咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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第五巡 不測

 東二局、一本場。親・平山幸雄。ドラ表示牌は{一索}。

その十二巡目。

 

 「ロンだ。5800は6100」

 

 「なぁ!?ま、また振り込んだじょ……」

 

幸雄、優希の捨てた三索にて手牌を開く。

赤五筒の順子に發の鳴き、ドラ二索絡みのカンチャン待ち。しめて三十符三翻。

 

 「悪いな、引っ掛けさせてもらった」

 

東二局を終えての一本場。

その二回を和了ったのは当然幸雄。一度目は赤五を絡めた喰いタンによるロン、2900。

前局と今局、そのどちらも優希が振り込み、幸雄が初めに振り込んだ7700は既に取り返した上におまけが付いている。

 

 「ぬぅ~~~!きょーたろーはまだか!!タコスーーー!!」

 

 「はは、出来の悪い彼氏ですまないな」

 

 「え!?そー見えるか!?」

 

 「……まぁ」

 

 「今、兄妹だと思ったな!?」

 

点棒を受け取る幸雄と、悔いと嬉しいを行き来しながら握った両拳を天井に突き立てる優希。

その二人の様子を目の端に置きながら久は幸雄の河に視線を落とす。

 

 ーー上手い……。張ってるかもとは思っていたけど、迷彩が圧倒的に上手い。安牌も無しに降りてたら、多分振り込んでた。

 

見えているのは筒子が少なく字牌が多めの捨て牌。

その上で六巡目の二索、十巡目の六索切り。

 

 ーー二索切りは偶然だったとしても、一度捨ててあるドラ牌と比較的多い萬子。そして筒子の少なさから見ても索子、それも三索とは思い難い。

 

視線を上げる久。正面のまこと目が合う。

 

 ーー久までに和了られてなかったら、わしも危なかった。

 

言葉は交わらない。しかし、視線によって簡易な意思疎通が交わされる。

 

 ーーこういう河の記憶もあるが、いかんせん人によって待ちが違う。精々、危険そうな牌の種類が分かるくらいじゃ。どうにもできん……。

 

 ーー……そう。まこですら不安があったのね。

 

いつの間にか開いている中央四カ所。優希と幸雄が牌を押し込み始め、久とまこが少し遅れて同じように押し始める。

 

 「それにしてもおっさん、迷彩上手いな!全然分かんないじょ」

 

 「いや、まだまだだ。片岡の嬢ちゃんにはなんとか通用しているが、二人の部長さんには全然だ。十代半ばの子供にすら通用しないんじゃ迷彩とは言えない」

 

 「むむむ…。まだまだ私もしゅぎょーが足りないのか……」

 

 「まぁそう考え込むな。麻雀は経験と機転だ。運だけに頼るな……と言っても、全国制覇の先鋒に言うのは釈迦に説法みたいなものだけどな」

 

 「いや、分かるじょ。経験は大事だ。全国に挑む前にはノッポと……」

 

牌山が出るまでの間、楽しげに会話を続ける二人。

しかし、久とまこはただ聞くばかりで言葉を挟み込めなかった。

 

 ーー冗談。全国で当たった相手は誰も彼もバケモノ染みて強かった。そんな相手を過程はどうあれ倒して来た私達を手玉に取ってるのよ?

 

 ーー振り込まれんかったから下手、などと言うんは上手い奴の常套句じゃ。意図して降ろすんに成功しただけでなく、しっかり出和了りもしとる。充分過ぎる腕前じゃろうが。

 

久とまこ、二人のこめかみに冷や汗が一筋流れる。

 

 ーー初めは興味本位からだったけど、そうも言ってられないわ。……私にだって優勝校のプライドはあるのよ?

 

 ーー出し惜しみは無しじゃ。全力で行く。

 

久が両腕を捲り、まこが眼鏡を外す。

県や全国の大会で見せていたように。

侮っていたわけではない。決して。ただ、二人共普通にやってしまっていた。

故に、全霊を出す。

阿知賀や白糸台、臨海を相手取った時と同じように。

 

 「さて。東二局、二本場。始めるか」

 

