだから結構前からあるような印象を受けるけど、その看板も、教室として使ってるだろう建物も割と新しい。

 

 「なんや?新しい雀荘でもあったんか」

 

 「違うみたいやで?麻雀教室やって」

 

 「…ほーん?」

 

後から追ってきてくれた二人が私達と一緒になって看板を見上げる。

……そして。

 

 「おもろそうや。どうせやし覗いていこうや」

 

洋榎がそんな事を言いだした。

 

              ーーーー

 

 

 男はーーかつて[アカギ]を名乗った平山 幸雄は、東京の地に根を下ろした。

紆余曲折の果て、グレーラインを往復しながらもどうにか現代における己の証明を手に入れた彼は、目覚めた地・長野では無く、東京に移り住んだ。

麻雀教室を開く為に。

理由は数あれど、決め手はただ一つ。

『自身の教え子が宮永 咲に勝つ為』であった。

清澄高校で対局した後、彼の中に僅かに湧き出た小さな思い付き。

それは時を追うにつれて明瞭になっていき、次第に一つの[目的]として確立される。

同時期に抱かれる、この世界に来て戦った最も恐ろしい相手を倒せるような打ち手を育てたい、という想い。それが彼の目的を支えていた。

しかし、当の咲が学生の間に麻雀教室が開ける事は無く、今となってはそんな想いは潰えた。

故に。新たに掲げた。

『咲や、彼女に匹敵する者を超える打ち手を育てる事』。

それこそが今の彼を動かす、最も強い原動力だった。

そんな彼の元に。

ーー運命のように訪れた四つの影。

 

 「邪魔するでぇ~」

 

自動ドアを潜るは愛宕 洋榎。

 

 「ちょ、おねぇちゃん。地元ちゃうんやからやめーよ」

 

その妹、絹恵。

 

 「へぇ~!けっこーキレーだね、テルー」

 

大星 淡。

 

 「お邪魔します」

 

そして、宮永 照。

 

 「……入学希望者では無いみたいだな」

 

蘇ってから早数年。

現代を知り、今の麻雀をも知った幸雄。

当然知っている、その四名……!

 

 「おー、話が早くて助かるわ」

 

幾つもの雀卓が広々と配置された清涼間のある白い室内。そのうちの一席に普段通りの格好で腰を下ろしていた幸雄は立ち上がって彼女達を迎え入れる。

 

 「すいません、ちょい見学と言うか、させてもらいたくて来ました。今、時間大丈夫ですか?」

 

 「構わない。こちらとしても名のある打ち手が来た事があると言えれば箔が付くしな」

 

 「ほな後でサイン書いたるさかい、見学料はそれで勘弁してくれるか?」

 

 「願っても無い申し出だ。助かるよ、洋榎さん」

 

 「助かるわ、おっちゃん。……ホントは高いんやで?」

 

 「はは。だからこそだ」

 

一般人としてでは無く、プロ雀士として名が呼ばれて少しばかり気分が高揚したのだろう。洋榎は両手を腰に当てて得意げに胸を張る。

それを横で見ていた絹恵は何処か悔しそうになりながらも姉の名声の広さを称えた。

 

 「流石やんおねぇちゃん。ウチも頑張らんとな」

 

 「という事は、君が妹の絹恵さんか。不躾でなければお願いしてもいいか?」

 

 「えっ、ウチのもですか……?そらぁ、構いませんけど……」

 

姉との格の差に引け目を感じてしまっていた絹恵。

なのに、自分が誰なのかが分かるや否や幸雄にサインを頼まれ、嬉しさと疑問が混ざった声で返事をしてしまう。

と言うのも、彼女は姉ほど自分の名が売れていない事実を知っているからだ。

 

 「そうか、有難う。有望株のサインは早い者勝ちだからな、早ければ早いほどいい」

 

 「ず、随分買ってくれてますね。……ちょっと複雑な気持ちですけど」

 

 「そういうのじゃない。俺が一番学生麻雀を見ていたのが君らが現役の頃だったんだ。だから単純に欲しいとも思っていた。君も含め、あの時代はかなりの粒揃いだったからな」

 

 「……ホンマですか?」

 

 「ああ。……まぁ、応援していた学校は違うんだが」

 

 「それでも嬉しいです!有難う御座います!!」

 

彼の言葉から純粋なファンや応援では無いと感じてしまい、若干落ち込んでしまった絹恵に事実を伝える幸雄。

それが余程嬉しかったのだろう。絹恵は分かりやすく表情を明るくして大げさに頭を下げた。

 

 「ほな、そーいう事ならあっちのも欲しいんとちゃうか?なんせインターハイの代名詞とまで言われたのと、その後継者で通っとった二人やからな」

 

