第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン 作:名詮自性
A.作者の趣味です
レイダーの集落に来るまでに、立香とマシュから私の召喚について聞いた、
なんでも、立香は
それを聞いて大笑いする私を、二人がやや怯えを含む表情で見ていたのは記憶に新しい。
キャピタル・ウェイストランドでは、生きることは奪うことだった。
ほんの一部、平和な集落があるにはある。ただ、一歩出るとそこは地獄の荒野。
人も。動物も。ミュータントも。皆、生きるために私の全てを奪いに来る。
そこで生き残った私は、誰よりも何よりも奪い続けたということになる。
武器も。防具も。弾薬も。薬も。食料も。水も。命も。
私が
ある日、ラジオでスリードッグが言った。
101のあの子は、このキャピタル・ウェイストランドの
たまたまレイダー達を皆殺しにした直後で、返り血にまみれたまま、私はお腹を抱えて笑い転げた。
笑って、笑って、笑って……目が合った。
柱に吊るされた女の子。手足も、内臓も、乳房も、舌も、脳も、眼球もない。
空っぽの眼窩が、私を見ている。
私が本当に
旅に出た頃の私なら、嘔吐しながら泣いて謝った。
でも今の私は、心の中で詫びて、それで終わりだ。
取りこぼしたモノが多過ぎて、心が慣れてしまったのだ。
だって、立ち止まってなんかいられない。
彼女のような存在を減らすため、もっと殺さないと。
彼女のような存在に報いるため、もっと守らないと。
使える物は全部使う。奪える物は全部奪う。
私を喚んだ誰かさんだって、それぐらい覚悟してるよね?
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レイダーが占拠していた集落の中央、大通りの真ん中で儀式が始まろうとしている。
集落を形作る魔力を分解し、全てリッカに注ぐ。
言葉では簡単だが、実際はプールの水をグラスに注ぎ続けるような繊細な魔力操作が必要になる。
溢れる、零れるならまだ無駄になるだけだからいい。最悪のケースはグラスが耐えられず割れること……即ち、リッカの爆発四散である。
「内側から爆発は流石に経験ないなぁ。核エンジンの爆発に巻き込まれるのとどっちが痛いだろ」
「何がどうなったらそんな爆発に巻き込まれるのさ……?あとなんで生きてるの……?」
「頑丈だからね」
ケラケラと笑うリッカに、ドン引きして返す言葉が出てこない立香。マシュとエレナも呆れと恐れが混じった苦い表情をしている。
現在、正座するリッカの後ろにエレナが立ち、立香とマシュは念のためエレナの呼び出したU.F.O.に乗って空中にいる。
荷物もU.F.O.に積んだが、リッカが荷造りした酒ばかり詰めた鞄は地面に捨て置かれている。リッカの抗議は多数決で否決された。
「エレナもあんまり心配しなくていいよ。リツカにスティムパックも渡してあるし」
「そうさせてもらうわ。一応、あなたが止めた方がいいと思ったら声を掛けてちょうだい。可能かどうかはともかく、努力はするわ」
「わかった、よろしくね」
どこまでも気楽なリッカの態度に、エレナはため息を一つ吐き、気持ちを切り替えてリッカの背に手を置く。
「始めるわ。目を閉じて、自身の内面に意識を向けて。外から入ってくる全てを拒まず受け入れるように」
「OK」
リッカの周囲の地面が円形に発光し、そこから四方八方に細い光の線が伸びていく。
その内の数本が少しずつ太くなっていき、円の発光が強くなっていく。
「痛みとかはないかしら?」
「ないない、温かいだけだよ」
「じゃあこのまま続けるわ」
徐々に太い線が増えていくが、リッカの様子に変化はない。
目を閉じ正座をしている様は、まるで武士や僧侶のようだ。
どうやら安定しているらしいと、不測の事態に身構えていた立香は少し肩の力を抜いた。
―――ごめんなさい
突如、リッカの脳内に謝罪の言葉が響く。聞いたことのない女の声だ。
脳に直接声が流れるのはPip-Boyでラジオやホロテープを聞く時と同じなので慣れているが、返事はどうしたらいいのだろうと思う。
―――たすけて
―――あめりかをたすけて
今度は助けを乞う声。先程とは違う声だ。複数の男女が同時に言っているように聞こえる。
―――たすけて、めしあ
聞こえてきた呼び名に笑いを必死で堪える。今笑いだしたらエレナが驚いて手元が狂うだろう。爆発四散で必死だ。
相手が誰かは知らないが、きちんと伝えておいた方がいいと判断し、声に出さず強く念じる。
その呼び方、嫌いだな。
息を飲むような雰囲気。どうやら伝わったようだ。
―――めしあじゃない?
