第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン   作:名詮自性

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第16節:Gary,Gary

おー、トイレの水道が生きてる!手洗い場も使えるぞ!

便器に溜まった水で身体を洗わずに済んで何よりだ。

というか、ここもきれいな水が出るのか。羨ましい。

鞄から大きなウィスキーを取り出し飲んで、空き瓶に水を溜めてまずはドッグミートを洗ってやる。

あれだけ血塗れだったのに、傷はほとんど塞がってる。私が言うのもなんだけど、あんたも大概、犬辞めてるよね。

ドッグミートが全身ブルブルから毛づくろいに入ったのを見届けて、次は自分の身体を流していく。

スティムパックは造血作用もあるので、連続で使うぐらい激しい戦闘の後は大体自分の血でドロドロになる。

キャピタル・ウェイストランドだと川に飛び込むのが一番楽だった。屋内だと今回のように、トイレの手洗い場を頼ることになる。壊れて使えないことも多々あったけどね。

さて、きれいな身体になったら、今度は服選びだ。

着ていた101のジャンプスーツは、壊れてしまって呼び出せなくなってしまった。武器もこういう仕様なんだろうか。ちょっと困るな。

珍しく無事だった手洗い場の鏡の前で、Pip-Boyを叩いて適当にファッションショー開催。

レイダーアーマー・サディスティック……迷彩ビキニで動きやすいからよく着ていたんだけど、今はほら、下半身が、ね?はみでるのよ。ちなみにジャンプスーツの時は挟み込んで何とかしている。

傭兵服・チャーム……こっちはミニスカートだから下半身は問題ないけど、上半身の主張が激しめ。立香に怒られそうだ。いや喜ぶかもしれんな。マシュもよく見ると大概な格好してるんだけど、立香はどう思っているのだろうか。

ネグリジェ……これ着て戻ったら皆どんな顔するかなぁ!興味はあるけど、立香やエレナがああだったので今回はやめとこう。

うーん、無難にジャンプスーツにしとくか。アーマード・ジャンプスーツでもいいけど……たまには他のVaultのスーツでも着てみるかな。

さて、三人の所へ戻って、少し休んだら出発だ。

なんとこの地下鉄跡、私達が入ってきた反対側にも出入口がある。

私の知るように作られているのなら、繋がる先は私達がD.C.エリアと呼んでいた地域だろう。

レイダー、タロン社、スーパーミュータント、フェラル・グール、時々エンクレイヴと、殺しに来る奴等がうじゃうじゃいる場所だ。

偵察して、敵が多そうならまた私とドッグミートでお掃除に行こう。

ただ、地下鉄に三人を残していくのもなぁ……立香とエレナのコンディションも心配だ。

私の所為だって?生きるためだったから許して☆

あ、それとエレナにPip-Boyを見てもらわないと。

パワーアップ出来るかな?ヌカ・コーラ出せるかな?

 

――――――――――――――――――――――――

 

立香とエレナが落ち着きを取り戻した頃、リッカとドッグミートが通路の奥から帰ってきた。

自分達の代わりに傷だらけになった相手に取る態度ではなかった。まずは謝ってお礼を言わないと。

身構える二人の姿を見たリッカは、軽く手を上げいつもの笑顔で言う。

 

「ゲイリー、ゲイリー!」

「なんて?」

 

立香の呟きが地下道に響く。リッカは怪訝な顔をしつつも、発言を続けた。

 

「ゲイリー?ゲイリー!Oh、ゲイリー」

「いやいやいや待て待て待ておかしいぞコレ。翻訳礼装の故障?」

「いえ、自分の礼装をチェックしましたが問題ありません。おかしいのは、その、リッカさんの方かと」

「ゲイリー……ゲイリー?」

 

ほとんどゲイリーとしか喋らないリッカに困惑する一同。

リッカもなんかおかしいな、という表情をしている。

立香は一行の知恵袋に頼ることにした。

 

「エレナ!何かわかる!?」

「……あの薬の打ち過ぎで、脳に後遺症が出たのかも」

「脳が!?」

「そんな……」

「ゲイリー……?」

 

地下鉄での戦いの代償は、そんなにも大きいのか。立香は唇を噛む。

さっきまで普通に会話していたじゃないか。まだちゃんと謝れていないではないか。まだ許してもらえていないではないか。

やっと止まった涙がまた零れそうになる、その時。

 

「ガァウ!」

「ゲイリー!?」

 

ドッグミートが、急にリッカの尻に噛み付いた。いや、尻というより、スーツの尻の部分を噛んで引っ張っている。

ゲイリー、ゲイリーと叫びながら、自身の尻を守ろうとするリッカ。しかしドッグミートは止めようとしない。

あれほどリッカと仲が良く賢いドッグミートの奇行に、彼もどこかおかしくなってしまったのでは、と立香とエレナが悲痛に顔を歪める。

重苦しい空気の中、逃げ回る過程でリッカが後ろを向き、その姿を見たマシュが声を上げる。

 

