咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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第六巡 決別

 

 東三局、流れ一本場。親・竹井 久 ドラ表示牌は{中}。

 

 「いい加減わしもいいとこ見せんとな。立直!」

 

七巡目にてまこが{九筒}を河へ。千点棒が投げ入れられる。

 

 「さて、わしの待ちを読めるかのぅ、アカギさん?」

 

 「努力はするさ。だが、ま。当たったとしても一言我慢してくれればいいだけだけどな」

 

 「そいつぁ無理な話じゃの。ラスじゃし」

 

 「そりゃあそうだ」

 

優希が{東}をツモ切りしている間、覗き込むような目でにやっと笑ったまこに軽口を叩いて小さく頬を緩ませる幸雄。

その幸雄、四巡目よりツモ切りが続いている。

現状三シャンテン。赤ドラが二枚のドラ二枚という点だけで見れば高い点を望めるようにも思えるが、実際はドラのみ。望める役が視えず、無役。

白を引くか鳴くかしなければこのまま立直のみという状態。

 

 ーーこれだけのドラを抱えているのなら跳ねたいところだったが、この手のままで先に立直が掛かった以上は降りも考えないとな。

 

巡目だけで見れば半ばの最初。三シャンテンかつ白が頭の状態なのだから十分に手を整えられる。

しかし、幸雄が思うのは別の事。

ここの三者が雀鬼であるという前提に基づいた考え。

 

 ーー鷲巣の野郎もそうだったが、運に愛されている者や牌に愛されている者、役に愛されている者というのは実際に居る。そして、全国で勝ち切ったと言うこいつらがそうでないはずがない。だったら早々に降りて、可能な限り失点を減らす考えになった方が良い。

 

幸雄、ツモ。盲牌。{白}。

 

 ーー……だってのに、こういう時ばかり引きが良くなる。随分と嫌われたもんだ。俺と鷲巣でそんなに違うモノかね。

 

ツモ牌を手牌の上に寝かせ、まこが立直時に切っている牌を河へ。{九筒}。

 

 ーーさて。言った通り、努力を始めるか。

 

久がツモるのを横目にまこの河を思い出す幸雄。

字牌と索子が少なかった河。萬子・筒子は同程度で、どちらかと言えばチュンチャン牌が多い。

 

 ーー安直に見れば染め手の混一色か清一色。もしくはラスから一発逆転するために倍満級のを張っているか。いずれにせよ点に直結する字牌や赤ドラを捨てるのは危ないか。

 

手牌と睨み合い、次巡の捨て牌を考える幸雄。

が、しかし。

 

 「ツモ。立直・一発・門混ツモ!3000・6000じゃ!」

{一索}{二索}{三索}{四索}{五索}{六索}{六索}{七索}{八索}{九索}{西}{西}{西} {九索}

 「何!?」

 

三・六・九索高め待ちの西暗刻。六索ツモであればイッツ―まで付いて倍満。

しかし今回は九索ツモにての和了り。跳満どまり。

 

 「ま、また先に和了られたじょ……」

 

 「ふっふ~。積み込んどりゃせんよ?」

 

 「ギったのよね?」

 

 「握るか!!」

 

 ーーまぁ、河は変わってないな。……冗談なんだろうが。

 

幸雄の考慮も終わらぬうちにツモ和了りしたまこの冗談に久が乗っかり、幸雄が癖で確認する。

 

 「……はは、ツモばかりはどうにもならないからな。やられたよ」

 

 「くそ~~!東場の神であるこの私がこんなにも和了れないなんて~~!!」

 

 「そー言わないの。次の大会に向けての調整中なんだし、我慢よ、我慢。寧ろそれでも勝つ為の練習と思いなさい」

 

 「むぅぅぅぅ!おっさん!今度は大会前に来い!本気の私を見せてやる!!」

 

 「へぇ、本気になるとどんな感じなんだ?」

 

 「天和で八連荘するじょ!」

 

笑顔を見せて質問する幸雄に対し、所謂ドヤ顔で両手を前に出して八本指を立てる優希。

そのあまりの大言壮語に幸雄の思考は一瞬フリーズする。

 

 「……ははっ!そりゃあいい。是非見せてもらいたい」

 

が、幸雄はすぐさま冗談として笑う。……にも関わらず、どうにも他の二人の様子がおかしい。

 

 「あーいや、まぁ……」

 

 「あながちそうとも言えんのがなぁ」

 

 「…………冗談だよな?」

 

 「いいや、ほんとーだ!今はまだ二半荘で二回だけだが、しっかり仕上げれば絶対できるじょ!!」

 

何処か居辛そうな表情の二人と、自信満々に腕を組んで言い放つ優希。

彼女達の様子から察するに冗談では無い。そう分かった時、幸雄は心底怖れを覚えた。

視界が僅かに歪むほどの怖れを。

 

 ーーふ、ふざけるなっ……!天和を、それを二度は確実に起こせるだと!?そんな馬鹿げた話があって堪るか……ッ!!