―――でも、かのじょはぜんにんだ
―――むこうのわたしたちがめしあとよんでいた
緊急会議が始まったようだ。こっちは忙しいから余所でやってくれと念じると、本当に気配が消えた。
なんだったんだろう。身体に流れてくる温かいものを受け入れながら、リッカは心中で首を傾げるのだった。
儀式が始まり、何分経ったのだろうか。U.F.O.の上のマシュが異変に気付く。
「マスター、建物が……」
「えっ、わっ、ホントだ消えてる!」
道路の周りに立っていた廃墟が、目に見える範囲で減っている。
地面に目をやれば、光の線の数もかなり少なくなっている。終わりが近いのだろう。
やがて立香達の周りにあった建物も消え、光の線はリッカを囲むものだけとなった。
「仕上げに入るわよ!」
「よろしく!」
リッカの身体に注いだ魔力を、リッカの魔力と同調させていく。
安全性を考慮し、円の中に溜めていた魔力も徐々にリッカに流しながら、少しずつ、慎重に。
「よし、これで!」
エレナが叫ぶと同時、リッカの身体が光に覆われ見えなくなった。
「何の光!?」
「これは、霊基再臨です!」
「言われてみればそうだ!」
立香とマシュが言い合う内に、光が収まっていく。
そこにあったのは、エンクレイヴのものとはデザインこそ違うものの、まぎれもなくパワーアーマーだった。
三人が見守る中、パワーアーマーは静かに立ち上がる。
ただ、立香にもわかるほど、覇気がない。いつものリッカの溌剌さが感じられない。
もしや、やはり霊基に不調が?
立香達が声を掛ける直前、ようやくパワーアーマーのスピーカーからリッカの声が聞こえた。
『あーはいはい、そういう感じね……』
「テンションが低過ぎる!!!」
立香は、まるで食堂でエミヤおすすめのラーメンを注文してワクワクしていたら、苦手な魚介出汁だった時の自分のようだと思った。
食べてみたら青臭さもなく大変美味だったが。流石エミヤ。どれだけ丁寧に出汁を取ったんだろうか。
「あの、リッカさん、大変強力な装備に見えるのですが、何か欠点でも?」
『いや、性能はいいんだけどね。T-51bパワーアーマーっていって、動きも阻害しないし防御力も高い。銃弾やミサイルの雨の中を突撃する時には便利なんだけど……修理が面倒なのと、パワーアーマーって閉鎖的で苦手なんだよね。重くて持ち歩くのも面倒だし、自宅のロッカーに入れっぱなしにしてたから、これがお前の装備!みたいな雰囲気でお出しされても、困惑と落胆が先に来ちゃうな』
「はあ……」
確かにかつての所持品ではあるが、馴染みのあるものではなかった、ということだとマシュは解釈した。
「詳しいことはPip-Boyを見ながらになるけど、体調は問題ないのね?」
『うん、快調だよ。怪我もしてない。エレナは無事?』
「ええ、少し疲れたけど問題なくってよ。上手くいって良かったわ」
『ありがとね。この恩は道中で返すよ』
エレナが上手くいったと言うなら、もう危険はないだろうとU.F.O.から降りる立香とマシュ。
リッカに近付き、パワーアーマーを眺めたり触ったりし始めた。
「確かに、銃弾なんか平気ではじきそう。ミサイルとか核爆発は知らんけど」
「重くはないんですか?」
『補助機能があるから、動かし方さえ知ってれば重くは感じないよ。頑張ればリツカもマシュも着れると思う』
「いや、私はいいかなー……転んだら起き上がれなさそう」
「同じくです」
『まぁそうだよね、とりあえず脱ぐわ重苦しい』
リッカがアーマーの太い指で器用にPip-Boyを操作する。
そして、悲劇は起こった。
「ぎゃああああああああ!!!」
