咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

24 / 28

 大変お待たせしました。
ちょっと諸事情で殊更遅くなってしまいました。
その諸事情が気になる方は私の活動報告を覗いてみると良いかもしれません。

本当にごめんなさい。


第二十四巡 変則

 

 南二局、親・大星 淡。ドラ表示牌は{四索}。

前局での照の放銃によって照・45400点、幸雄・18900点となる。

南場一度目の照は止める事が出来、更に最下位だった幸雄に点数が渡った。

彼に若干点が移動した事で南一局開始時よりは幸雄達に極小の余裕が出来たものの、半荘戦開始時にも満たない持ち点をアテにして彼にロン和了りなどをしてしまえば即座に条件が戻る。そもそも、二位の幸雄ですら三倍満をツモ和了りでもしない限り彼女を捲れ無いのだから、余裕と言えるほどの余裕は無い。

その上で変わらず彼女の連続和了に対する対策が必須な以上、幸雄の点は最悪の場合の差し込み用として考えておくのが無難と言えた。

 

 ーー俺にも嬢ちゃんの姉さんを止める余裕を持てたのは大きい。抱えられるだけ抱えるにしても、ここぞでの選択肢に出来るのは心強い。……問題は後二局の間に、どうやって更に彼女から点を削るか、その上で捲るかだ。

 

東四局で充分以上に理解出来た宮永 照の強さを思い返しながら幸雄は自身の配牌に目を落とす。

最初に確認し、リー牌で確定した通り四シャンテン。

ただ、{四索}がドラ表示牌のこの局で{五索}と{赤五索}が一枚ずつあるお陰で点数はなんとか用意出来そうだった。

 

 ーー一先ず打点はどうにか出来そうだが、結局は速度。鳴いて仕掛けるにしても、さっきのようにドラを生かせなければこの半荘の敗因にだってなりかねない。

{二萬}{四萬}{一索}{三索}{五索}{赤五索}{七索}{六筒}{七筒}{九筒}{東}{南}{發}

スタート時から三翻確定の配牌。喰いタンでも7700、目指すは跳満以上と言った所だろう。

 

 ーー幸か不幸か役牌が二種ある。どれか一つでもツモれて鳴ければそれでも7700。余計に手の内を曝さずに早和了りを目指せる。

 

幸雄が思考する中、上家の淡から打牌音が届く。

 

 ーー……最も、一番は門前なんだがな。許してはくれないだろう。

 

南二局、開始。

 

 ーー最初の捨て牌の時点で自信家ちゃんからダブリー宣言は無し。……同じ手が二度も通じるのかは分からないが、極限状態での妨害工作は自信家ちゃんに任せるしか無い。

 

幸雄、ツモ。盲牌、{九索}。

 

 ーーくっ、こっちが来るか。鳴きが無理そうならメンタンピンにしたかったが、手自体は進んだ。抱えておくしかない。

 

幸雄、手出し{東}。

理想通りとは言えないながらも手は進む。

 

 ーーぐ……。

 

思った通りでは無くとも着実に進んでいく。

 

 ーー二枚目の{南}が出るか……。{發}も出ているし、手早く行くのは無くなったな。

 

引き自体は非情に良く、有効牌はしっかり入って来る。

……しかし。

 

 ーー……三巡で一シャンテン、か。それ自体は助かるんだがな……。

{二萬}{三萬}{四萬}{一索}{二索}{三索}{五索}{赤五索}{七索}{九索}{六筒}{七筒}{九筒}

幸雄、{八索}を引かない限り役無しテンパイ。

普段ならドラ三でもある為充分だが、現在は相手が宮永 照。

ツモ縛りという条件さえ確定しているのならば立直を掛けても問題は無い。が、連続和了が始まっていない以上はロンも可能な状態で始まるかもしれない。

そうなると立直は自殺行為。照のツモ回数を一回増やすようなものだろう。

さりとて鳴いて速攻も出来無い。{八索}を引いて{九筒}を捨てたところで鳴き不可の平和が付くだけ。喰いタンを始めとする早和了りの手段は一つも取れない。

かと言って唯一狙えそうな索子の鳴きイッツ―は最速で目指せばドラを一枚切る上に手を遅くするだけ。そもそも上家の淡が必要牌を捨てなければ鳴く事すら出来無い。

ならば運否天賦の立直を仕掛けて満貫以上も和了れるようにした方が、照以外が張っていたとしてもリスク以上のリターンを得られる可能性が高い。

 

 ーー分かってはいるんだがな。……どうする?

