咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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 ちなみにですが、この作品は全国大会とか諸々が終わってからの世界で書いてます。



第三巡 追想

 

 「局数は半荘二回。で、取り合えず良いかしら」

 

 幸雄達が雀卓の傍に寄ると最初に久が口にしたのはそれ。

 

 「ああ。そこら辺は元部長さんのさじ加減に任せるよ」

 

 「そお?どうせなら咲や和とも打ちたいと思ったんだけど……」

 

幸雄の発言に小首を傾げる久。

誘っている。ミスを。本当に怪しい人物ではないのかという疑惑の下。

否、久は別の理由でミスを誘っている。彼女の察した事が正しいのかを確かめる為。

が、一度死を体験した幸雄。いずれにしろこの程度では焦らず、涼しい顔で返す。当たり障りの無い返答。

 

 「……打ちたくはあるが、今いないメンツを数に含めてもな」

 

 「まーそうね。二人が来たらアカギさん以外の二人が入れ替わりましょうか」

 

一瞬驚いた表情を見せつつも直ぐに微笑んだ久。

それを見て幸雄はやり過ごせたと内心で安堵する。

 

 「そういう事だ。まずは今いるメンツで打とう」

 

 「ほーするかの。後でごねられても敵わんしのぅ」

 

 「のどちゃんは多分平気だじぇ?」

 

 「ふふ、そうね。全国大会以降の咲のジャンキーぶりは中々だし、出来れば座らせてあげたいわね」

 

 ーー全国、か。まさか麻雀が野球のような立ち位置になる日が来るとはな。想像もしなかった。

 

対局数を決める中、話題に上がるのは引き続き二人の名。咲と和という人物。

当然、幸雄は誰か知らない。が、この部の仲間で、会話の気さくさから恐らくは二学年か一学年だろうと察する。

 

 「二人は、何処か行ってるのか?」

 

幸雄は細心の注意を払いながら尋ねる。

二度は踏まない、同じ轍。

 

 「献血じゃったか?」

 

が、しかし。

 

 「ええ。エトペンコラボとかなんとかって言ってたわね」

 

 「タコス貰えるなら私も行ったんだけどなー」

 

 「血を作る物の為に血を抜くっちゅーのも変な話じゃがなぁ」

 

 「血……ッ!?」

 

 「じょ?」

 

よだつ、身の毛。

幸雄、絶句。

 

 ーー抜く……?血を………ッ!自らの意志で………ッッッ!!!!????

 

 「どーしたんじゃ?赤木さん。急に青ざめて」

 

 

 「い、いや……その……」

 

不思議がるまこに尋ねられ、今度こそ口籠る幸雄。

当然だ。彼の死因は失血死。それも、自身で呑んだ条件の下……ッ!

蘇りによって多少の肝は据われど、拭い難い……死因への恐怖ッ!

 

 「あ、分かったじぇ!おっさん、きっと血とか怪我の話がニガテなんだな!?」

 

 「あ、ああ……。その手の話はどうも弱くて……な……」

 

 「全く、お子様だな!」

 

嘘である。寧ろ日常的に血生臭いシーンを見てきた部類の側である。

しかし、渡りに船!あまりに!!

彼女の言葉を使い、逃れる…!疑いに至るだろう、話題から……ッ!!

 

 「っと、そうじゃったか。悪い事をしたのぅ。すまん」

 

 「いや、気にしないでくれ。片岡の嬢ちゃんの言うように俺が怖がり過ぎなのもある」

 

 「まぁいいんじゃない?何を怖いと思うかなんて自由だし」

 

逃れる、疑いの話題から。幸雄の期待通り…ッ!

それどころか、彼女達の視線が何処か柔らかくなる。

 

 ーー軟弱、とはならないのか。時代どころか倫理観まで変わったんだな。

 

幸雄に走る、幾度目かのカルチャーショック。

となれば、必然。彼女達の視線は憐れみではなく、慈愛。慈しみに類する感情。そのはず。と、幸雄は理解する。

 

 「さてと、まずは席決めましょうか。優希?」

 

 「了解だじぇ!」

 

久に呼ばれ、手に持った食べ物ーータコスの残りを一息に食べた優希が小走りに席の傍から離れると別の場所から四つの牌を持ってくる。

彼女の手の内に有るのは東西南北の字牌がそれぞれ一牌。

それを裏向きにして雀卓の上に置くと、幸雄以外の三人が目を瞑る。

それぞれを見回し、取り合えず倣う幸雄。

暗闇の中、雀卓のグリーンマットの上を滑る字牌の音か幾度か響く。

それが止むと同時、優希の声が上がる。

 

 「頼むじぇ、新ぶちょー」

 

 「あいよ~」

 

一先ず目を開ける幸雄。まこと優希の立ち位置が変わっている事に気付く。

 

 「……これは?」

 

 「うん?公平を期す為じゃ。わしが『終わった』と言うまで目を瞑っててくれ」

 

 「……?分かった」

 

呑み込めない幸雄、言われるまま目を瞑る。

再び聞こえる牌の滑る音。その間、考える。

 

 ーー……仮東を決めるのに牌を使うのか?

