第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン 作:名詮自性
走る、走る、走る!
ただそれだけなのに、とっても楽しい!
索敵を兼ねて振り向くと、そこにはドッグミートの姿が。
「楽しいな、ドッグミート!」
「ワンッ!!」
ドッグミートも楽しそうだ。
付き合いが長いので、はい・いいえと喜怒哀楽ぐらいは鳴き声と態度で読み取れる、と思う。
ドッグミートも賢いので、こっちの言葉も大体理解している、と思う。
別れを渋られた時は、なかなかに強い態度を取るしかなく、ずっと心残りになっていた。
そんなドッグミートと再会し、荒野を走っている。嗚呼、なんて楽しいんだろう!
他の三人は、エレナのU.F.O.で後ろから付いてきている。
私も乗れなくはないんだけど、敵が出た時に対応が遅れるのはまずいので、こうしてドッグミートとマラソン中という訳だ。
事実、ちょっと前にエンクレイヴのベルチバードが兵士と警戒ロボットを降ろしている所に遭遇したので、サクッと皆殺しにした。
ドッグミートは相変わらずの働きぶりだった。元気にパワーアーマーをバリボリする様を見ていると安心する。三人はドン引きしていたけど。
警戒ロボットは後ろに回って停止させ、他の兵士を片付けた後、素手でスクラップにした。三人はドン引きしていたけど。
武器の消耗を嫌っていつもこうしていたのだけど、バラバラにした後、きれいに魔力に還ったので全くの無駄行動だった。
ミサイルと廃棄部品……あ、ミサイルランチャーなかったわ。じゃあいいか。
U.F.O.組に、休憩したくなったら言ってねと伝えておいたのだけど、結局戦闘以外ノンストップで走り抜けた。
いい運動になったな!これでヌカ・コーラがあれば完璧なんだけどな!
着いた場所は……うん、嫌な予感しかしない。とりあえず酒飲もう。
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マラソン世界記録をやや下回るペースで走るリッカをU.F.O.で追うこと2時間。
疲れた様子も見せずガブガブと酒を飲むリッカと、瓶に入った水を器用に飲むドッグミートを横目に、三人は辿り着いた建造物を眺める。
動いていないエスカレーターが数機あり、その先には鉄の柵で閉じられた石造りの地下道が見える。
「地下通路かな?」
「カルデアのアーカイブで見た、地下鉄の入り口に似ていると思います」
「とりあえず入ってみましょうか」
「あーダメダメ、入ったら全員死ぬよ」
物騒な言葉と共に、空の酒瓶を持ったリッカが割って入る。
「え゛、そんなに危険なの?」
「正直、できれば私も入りたくないぐらい。エレナ、入らずに魔力だけ回収できないかな?」
「少し調べてみるわ。待ってて」
「入り口には近付かないでね。中にいる奴等に勘付かれたら厄介だから」
「……何がいるのかしら?」
「レイダーの可能性もあるけど、多分フェラル・グールって呼んでる連中がいっぱいいる。ホラー映画に出てくるゾンビみたいな奴等で、めっちゃ足が速い。戦闘力はピンキリだけど、一番弱い奴でもリツカは死ぬ」
「殺すなっ!足腰には自信あるから逃げ切ってみせるよ!」
「さっきまでの私より速く、振り切れるまで走れる?なお相手のスタミナは無尽蔵とする」
「すいませんでした、死にます」
「マスター!私が守ります!」
結局、安全のために全員で固まって建造物の外側を調査して回る。
地下に続く入り口のちょうど真上で、エレナが地面に触れて目を閉じた。
「……これは、ダメね。集落の建物より頑丈で、魔力に分解できない。それに、もう一つのスポットと強固に繋がっているみたい。二つでセットだから、両方掌握しないと手が出せないわね」
「なるほど、なるほど。中に何かいるかわかる?」
「……30体以上のナニカが……なに、これ」
「エレナ?」
驚愕の声を上げて、それきり押し黙ったエレナ。立香が声を掛けるも返事はない。
手を口に当て、吐き気を堪えているようだ。
あまりにも信じ難いモノを見て、心も体も理解を拒んでいる。立香にはそう見えた。
見慣れない姿に驚き、立香もマシュも動けない中、リッカがエレナに寄り添い、背中をさする。
「ありがと、エレナ。もういいよ、知りたいことは知れたから」
「……アレは、何なの?魔力の密度が、おかしい。サーヴァントでも傷を付けるのがやっと。宝具の相性が良ければなんとか戦える相手よ。ドラゴンが可愛く見えるレベルだわ」
「あー、多分アレだね。大丈夫大丈夫、倒した数は10や20じゃ利かないから」
「あなたの故郷、あんなのが跋扈してるの!?」
「そうだよ?地下鉄跡には大体いる。言ったでしょ、入ったら死ぬって。さて、突入準備をするかな」
座り込んだリッカは、背負っていた鞄から銃器を取り出し、持っていく武器の選別を始めた。
それを見ていたマシュが、意を決し話し掛ける。
「ローマーまではピストルでなんとかする、光りし者はライフルかショットガンで、っと。シシケバブがあれば楽だったのになぁ」
「リッカさん、私も同行したいのですが」
「ほぇ?いやいいよ、マシュはリツカとエレナを守ってあげて。外だって何も来ないとは限らないんだから」
「でも、エレナさんの言うような恐ろしい個体がいるなら、弱体化しているリッカさんだけでは危険なのでは?」
「心配してくれるのはありがたいけど、アレは全力の私でも油断したら死ぬ相手だからなぁ」
「そんなに、ですか」
「対処法はある、だからこそ未経験者は連れていけない。マシュが頼りないとか、そんなんじゃないからね。大丈夫、ドッグミートもいるし」
「ワンッ!」
元気よく鳴くドッグミート。任せろ、と言っているようだ。
それ以上何も言えないマシュの後ろから、努めて明るい声で立香が聞く。
「Pip-Boyから武器を出せるのに、なんで奪った銃を準備しているの?」
「いちいちPip-Boy見てらんないからね。取り出す時間ももったいない。相手は数と速度で来るから、攻撃を途切れさせちゃダメなんだ。リロードの時間も惜しいし、弾がなくなったら捨てるよ」
「なるほどなぁ」
立香の質問に答えながら、腰や背中に武器をぶら下げていくリッカ。
背中にはショットガンを差しているが、バットといいショットガンといい、どう固定しているのだろうか。
「それだけあれば足りそうだね。コマンドーって感じ」
「足りると願いたいねぇ。じゃ、景気付けに一本っと。ほれ、ドッグミートも」
「ワウッ!」
一人と一匹でがぶがぶと酒瓶を空にする。
強敵に向かうというのに、リッカは自然体に見える。地元でもこうやって数えきれないほどの困難を乗り越えてきたのだろう。
「ぶっはあっ!さて、中をきれいにしてくるよ。残りの荷物は置いていく。三人はここで待機してて。入り口には近付かないこと、敵が来たら逃げるのを優先すること。OK?」
「うん、わかった。気を付けてね」
立香の気遣いにヒラヒラと手を振り、リッカは下へと飛び降りる。ドッグミートもそれに続いた。
三人からは見えないが、すぐに錆びた鉄柵の開く音、そして閉じる音がした。
立香とマシュはリッカの言葉から、エレナは探知の内容から、地下鉄内部が危険地帯なのは理解している。
だが、三人は知らない。実感がない。想像も出来ない。
キャピタル・ウェイストランドにおいての、地下鉄の本当の危険度を。
だから三人は、健気にも信じていられる。
リッカが無事に帰ってくることを。
次回、FGO成分/Zeroのゴア回です。