「リッカさんの背中、数字が違います。今までは101と書かれていましたが、今は108です」

「確かにそうね……もしかして、原因はあのスーツで、だからドッグミートは脱がそうとしているのかしら?」

「リッカ!服脱いで、服!」

「ゲイリー!?」

 

一縷の望みを託し叫ぶ立香に、驚いた顔をするリッカ。

すると、あれほど執拗だったドッグミートが噛み付くのを止め、リッカに向かって吠える。

 

「バウッ、ワウッ!」

「ゲイリー……ゲイリー」

 

ドッグミートを見て呟いたリッカは、渋々といった感じでPip-Boyをタップする。

そして、再び悲劇は起こった。

 

「ぎゃああああああああ!!!」

「はっ!?目を塞がれる気配!回避です!!」

「なんで避けたマシュ!!」

「シールダーに一度見せた攻撃は通用しません!」

「初耳なんですけど!?とにかく目をつぶって!リッカのアレを見ちゃダメだよ!」

「あの、マスター。リッカさんが身体を洗いに行かれる前に、既に全身を見ましたが」

「令呪をもって命じる!マシュ、リッカのことは全部忘れろ!!!!!」

「残ってませんしカルデア式の令呪にそこまでの力はありません!」

「あああああああマシュを守れなかったああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

床にひれ伏し、叫びながら何度も拳を叩き付ける立香。

その様子を見ながら、リッカは怪訝な顔をする。

 

「脱げと言われて脱いだのに私が悪いみたいになってない?」

「後で説明するから、とりあえず何か着なさい。さっきのスーツ以外でね」

「バウッ!」

「ますます意味がわからん……仕方ない、アーマード・ジャンプスーツでも着とくか」

 

エレナとドッグミートに急かされ、Pip-Boyをタップするリッカ。

その身を包むのは、今まで来ていた101ジャンプスーツに肩当てなどの防具が増えた物だ。

 

「ちょっと胸とお尻がきついんだよねコレ……で?なんか皆の態度がおかしかったけど、何があったの?ドッグミートもピーチ狙ってくるし。まさか盛りかぁ?」

「グルルルル……」

「めっちゃ怒っとる……すんませんっした」

「はぁ……説明するわ。立香も、いつまでも床に当たってないで参加しなさい」

 

 

 

「多大なご心配、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません……」

 

事情を説明されたリッカは、一同の前できれいな土下座を披露した。

その横では、ドッグミートが伏せている。主と共に謝っているのかもしれない。

リッカとしては普通に話しているつもりだったが、実際に発せられる言葉がほぼゲイリーに強制変換されていたというのが騒動の原因だった。

 

「深刻な症状じゃなくて良かったよ……」

「どうしてあんなことになったのでしょうか?」

「Vault108っていうシェルターにいる、ゲイリーしか言わない奴等が着てるスーツでね……すぐに売り飛ばしたから、Pip-Boyのリストにあると思ってなかったよ。いや、ただのスーツなのに言葉に影響出るとかおかしいんだけど」

「あなたの装備は記憶や経験から作り出されてるから、悪い方向に再現されたのかもしれないわね」

「アンタゴナイザースーツとか絶対着れないじゃん……被害が少ない内に気付けて良かったかも。レイダーのアーマーもやめといた方がいいな。三人を美味しくいただいちゃうかもしれないからね!」

 

ワハハ、と笑うリッカだが、三人にとっては一切笑える内容ではなかった。

今まで会ってきた英霊達に遜色ない戦闘力と生存力。

人を殺すことに抵抗が一切ない精神性。

死ななきゃ安いと笑いながらの無茶無謀。

何が恐ろしいかといえば、立香には令呪がなく、そもそも仮契約もしていないこと。

つまり、リッカが何かの拍子に()()()になったら自分達では抑える手段がない。

現状、頼りに出来るのは。

 

「もしかして、私達の命綱って、ドッグミート……?」

「ワフッ」

 

ドッグミートが、申し訳なさそうに鳴いた。

 

「不服はないけどそれはそれとしてもっと安心が欲しい!」

 

立香の絶叫が地下鉄内に響く。

彼女の切なる望みが叶うまで……頼れるアイツが来てくれるまで、あと少し。

 




立香「マシュがリッカのアレを見て動揺してない件について。ロマニか?ロマニのロマニを引っこ抜けばいいのか?」
マシュ「男女の違いや個体差、生殖行動についてはダ・ヴィンチちゃんに教わりました。お手製のイラストと立体物を用いた、とてもわかりやすい授業でした」
立香「あ、これは生殖行動と感情がまだ結び付いてないな。なんという無垢。無垢過ぎて眩しい」
エレナ「レオナルド・ダ・ヴィンチの作った性教育の教材なんて、世に出したら幾ら付くかしらね……」
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