咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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第二十一巡 穿孔

 

 東三局 親・平山 幸雄。ドラ表示牌は{一萬}。

 

 ーー俺の親番か。ここでなんとしても稼いでおきたいが……。

 

幸雄の配牌は三度目の四シャンテン。

どういうわけか、彼は淡の影響を十全には受けずに配牌を得る事が出来るらしかった。

……しかし。

 

 ーー配牌が良かろうとテンパイまでに五巡以上掛かっていては奇襲も何も無い。結局、条件は同じか。

 

一巡目の捨て牌、{南}を幸雄が河に置く事で東三局が始まる。

親である事を踏まえ、期待も焦りも持たず、淡のダブリーに過度な警戒心も抱かず、デジタルに徹して打つと決める幸雄。

それが功を奏したのか、それともただ運が良かっただけなのか。

 

 ーー……さて。

{三萬}{四萬}{五萬}{一索}{二索}{三索}{六索}{九索}{五筒}{六筒}{七筒}{東}{東}

三巡目にして、一シャンテン。

{東}を鳴けばダブ東、そしてテンパイ。即ち、穿たれる。

淡の絶対安全圏……ッ!

しかし、点は安い。ロンで2900点、ツモでも3000点だ。赤ドラを受け入れるのなら手が遅くなる。しかし、淡の絶対安全圏を打ち砕く鉄槌でもある。

 

 ーー得られる点と被るリスクを考えるのなら鳴く必要は無い。だが、鳴いたところで[張っている]と思われないのであれば……。

 

三者の顔を刹那に、流れるようにして見遣る幸雄。

彼の思考を埋めているのは淡が打つ際に他家の手牌が軒並み遅いという事実。

それは何故か配牌が五~六シャンテンで[必ず]始まってしまう不可解な偶然であり、そこに来る淡の持つ類稀な[幸運]から成る毎局のダブル立直。

この二つが合わさる事によって彼女の対局者は一様に手が遅い上に、まるで周回遅れかのような状態で対局を余儀無くされる。

そして特定のタイミングで必ず起きるカン。その後の和了、カン裏がモロ乗りするという凶暴性。

これらは大星 淡という女性の事を雀士として調べれば必ず行きつく情報だった。

ーー故に。

 

 ーー狙うか……?奇襲を……ッッ!

 

全員の脳内にこびりつく絶対的な前提条件を逆手に取る為に、あえて[鳴く]べきなのでは無いかと彼は考えていた。

 

 ーー安かろうと和了り続ければいつかは誰かがハコになる。しかし、俺のこの奇襲は通用したとしても良くて二回。以降は立直者からでも無い限り絶対に振り込まれる事は無く、そもそも[次の配牌でも四シャンテンになるか][三巡目に和了りが見えるか]も分からない。……一発限りの弾丸だ。

 

ツモ番は現在洋榎。

彼女を含め後二回。この間に{東}が捨てられるか否かではある。

その上で振り込みや、ツモ和了りが出来るのかという問題もある。

だがもし捨てられたのなら。

その上で和了が出来たのなら。

 

 ーー彼女を出し抜き、このダブリー地獄を覆せるかもしれない。

 

何も無ければ終わる事の無い、淡の傍若無人にブレーキを掛けられるかもしれない。

そう、彼の思考が終わるかどうかと同時に届く打牌音。

確認し、幸雄の声が上がる。

 

 「ポンだ……ッ」

 

無意識下の宣言。捨て牌を拾い、卓端の角に{東}が並び、{九索}が出て行く。

結果、テンパイ。粉砕される大星 淡の絶体安全圏。

そして再びの洋榎のツモ番。

 

 「ロン。ダブ東のみ。2900……ッッ!」

{三萬}{四萬}{五萬}{一索}{二索}{三索}{六索}{五筒}{六筒}{七筒} {東}{東}{東} {六索}

幸雄以外の全員の眼が、見開かれた。

 

 「なん……やと……?」

 

 「い、今、四巡目よな?そ…それやのに……」

 

 「……そういう事」

 

振り込んだ姿勢のままの洋榎、その裏で立ち尽くす絹恵の二人は開いた口が塞がらない。

その上家の照は幸雄の宣言が上がった瞬間こそ驚きはしたものの現在は普段通り。寧ろ納得したかのように落ち着いている。

そして、淡。

 

 「……テルー?なんでか分かる?」

 

 「多分」

 

 「そっか。なら後で教えてね。……今は聞いても耳に入って来そうに無いから」

 

 「いいよ」

 

 ーーまぁ、[正確には]私にも分からないんだけど。……見当は付いた。

 

照に尋ね、確約のみを取り付ける淡。

その声は異様なまでに落ち着き、冷たい。

まるで真空の宇宙かのように凍てついている。

 

 「おっさん、泣いて謝ってももう許してあげないから」

 

 「さて、鳴きはしたが泣くかは分からないな」

 

 「ぜっっっったい倒す!!」

 

再び淡の薄金色の髪が広がる。

緩やかに、広く。

膨張していくかのように、意志があるかのように。

 

 ーーずっこい、とは言わないよ。新道寺の二人には条件付きでやられたし、サキには二シャンテンからやられた。他にも学生の頃の試合でいろんな経験が出来たから。けど、ね。

 

口を噤んだ洋榎が開けた卓中央に皆が牌を押し入れていく。

三人がただ一人に意識を向けたまま。

 

 ーーけど、だからって許せるわけじゃ無いんだよね。それも、テルーの前で。同じ卓で。こんなの……っ!

 

 ーー振り込んだ……。ウチが?なんでや?……決まっとる。侮ってた上に、対戦相手を信用しとったからや。ド阿呆が。敵さん信じて武器も盾も手離す奴がおるか。第一、何であれ破っとった娘ぉだっておったやろ……!

 

 ーーこの人がどういう人なのかやっと理解できた。……こんな規格外な人に勝ったんだ、あの子。

 

牌が卓上から全て消え、少しした後に牌山として再び現れる。

その間、この場に居る誰一人として口を開かなかった。

……次に声が上がったのは。

 

 「ツモ。2100・4100の七対子や」

 

東三局・一本場、十巡目の洋榎の和了宣言だった。

この時、幸雄を除いて変わらず五~六シャンテンではあったものの。

淡のダブル立直は無かった。

 

 ーー二度目も当然駄目だったし。……うん、これ以上は意味無いかな。

 

 

 

 

次巡に続く。

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