咲-saki- 長野に降り立った凡才   作:カピバラ@番長

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とうとう二人が出てきます。
そして、みんな大好きあの子が出てきます。


第七巡 交代

 

 程よい風が吹く中、誰もが通るような道を歩く。

一人でじゃなくて、二人で。

 

 「ありがとうございました、咲さん」

 

 「ううん。気になってたけど、やった事なかったから。……一人だと、ちょっと怖いし」

 

 「ふふ、私もです。一緒ですね」

 

 「うん!」

 

隣で一緒に歩くのは桃色のツインテールを風で靡かせる和ちゃん。

手には献血コラボで貰えたエトペンの小さなぬいぐるみのキーホルダー。

一緒にしてきたから当たり前だけど、私も持ってる。だからお揃い。

 

 「けど、竹井先輩に悪いことしちゃいました。残り少ない部活動の機会なのに……」

 

 「それはそうだね……。けど、今日は元々休みだったし、優希ちゃん達が先に行ってるから大丈夫だと思うな。京ちゃんも入れて一応四人だし」

 

 「……それもそうですか。寧ろ待つ人が居なくて良かったかもしれませんね」

 

笑ってくれた和ちゃんに頷いて、少しの沈黙。

初めて会った頃とかはすごく気まずかった沈黙も、今は全然平気。むしろ、沈黙だって同じ時間の共有なんだって分かってからは嬉しい気持ちの方が大きくなった。

………ただ。

 

 ーー手、いきなり繋いだら驚かせちゃうかな。

 

見えなくても繋がってるって分かる会話も無く、このままなのはやっぱり寂しい。

出来れば繋がってるって分かる事がしたいけど……。

……結局、踏ん切りがつかなくて数分後。

また和ちゃんと会話で繋がれたのは、学校までもう少しって場所だった。

 

 「……アレって、風越の制服……かな?」

 

 「麻雀部に用事、でしょうか?」

 

整備された小川の傍に程よく木々が並び、芝と歩道が明確に分けられた道の先に見覚えのある制服の女の子がいた。

 

 「ごめん、和ちゃん。ちょっと行ってくるね」

 

 「いえ、私も行きます。…私だって、走れるんですよ?」

 

 「あ、ご、ごめん!じゃあ、一緒に!」

 

 ーーそっか、そうだよね。友達の阿知賀の大将の子、運動得意そうだったし。

 

少しだけ頬を膨らませた和ちゃんと一緒に制服の子の傍まで走り出す。

……瞬間、足がもつれた。

 

 「ぶべっ!」

 

 「さ、咲さん!?」

 

 「い、痛い……」

 

 「だ、大丈夫ですか!?」

 

 「う、うん……。別に私、運動得意じゃなかった……」

 

 「もぅ…。手間を省かせてあげたいのは分かりますが、それで怪我したら逆に心配をかけるだけですよ?」

 

 「あ、あはは。そうだよね…。ありがとう……」

 

上手く走り出せていた和ちゃんの差し出してくれた手を握って立ち上がる。

……と。

 

 「なにやってんだ、お前ら」

 

 「……?」

 

声のした方を向いて、今度は驚いて腰が抜けそうになる。

 

 「池田先輩!?」

 

 「おう。お前らんとこの眼鏡に果たし状を渡しに来たし」

 

 「は、果たし状……?」

 

 「穏やかでは無いですね……」

 

 「別名、練習試合の誘いとも言う」

 

何処からともなく取り出したのは長四角になっている紙。

正面には達筆な筆さばきで[果たし状]と書かれてる。

 

 「部員に習字習ってた奴がいてな―。こういうの好きそうだろ、あいつ」

 

 「……どう、なんでしょうか?」

 

 「どう、だろうね……」

 

 「え、もしかして滑った?」

 

 「「さぁ……?」」

 

 「……美穂子先輩のあの微妙な表情ってそういう事だったのかな」

 

池田先輩に返す言葉が見つからず、私も和ちゃんも何も言えなくなって出来てしまう沈黙。これは流石に気まずい。

 

 「ま、まぁいいや!とりあえず部室に案内してくれ。あたし来た事無くて、職員室に寄らなきゃいけなかったんだよな!」

 

 「そ、そうですね。私達も戻る途中でしたし、案内しますね」

 

 「そ、そうだね。いこっか!」

 

