闇魔導士くんと前衛ギャル   作:こういうカップルが好き

1 / 3
第1話 闇くんと光のギャル

 数年前、属性別性格診断とかいうのが流行った。

 

 生まれつき持っている魔力の属性ごとに性格の傾向があるというやつだ。

 もちろん根も葉もない与太話なのだが、人間というのは信憑性よりも、目の前の面白いものに食いつく。

 

 提唱者による本まで出版されたせいであれよあれよと巷に広まり、やれ『火属性は熱血で情に厚い』だの『水属性は知的で冷静』だのという会話を老若男女がするようになってしまった。

 

 それだけ聞けば、日常会話のネタになる便利な話題の一つでしかない。

 しかし、そこで割を食った者がいる。

 本の中で『根暗でマニアックな変態』などとボロクソに書かれた闇属性、つまり俺、ナハト・ヴォルケだ。

 

「ねえ、きみ魔導士なんだって?」

 

 人材派遣所の検索端末で今日の仕事を吟味していた俺に、火か風かという雰囲気の男が馴れ馴れしく話しかけてきた。

 

「急にごめん。うちのチーム、最近魔導士が抜けちゃってさ。新しいメンバーを探してるんだ」

 

 同年代か少し上と思しき男はニコッと愛想良く笑う。

 

「窓口で聞いたんだけど、誰とも組んでないんでしょ? 属性は?」

 

 大抵の人間は初対面の相手と話す時、出身地や職業と同じノリで属性を聞く。互いの共通点を探すのがコミュニケーションの基本だからだ。

 

 しかし。

 

「……闇です」

「えっ……。あ、そうなんだ……。ごめん、探してる属性じゃないや。他を当たってみるよ」

 

 俺が正直に答えると、相手は大体少し引き、適当に会話を切り上げて立ち去る。いつものことだ。

 

「闇はちょっとなー」

「欲しいのは、治癒魔法が使える魔導士なんだよねえ」

 

 そんな引く手数多の魔導士が余っているわけがないだろう。

 口には出さず、ぼんやりと後ろ姿を見送った。

 

「好きで闇属性に生まれたんじゃないのになあ……」

 

 端末の画面に視線を戻しながらぼやく。根暗でマニアックというレッテルを覆せない自分がいるのがまた悲しい。

 

 他人とまともな会話をすることはおろか、目を合わせることすら苦手だし、数多ある職業の中で魔導士なんていう潰しが利かない専門職を選んでいる時点で、こだわりの強さもお察しだ。

 

 最初からこうだったのか、レッテルを貼られて避けられるうちにそうなったのかなんて、もはや俺にもわからない。

 

 ちなみに闇魔導士は、敵を状態異常にしたり動きを阻害したり影を操ったりといった、地味で見栄えがしない、そして少々セコい――戦略的だと言ってほしい――サポート系の魔術に長けている。

 

 いると便利だが、いなくてもなんとかなる。そんな微妙な役割が多いものだから、ビジネスパートナーを探そうとしても誰も一緒に組んでくれない。

 

「俺が何したっていうんだよ」

 

 そんなわけで需要がない俺は、拠点にしている町の周辺に出没する魔物を一人で細々と狩り、日銭を稼ぐしかなかった。

 

「【隠密】」

 

 前衛の後ろで強力な魔法を練るなんていう悠長なことをやっていられないソロ魔導士の狩りは、気配を消して魔法の射程範囲内ぎりぎりまで近付き、存在を認知される前に一撃で仕留める。これに限る。

 

「【影繰り】」

 

 俺の常套手段は、目視できないくらい細く伸ばした影を魔物の影と繋げ、足元で一気に展開させて締め上げる、もしくは串刺しだ。

 

 そして影繰りのいいところは、そのまま網状にして得物をたぐり寄せられるところである。

 

「よし。畑を荒らしてたブラストホッグ、討伐完了」

 

 スタッフに支給されている携帯端末で証拠写真を撮り、速やかに次の仕事の内容を確認する。

 

「次はええと、モグラ退治か」

 

 近頃は、近隣農家の皆さんからの依頼で害獣駆除をするばかりだ。

 真面目にコツコツやっていたら、仕事が速くて正確だとご好評をいただき、ご指名が入るようになった。

 使えるものは闇でも使う、そんな逞しい精神が今はありがたい。

 

「……ハンターに転職するべきかな」

 

 ブラストホッグの死骸を影の中に仕舞いながら、誰に言うでもなく呟いた。

 これも闇属性の能力で、自分の影の中にあらゆるものを収納できるという便利な魔術なのだが、マイナーすぎてほとんど知られていない。

 

