咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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 最終回だと言ったな。
あれは嘘だ。

後一話だけ続くと思います。


第二十七巡 終局

 「い、いい、インチキ!!!ぜっっっったいインチキ!!」

 

 半荘戦が終わる。

[運]を掴んでいたとしか言いようの無い、幸雄の流れるような嶺上開花(ツモ)によって終わる。

最終戦績は幸雄・32900点、照・31100点、洋榎・21200点、淡・7400点。

僅か1800点の差。淡の立直棒が無ければたった800点の差ではあるが、一位だった照を引きずり降ろし、幸雄がその座を奪った。

そんな[敬愛する照が負けた]という事実に耐えられないのだろう。淡は勢いよく雀卓に両手を突いて立ち上がり、今にも泣きそうな表情で抗議を始めた。

 

 「こんな、絶対おかしい!もう一回!!」

 

 「えらい息巻いとるなぁ」

 

 「インチキ……って、どうして?」

 

 「だって、サキでも無いのに必要な所で嶺上開花出来るなんておかしいもん!」

 

 「……まぁ、言いたい事は分かるで?せやけど、おかしいんは本来、清澄の……」

 

 「猫ぐ……ヒロエには言ってない!!!」

 

 「あ、おねぇちゃんの名前、憶えてくれはったんや」

 

 「いや、なんでやねん」

 

 「そらぁ、まともな事言うたら喧嘩になってまうし」

 

 「……まぁ」

 

彼女の言い分に若干の理解を示しつつも否定を口にしようとする洋榎を遮る淡。

しかし、相当の不服を感じている淡とは違って他の三人の様子は至って落ち着いていた。

 

 「確かに、淡の持ち点がそんなに凹むなんて事は今までに殆ど無かった。だから納得出来無いのも分かる」

 

 「私の事は……そりゃあ、そうも思うけど……。けど、テルーが……」

 

 「……なんであれ対局はアカギさんの勝ち。それはどれだけ納得出来無くても事実だよ、淡」

 

 「けどーー!!」

 

 「麻雀に必要な技術と運がこの半荘戦ではアカギさんが一番だった。だから私達は負けた。第一、『インチキ』って言うなら殆ど毎回ダブリーしてる淡だって人の事言えないんじゃない?カン裏だって絶対乗るし」

 

 「うっ!それは……そうかもしれない……けど……」

 

聞き分けの無い子供のように雀卓に身を乗り出している淡を諭すように戒める照。

その様子はさながら姉妹のようだと絹恵の目には映り、思わず微笑んでしまう。

 

 ーーホンマ、仲ええなぁ。ウチらとどっちが仲ええんやろか。

 

 「ぐぅ~……!もーー!分かった!良かったねおっさん!テルーにも私にも勝てて!!」

 

そんな照の言葉が淡に通じたのか、それともこれ以上は照に嫌われると考えたのか。納得は未だいかずとも彼女は幸雄に賞賛の言葉を投げつけた。

……だが。

 

 「……いや、それは違う」

 

幸雄はそう、噛み締めるように口にした。

己の手をーー嶺上牌をツモった指をーー見つめ、握り締めて。

 

 「……どういう事や、おっちゃん」

 

 「……もしかして、ホンマになんかしてはった……とかですか?」

 

 「いや、そうじゃない。イカサマをしてこない相手にイカサマをするなんて事、俺は間違ってもしない。……後が怖いからな」

 

愛宕姉妹の疑問に満ちた言葉に微笑み交じりの返答をする幸雄は、しかし、瞳の奥に微かな悲しみを浮かべる。

後悔にも似たその感情。

それが照には解せず、思わず疑問をぶつけてしまった。

 

 「……なら、どういう事?」

 

 「意味分かんないんだけど、おっさん」

 

 「だろうな。これはあくまでも俺の問題だ」

 

照の疑問を耳にすると共に再び苛立ちを露わにする淡と、問いかけは二人に任せて返答を待つ愛宕姉妹。

そんな彼女達四人を感じながら幸雄は自身の拳から視線を外し、静かに背もたれに身体を預けて天井を見上げながら理由を答えた。

 