あまりの気まずさに耐えきれなかった池田先輩に続く和ちゃんと私。

………けど、部室に着くまでの間はやっぱり気まずい沈黙だった。

 

 

                    ーーーー

 

 「えっと…一応、ここが部室なんですけど……」

 

大体十五分後。私達は部室に到着して中に入った。

……けど、そこには見知らぬ人が一人だけいて……。

 

 「ロン!8000!」

 

 「何ッ!?」

 

 「これで南場も終わりじゃな」

 

 「……は~~~~!なんっとか捲ったわぁ~~~!!」

 

 「ぬあーーー!ラスだじょーーーー!!」

 

 「相変わらず元部長さんの手は読み難いな。やられたよ」

 

 「とーぜん。これでも全国優勝校の部長だったんだから!」

 

その身知らぬ人が、竹井先輩達と麻雀を打ってた。

結構、楽しそうに。

 

 「……清澄の顧問って、結構ファンキーな人だったんだな。こりゃ地上波出れんわ」

 

 「ち、違うよ!?」

 

 「さ、流石に違いますね!!」

 

 「あら、おかえりなさい、二人とも。……それと?」

 

私達のやり取りで気が付いた竹井先輩がこっちを覗き込むようにして話しかけてくれる。

よ、良かった。これで気が付かれなかったら、何も出来ないままここにいる羽目になるところだった……!

 

 「た、竹井先輩!と、染谷部長!風越の池田先輩が用事あるみたいです!」

 

 「なぬ!?池田か!?」

 

 「お前に用は無いし」

 

 「なにおぅ!?」

 

 「やめんか。同じなんは背丈だけにしとけ」

 

 「「同じじゃない(にゃい)!!」」

 

 「息ぴったりじゃない」

 

 「……で、練習試合とかかの?」

 

 「そーいう事だし」

 

席から立ち上がった染谷部長を見て歩き出す池田先輩。……をちょっとだけ睨む優希ちゃん。

新しい部長の二人は……丁度、知らない人の傍に立ってやり取りを始めちゃった。

め、目のやり場に困る……。

 

 「これ、うちの部からの申し込み状。予定日とか幾つか候補挙げてあるから、都合のいい日があったら連絡してほしいし」

 

 「なんじゃ、電話で済むものを律儀に。……うん?[果たし……」

 

 「や、やめろし!とにかく、渡したからな!」

 

 「お、おお?確かに承った」

 

 「……で、気になる事があるんだけど」

 

 「なんじゃ?」

 

渡す物を渡して、横を見る池田さん。

……ここからでも分かる。多分、目が合ってる

朱いサングラス越しに。

 

 「……俺か?」

 

 「………ヤクザ?」

 

 「池田先輩!?」

 

 「何言ってるんですか!?」

 

 「え、いや違うのは分かるし。本当にそうだったら学校に出入りできるわけにゃいんだし」

 

あんまりにも突飛の無い事を……いや、訳は分かるんだけど!

でも、冗談だとしても言って良い事と悪い事が……!!

 

 「はっはっは!面白い嬢ちゃんだ。名前はなんて言うんだ?」

 

と、思っていたのに。

サングラスの人、全然怒ってない?

 

 「池田。池田 華菜。一応、風越の部長だし」

 

 「そうか。なら、元部長さんと眼鏡の部長さんくらいは強いって事だな?」

 

 「じょーだん言うなし!あたしの方が三倍は強い!!」

 

 「まー、ガチでやった事は無いもんね」

 

 「合同合宿で打ったくらいじゃのぅ」

 

 「そうかそうか。っと、名乗りが遅れたな。俺は赤木、京太郎の遠い親戚だ」

 

サングラスの人……赤木さん?は、池田先輩の発言に怒った様子も無く笑って受け答えしてくれる。

見た目ほど、怖い人じゃないのかな。

……って言うか、京ちゃんの親戚なの……?