出て来た牌山。宣言。回したサイコロ。そうして決まり、ドラが捲られて配牌が終わる。

そして、二本目の百点棒が同様に卓の端に置かれた。

東二局、二本場。親・平山幸雄。ドラ表示牌は{白}。

幸雄、手牌三シャンテン。

{四萬}{五萬}{三索}{四索}{五索}{五索}{七索}{八索}{九索}{五筒}{中}{發}{白}

ばらけた字牌の白、發、中と完全に浮いている五筒、三・六萬受け入れ待ちの順子。残りが六索抜けの代わりに五索二枚で作られた三~九までの索子牌。

字牌はともかくとして、それ以外の受け入れ待ちの牌は広く、赤ドラが引ければ容易に点が乗る、非常に良い配牌。

ツモり次第では染め手にも移行できる融通の利いた手牌だ。

 

 ーーさっきの手に比べて点が伸ばしやすいな。ようやく分かりやすく流れが向いて来たか。

 

ツモ。盲牌。

 

 ーーいや、片岡の嬢ちゃんの速さは侮れない。のみ手も考えておくか。

 

手牌の上にツモ牌の{白}を寝かせて置いてからノータイムでの打、{中}。

幸雄、二シャンテン。

続く久。ツモ後即手出し。{一筒}。

まこ、盲牌してチラ見。ツモ切り。{發}。

優希、ツモ後、僅かに間を置いて手出し{赤五筒}。

 

 ーー……思った通りだ。どういうわけか片岡の嬢ちゃんは異様に手が速い。赤ドラを一巡目に切るなんてのは張ってるか張りかけてるかのどちらかしかない。

 

そうして幸雄にツモ番が回り、二巡目に突入。

{一索}を引いた幸雄、のみ手を意識しつつ一気通貫を視野に入れての打、{發}。

誰も鳴かない、さりとて立直が掛かる様子も無いまま打牌の音が響く事七巡目。

幸雄、白が出なければ他の赤ドラも引けないが、代わりに索子が一~九まで揃う。これにより白のみの連荘だけを意識した和了りを捨てる。

また、萬子の捨てがあまりない優希を警戒して四・五萬は手元に。

 

 ーー恐らく、全員が一シャンテンからテンパイ、か。

 

これまでの捨て牌を思い返しながら幸雄は警戒心を高める。

優希、一度の手出しを除いてツモ切り。鳴く気配すら無し。

久、鳴き無し。四巡目以降からツモ切りのみ。

まこ、八・九の索子を四巡目で鳴き。一・五巡目以外手出し。

そして自身、幸雄。鳴き無し。六巡目でテンパイ。

{四萬}{五萬}{一索}{二索}{三索}{四索}{五索}{六索}{七索}{八索}{九索}{白}{白}

索子のイッツ―、白頭の三・六萬待ち。が、七巡目に入っても立直棒投げず。

故に、ダマテン。

 

 ーーどうも片岡の嬢ちゃんは一巡目で張ったようだが、未だ立直宣言は無しか。……読み違えてるか?

 

仮にこちらもダマテンとなれば恐らく跳満以上が狙える手。

 

 ーーダマだとして。和了り牌は当然出にくい物。赤ドラとドラは危険として……。

 

対面のまこが打牌する七筒を確認しつつ優希の河を見る。

捨てられている牌の中でもどちらかと言えば偏っているのは索子。

筒子は次に多く、萬子はやはりあまり無い。字牌の發、東、西、北に関してはまだらに一枚ずつ切られている。

 

 ーーチュンチャン牌が多いが、一萬や九索、七筒もある。一巡目以降ツモ切りを続けている以上、この捨てでチャンタ・ジュンチャンの線は薄そうだが……。

 

優希がツモる。

牌を寝かせて手牌の上に置き、二秒程の沈黙。

その後、手出し。打、{一索}。

 

 ーー薄いと思ったが、恐らくジュンチャンだな。そもそもツモ切りだ。偶然こうなっただけなんだろう。なんにしろ、見切りをつけて待ちを変えたか……。

 

これまでのツモ切りからの二秒という長い思考。その末に捨てられた一索。

それらを総合し、幸雄が考えたのは待ちの変化。

恐らくはもう出ないのだろうと踏ん切りをつけての変更。

だとすればテンパイが崩れた可能性も当然考えられる。が、幸雄はそこで優希の異様なまでの張りの速さを考慮に入れた。

恐らく張ったまま。点が高くなる方を選んだのだろう、と。

 

 ーーいずれにしろ、点を高くするには事実上の単騎待ちにするしか無いだろうな。……終盤まで出なければ立直からの低めで少しでも損を減らそうとするのもあり得るだろうが。

 

