咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

23 / 28
第二十三巡 連携

 南一局、親・愛宕 洋榎。ドラ表示牌は{北}。

 

現在、照・53100点、洋榎・16900点、淡・12400点、幸雄・10200点となっている。

もしも跳満よりも上の点数を照と洋榎以外が直撃した場合、その場で対局は終了。仮に親であれば、跳満すら照以外をトバしてしまう状態。

しかし、トバしたところで逆転は不可能。二位止まりになってしまう。

つまり、幸雄・淡・洋榎の三名は照への直撃か、他の二人を削り過ぎずに和了りながら、なおかつ彼女からは大量の点を奪うしか勝つ方法が無くなってしまっている。

だが、そもそもの技量が充分に高い照が容易に振り込む事は無く、直撃以外で彼女から多く点を取る為には彼女が親番の時に大きな役を和了るしかない。

松実 玄のようにドラを独占する人物がいない為、彼女に立直の強要も出来無い。

よって、洋榎は12000点よりも、淡と幸雄は16000点よりも高い役を張ってしまった場合、照以外の捨て牌を見逃すか、最悪ツモ和了りするかのどちらかしか選べなくなっていた。

そう、答えは確かに出ている。明確に。これ以上無いほど……ッ!

……出ているのだが。

 

 ーークソッ。五~六シャンテンから始まったところで最速で抜けて来る奴を相手に当たり牌を見逃し続けるだと?無茶を言うのも大概にしてくれ。そんな余裕、あるわけが無いだろう……ッッ!

 

 ーー出和了りは照からしかとらず、かつ連続和了が始まったら鳴きに鳴いて安い手で流さなあかん……か。……恭子にスカート履かせ続ける方がカンタンなんとちゃうか?

 

要求されている事のあまりの難度に幸雄と洋榎の思考に若干の混乱が混じる。

対し、淡だけは冷静さを失ってはいなかった。

こうなる事を知っているから。

 

 ーーテルーとやるとこーいう風になっちゃう時あるんだよね。おっさんと姉……ひろえ?の方が諦めさえしなければなんとか出来ると思うけど、……その辺のヤツと一緒だったらもう無理か。

 

照と同じ学校で一年間打っていた淡。

団体戦は同じチームではあるが、今現在の対局のように個人での対局経験も当然存在し、その時は敵だ。

だからこそ、通常のルールで照と戦った際の対処法自体は熟知していた。

ただ、それらは必ずどこかのタイミングで他二名の協力が必要だった。

例えば。高打点を照に直撃させたとしても、オーラス以前に行ってしまえば何処かで連続和了が始まって覆されかねない。

例えば。連続和了が始まった場合は何処かで止める為に全員の用意が必要だ。何故ならこの半荘戦は照がラス親。出し抜くような邪な考えを持っていては容易に彼女に取り返されてしまうだろう。

仮に一度、大量の点を照から取り、以降の局で照以外をトバす打ち方をしたとしても、そもそもの速度で彼女に勝る事が出来ず、鳴いて速度を上げたところで手を読まれてしまっては振り込まれる事も無くなる。

唯一、ダブリー時の淡だけが速度で勝ってはいるが彼女が先に和了れるかは運次第。寧ろ、今度もツモ縛りしてくるか分からない照に振り込む可能性を考えれば迂闊に立直は掛けられ無い。

かと言ってオーラスに全てを賭けるような打ち方は全くのナンセンス。そもそも和了れない事の方が多い麻雀で一局に集中したからと言って絶対に和了れるわけでは無い。それどころか和了れない可能性の方が圧倒的に高い。ネリー・ヴィルサラーゼのような運を必然としてしまう者でさえ、確実に和了れるわけでは無いのだから。

つまり、勝つ為には。

 

