咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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とんでもなく遅くなってしまって申し訳ありません。
お残業もそうなのですが、単純にこの回を書くのが大変でした。
待たせた甲斐のあるような中身になっているかは正直分かりません。
本当にすいません。


第二十五巡 驚愕

 南二局・一本場、親・大星 淡。ドラ表示牌は{三筒}。

その勝負は早々に動きを見せた。

最初の捨て牌時にダブリーを宣言した淡。その捨て牌を洋榎が鳴いて奪う。

{四筒}{四筒}{四筒}

その二巡後、再び洋榎が鳴く。今度はチー。

{二索}{三索}{四索}

三巡で二副露、しかもドラ三確定。

捨て牌から見れば喰いタンのその鳴きは、だが、待ちは読めなかった。

二副露とは言え彼女の河にはヤオチュウ牌のみ。タンヤオならば当然の捨て牌。参考にすらならない。

ならば、と。誰もが考えた。

『初めから決め打ちしている』と。

 

 ーー……成る程な。そう来るか、愛宕 洋榎……!

 

 ーー……おねぇちゃん。ホンマ、敵わんなぁ……。

 

 ーー洋榎の攻め。……強引なだけじゃない。ちゃんと、『分からない』。

 

 ーーぐぬぬ……!私、まだまだ和了り足りないんだけど!?

 

ここまでの対局の流れ、彼女の持ち点、歴然たる一位との差。

それらを踏まえた一般人が目の当たりにすれば、自棄や投げやりといった感想が出てきてもおかしくない洋榎の行動。

当然、違う。

かつて妹に告げている通り、彼女に負ける気など一切無い。

ただ、勝ちを得る為の最善手を取ったに過ぎない。

 

 「……全く。散々やってくれよってからに」

 

宮永 照という存在によって大きく短縮させられた、たった五、六巡しかない一局の間に勝つ為に全力を尽くしているに過ぎない。

故に、六巡目。

 

 「ロン。南・ドラ四で8000は8300や」

{赤五萬}{六萬}{七萬}{八萬}{八萬}{南}{南} {二索}{三索}{四索} {四筒}{四筒}{四筒} {南}

洋榎、照からのロン和了り。

その{南}、配牌時点から対子。二巡目に照が切った{南}は見逃している。

和了り役が役牌である事を隠す為に。

 

 「点棒はお土産とちゃうからな、そろそろ返してもらうで。照」

 

 ーーなんて、こない上手い事と行くとは流石に思っとらんかったけどな。

 

点棒のやり取りを行いながらしたりと笑う洋榎。

対する照はいつも通りの無表情を崩しもせず、淡々と点棒を受け渡す。

しかし、その内心は少しばかりの焦りが浮かび始めていた。

 

 ーー流石に……まずいかな。後二局、完全に守りに入った方が良いかも。

 

そう思い、点棒の蓋を閉める照。

……が、同時に気が付く。

 

 ーー駄目だ。淡がいる以上、何処かで絶対に和了られる。

 

並みの相手であればいざ知らず、対局者の中には大星 淡。

いずれの手段を用いろうと、何も無ければ確実に和了る彼女がいる限り、守りは意味を成さない。

それこそ阿知賀の大将・高鴨 穏乃のような[牌山の支配者]や、臨海女子の大将・ネリー・ヴィルサラーゼのような[和了りの無効化]を持つような者でもない限りは無駄な努力とすら言える。

そのネリーでさえーー他の打ち手の影響もあるとは言えーー早々に無効化を上限値まで消費させられているのだから。

 

 ーー……和了り方にはこだわらない。それでやるしか無いかな……。

 

幸雄の開けた卓中央の穴に牌を押し込んで数分後。

サイコロの回る音が止まり、牌の移動する音が、捲る音が、止む。

南三局、開始。

 

南三局、親・平山 幸雄。ドラ表示牌は{七萬}。

幸雄、最後の親番。

出来る事なら和了りたい、大物手……!