 

分かっている情報を繋げて立てた仮説は正しい。

が、幸雄がそれを知る術は無い。まこに呼ばれ、実際に行われるまで。

 

 「さて、もういいかの」

 

そうして止んだ滑る音と、上がったまこの声。

眼を開ける幸雄。

雀卓を見れば、歪な直線で並んだ四つの牌。

 

 「アカギさんからどうぞ?」

 

久の言葉に幸雄、固まる。

しかし、直ぐに察して動く。

 

 「じゃあ……これだな」

 

器用に指先で牌を捲る幸雄。書かれているのは[東]。

 

 「ほいじゃ次はわしが」

 

 「なら次は私ね」

 

 「うぅ~仮東とは言え、最後は面白くないじょ……」

 

 「ごめんごめん、次は私が場決め牌を持ってくるわ」

 

幸雄が引た牌を全員が確認するや否やまこ、久、優希の順で牌が捲られていく。

その後、席に着いた仮東の幸雄がサイコロを振り、まこが仮親になる。

 

 「麻雀のルールはこの前の夏の大会準拠でいいかしら?赤ドラ四、大明槓ありで責任払い、ダブル役満無し。点は……流石に二万五千ね」

 

それぞれの席に座り、最後の確認として久が幸雄に尋ねる。

 

 「構わない。雀荘……じゃないが、そこのルールに従うのが打ち手のルールだ」

 

久の言っている[大会]の意味は分からない。しかし装う平静。

 

 「随分分かっとるのぅ。結構打つのか?」

 

会話の中、親決めのサイコロを久が卓中央付近のボタンを押して回す。

 

 ーーむ?久の奴、何故もう振ったんじゃ…?

 

普段とは違う段取りで準備を行った彼女を疑問げに見るまこ。

その眼が久と合う。

 

 ーーまぁ、合わせて。

 

 「自慢にもならないが、それで食おうとしてた時期もあった」

 

 「なぬ!?おっさん、プロを目指してたのか!?」

 

 「まぁ…そんなところだ。……と言っても、その才は無かったみたいだけどな」

 

明確な言葉は分からずとも、[任せて欲しい]といった旨の意志を感じ、一先ずまこは口を噤んだ。

 

 「ほうか。また目指してみる気はないんか?」

 

 「ああ。充分懲りたからな」

 

からからと回転しているサイコロの音にかぶさる幸雄達の会話。

嘘は吐いていない。しかし、真実には遠い。

結果、彼女達は言葉通りにしか受け取れない。

なんらかの疑いを持つ、久を除いて。

 

 ーー他人の空似……にしては、随分それらしい事を言うわね。けど、あり得るわけも無い。……成りきり、ってヤツかしら。いずれにしてもここで[いつの人か]は分かるはずだわ。

 

止まるサイコロ。同様に久の思考も止まり、言うべき事を言う。

 

 「二の四で右六ね」

 

 「優希が親じゃな」

 

 「やったじぇ!」

 

両手を上げて喜びを表現する優希。その姿を見た幸雄、再び疑う。彼女の年齢。

 

 ーーこの時代の高校生はこんなに幼いのか?……いや、やめよう。倫理が変わるなら常識も変わる。それだけだ。

 

いずれにせよ、最終的な席は東場・優希、南場・幸雄、西場・久、北場・まこと決まる。

 

 「さてと、最後に配牌ね。優希?」

 

 「ん?もう押すのか?」

 

 「いーからいーから」

 

 「変な部長だじぇ」

 

 「元、ね」

 

 「こまいのぉ……。いい加減飽きんのか」

 

幸雄が時代を感じている中、再三回る二つの天運。その指針。

軽快な音。僅かの内に止まる。

 

 「対七……。元部長さんか」

 

示されたのは三の四で七。優希を一として数え、正面に当たる久の前にある牌山が指定される。

……のだが。

 

 「とりあえず決まったが……」

 

幸雄、当然の疑問。しかし、それこそが失言。

 

 「おっと、いけないいけない。最初はお客様にやらせるわけにいかないわよね」

 

西家・久、申し訳なさを誤魔化すようにして笑いながら立ち、幸雄の傍にまで行くと卓上端に置かれている白い布を取る。

 

 ーーははぁ……。意図は分からんが、これがしたかったんじゃな?

 

現れる、整地された雀牌。

幸雄、開いた口を塞げない。

 

 ーーな……ッ!この女……!さては……ッッ!!