 

 「……アカギ?聞いた事ある名前だし」

 

 「だろうな。珍しくも無い」

 

 「……まぁ、いいし。それで、遠い親戚の人が何しに来たんだ?」

 

 「全国優勝校が京太郎の学校だったからな。そもそも麻雀が好きな俺は校舎を見たいと思ってふらっと寄ってみたんだ。そうしたら偶然京太郎に会えたからダメもとで頼んでみたら……」

 

 「意外に会えたし、なんなら打てた。……って、事か?」

 

 「その通りだ。こんな怪しい男とも雀卓を囲んでくれる、優しい子らだったって事だ」

 

 「へ~。けど、学校的には平気だったのか?」

 

別に京ちゃんの親戚の人に詳しいわけじゃ無いけど……こんなに恐い見た目の人が居るって聞いた事あったかな……。

 

 「そーねぇ。なんとも言えないけど……」

 

 「なんとも言えない…って、大丈夫かし」

 

 「ど、どうなんだろうな。京太郎は問題なさそうだったが……」

 

 「まぁどうにかなっても私がなんとかするわ。部員の頼みってのもあるけど、なにより楽しい麻雀が打てたからね。出来るだけ力になるわ。約束する」

 

 ーー……つまり、何も考えて無いって事だし?

 

 ーー寧ろ、『危なそう』くらいには思っていそうですね……。

 

 ーー元部長の悪い癖だじぇ。おっさん、南無。

 

 ーー酷い奴じゃのぉ……。

 

 ーー……豚箱で裏との繋がりを作る事も視野に入れておくか。そもそも押しかけたのも悪いしな。

 

 ーー……最悪、何かあったら京ちゃんから説明に行ってもらおう。

 

この感じ、多分竹井先輩はまだなんにも考えてないのかな……。

何もなければきっと大丈夫だけど、もし何かあったらその時は京ちゃんを差し出せば多分大丈夫……だよね……?

 

 「あ、そうそう。池田さん」

 

妙な空気が数秒くらい流れた後、何かを思い出したらしい竹井先輩が池田先輩に声を掛ける。

それがあんまり嬉しくなかったのか、それとも不意を突かれたからなのか分からないけど……。

 

 ーー池田先輩、ちょっと怒ってるのかな。

 

どことなく不機嫌そうに返事をしてた。

 

 「どうしたし」

 

 「戻って美穂子に会ったら、近々電話掛けるからって伝えておいてくれない?」

 

 「にゃ!?なっ!……なんでだし」

 

 「ほら、私達って卒業でしょ?だから、卒業旅行みたいな感じで、県の決勝に残った学校の三年生レギュラー達でどこか行けたらな―なんて思っててね。その相談をしたいの。なんだかんだお世話になったお礼もしたいしね」

 

 「へ、へぇ~~。ふぅーーーん?ちちち、ちなみに、ど…こか候補ってあるのか?ついでに伝えておいてやるし?」

 

 ーーぜっっっったい駄目だし!美穂子先輩、こいつの話になるとちょっと変になるから、絶対一緒になんか出掛けさせないし!!第一、一緒に出掛けるのはあたしだ!

 

 「取り合えず県内とかその辺りを予定してはいるわ。流石にちゃんとした旅行は仲の良い友達と行きたいでしょうし」

 

 「き、きっとそうだし!それに、鶴賀の部長なんかは部員と行ったりするんじゃないか!?」

 

 「ゆみと東横さんね。あそこは確かにそうかも。だからあんまりお金の掛からない場所とか事を考えているのよね~。それこそ何処かでご飯とか、誰かの家に泊まるとかでもいいと思うし」

 

 「とっ泊り!?け、けど、そんなに何人も泊まれるほど大きい家なんて……」

 

 「それもそうね……。あ、それなら龍門淵にちょっとお願いしてみるのもいいかも」

 

 「そ、それは…!あそこって三年生いないし!趣旨とズレるんじゃにゃいか!?」

 

 「うーん、確かに。……ま、その辺の話をしたいのよね。お願いできる?」

 

 「うっ…。……分かったし」

 

な、なんだかよくわからないけど話はまとまった……のかな?

なんとなく池田先輩はがっかりしているみたいだけど…。

 

 「(なぁ、眼鏡の部長)」

 

 「(うん?)」

 

二人の話を最後まで聞いていると、赤木さんが何かに引っかったみたいで染谷先輩に話しかけてる。

……良くは聞こえないけど、多分さっきの話の事かな。

 

 「(少し気になったんだが、元部長はわざとやっているのか?)」

 

 「(あーーー……。……どうじゃろうか。確かにそーいう悪趣味な部分もあるにはあるが、今回は単に池田の方が過剰反応しているだけっぽくもあるの)」

 

 「(そうなのか。そう言われればそんな風だったようにも思えるな)」

 

 「(……まぁ、途中からからかい始めた可能性もあるがな)」

 

 「(………味のする性格なんだな)」

 