幸雄、ツモ。盲牌。{七索}。

牌を引きながらの思考。結論が出る前に手牌の上に寝かせる。

 

 ーー現状の一位は30500点の元部長。次が26300点の俺で三位が23700点の片岡の嬢ちゃん。最下位が19500点で眼鏡の部長。出来ればこの親満で和了っておきたいが……。

 

視線を手元から動かさずに脳内で浮かべるのは久とまこの現時点での河。

 

 ーー軽く降りるか。次の局は子だが、現状は満貫一発でひっくり返る点差。ダマが多いだろう中でどこに振り込むか分からないくらいなら今から降りを考えた方が良い。

 

驚異的な瞬間記憶力を有しているこの男だからこそできる、一切の確認無しでの捨て牌考慮。

これにより悟られない降りの気配。或いは誤認させられる張り替えの空気。

よって、三秒の長考の末手出し。打、{五萬}。一シャンテンへと戻る。

{四萬}{一索}{二索}{三索}{四索}{五索}{六索}{七索}{七索}{八索}{九索}{白}{白}

幸雄の読み通りなのか優希からのロンの声は上がらず。

他二人も同様、何も言わず。久がツモを始める。

 

 ーーま、実際張り替えはアリだな。このまま混一色か清一色に行ければ良し。現状ション牌の白をどうするかはかなり難しいが、そもそもが降りだ。安牌を切って行けばいい。

 

そのような考えを持ったまま終盤、十三巡目。

 

 「立直だじぇ……!」

 

優希、捨て牌の{八萬}を傾け、千点棒を投げ入れる。

 

 ーー痺れを切らしたか。

 

十四巡目突入。

幸雄、ツモ。盲牌、{六索}。

手牌の上に寝かせ、既に捨てられている{八筒}を手出し。再びのテンパイ。しかし変わらずダマ。

 

 ーージュンチャンに使うような牌をあまり引かなかったのもあるが、降り寄りの動きをして正解だったか。

 

上がらないロンの声。

ツモる久。

 

 ーー……しかし、見えてない赤五索と、二枚切れの五・八索待ちの混一色・イッツ―・一盃口確定の手か。流石に降りるのが惜しい。

 

赤五索をツモれば親倍、それ以外でも親跳確定の手と見れば寄せていた心も傾く。

しかし、そもそもその両牌ともが現状出る可能性が低い牌。そこを考えればやはりつられる事無く降りるのが良いだろうとも、幸雄は考えた。

このような思考を再びするのは十五巡目。

 

 「立直よ」

 

久が千点棒を投げ入れた時だ。

 

 ーーこっちも痺れを切らしたか……?

 

念のため確認する久の河。

索子少な目の萬子と筒子が同程度。残りは字牌。

ヤオチュウ牌、チュンチャン牌それぞれが捨てられており、若干の三色が匂う。

 

 ーー三色同順か一盃口かのみ手か。……そう言えば南は眼鏡の部長が捨てた一枚だけだな。

 

思い返し、中盤にまこが捨てていた事を思い出す幸雄。

それ以降、自身も捨てていなければ早いうちから張っていたはずの優希も捨てていないし和了ってもいない。

 

 ーーとすれば、だ。元部長の手元にはトイツないし暗刻で{南}がある。

 

まこ、優希と捨てて巡って来た十六巡目。

ツモる幸雄。盲牌。……僅かに焦る。

 

 ーー九筒、か。

 

 「悪い、少し時間を貰う」

 

手牌の上に寝かせ、断りを入れての長考。

 

 ーーこれは恐らく、片岡の嬢ちゃんの和了り牌。となれば俺はベタ降り以外無くなったわけだが……。

 

三者の河を思い返し、安牌になりそうな牌を探す。

 

 ーー眼鏡の部長さんは九索でチ―。片岡の嬢ちゃんは一索を捨ててるから問題無いが、元部長さんは三・七・九索を切ってる。仮に俺の読みが外れて片岡の嬢ちゃんが三索ペンチャン待ちだとしたら点を取り返したのが無意味にはなるな。かと言って元部長に振り込むのだけは無しだ。なら一番点が低い眼鏡の部長だが……そもそも何を狙ってるかも分からない。

 

約五秒の思考の後。

 

 「待たせた」

 

幸雄、三索切り。一シャンテンへ戻る。

残りのツモ数を考えれば張り替えは恐らく不可能。

 