「いたっ!?痛いですマスター!何故急に私の目を塞ぐんです!?」
「見た!?マシュ、見た!!?」
「何をですか!?」
「リッカの股間のバケットホイールエクスカベーター!!!!!」
「何故リッカさんの股間に世界最大級の自走式建設機械が!!?」
「よし見てないな!私も見たくなかった!!夢に出る!!!助けて!!!!」
「何を見たって言うんですかマスター!!!?あと痛いです離してください!!!!」
「絶対離さん!マシュの未来と夢見は私が守る!!だから誰か私も助けて!!!!!」
固く目をつぶり顔を逸らした立香が、マシュの目を潰す勢いで塞いでいる。
マシュも抵抗しているが、デミ・サーヴァントの腕力をもってしても振り解けずもがくだけだ。
二人の喧騒に、Pip-Boyから顔を上げ怪訝な顔をするリッカ。
「何を騒いでんのあの子ら」
「リッカ、服を着なさい、早く」
「は?」
「服を、着なさい!」
エレナの怒号になんのことやらと自分の身体を見るリッカ。
そこで初めて、己のやらかしに気付く。
パワーアーマーの装備を解除しただけで、次に何を装備するかを指定していなかった。
つまり今、リッカはPip-Boyしか身に着けていない、全裸だ。
「うわははは!ネイキッド!!」
「笑ってないで早く!」
「はいはい、とりあえずジャンプスーツ着とくか」
Pip-Boyを操作し、見慣れた青いスーツを身にまとった。
その姿を見て、エレナが深いため息を吐く。
「……立香、もう大丈夫よ」
「ホントに!?ブラブラしてない!?」
恐る恐る目を開け、本当に大丈夫そうだと確認した立香は、ようやくマシュから手を離した。
涙目のマシュが釈然としない表情で目の辺りをさすっている。
「ビックリしました……」
「ごめんねマシュ……」
「リッカ、あなたの身体の性別はどうなってるの?一瞬男なのかと思ったけど、
めっちゃ観察してるやんエレナはん、と立香は思ったが口に出す余裕はない。
脳裏に焼き付いたバケットホイールエクスカベーターを掻き消したくて必死なのだ。
消えろ消えろと念じるほど色濃く残ってしまいそうだ。
「ずっと女だよ。ただ、ある時へそから下がぐっちゃぐちゃになってね。スティムパックで治したら、なんか生えてた。ちゃんと男みたいに使えるよ」
「えぇ……」
エレナはペタペタと自分の身体を触る。
目覚めた時に精査したが、それはそれ。改めて自分の身体に変化がないことを確認しないと落ち着かない。
「深くえぐってスティムパック使えば治るとは思うんだけど、子供が産めない体になってたし、当時女の子と仲良くしてたから、遊ぶのにちょうどいいかなってそのままにしてる。
アハハと明るく笑うリッカ。
リッカの話は少し油断すると笑えない方向に進むので対応に困る。
湿っぽい空気を壊すため、あえて不満を全開で叫ぶ立香。
「教えといて欲しかったなぁ!目撃せずに済んだかもしれないのに!!」
「えー?会って間もない女の子に、私の自慢は股間のマグナムです、って?変態じゃない?」
「変態だわ……距離取らないと怖いわ……」
「大丈夫、安心して。私、慣れてる女の子としか遊ばないから。でもまぁ……興味がない訳ではないから、刺激しないでほしいかな。裸でうろついたりとか、やめてね?」
「どの口が言うのかバカリッカ!!!!!」
立香の叫びが青空に溶けていく。
本命のPip-Boyの調査が始まるまで、もう少し時間が必要になりそうだった。
書き溜めがなくなったのと、終章に脳を焼かれたのとで、少し間が空きます。
趣味全開で拙いお話ですが、ちまちま進めますので宜しくお願いします。