 

幸雄に回るツモ番。

幸い場には八索は一枚も出ておらず、ツモの期待は持てる。

 

 ーー……これ含めて二巡でツモれるかで考えれば、気の遠くなるような確率だが……。

 

無理を承知の上で僅かな望みを抱きつつ手を伸ばす幸雄。

ツモ、盲牌。ーー{北}。

 

  ーーだろうな。期待し過ぎだ。

 

が、望み通りとはならない。当然。

自分の有効牌で考えた時には掠りもしない牌を引き、しかし、照と洋榎が捨ているのでツモ切りするには価値があり過ぎるそれを牌の上に寝かせる。

 

 ーー……そうか、これが物欲センサーというものか。

 

{九筒}をつまみつつ、以前生徒との雑談で知った造語を思い出す幸雄。

現代人であれば定着し過ぎて最早ことわざとすら思えて来るその単語をここまでの四巡を使って初めて実感出来た彼は、少しだけ胸の奥が軽くなるのを感じながら九筒を捨てる。

 

 ーー俺のような男が子供との会話を思い出して気分が和らぐとはな。案外、死ぬのも悪くない。

 

束の間の安息。が、嫌が応にも気が張り詰められる。

何故なら、現在四巡目。後一巡で照が張ってしまう巡目。鳴かれでもしたらその時点で張ってしまう、瀬戸際の巡目だ。

つまり、最早自分の和了りを優先出来る状態では無くなった。

出来る事ならもっと早い内に妨害等を視野に入れた動きをしたい所ではあるが、大幅に点が削られている上に今局を入れて後三局で逆転をしなければならない状況。

淡を除き、全員が手の遅い事も相まって限界まで自身の和了りを狙うしか勝ちの目を作れないのであれば、照がテンパイするかどうかぐらいから対策するしか選択肢が無かった。

 

  ーー……さて。この局でも俺は和了れないとほぼ確定してしまった。せめてさっきのツモでテンパれれば無理をする意味もあったんだが、現状一シャンテン。次のツモで張れれば立直を掛けて差し込んでもらう事も期待出来るが……。

 

視線を手牌よりも下に落とし、幸雄はそれぞれの持ち点を確認する。

照・45400点、洋榎・16900点、淡・11400点、そして自身である幸雄・18900点。

変わらず照がトップ。次いで幸雄。

そう。現在幸雄は二位。洋榎、淡と順位が続いている。

であれば、連続和了を止める為とは言っても今局含めて後三局しかない中で、即座に差し込みに舵を切ってくれるかは分からなかった。

 

 ーー俺が同じ立場だったとしたらどうだ。……難しいだろう。シャンテン数が重ければ話は変わってくるが、今の俺の手の進みぐらいであれば無理をしないとは言い切れない。特に、自信家ちゃんほどの持ち点であれば尚更だ。

 

いつ一万点台を割ってもおかしくない状態である淡。

洋榎が差し込めないのであれば必然的に彼女に期待を賭けるしか無いが、ラスである以上は不安が大きい。

如何に大物手を作るのが得意とは言えこれ以上の失点は避けたいはずなのだから。

ならばするしか無い。自分が。[人間では無い]と称された者を阻む為に。

 

 ーー不確定なモノを頼った挙句に不確定な行動を信じるのはあまりに非合理。麻雀は運が勝敗を左右するゲームである以上、叩ける間は石橋を叩かせてもらう。……何より、酷だしな。

 

照と洋榎を過ぎ、淡に訪れているツモ番。故に五巡目。

ツモ、盲牌。そのまま淡が捨てるのは{八萬}。

 

 ーー……さて。どうしたモノか。

 

淡、洋榎の最新の捨て牌を確認し、どちらの方が点が安く、どちらの和了り牌を持っているのかを幸雄は読もうとする。

……しかし、洋榎の捨て牌はーー最新のツモ番の捨て牌を確認してもーー良くて二シャンテン、下手をすればヤオチュウ牌の整理が終わったくらいに見えた。

 

 ーー{白}をツモ切りしての{九索}を手出し、{西}と{二筒}をツモ切り……。俺のように何らかの理由でシャンテン数が軽くなっているとして、だ。

 

自身に起きた不可思議が他人に起きないとは断定出来無い。そう仮定し、洋榎の手を考える幸雄。

{中}はまだ誰も捨てておらず、初めの幸雄の手元に無ければ後に来てもいない。早和了りの為に対子を用意している、または既に出来上がっている刻子で持っている可能性は充分ある。

しかし、他が分からない。例え、五~六シャンテンスタートでは無かったとしてもヤオチュウ牌ばかりが切られているのだから役の候補は兎も角、ピンポイントでの和了牌を当てるのはまず無理だ。

精々、『スジ的に{六索}は無いだろう』『ツモ切りなので筒子では差し込めないのだろう』程度でしか推察出来無い。

 

 ーー……いずれにしろ愛宕姉の手を読んだ所で差し込みも早和了りの手伝いも出来なさそうだな。……と、なると。

 

洋榎から意識を外し、次に彼が思考を傾けた先は淡。

今局の親。

 

 ーー……差し込むだけでも痛いのに親が相手か。間違っても跳ねたり倍にしたりしないでくれよ。

 