いや、とにかく和了り続けたい。例え1000点であろうと。逆転するまで永遠に。

……しかし。

 

 ーー……変わらず四シャンテン、か。他の二人に比べれば遥かにマシとは言え、やはりキツイな…。

 

開かれた手牌。乱雑な順番。それでもなお一目で分かってしまうシャンテン数。

最後の親番であろうとなかろうと配牌の重さは変わらない。

これが普通の対局であれば手離しに嘆く事も出来るが、照も洋榎ももっと重い手であろう事を考えると充分喜ばしい事として受け入れるしかない。

 

 ーー愛宕姉のように鳴いて仕掛けていくべきか……。……手段としては悪く無いが、さっきのアレが和了れたのは{南}という牌を隠しきっていたからだ。全員を喰いタンだと思い込ませたからこそ成立した奇襲、意識外からの一撃。それを細工も無しに真似たところで和了れないだろう。

 

リー牌の後、ツモ、盲牌。ーー{一萬}。

牌の上に寝かせ、手出しの{北}。

 

 ーー……今更奇を(てら)っても意味は無いな。普通に行くか。

 

照にツモ番が移る中、幸雄は引いた一萬を手牌の中に滑り込ませる。

現状、彼の手に見える役は無く、ドラも赤ドラも無い。

幾ら和了る事が絶対条件と言えど、1000点やそこいらでは捲るより先に親番が移る可能性の方が高いだろう。

結局、それなりの打点を用意しつつ数度の連荘が出来無ければ余裕をもっての勝ちは無く、それが出来無いから苦労しているのだ。

 

 ーーせめてドラでもあれば手を伸ばしやすかったんだがな。赤二枚とは言え来ない時は来ないか。

 

二巡目、三巡目となってもやってこない赤ドラとドラ。

幸い無駄ヅモは無いお陰で一シャンテンではあるものの、依然点は伸び悩んでいる。

{二筒}{三筒}{四筒}{六筒}{七筒}{八筒}{一索}{一索}{二索}{六索}{七索}{八索}{九索}

 ーードラ無しなら3900。{一索}以外にウラが乗っても最大7800点。乗らない事を前提としても……和了れ無いよりはマシだな。

 

ちらりと三人に視線を遣り、それぞれの河からテンパイ気配を探る幸雄。

洋榎からはまだ何も感じない。恐らく三シャンテン程度。

照の進みは間違いなく良い。既にチュンチャン牌が一枚出ているのを見るに、彼同様無駄ヅモは無いのだろう。

 

 ーー二人は想定通りだな。問題は……。

 

淡の河に視線を一瞬向け、自身の手牌に戻す幸雄。

その脳内には今の一瞬で完璧に記憶された彼女の河が浮かんでいる。

 

 ーー相変わらず規則性の無い捨て牌だ。恐らくは張っているんだろうが……。

 

ダブリー時の捨て牌のような淡の河。

先ほどの洋榎の行動を受けてか未だなんの動きも見せていない。

 

 ーー……これで四巡目。その間に自信家ちゃんがしたツモ切りは三回。つまり、全ての巡目。

 

幸雄、ツモ。盲牌ーー{南}。

四巡目に突入。

 

 ーー俺には不要な{南}。しかし、ション牌でもある。……誰が鳴く?

 

ツモ牌を手牌の上に一旦寝かせての一瞬の思考。

捨てれば恐らく誰かが鳴く。それ自体は仕方が無い。事ここに至ってはそんな所まで意識しても負けが近づくだけだ。

問題は、そう。誰が鳴くのか。

 

 ーー……考えても分かるわけは無いか。今回は親……攻めるッ!

 

打、{南}。

 

 「ポン」

{南}{南}{南}

すかさずポンの声。それはーー照。

 

 ーーッッ!!よりにもよってか……!