 というか、そういう魔術があるとプレゼンする前に相手が離れていくのだ。黙っているわけではない。

 

「相棒、欲しいなあ……」

 

 今より良い暮らしをするには、もっと割のいい仕事を受けられるようになるしかない。

 それには前衛で戦ってくれるパートナーが必要だった。

 

 とはいえ、望めばやってくるのなら苦労はしていない。

 

 いつものように数件の依頼をハシゴしてから派遣所に戻って報告し、さあ家に帰ろうと、出入り口に向かって踵を返した時だった。

 

「えー! この仕事、一人じゃ受けらんないの?」

 

 やたら元気そうな甲高い声が屋内に響き渡った。俺を含めた数人が何事かと振り返る。

 

「あたし強いし、一人でも大丈夫なんだけど」

「そうは言われましても、規則ですから」

 

 窓口担当のヨラさんが淡々と返す。クールで寡黙な氷属性。彼女が窓口に座る日は普段よりも仕事をしにくる奴が増えて取り合いになるという、派遣所の女神だ。

 対する元気な声の主は、見かけない金髪の女の子だった。

 

「じゃあ、誰か紹介してよ。誰とも組んでなくて、明日の予定が空いてる人。できれば魔導士がいいなー」

 

 その言葉で、ヨラさんが女の子の肩越しに俺を見た。切れ長の青い目に貫かれて思わず一歩後ずさる。

 

 その視線を辿り、女の子が振り向いた。

 

 ぱっちりとした大きな目が俺を捉える。きらきらと輝いているように見えるのは、派手なアイメイクのせいだろうか。

 キャミソールの上に上着を羽織っただけのラフな服は襟が広く開いていて――その、何とは言わないが、谷間がはっきり見えるくらい大きかった。

 ついでにヘソも出ていて、ショートパンツからは健康的な腿を惜しげもなく晒していて、布面積の少なさから思わず目を逸らしてしまう。

 

「……彼なら、あなたの言う条件にぴったりですが」

 

 ヨラさんが、ぼそりと言った。

 

「まじ? ナイスタイミングじゃん」

 

 逃げるタイミングをなくしている間に、女の子はトトトッと軽やかに駆け寄ってきて、俺が何か言うよりも早く腕を取った。

 

「あたし、ミレイ。きみは?」

「な、ナハト……」

「魔導士なんでしょ? 属性は?」

 

 お馴染みの質問に一瞬詰まる。が、正直に答えれば断られるのではと思い直し、口を開いた。

 

「……闇です」

「闇!? めずらしーね、あたし光なの!」

「え」

 

 魔法オタクの悲しい性が発動し、闇属性と言って引かれなかったことよりも、光属性という言葉に反応してしまう。

 光は闇よりも更に珍しい。笑顔が絶えない陽キャで、頼りがいのあるみんなのリーダー。そんな文言が脳裏を過ぎった。

 俺とは正反対の、人気者の素質を兼ね備えた属性だ。

 

 それに、光属性といえば暗闇に安全な明かりを灯す魔法が使えて、強化魔法や治癒魔法とも相性がいい。闇魔導士の出番なんてないはずだ。

 

 なのに、ミレイは力強い視線で真っ直ぐに俺を見上げてくる。

 

「闇くん、あたしと組んでくれない? 明日だけでいいの!」

 

 さすが陽キャ、即座にあだ名をつけてくるとは。

 

「お願い!」

「いや、あの、他を当たった方が……」

 

 言い終わる前に、腕が柔らかいものにめり込んだ。

 その正体を直視してはいけない。少しでもニヤけたように見えたら最後、『きっしょ』と軽蔑の目を向けられるに決まっている。

 俺は下唇を噛み、更にその顔を見られないように顔を上げつつ、どうやったら自然に断れるか考えた。

 ところが、

 

「あたしにできることなら何でもするから!」

 

 その瞬間、遠巻きに顛末を見守っていたギャラリーのうち、主に男どもがざわついた。

 

「何でもだってよ」

「俺、立候補しようかな」

「一旦チーム解散するか?」

 

 と、下心丸出しの声が聞こえる。

 

「女の子が軽率にそんな事言うんじゃありません!」

 

 品のない言葉が本人に聞こえないように、思わず声を荒らげてしまった。

 しまった、と顔を向けると、ミレイは丸い目を更に丸くしてぽかんと俺を見上げた後、

 

「ふふ、ジェントルじゃん」

 

 柔らかく目を細め、白い歯を見せてにっと笑った。

 その瞬間、俺は『闇属性は光属性に弱い』という魔法の基礎教本の一節を思い出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。