 「俺が君らと対局した最初の理由を覚えているか?……俺はそれを、あろう事か対局の途中から完全に忘れていたんだ」

 

 「……それがどうかしはったんですか?」

 

 「別に大した問題や無いやろ。集中しとったらそれ以外の事なんて忘れて当然なんやし」

 

待っていた幸雄の返答に納得がいかず、照達に代わって答える二人。

そんな二人に僅かに自嘲染みた笑みを浮かべ、幸雄は更に続けた。

 

 「大した事じゃ無いのなら洋榎さんの言う通りなんだがな。俺にしてみれば嬢ちゃん……咲の強さを[姉に証明する]っていうのは最優先すべき事だったんだ。[忘れる]なんて事はあってはいけなかった」

 

 「………それで『負けた』って?すっごい意味分かんないんだけど」

 

 「ああ、全く同意見だ。だが、どうやっても拭えそうに無くてな。理屈じゃないんだ、こういうのは」

 

否定を肯定し、それをまた否定する。

支離滅裂とも言える彼の言動に腕を組み、眉間にしわを寄せ、唇をへの字に結んで首を傾げる淡。

あまりに理解出来無い彼の理由に彼女の中に再び湧いていた苛立ちは薄まり、代わりに疑問だけが浮かぶ。

対し、他の三人は納得したような表情を浮かべて幸雄に視線を向けていた。

 

 「ホンマに難儀なやっちゃな~。そのうち禿げ散らかっても知らんで?」

 

 「滅多な事言うもんや無いでおねぇちゃん!……けど、まぁ、『難儀な』っちゅう部分は同意見なんですけど」

 

 「言いたい事はなんとなく分かった。つまり、『結果だけじゃなくて過程も納得が出来無いと駄目だった』。そういう事だよね」

 

 「ああ、そうだ。だから俺は、点数では勝ったが勝負には負けたんだ」

 

 「……じゃあ、引き分けって事になるの?」

 

どれだけ考えてもやはり理解出来無い彼の感情に、しかし最終的に言いたい事だけはなんとなく分かった淡は幸雄に傾げた首を戻しながら投げ掛ける。

その言葉に彼は深く頷くと、席から立ち上がった。

 

 「そういう事だ。せっかくの機会を棒に振った形にはなるが……それはそれとしてとてもいい経験になった。楽しかったよ」

 

 「ホント意味分かんないね、おっさん。勝ちは勝ちなんだから素直に喜べばいいのに」

 

 「……以前まではそうだったかも知れないがな。今はそういう気にはなれないんだ」

 

 「尚更意味分かんない。なんで自分の事なのにはっきりしないの??」

 

 「ははっ、全く、その通りだ。大星ちゃん」

 

 「……最初は『さん』付けじゃなかった?」

 

 「さて、どうだったかな、淡ちゃん」

 

 「ちょ!!」

 

対局前の他人行儀な様子はすっかり消え、冗談交じりの言葉を交わす幸雄と淡。

それを聞いていた照は……対局中に鏡で見た彼の[本質]を思い出し。

 

 「それって迷彩を鍛えてた頃の話?」

 

全くの無意識のままに尋ねてしまった。

そしてそれは、一部の人々以外にはーー照の鏡を知る者以外にはまるで意味の分からない発言。

はっきりと断言した後にその事を思い出した彼女は、眼を見開いた。

 

 「あ……。えっと、ごめん。なんでも無い……」

 

この中で彼女の言葉の意味を明確に理解出来ているのは淡だけ。

故に照は、幸雄には不思議がられるだろうとしか思えなかった。

なのにその幸雄は、驚いた様子は見せたものの首を傾げたり、困ったりなどはしなかった。

 

 「ああ。『生まれ変わったような気分』というのはこういう事を言うんだろう。君の妹や、その仲間達のお陰だ」

 

 「えっ……?」

 

 「いや、すまない。おかしな事を言ったな。最初の方は忘れてくれ」

 

 「それを言うなら、私の方こそ……」

 