 ーーオーラスまでに点数を極力平らにするのが絶対条件。私達が親番の時に、テル―だけからどれだけ点を取れるかでチャンスが生まれるかどうかが決まる……!その上で恨みっこ無しの勝負。ノーテン罰符で負けても文句は言わない!そーいう意識で臨まないとテルーに勝つどころか連続和了を止める事すら出来無い。……ま、私とテルーに関しては張れないなんて事自体は無いんだけど。

 

彼女との対局経験が無い、もしくは殆ど無い二人よりも具体的な答えを持ち得ている淡は、そこを念頭に置いてのオーラスまでの試合運びを決める。

避けようの無い、協力体制への速やかな移行を。

………しかし。

 

 「ポン」

{八筒}{八筒}{八筒}

二巡目。照の一副露が発生し、極度の緊張が三者に走る。

 

 ーーもう来るか……ッ!

 

 ーー速いと四巡目に和了り、か。どのへんで和了るか分かっとってもウチはまだふつーに四シャンテン。……どないしよ。

 

幸雄、洋榎、どちらも手は重く、四・五巡目までに門前のまま和了るなどというのは不可能な状態。手の進み。

かと言って鳴けば点が遠のく。唯一親の洋榎だけは和了り続ける事が出来れば安手でも構わないものの、親番が続けば続くほど親っ被りのリスクが伴う。

出来る事なら纏まった点を一、二度照に直撃させてから安手で流されたい。

 

 ーー……なんて、都合が良過ぎる話やな。連荘支援くらいは受けられるやろけど、ウチが大量に点取ったら次の矛先にされるに決まっとるわ。……ま、もう二度と甘ったれな打ち方はせんから誰にも振り込まんけどな。

 

洋榎にツモが回って三巡目に突入。

ツモ、盲牌。ーー{東}。

{一萬}{一萬}{二萬}{八萬}{一索}{一索}{七索}{九索}{一筒}{二筒}{五筒}{九筒}{發} {東}

 ーー連続和了の制約は確か、[低い点数ほど後の上昇量が増す]やったか。そーなると、今までの照の対局やさっきの鳴きから考えても今回のは読みやすい。……とは言え、また鳴かれたら堪らんからな。そこら辺も意識せなあかんか。となると、自分の翻数上げる意味でも{東}はまだ切れんか。全く、他家への振り込み警戒してんのに場風がドラで助かったなんて思うん初めてや。

 

引いた{東}を手牌の上に寝かせ、彼女は手元に二枚、場に一枚ある{一萬}を捨てる。

鳴かない照。一~三を使った三色では無いと確定する。

 

 ーーアホほど手が遅い代わりにジュンチャン自体は狙えて、そのままでも7700。これで東を頭に出来れば親満や。どうにかして照にぶつけたいところやけども、さて。

 

立直を掛ければ照への直撃が殊更難しくなってしまうと考え、ダマでの点計算を行った洋榎。

少なくともオーラスまではその基準で良いだろうと考えを固め、いつでも降りに移れるよう意識を回す。

そんな彼女の次番、照。

ツモ、盲牌。その後ノータイムでの手出し{九筒}。

同時に他家の死期が明確に近づく。

 

 ーーいよいよ後が無い。……どうする。

 

照の手は打点上昇を考慮すれば手の予想はつく。

しかし、彼女の手が読めたところで幸雄がしなければならないのは照以外への振り込み。

洋榎も淡も牌の種類問わずチュンチャン牌ばかりを捨てているので字牌が絡まって来るチャンタや老頭系、もしくは字牌が邪魔にならない役を狙っていそうだというざっくりとした事くらいしか分からず、仮にそうだったとしても場合によってはかなりの点を取られてしまう。

であれば、ギリギリになるまで甘んじて受け容れる覚悟を持てない。

……だが、もしも。淡の手が幸雄の想像した通りの役だった場合。

 

 ーー……一気に形勢が変わりかねない。

 

淡と照、両者に一瞬視線を向ける幸雄。

 