洋榎が部屋の王へと視線を向け、つられて二人もそちらを見る。

そこには、幸雄の近くで話しをしている愛宕姉妹とは違い、照と淡がいる。

その照は縦横無尽に教室内を隅々まで見て回る淡の保護者のように後を付いていた。

だからか、離れた場所にいる幸雄達三人がどんな話をいているのかは全く届いていないようだ。

 

 「ああ、確かに欲しいな。……が、あの二人にはそう簡単にはお願い出来無いのも事実だ」

 

 「……なんや?ウチらを格下扱いか?」

 

含みのある発言を受け、洋榎のこめかみが僅かに反応する。

が、幸雄が無礼にも聞こえる発言をした理由は当然違う。

 

 「いいや。……知っているよな、宮永 咲を」

 

幸雄の発した名。

それに初めに反応したのは。

 

 「……咲?」

 

遠くにいるはずの照だった。

 

 「テルー?」

 

 「ごめん、少し待って」

 

何がそんなに面白いのか、淡に腕を掴まれて連れ回されている中で彼女は脚を止める。

心配……と言うよりは不思議そうにする淡に簡潔に言葉を返し、妹の名の出どころである男の方を見続ける照。

そこでは照同様、突然の名に疑問を感じる愛宕姉妹がいた。

 

 「知ってるで。ウチの最後の全国優勝の機会を止めた一年坊や」

 

 「その娘がどうかしたんです?」

 

 「実はな、洋榎さんの最後の全国の後、少ししてから俺は清澄の娘達と二半荘を打ったんだ。一人、風越の新部長が混じっていたけどな」

 

 「ほーん?それで?」

 

先は見えずとも恐らく接点がある……。そんな話を始めた幸雄に洋榎と絹恵は一瞬顔を見合わせつつ次の言葉を待った。

 

 「その時、嬢ちゃん……咲と約束をしてな。……姉に会ったら『強かった』と、伝えると」

 

 「……それでどうしてお願いし難いって話になるんです?」

 

 「信憑性が無いからだ。……俺が弱かっただけかもしれないんだからな」

 

幸雄の返答に、しかし小首を傾げるだけの絹恵。

が、姉の方は違かった。

 

 「……成る程な。確かに、そこの姉妹の仲を考えればそーもなるか」

 

腕を組み、納得がいったと当時に怒りも治まったらしい洋榎は二度三度と頷く。

そんな姉とは対照的にまだ理解できていない絹恵はより困った顔をして尋ねた。

 

 「どういう事なん?」

 

 「よーするに、麻雀を通して理解させなあかん思うとるんやろ?妹の強さを」

 

答えを聞き、絹恵も理解が及んだのだろう。

彼女は頷く幸雄に視線を向けた。

 

 「そういう事だ。最初にした約束を蔑ろにして俺の要望だけを『頼む』なんて言うのは出来無いし、かと言ってこちらの都合に合わせてもらうのも気が引ける。だから頼み難い」

 

 「随分、難儀な性格してはりますね……。まぁ、気持ちは分かりますけど」

 

 「せやなぁ。格好も相まってふっるいヤーさんに見えて来るわ」

 

 「はは、我ながら面倒臭いと思っているよ。君の言うように、よく間違えられるしな」

 

腕を組んだまま笑顔を浮かべた洋榎に、微笑みを向けて銀のジャケットの胸ポケットをつまんで軽く持ち上げる幸雄。

今となっては唯一、自身の本来の生きた時間を示すそのスーツと朱いサングラス。

洋榎の言うように、蘇って以来何度も警察に勘違いされてはいるが、己が誰かを忘れない為に生涯着ると誓った彼には[新調する]という選択肢はもう無かった。

そのせいで教室に訪れる客足が悪かろうとも。

 

 「ほな照の方の理由は分かった。けど、大星 淡の方はなんでや?そっちともなんか義理や因縁があるんか?」

 

怒りは完全に消え、代わりに疑問だけが残った彼女に問われ、幸雄は指先で朱いサングラスを押し上げる。

その眼を、姉妹は確かに見た。

とても麻雀のコーチとは思えない、勝負師としての眼光を。

 

 「それは単に俺が打ってみたいと思っているからだ。対戦相手にサインを頼むヤツはいないだろう?」

 

 「……!そらそうや。そらそうやけど……」

 

当然と言えば当然の返答。

しかし、大星 淡の強さを知っていてなおそれが言える自信と胆力に洋榎は微かに背筋を震わせた。

 

 「おもろいおっちゃんや。名前、なんて言うんや?」

 

 「……そうだな、アカギ、とでも名乗っておくか。ペンネームみたいなものだ」

 

再び、洋榎のーーいや、妹の絹恵の背にもーー電流が走る。

 