ダブリーは無く、かと言って字牌が出ていないわけでも無い淡の河。

{東}{發}{西}{一索}{八萬}。

 

 ーー確か、{東}と{一索}を手出しだったな。恐らくは鳴きや振り込みを警戒して止めたのだろうが……。結果論、ダブリーでも良かったのか。精々、{發}の鳴きが怖かったくらいだろう。

 

彼女の対局では殆ど見られない打ち方に、しかし幸雄に驚きはない。

 

 ーー彼女は意識すれば簡単に高打点を作れる。俺と愛宕姉の事も考えて今回は控え目にしているんだろう。……いや?だとすれば親への差し込みは悪いばかりでは無いな。

 

跳満以上を平気で和了り、場合によっては役満すらツモのみで用意してしまう淡。

この南場ではそれがかえってアダとなっているのか、逆にトバさず安くする為に普通に打っているように見えた。

 

 ーーテルーに脅しをかけるのは今じゃない。さっきは上手くいったけど、何度も騙されてくれるとは思えない。

{一萬}{二萬}{三萬}{九萬}{九萬}{三索}{四索}{七索}{八索}{九索}{赤五筒}{六筒}{七筒}

 

胸の内の策略を表には出さず、可能な限り平常心を装っている淡。

そんな彼女の実際の心境は焦りを抱いていた。

 

 ーー次に私がアレを使うのはオーラス。それまでは私含め、誰もトバないよう安い手で和了る必要がある……。

 

次局までの彼女の目的は極力場を平らにする事。

そうする事でたった一度、ある程度の役を和了れれば勝利出来る。

その為にはこの局から次の局までに照だけからまとまった点を削らなければならない。

 

 ーーなんて、理想はそうだけど。実際は連続和了を考えるとどんなに安い手でも和了らなきゃならないんだよね。ほんっとイヤんなるくらい強いなぁ。テル―……、

 

ちらりと照の顔を覗き見、視線を手牌に戻す淡。

その顔は絶望や畏怖を浮かべている。……のではなく。

 

 ーーだから好きなんだけどねっ!

 

嬉しそうな表情でにやけていた。

 

 「ロン!ピンフにドラドラで2900!」

{一萬}{二萬}{三萬}{九萬}{九萬}{三索}{四索}{七索}{八索}{九索}{赤五筒}{六筒}{七筒} {二索}

 「……え?」

 

 「おぉ~ん?なんや、もう終わりかいな」

 

幸雄、{二索}による放銃。

照にツモが回る前の、五巡目の事。

 

 「……早いね」

 

 「わざわざ首元にナイフを当てる必要は無いからな。……と言っても、可能性が高く、かつ安そうなのを先に捨てただけだ。これだという確信は無かった」

 

 「そう……」

 

 「私としては{五索}でも良かったんだけどね~」

 

 「……悪いな、こっちは一巡置いてでも捨てたく無いんだ」

 

自身の手牌を閉じ、卓中央を開く為のボタンを押す照。

それに倣い、他の三人も閉じた手牌と共に牌山を崩し始める。

その様子を洋榎の裏で見守る絹恵。

本来は打ち手でもある彼女の胸の内に有るのは、姉達の異常と言うしかないこの局に対する畏れ。

 

 ーー最後まで可能性に賭けず、振り込みの確立をゼロにする為の差し込み?しかも親へ?なんやのそれ……。ウチの知ってる麻雀と違い過ぎる。普通、自分が絶対和了れへんとか、先に大きい手で和了られてまうってなった時に渋々するもんちゃうんか?

 

間違っても対局に影響を及ぼさぬよう、絹恵は表情を可能な限り変えずにいる。

しかし、どうしてもその一瞬だけは隠し切れなかった。

 

 ーー理屈は分かってるんや。あの七本場。あんなんがまた来たら今度こそ終わってまう。

 

悔しさに、瞼を閉じてしまうその瞬間だけは。

 

 ーー……けど、だからって踏ん切りつくわけないやんか。連荘入れたって、もう、三局しか無いんやで?

 

目の前で打っていた姉は、手の進みが悪いと分かるや否や『自分の手は進んでいない』と示すかのように牌を切った。

絹恵には最後までそれが何故か分からなかったが、淡の和了宣言の際にやっと察したのだ。

『手伝うべきなんはこっちやあらへんで』と、伝えていたのだと。

 

 ーーこんなんウチみたいな普通なんが入ってたら……勝負にすらならへんかもしれん。………ヘコむわ。

 

実際、洋榎の手牌的には{二筒}は有効牌であった。

しかし、一度の手出しから変わらず五シャンテン。鳴きを含めても和了るのは難しかった。

故に、彼女は降りた。幸雄ならば、配牌時に手が軽い事を考慮したとしても進みが悪いと読むだろうと考えて。

 

 

 

 

次巡へ続く。

 





 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。