第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン   作:名詮自性

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第14節:Grim Reaper's Sprint

手が折れた。脚が砕けた。内臓が潰れた。頭蓋骨が割れた。

Pip-Boyが全身に重傷を負ったことを警告している。

諸々に気を取られ、受け身を取れずに落下した代償は大きい。

 

でも、まだ死んでない。

 

「ドッグミィィィトォォォォォ!!!」

「ワオォォォォン!!!」

 

私の叫びに応え、フェラル・グールを足場に群れを飛び越え、ドッグミートが来てくれた。

 

「悪いドジッた10秒くれ!」

「ガァウ!!」

 

私への怒りもこめられた雄叫びを放ち、ドッグミートがグール達に向かう。倒すことより場を乱すことを優先し、同時に複数体を相手取ってくれている。

すかさずサイドパックに左手を突っ込む。手の感覚はないが、そこは経験と勘でカバー。なんとかスティムパックを引きずり出す。

まず口に咥え腕を治す。次に脚、頭、胴体と重傷箇所に打ち込み、仕上げに体力回復分を数本注入。

 

―――――その体は、きっと薬で出来ていた。

 

なんかPip-Boyが変な電波拾ったけど、とにかく完全回復じゃーい!

 

「助かった!壁際に行くから!」

「ワウッ!」

 

ドッグミートに声を掛け、グールの包囲網を拳で切り開く。

何度か攻撃を貰いながらも、なんとか地下鉄ホームの端まで辿り着き、壁に背中を付ける。

 

「うへぇ……」

 

見渡して、改めて思う。

フェラル・グール、多くね?ダンウィッチ・ビルがかわいく見えるよ。

線路の奥からもまだまだ湧いてきている。どうやらドッグミートは単独で増援を抑えてくれていたようだ。

武器を出す余裕はないし、どうせ耐久性も弾薬も足りない。

スティムパックはサイドパックに少し、Pip-Boyにはまだ在庫があるけど、こちらも出す余裕がない。

 

「だからって止まってらんないよねぇ!!」

 

弱気な自分を追い払うように、大声で叫んで気合いを入れる。

 

死ぬまで戦い続けると決めた。

死ぬまで殺し続けると決めた。

死ぬまで守り続けると決めた。

 

その果てで、サラが笑ってくれると信じて。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「リッカ、遅いねぇ」

「そうですね、そろそろ2時間ほど経ちます」

「私達も突入を考えた方がいいわね」

 

地下鉄に降りるエスカレーターの前。

待機している三人が今後の相談をしていると、エスカレーターを上ってくる足音が聞こえてきた。

 

「リッカかな?」

「いえ、3人います。マスター、私の後ろに」

 

マシュが立香の前に立ち、エレナは書物を取り出し構える。

顔を見せたのは、リッカの言っていたゾンビのような何かではなく、3人の見知らぬ男達だった。レイダーと違い、戦闘用の衣服……コンバットアーマーに身を包んでいるし、瞳には理性の光が見て取れる。

会話が出来る相手と判断したマシュは、ひとまず挨拶をしてみることにした。

 

「あの、こんにち」

「タロン社だぁ!!」

「「頭捻じ切ってオモチャにしてやるぜぇ!!!」」

「ひゃああぁぁぁぁっ!?」

 

突然の大声に驚いたマシュが、手にした盾で我が身をかばう。途端、周囲に響く金属音。盾が複数の銃弾を防いだ音だ。

 

「撃ってきた!?マシュ!」

「問題ありません!」

「二人とも、目を閉じて!」

 

エレナの指示に従い目を閉じると、男達の悲鳴が聞こえた。目が、目がぁと呻く者もいる。

 

「光で目を潰したわ!ひとまず逃げて体制を整えるわよ!」

「逃げるってどこに!?」

「地下鉄!マシュ、殿(しんがり)頼める?」

「お任せください!」

 

男達とは別のエスカレーターを駆け下り、地下鉄への鉄柵を開けて飛び込む。

内部は弱いながらも照明が生きているが、瓦礫が多く気を付けないと足を取られそうだ。

通路を少し進んだ辺り、曲がり角を背にしてエレナが叫ぶ。

 

「敵と判断し、ここで迎え撃つわ!立香、奥から何か来たら知らせて!」

「わかった、よろしく!」

 

遅れてやってきたマシュに怪我は見当たらない。そのまま前衛を務めてもらう。

エレナは立香の近くに立ち、書物を開きいつでも魔術を行使できるよう構えている。

二人に守られながら、通路の奥に目を向ける立香。

広間のような所へ繋がっているようだが、暗くて見通せない。

ここで挟撃され、体制を崩されると敗色濃厚だ。自身の役割の重要性を把握した立香がゴクリと唾を呑む。

 

「襲撃、継続!」

「ここは通しません!」

 

マシュが男達と再び接敵した。狭い空間でも器用に盾を振り回し、銃弾を防ぎながら攻撃する。4つの特異点や数々の微小特異点を乗り越えてきたマシュの成長が光る。

ただ、マシュと敵の距離が近過ぎて、エレナが援護できない。U.F.O.も天井が低く呼び出せない。

 

「いざとなったらマシュごと撃つしかないわ。例の薬、持ってるわね?」

「あるけど、出来れば使いたくないなぁ!副作用が怖過ぎる!」

「命には代えられないわよ。死ななきゃ安い、リッカも言ってたでしょう?」

「アレが生えてるマシュは見たくなぁい!」

「一周回っていい思い出になるかもよ?」

「ちょっと想像しちゃったヤダーーーーー!!!」

 