 「アカギやと?随分大きく出たなぁ、おっちゃん」

 

 「……そんなに腕に覚えがあるんです?」

 

 「何、打って見れば分かる。機会があるかは分からないがな」

 

知っている。

二人はその名の意味するところを知っている。

そして、敢えてその名を選ぶ以上、この男も知っているはずだーーと。

 

 「そーいう事らしいで!どー思う、お二人さん!」

 

 「……うん、良いよ」

 

洋榎の呼び掛けに反応した照。彼女は先ほどまで居た場所とは違い、雀卓一つ分ほどの離れた距離に立っていた。

彼女の横には入ってきた時とはまるで別人のような雰囲気を発する淡もいる。

 

 ーー流石に嬢ちゃんが苦戦した一人なだけはあるな。[大星]とはよく言ったものだ。

 

まるで飲み込まれんばかりの威圧感に、第二の生を得てから初めて感じた圧を幸雄は思い出す。

 

 「へぇ…。サキとあの後戦ったんだ。……どうだった?」

 

 「強かった。終始押されていた。そして、負けた」

 

 「ま、だよねー」

 

 「……ただ」

 

 「……?」

 

想像通りの返答。想像通りの結果。

けれど男は、先の言葉を否定するように続ける。

 

 「嬢ちゃんは納得していなかったみたいだな。それも仕方が無い。勝負を決めた一打は、振り込むと分かって捨てた牌だった。俺が降りていれば、勝負はまだ分からなかった。もう一人のように、嬢ちゃんもそう思っていたんだろう」

 

それは、想定していなかった答えだった。

 

 「……何、それ」

 

幸雄の言葉に一層[圧]を強くする淡。

その髪は風も無いのにふわりと浮いて広がっている。

 

 「良いよ?私も打つ。あの嶺上使いが最後に納得出来なかった~、なんて聞いたら興味出ちゃった」

 

彼女の背後に何か得体の知れない空間が広がるのを幸雄は感じる。

それが彼の感じる初めての[圧]であれば数歩の後退も有り得ただろう。

……だが、既に知っている。

アカギでは無い。鷲巣でも無い。そも、この二人とは違う。本質的な部分が。

故に、それは目の前の少女と本質を同じくする相手。

蘇ってから打った相手ーー宮永 咲。

 

 「ほな、最後の席はウチが座ろか。ごめんな、絹」

 

 「ええよええよ。おねぇちゃんが打ちたなるぅタイプの人やもん。学ばせてもらいます」

 

 「おう、おねぇちゃんの雄姿、よー見とき!」

 

対局前の会話が終わる。

が、会話というにはあまりにも攻撃的。好戦的。

既に四者が帯びているのは、鋭利に過ぎる意志。

結果、絹恵は自ら降りた。

 

 ーー……流石やね、おねぇちゃんは。ウチは……この三人がちょっと怖ぁなってもうた。

 

 「なら少し待っててくれ。看板を下ろしてくる」

 

誰が座るのかが決まり、幸雄は対局の準備を進めようと動き出す。

すると隣側にいた照が小首を傾げつつ不安そうに口を開いた。

 

 「いいの?ここ、教室なんじゃ……」

 

 「ああ。幸か不幸か今日はみんな休みでな。定休日でも無いからただ開いていただけだ。……お陰で大量だったわけだが」

 

 「そう。なら別に」

 

幸雄の返答に納得する照。

しかし、彼の答えはどちらかと言えば嘘。

正しくは[入学生が数名しかいない]からであり、このように誰も来ないが開いている日というのは週に二度くらいの頻度であった。

なのに彼が問題無く経営出来ているのは、スーツのポケットなどに生前持ち歩いていた旧日本円が束で二つ、約二百万。現在の貨幣価値に換算するとおよそ二千万が入っていたからだ。

 

 「ああ、ついでにお茶かコーヒーを持ってこよう。缶しか無いせいで冷か常温しか無いが、そこはお菓子を付けるって事で勘弁してくれ」

 

照に呼び止められた事で唐突に彼女達が客人でもある事を思い出した幸雄。

特に返事を待つ事も無く一先ず自動ドアの方へと向いながらそう言葉にする。

 

 「……!!」

 

……その後ろで、瞼を大きく開けた照が背筋を伸ばして反応していた。

 

 「……次はもっと持ってくるわ」

 

 「ち、違うから……」

 

 

 

次巡へ続く。





 なお、十七話までは書き終えてからだったので毎日投稿が出来ていたのですが、十八話から先は一部しか書き終わっていません。
ですので、投稿はかなり遅くなってしまいます。
極力早く書き終わせるよう頑張りますので、気長に待っていただけると助かります。
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