第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン 作:名詮自性
いやー、死ぬかと思った。
ドッグミートがいなかったり、リーヴァーがあと1、2体多かったりしたら死んでたな。
ここまでズタボロになったのはいつ以来だろう。大統領専用メトロ?アダムス空軍基地?
手首から先がなくなった時はちょっと焦ったけど、とにかく生き残ったので私の勝ちだ。しばらくグールは見たくない。
スティムパックも結構使ってしまった。正直、同じ規模の戦いは無理だ。
レイダーの集落を吸収した時みたいに、在庫が増やせるといいんだけど。
あ、タロン社の奴等が光の粒になって、Pip-Boyに吸収された。なんでこいつらまでいたの?
フェラル・グールと戦ってる時は必死で気付かなかったけど、やっぱり吸収してたのかな?
おーいエレナ、ちょっと確認してほしいだけど……って、めっちゃ怯えてる。
スーパーミュータントに捕まってたのを助けた人がこんな顔してたわ。
私ったら罪な女、なんてね。要は慣れっこだ。好かれたいとか、褒められたくて助けた訳じゃないし。
エレナはしばらくそっとしておこう。立香とマシュは無事かー?
……立香がめっちゃ泣いてる。えっ、えっ、なんで?
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「うぇっ、ひっぐ、うえぇぇぇ」
流れ出る涙を拭おうともせず、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる立香。
何事かとマシュが駆け寄ると、立香はマシュの胸に顔をうずめてより激しく泣き始めた。
マシュは困惑しながらも、立香を抱き寄せ、頭を優しく撫でる。
「こんな先輩、初めて見ました。ちょっと時間が掛かりそうです」
「どっか怪我してるとかじゃないよね?」
「外傷はありません。心の問題かと」
「そっかそっか、ビックリさせちゃったか」
リッカが生きているという安堵。
リッカがああなってもまだ生きているという驚愕と恐怖。
そこまでリッカに頼り切ってしまったという後悔と無力感。
それらが混ざり合った結果がこの号泣だろうとマシュは見ている。
何故なら、マシュも同様の感情を覚えたから。
「あの、リッカさん」
「んー?」
「……すいません、なんでもありません」
「えー気になる。言ってごらんよ」
「…………でしたら、お言葉に甘えて。気を悪くされたら申し訳ないのですが」
そこまでして、人は生きなければいけませんか?
生きることを尊いと思い、生きるために努力することを輝かしいと思うマシュですら、そんな疑問が浮かんでしまう強烈な衝撃だった。
リッカのあの状態を見たら、誰だって思うはずだ。
もう死んでいい。もう楽になっていい。もう許されていい。
それでも生還し笑っているリッカのことを、素直に喜べないほどには、理解できない。
自分にしがみ付く立香の指に力がこもった。やはり言うべきではなかったかと思うマシュに、リッカがいつもの笑顔で答える。
「人それぞれじゃない?私が生き汚いだけで、別の誰かはここまで頑張らなくていいと思うよ」
「何か理由が、あるのですか?」
「んー……んふふ、口にするのは恥ずかしいな。でも秘密にするほどでもないしな」
全裸を見られても動じない――実際、今も血みどろの全裸である――リッカが、照れくさそうに笑って言う。
「死ぬまで誰かを守るために戦うって、惚れた女と約束したの。その子が厳しくてねぇ、あの程度で死んだら許してくれないのよ。単純でしょ?我ながら、馬鹿みたい」
少し俯き気味に微笑みながら、リッカの視線は遠いどこかを見ている。
まだまだ人生勉強中のマシュでもわかる。その彼女はおそらく……
「さて、とりあえず服着ないとリツカにまた怒られるな。身体を清めたいんだけど……お、ドッグミート」
湿った空気を嫌ったのか、明るく笑って話題を変えるリッカの元へ、ドッグミートがやってきた。彼も全身血塗れだが、足取りは元気そうだ。
「ドッグミート、お疲れ様。敵はもういなさそう?」
「ワンッ」
「OK。向こう側にトイレあった?」
「ワンッ」
「おお、水出るかな。とりあえず行ってみよう。マシュ、何かあったら大声で呼んで。多分聞こえると思う」
「わかりました、お気をつけて」
途中、落ちていた自分の鞄を拾い、近くの壁に張り付いているエレナにひらひらと手を振って、リッカとドッグミートは通路の奥へと消えていった。
「先輩、大丈夫ですか?」
「……うん、大分落ち着いた。ごめんねマシュ」
「謝らなくていいです。お役に立ててよかった」
立香が顔を上げ、マシュが渡したハンカチで目を押さえる。
「バカだよね、リッカ。バカリッカ」
「そうでしょうか?大事な人との約束のために戦うのは、素晴らしいことだと思いますが」
「いーや、バカだね。あれはもう、約束じゃなくて呪いだよ。サーヴァントになっても続けてるなんて、死んでも止まれなかったんじゃん。バカリッカ」
徐々に涙声になりながら、バカ、バカと連呼する。
ハンカチを目から離さず、肩を震わせ始めた立香を、マシュは再び優しく抱き寄せるのだった。
特異点恒例、現地召喚サーヴァントとの交流回でした。
よし、楽しく話せたな(血みどろ全裸相手号泣)