何処か照れたように笑う幸雄と、何故自分の言葉の意味が通じたのだろうかと考えてしまい歯切れの悪い返答になってしまう照。

当然、その答えは出てこない。……恐らくは今後一生。

しかし。

 

 「ただ、これだけは覚えておいてくれ」

 

 「……?」

 

 「宮永 照、君の妹は……咲は、君が胸を張って自慢してもいい妹だ」

 

唐突なーーいや、当初の目的を考えれば当然な発言に、だが、照は言葉を失う。

それに気が付かない幸雄では無い。

……と言うよりも、今の照の様子はかなり分かりやすく、本人以外の全員が『意表を突かれたんだ』と一目で分かるほどだった。

その上で幸雄は続けた。差し出がましいと理解していながらも。

 

 「今回は上手く証明は出来なかったが…卑怯な言い方をさせてもらえば、咲は[良い年した大の男が影響を受けるような娘]だ。そんな奴そうはいない。姉として、いつか褒めてやってくれ」

 

それは彼女とーー宮永 咲と打ち、確かに自分の中の何かが変わったから。その恩返しとして、どうしても言わずにはいられなかった。

 

 「本来、赤の他人がこういった話をするのはタブーだ。何より、今はどうなのかも理解していないしな。ただ、それでも……」

 

 「……うん、分かってる」

 

徐々に歯切れが悪くなっていく幸雄の言葉に照の言葉が割り込む。

そこには怒りや不快感のようなものは無く。

 

 「アカギさんがこの対局に思う所があるように、私にも思う所はあった。だから、大丈夫」

 

どちらかと言えば、柔らかさや温かさを覚える感情が込められていた。

 

 「……話すきっかけにも、出来るし」

 

 「…そうか。それなら良かった」

 

照の言葉を信じ……『いや、それでは傲慢だな』と胸の内で笑いながら幸雄は口を閉じる。

同時。照も口を閉じ、照と咲の関係性の話は完全に終わった。

そうして一瞬の沈黙が流れ。

 

 「……ああ、そうだ。大星ちゃん、曲を見に行くか?」

 

 「あ!忘れてた!!見たい!!行くよね、テルー!?」

 

 「うん、いいよ。約束した気もするし」

 

 「ならどうせだ。みんなで行こう」

 

 「せやなぁ。同窓会ん時の一発ネタの為にも行こか、絹」

 

 「せやね。もしかしたら末原先輩のとかもあるかもしれへんし」

 

 「お~、ほんならウチが三年やった時のスタメンの曲、探そか」

 

 「うん!」

 

幸雄の提案に彼女達は頷き、彼を先頭にして全員が雀卓から離れる。

それから五人が向った先は、パソコンが一台置かれたデスクと壁に掛けられた大きめの薄型テレビ、それに授業に使うのだろう小物の数々が置かれている事務所だ。

半分物置と化しているそこは、幸雄しか講師がいないからか煙草の臭いが蔓延していた。

 

 「こ、これはこれは。健全な麻雀()ちの部屋みたいな臭いやなぁ」

 

 「さ、流石に窓開けてもええですか?ウチもおねぇちゃんも吸わへんから、ちょいキツくて……」

 

 「あ、ああ。済まない。全く考慮していなかった。換気扇も回そう」

 

慌てて換気扇のスイッチを押しに行った幸雄の了承を受けて、洋榎と絹恵は二か所ある窓を全開にする。

それから少し。事務所の中がある程度換気されてから五人は曲探しを始めた。

壁掛けのテレビに映し出されたプレイリストの中から幾つもの曲が探し出され、気が付けば外には地上の星が灯り始める時間になっていた。

 

 

 

 

次巡へ続く。

 





 実際、全国後の淡ってどんな感じになってるんですかね?
原作での独白が結構落ち着いてる感じになってるので、こーいう子供っぽさは無くなってるかもしれないんですよね。
決勝での勝敗如何によっては今回での幸雄に対する意見も変わって来るでしょうし。

なんとも分かりませんが、この二次創作では元々の性格とそこから来るイメージのままで書きました。
私が間違っていた時はお許しください。
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