 

最も鳴かれたくない相手の宣言に幸雄の眉が微かに動く。

 

 ーー攻めに出たらこれか。……仕方が無い。身から出た錆だ。

 

照の捨て牌ーー{九萬}が出ると同時、幸雄は降りを決める。

それも、差し込みをする為に。

対し、他二人は彼とはまた違った意味で驚いていた。

 

 ーーなんやと?あの宮永 照が出だしから二翻?そないな事、過去あったんか?

 

 ーー……!!………おっさん!!!

 

悩まし気な幸雄とは違い、眼を見開いて照を見つめてしまう洋榎と、逆に幸雄を鋭く睨みつけている淡。

だが、彼はそんな二人の様子には気が付かない。

誰に差し込むか。頭の中はそればかりだった。

そして思考の結果、後々の事も考えてラスでもある淡にするべきだろうと結論が出た。

 

 ーーどうやったって読み難いが……何とかしてみせるか。何、カンさえしなければダブリーのみ。寧ろや安手な方だ。

 

少なく、無規則な捨て牌からどうにか待ちを読み取ろうとして更に一巡。計、五巡目。

 

 ーー……ここか?

 

幸雄、差し込みの為の打、{八筒}。

ーー瞬間

 

 「「ロン」」

 

上がるのは二人の声。

即ち、照と淡。

幸雄の視界、歪む。

 

 ーーだ……ッ!?

 

 「ダブ南。2000」

{一萬}{一萬}{三萬}{四萬}{五萬}{三索}{四索}{五索}{六筒}{七筒} {南}{南}{南} {八筒}

 

 「平和、1000」

{二萬}{三萬}{四萬}{一索}{二索}{三索}{七索}{八索}{九索}{六筒}{七筒}{九筒}{九筒} {八筒}

 

 ーーダブロンだと!?

 

静かに手牌を開く照とは対照的に、逆回転までさせてどこか威嚇している雰囲気の淡。

点数申告で聞こえたのは安手も安手な為、何とか幸雄の視界が戻る。

 

 「ぐっ……、くッ……!!」

 

 「言っておくけど、完全に偶然だから」

 

 「そう、だね。流石に狙えないかな」

 

 「狙ってやるなら、もっと高い手作るし」

 

やはり、幸雄に対して怒りか何かを感じているらしい淡は少なからず攻撃的な態度を取っている。

が、点は安くとも精神的にはそれどころでは無い幸雄の耳には一切入っていなかった。

であれば、無関係ではある照や洋榎らが淡に対して何を言う事も無く、普通に会話を行った。

 

 「はーー、ダブロンか~」

 

 「久しぶりに見たなぁ。安くて良かったですね」

 

 「ま、全くだ。一瞬、トんだんじゃ無いかと思ったよ」

 

 「そんなわけないじゃん。カン裏乗ったり、役満狙いに行かないと高い点あんまり出ないし」

 

 「ま、まぁそうだな。俺もそれを見越していたしな……」

 

 「でも、さっきも言ったけど、どうせならもっと大きい役和了れば良かったよね。役満とか」

 

 「かっ、勘弁してくれ!生きた心地がしないんだぞ、点数関係無く、ダブロンは!!」

 

前のめり気味に雀卓に両手を付く幸雄。

それを見て少しばかり表情が柔らかくなる淡。

そんな二人の様子を見つめている照は、弘瀬 菫の事を思い出している。

 

 ーー……今度、されてみたいな。菫にお願いしたらやってくれるかな。狙えるよね?シャープシューターだし。

 

徐々に怒りが落ち着いて来たらしい淡と、無表情ながらもどこか楽し気な照と点棒のやり取りをする幸雄。

それを見ている洋榎は改めて先ほどの照の和了りを思い出す。

 

 ーー勝つ為になりふり構わんくなったんか。……こら、ちぃとばかし気を引き締めなあかんな。

 

それでも、次の準備がーーオーラスの準備が整った頃には誰もが意識を変えていた。いいや、代えざるを得なくなっていた。

最終的な勝敗を別つ、最後の局であるが故に。

即ち、最終決戦。

 

 

 

 

次巡へ続く。

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