 「(言葉を選んどくれて感謝するぞ。ま、わしゃ普通にひどい性格じゃと思うがの)」

 

 「(ははっ、なるほどな。打ちスジの謎が解けた)」

 

 「……じゃあまぁ、纏めるとそんな感じだから。よろしくね。新キャプテン」

 

 「わ、分かったし。ちゃんと伝えておくから、安心しろし」

 

 「ふふ、頼もしいわ。美穂子も良い後輩を持ったわね」

 

染谷先輩と赤木さんが何か話しているのをなんとなく見ている間に竹井先輩と池田先輩は話を纏めていたみたい。

池田先輩は変わらず悔しそうな感じだったけど、竹井先輩は……なんて言うか最初よりも嬉しそうな感じだった。

伝えてもらえるって分かったからかな?

 

 「(なんだか今日は久しぶりに騒がしい日ですね。最近はそんな事なかったのでなんだか不思議な感覚です)」

 

 「(私もだよ。なんだか全国大会に行ったのがずっと昔の事みたいに感じる)」

 

 「(えぇ。かと思えば大会中は何日も何日も掛かっていたような気がします)」

 

 「(だね。……来年も、また行けるかな)」

 

 「(ええ。きっと)」

 

なんて、懐かしい気持ちで和ちゃんと小さな声で話をしていると。

 

 「ただし!!」

 

 「ぅえ!?」

 

いきなり池田先輩が大きな声を出して染谷先輩の方を向いた。

ま、まだ話し続いてたんだ。び、びっくりしたぁ……。

 

 「ん?おお、どうしたんじゃ?」

 

 「(心臓、止まるかと思った……)」

 

 「(わ、私もです……)」

 

 「あたしにも半荘打たせてほしいし!」

 

 ーー良い機会だからここで白黒つけてやる。そしたら変な劣等感無く、美穂子先輩に……!

 

その理由は赤木さんと……かは分からないけど、麻雀を打ちたくなったからみたい。

でも、次からはもう少し小さな声で言ってほしいな……。

 

 「そりゃあまぁ構わんが……」

 

 「なら決まりだし!」

 

 「じゃ、選手交代ね。ほら、咲、和?」

 

 ーーにゃっ!?

 

 「えっ?」

 

 「私達、ですか?」

 

 「他に居ないでしょ?元々咲達が帰って来たら譲るつもりだったのよ」

 

 「そうだぞ。咲ちゃん達も打ちたいだろーなーって、元部長達と話してたんだじぇ」

 

 ーーな……なんだよそれ~~~!!先に言えし!!!!

 

いきなりの指名に私と和ちゃんは思わず顔を見合わせる。

するといつの間にか近くに来ていた竹井先輩が私達二人にだけ聞こえるように耳打ちして来た。

 

 「(和はペンギンを持って、咲は裸足でやりなさい。初めからね)」

 

 「「え!?」」

 

 「強いわよ、彼。全国区の魑魅魍魎とはまた違う強さだけどね」

 

 「ど、どのくらいでしょうか……?」

 

 「優希が東場で一度しか和了れなかった」

 

 「「!!!!!」」

 

 「調整中とは言え、変でしょう?それも全国区の相手でも無いのに」

 

耳打ちされた後に聞かされたのは、ちょっと想像もできない事。

今の優希ちゃんが、東場で一回!?

 

 「ついでに言うと、私の悪待ちも何度か止められてるし、まこも振り込んだわよ?南場で一度だけ、だけど」

 

 「うそ……」

 

 「お二人すら……ですか……?」

 

 「ええ。本気を出してからね」

 

 ーーそ、そんなに強い方なんでしょうか?

 

 ーー全国区の人達とは違う強さ……。そっか……。

 

ふわりと。

どことなく胸の中で花弁が舞ったように感じる。

それはきっと、大会が終わってからは滅多に感じられなくなっていたあの気持ち……。

 

 「……ッッ!!」

 

 「ん?どうしたんだし、アカギさん」

 

 「………いや、なんでもない」

 

いきなり席を立った赤木さんは、池田先輩に言われて直ぐ座り直す。

そんななんでもない動きすらこの気持ちを高めてしまう。

 

 ーー……どうしよう。

 

少しずつ、でも確かに。

私は私の気持ちに気がついていく。

 

 ーー……ワクワクする!

 

あの、大会の日々のような。

この気持ちに。

 

 

 

次巡へ続く。 




池田ァァッ!
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