 ーー結局最悪は元部長に振り込む事。取った取られたは一旦忘れろ。

 

そう思考しつつもちらりと見る優希。

が、和了らない。彼女の正面で久がツモ切り。

以降も続く優希と久の捲り合い。

ラスのまことしてもこの二人に振り込むのは避けたいのだろう、ベタ降りの気配が漂う。

当然幸雄も完全な降り。久にのみ絞った振り込み避けの降り。

結果、流局。

 

 「テンパイ」

{一萬}{一萬}{四萬}{四萬}{二索}{二索}{赤五索}{五索}{三筒}{三筒}{七筒}{七筒}{白}

 

 「……テンパイ」

{七索}{八索}{九索}{一筒}{一筒}{二筒}{二筒}{三筒}{三筒}{七筒}{八筒}{九筒}{九筒}

 

久、優希の手牌が開かれる。

それを見、幸雄、眼を見開く。

 

 ーーこっ、この女……!!

 

想定通り六・九筒待ち高めの優希にでは無く、白の単騎待ちで七対子を張っていた久に。

 

 ーー立直を掛けた巡目までドラ表示牌でしか見えて無かった白を単騎待ちだと!?本当に出ると思っているのか!?

 

 「いやぁ~、満貫なら耐えられる点くらいは欲しかったんだけどねぇ。まさか出ないとは思わなかったわ」

 

 「阿保抜かせ。ション牌じゃろうが」

 

 「ま、そうなんだけどね。ほら、和了れるでしょ?いつもなら大体、さ」

 

 「そりゃあまぁ、そうじゃが……」

 

 「だから割とショックなのよ?ふさぎ込んじゃいそう……」

 

 「よー言うわ」

 

言いながらまこが中央四カ所を開け、全員が中に牌を入れていく。

その間も拭えない、久に対する衝撃。

およそ自分では絶対にしない、打ちスジ。

 

 ーーやっと眼鏡の部長が言っていた意味が分かった。この女に基本なんてものは一切通用しない。この感じなら、許されていれば空テンだろうがフリテンだろうが立直を掛けるだろう。そうでなければしない、こんな和了りを捨てたに等しい打ち方なんて。

 

牌が卓の中に消え、シャッフル音が響く。

 

 「さてと、そろそろ喉湧いたでしょう?お茶持ってくるわね」

 

 「ん?私が行くか?」

 

 「あぁ、大丈夫。ちょっと腰も痛くなってきたしね~」

 

 「…ほーか。なら、わしには冷たいのを頼む」

 

 「りょーかーい。他の二人は?」

 

 「私も冷たいのが良いじょ!」

 

 「俺もそれで頼む。悪いな、元部長さん。本来なら来訪した側の俺が持ってくるものなんだが……」

 

 「まさか。お客さんなんだし気にしなくていいのよ。……その分、敬語とか使って無いしね」

 

 「……そう言えばそうだったな。はは、気にもならなかった」

 

 「まぁ、出会い方が出会い方だったしね。それに今更変えられる気もしないし」

 

 「変えなくていい。今の方がやり易いしな」

 

 「そ?」

 

幸雄の言葉に小さく笑い、席を立った久は少し離れた別室にある冷蔵庫へと向う。

その数秒後に牌山が現れ、更に数秒経った頃に冷蔵庫の方をまこが見る。

が、影になっているのか久も冷蔵庫も見えていない様子。

 

 「……やっぱり、ちょいと手伝ってくるかの。なんだかんだ四本は一人じゃ辛かろうて」

 

 「りょーかいだじぇ」

 

 「俺が行こうか?」

 

 「いやいや。流石にな。あまり人に見せるような場所でもないしの」

 

 「それもそうか」

 

まこが席から離れて約三十秒。

ペットボトルのお茶を二本ずつ持った久とまこが現れる。

 

 「ごめんごめん、どれが誰のか迷っちゃって」

 

 「しかも全部誰のでもなかったとかいうオチじゃ。これで本当に卒業後やっていけるんかのぅ」

 

 「ダメだったらまこのとこで雇ってよ」

 

 「………うちに衝立付きのベッドは無いぞ」

 

 「やったー!これで第一志望に全ツッパできるわ!!」

 

 「やめんか!!!」

 

二人で話し、幸雄と優希がコントのようなやり取りを見て笑う。

その後、それぞれにお茶が配られ、サイコロが親である久の手によって振られた。

 

 

 

 

次巡へ続く。

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