二人がしょうもない話をする間にも、マシュの戦いは続いている。

敵の単独での戦闘力はケルト兵程度。ただ、二人が銃器、一人がナイフという組み合わせで上手く連携を取ってくるため、防御を強いられなかなか攻撃に回れない。

後方から見ているエレナもそのことには気付いている。

いっそマシュと交代し、一気に勝負を付けるか?相手の魔術への耐性が未知数なため、賭けにはなるが。

相談のため、エレナはマシュ達を見ながら背後の立香に声を掛ける。

 

「立香、一度マシュと交代しようと思うのだけど」

 

返事がない。まさか流れ弾でも当たったのかと振り向くも、立香に怪我はなさそうだ。

ただ、通路の奥を見て、固まっている。

もしや、あの強大な敵が出たのか。慌てて立香の視線を追い、そこに見たのは。

 

「な、に、あれ」

 

赤黒い、人の形をしたナニカが、こちらに向かってきている。

人ではない。元は人だったサーヴァントでもない。あれは人に属するものであってはならない。

だって人は、あんなに血を流せない。脚があんなに捻じ曲がったら歩けない。内臓があれだけ零れたら動けるはずがない。

だからアレは、化け物だ。

エレナは立香の前に立ち、なおも近付いてくるナニカに向けて魔術を放とうとし。

 

「リッカ」

 

立香の言葉に、その動きを止めた。

ナニカが人だとしたら口に当たる部分から、ごぼりと一際多く血が溢れる。

 

「リッカ、リッカ!」

「ダメよ、待ちなさい!」

 

駈け出そうとする立香を全身で抑え込む。体格差はあるが、キャスターとはいえサーヴァントの身。難なく立香を壁へと押し付ける。

アレがリッカな訳がない。リッカであっていいはずがないのだ。

立香を説得するのが先か、アレを魔術で焼き払うのが先か。

悩みながらナニカがいた場所に視線を向けると、既にそこにはおらず、赤い川の向かう先を目で追うと。

 

「ひっ!?」

 

突如近くに現れたナニカに、マシュが悲鳴を上げる。エレナが立香に気を取られた一瞬で距離を詰めたようだ。

 

「マシュ!それはリッカだよ!」

「えっ、はっ、えっ?」

 

立香の叫びに混乱するマシュの横を過ぎ、ナニカは男達へ接近する。

 

「グールの新種かぁ?頭捻じ切ってオぐぼっ」

 

一番近い男が、言葉を途中で止められる。

その喉に、ナニカの右腕が突き刺さったのだ。

押し付けながらグリグリと回した後、真横に腕を払うナニカ。人であれば手首があるはずのそこには、ただ骨が突き出ている。

男が首から大量の血を吹き出し、力無く地面に崩れるのを見て、他の二人が殺気立つ。

 

「てめぇ!」

 

一人がショットガンを発砲し、ほぼ全弾がナニカに命中する。

少なくない血と肉が弾けたが、ナニカは何事もなかったかのように発砲した男へ接近し、左腕を大きく横に振るった。

ただそれだけで男の首が千切れ飛び、地面を転がっていく。

そして、衝撃で血が払われたナニカの左手首には、Pip-Boyが。

 

「俺、入隊するんじゃなかった!」

 

最後の一人になってしまった男が、恐慌を起こし地下鉄の出口へと駈け出す。

その前方には、既にナニカが、両手を広げて立っていた。

 

「ああ、神よ」

 

出口から差し込む夕日を背にするナニカの姿が、まるで十字架のように見える。

足を止め、神への祈りを口にした男の腰に、ナニカが抱き着く。

骨が砕け、肉が千切れ、支えるものが無くなった男の上半身がだらりと垂れた。

地面に捨てられ、血を吐きながらもまだ息のある男の頭を、ナニカが踏み砕く。

突如始まった謎の男達撃退戦が、唐突に終わった。

 

「あの、リッカ、さん?」

 

近くにいるマシュが、マスターに倣いリッカの名を呼ぶ。

呼ばれたナニカはマシュの方を向くと、口から大量の血を吐いた。

 

「ひっ」

 

思わず後ずさったマシュと入れ替わりに、立香が駆け寄る。エレナはナニカの起こした血の暴風に恐怖し固まっていた。

 

「リッカ、スティムパックだよ!どこに打てばいい!?」

 

右腕を上げるナニカ。骨の突き出た切断面がよく見える。

悲鳴も胃液も飲み込み、立香はその腕にスティムパックを構える。

 

「ち、ちくっとしますよー?」

 

ナニカが口から血を零す。笑われた気配がしたが、問い質している場合でもない。

慣れない手付きでスティムパックを刺し、薬液を注入する。針を抜くと、突き出た骨を包むように肉が育ち、あっという間に手首から先が再生した。未だ血塗れの右腕も、隙間からきれいな肌を見せている。

次のスティムパックを取り出した立香に、再生したての人差し指が横に振られた。そのままPip-Boyを操作し、その手にスティムパックを握る。

胴体、左腕、両足、そして頭部。慣れた手付きで次々にスティムパックを打ち、再生させていく。

復元される筋肉や肌と同様に、頭部に付着した血を押し退け、夕日を受けてオレンジ色に輝く髪が生えていき。

 

「いやー、死ぬかと思った」

 

血みどろの顔で、リッカが笑った。

 

 

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