 

幸雄の推測通り、これは久の罠。

牌を入れるタイミングを通常と変える事で幸雄の反応を伺い、何に疑問を持っているかを炙り出す為の罠。

そしてその結果は、彼女の睨んだ通りのモノだった。

 

 ーーやっぱりね。どういう訳か最近の人じゃないみたい。今時自動卓なんて一般家庭にもあったりするのに、『知らない』なんて顔、浮かべるわけが無いもの。

 

如何なる理由かは分からない。しかし、このアカギと名乗った人物は現代人ではないらしい。

そう、久は結論付ける。

しかし、その真意が他の二人に届くわけもない。

事は[幸雄の振る舞い]として片付けられ、進行した。

 

 「そこに有るのに何もしないなんて、ぜーたくなおっさんだじぇ」

 

 「いやいや、これは流石にわしらの落ち度でもあるじゃろ」

 

 ーー実際黙っといたしの。

 

久の行動によって次の動きを察したまこと優希も立ち上がり、幸雄傍の雀牌をかき分けるようにして整地を崩しながら雀卓中央へと押し運ぶ。

そして。

 

 「優希、開けてもらえる?」

 

 「はーい」

 

押されるボタン。開く、サイコロの四方。

押し込まれる……雀牌………ッ!

それを見た幸雄、再び絶句。

否、腰が抜ける。

 

 ーーわ……鷲巣……ッ!!鷲巣麻雀ッッ!!

 

蘇る死の直前の記憶。最期の半荘戦。

やっている、同じ事をッ!あの悪魔の前でッッ!!

牌を台の中央の穴に落とし、自動で混ぜられ、ツモる……ツモる……!ツモる……ッッ!!何度も!透明雀牌…ッ!黒の手袋を付けて!盲牌を、防ぐ為にッッ!!

 

 『やめろーーーー!!死にたくない…っ!死にたくないッッ!!』

 

 ーーやめろ……っ!思い出したくない……!

 

 『死にたくなぁぁぁぁぁぁぁい!!!』

 

 ーー思い出したくない……ッ!

 

 『ぐ…うぅぅ……ッ!ぅぅぅぅぅッッ!!』

 

 ーー思い出したくなぁぁぁい!!!

 

 『ぅぅぅ……!ヴゥゥゥゥ!……ぐぅッ………うッ……』

 

 「…さん!」

 

 「ぐ…うう……ッ!」

 

 「おっさん!」

 

 「はっ!?」

 

突如届く、少女達の怯える声で意識が戻る幸雄。

 

 「お、俺は……!?」

 

二度、三度瞼を開き、自身を囲むようにして立つ久達に気が付く。

 

 「だ、だいじょうぶか?保健室、行くか?」

 

 「い、いや……」

 

 「そ、そうは言っても、尋常な苦しみ方ではなかったぞ?せめて何か、薬くらい……」

 

 「あ……有難う……。けど……大丈夫なんだ………本当に……」

 

彼女達の顔を見れば、当然のように不安で塗り固まった表情が浮かべられている。

無論、久でさえも。

 

 ーーそういう酷い賭けをしたらしい、とは知っていたけど……。まさかここまでなんて。酷い事したわね……。

 

 「……本人がこう言うんだし、大丈夫なんじゃない?」

 

 「な、久まで。持病とかじゃったらどうするんじゃ」

 

 「赤木さんは大人でしょ?だったら、自分の限界はきっと分かってるわ。私達よりもよっぽど、ね」

 

 「そ、それはそーかもしれんが……」

 

 「元部長さんの言う通りだ。大丈夫、身体に別状は無い」

 

 「……しかしなぁ」

 

 「なら、こうしよう。次同じ事が起きたら直ぐに医者に行く。それでどうだ?」

 

幸雄の提案を聞き、腕を組むまこ。

それから約数秒。難しい顔をしながら何度か頭を捻ったまこは、久と幸雄を見て、大きなため息を吐いた。

 

 「しょーーのない。それで手を打とう」

 

 「おっさん、ああなる前に言うんだじょ?直ぐきょーたろーを呼んで運ばせるからな?」

 

 「ああ。有難う、片岡の嬢ちゃん。眼鏡の新部長さん」

 

 「褒めても何も出んわ。まっ……ったく!咲をジャンキー呼ばわりできんぞ、お前ら」

 

 「全くね」

 

 「……恩に着る」

 

幸雄、辛うじて耐える。

久の手助けによって。が、しかし。当然幸雄は彼女の手柄を気付けない。

 

 「さてと!ちょっとあったけど、始めましょうか!」

 

数分後、自動で卓から現れた牌山からそれぞれが配牌していき、始まる。

かの夜の地獄とはまるで違う、何も賭けていない無垢な麻雀。

その、第一局。

第……一打が。

 

 

 

 

 

 

次巡へ続く。

 





 
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