 

怒りーーとはまた違う感情に圧されるまま幸雄は腹の中で言葉を荒げる。

それが[嫉妬]に近いモノだと理解したのは次の準備が一通り終わった頃だ。

東四局、オーラス。親・染谷 まこ。ドラ表示牌は{三筒}。

 

 ーークソッ、馬鹿げてる!そんなの、好かれてるとか以前の話だろうが……ッ!

 

先ほどの優希の話が未だに割り切れない幸雄の手牌、一シャンテン。

{二萬}{三萬}{四萬}{三筒}{四筒}{赤五筒}{七筒}{八筒}{五索}{六索}{七索}{八索}{九索}

門前でタンヤオ・平和が付くように打ちまわせれば満貫以上が確定。跳満すら平然と見える手牌。

 

 ーーこんな良い手牌だって言うのに素直に喜べやしない。……まさか、和了ったりしていないだろうな……ッ!?

 

幸雄、素直に喜びきれないまま優希の方を見遣り、和了りの様子を確認出来ない事に安堵する。

が、それもつかの間。直ぐに別の不安が過る。

 

 ーーいや、いや。人和の可能性だってある。さっきの説明の時に『無い』と言っていなかった以上、和了る事自体は出来るはずだ。

 

人和ーー。

配牌時にテンパイし、一度目の自分の番が回ってくるまでの間に捨てられた牌で和了ると成立する役の名。

ルールによっては役と見做されない場合もあるが、半荘開始時の久の口からは明言されていなかったが為に現状和了れるか不明ではある。

不明ではあるが、用心するに越した事は無い。

場合によっては役満として扱われる事もあるのだから。

 

 ーーなんだってこんな不安を抱えて打たないとならないんだ……。まるで生きた心地がしない。

 

まこが捨て、久が捨て、幸雄に回る。

ツモ。盲牌。僅かに目を見開く。

………テンパイ。

{赤五索}………ッ!

 

 ーー冗談じゃない、テンパイしやがった。本当に死んでるんじゃないのか?俺は…!

 

手牌の上に寝かせ、若干の思考。

捨て牌の、では無い。事ここに至って思い返す、己の現状。状況。境遇。

そして、死。

既に通りし、死。

故にこそ。

 

 ーー……何を考えているんだ、俺は……。死んでいるじゃないか……!とっくに………ッ!それを今更『生きた心地がしない』だと?

 

幸雄、瞳を閉じて胸の内で笑う。

そして。

 

 「立直だッ!」

 

捨てる。

立直牌、千点棒、そして、かつて連れ合った己の弱き心。

 

 ーーそんな弱腰だから殺されるんだ。鷲巣 巌なんぞと言う下種に……ッッ!!

 

 「だ、ダブリー?」

 

 「わ、私のお株がぁ~~!」

 

 「はっはぁー……。ほんに侮れん奴じゃのぉ……」

 

幸雄のダブル立直に雀鬼達の目の色が変わる。

 

 ーー怯えるな。竦むな。命どころか現ナマすら賭けていない麻雀だ。楽しめ、存分に!

 

再び幸雄に回るツモ番。

引き、触れ。

胸、高鳴るままに響く。

 

 「ツモ……ッ!!」

 

 「うっそ!!」

 

 「なんじゃと!?」

 

 「なぁ……!?」

 

 「ダブリー・一発・ツモ・メンタンピン・ドラ三!4000・8000ッッ!!!」

{二萬}{三萬}{四萬}{三筒}{四筒}{赤五筒}{七筒}{八筒}{赤五索}{五索}{六索}{七索}{八索} {六筒}

 

幸雄、倍満ツモ。

 

 「裏ドラはまけといてやる」

 

これにて東場終了。

東四局に於いてはたった二巡の事である。

 

 「てっ……、点は変わらないでしょ」

 

 「デジャヴじゃなぁ……」

 

 「と、東場が……!得意の東場が、和了りより振り込みの方が多かったなんて……ッ!」

 

 「こっちは少しばかり呑まれとるのぉ…」

 

脱力し、背もたれに全体重をかける優希。見上げる天井。若干の涙目。

 

 「ぬ……ぬあーー!!おっさん!さっさとやるじょ!!東場じゃないけど……、次は負けないからな!!!」

 

 「ああ、いいぞ。俺もやっと調子が出たところだ。……いや、今までで一番調子が良いかもしれない」

 

 「へぇ?じゃあ今より怖くなる事は無いんだ?」

 

 「それは……どうだろうな。まだまだやれそうな気はする。根拠は無いけどな」

 

 「勘弁しちょくれ……。よーやっとラスから抜けたと思っとったのに……」

 

東場に於ける最終点数。

まこ・13500点、優希・16700点、久・23500点、幸雄・38300点。

現状のトップ………平山幸雄。

 

 

 

 

次巡へ続く。 

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