 ーー俺の手は二シャンテン。後二巡ですんなり手が進んだとしても、嬢ちゃんの姉さんが五巡目に和了って来れるとすれば間に合わない。……そうなると、愛宕姉の援護に回ってチャンスを増やすべきか。

 

自身の手牌に視線を落とし、二枚ある{赤五筒}を見つめる。

配牌時に一枚、二巡目のツモで二枚になった赤ドラ。

ここで手を作れれば和了れた時のプラスは大きい。懸念点としては、振り込まれにくく思われた時にどうするかだろう。

 

 ーー……その時は俺が身銭を切るしか無いな。年長者の役目とでも思おう。

 

などと考えつつ、しかし二人の手が読み切れない。

結局、安牌用に確保していた{東}を、洋榎が鳴けると信じて捨てるしかなかった。

けれど、一枚しか手元に無い洋榎が鳴けるわけも無かった。

そうして四巡目。

 

 「立直!」

 

淡が立直宣言した。

 

 ーー……今更?ダブリーやなく、普通の立直なんか。どういう事や?

 

 ーー……違うのか?なら、目的はなんだ。

 

一つとして字牌が出ていない淡の河。

他の打ち手ならば兎も角、それが大星 淡であれば理由は一つしかない。故に立直を掛ける必要も無い。

寧ろ照への直撃を狙うのなら門前のままで、張っているかどうかを確定させない方が確立自体は高いはずだ。

……ならば。

 

 ーー……淡、最初の時点でそんなに?

 

 ーーテルーだって知ってるでしょ?淡ちゃんにはテクニカルな所もあるって。

{四萬}{五萬}{六萬}{一索}{二索}{三索}{七索}{八索}{九索子}{東}{發}{發}{發}

 

 ーーあり得るのかな。配牌の時点で、大七星が殆ど見えてる状態に出来るなんて事。

 

 ーーさぁ、どうする、テルー。淡ちゃんの大宇宙の力と勝負出来る……!?

 

 ーー……参ったな。初めて打つからって洋榎さんとアカギさんの事ばかりに集中したのは失敗だった。

 

ならば。張っていると知らしめる事自体が目的。

特に、淡の打ち方を深く知っている相手に。

警戒心を抱かせる為に……!

 

 ーー……………うん。いくら淡でもそんなはず無い。……無い、と思う、けど、もしそうなら……。

 

洋榎に回り、照に回るツモ番。

途端、それまで人知れず右腕を纏っていた風巻(しまき)の一切が消え去る。

そよ風すら失われた彼女の白く細い右腕が伸び、牌を掴んだ親指の腹が示す文字は{東}。

 

 ーー……駄目だ。もし出来ていたら役満。例え対局前は出来なかったとしても、松実 玄さんのように『今出来る』ようになった可能性だってある。これは、切れない。

 

ツモ牌を手牌の上に寝かせ、出来面子から消えていく牌。

 

 ーー初めてだな。こんな風に止められるの。

 

照、降りる。否、降りざるを得ない。

既に東は場に二枚、照の読み通り淡の手に一枚が故に……ッ!

 

 ーー……降り切れるかな。この二人相手に。

 

そして彼女が降りた事を二人が理解したのはここから二巡も過ぎた頃。

同時、淡の立直宣言の意味も。

その功績に報いる為か。或いは、当初の目的のみを意識してか。

 

 「ロン。タンヤオ・平和・赤2。7700だ」

{二萬}{三萬}{四萬}{六萬}{七萬}{八萬}{六索}{七索}{八索}{三筒}{四筒}{赤五筒}{赤五筒} {二筒}

幸雄の和了り。

 

 ーー……おっさんかぁ。すっっごい嫌だけど、贅沢は言えないか。

 

洋榎、淡の二筒を見逃してのロン。

照、直撃……ッッ!十五巡目の事ッッ!

 

 ーーごめんね、テルー。でも、ものすっごい嬉しかったよ?私の力、信じてくれて。

 

 

 

次巡へ続く。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。