第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン 作:名詮自性
フォークス合流、yeah!
これでエンクレイヴと戦った時の仲間が揃った。
負ける要素はないな!リバティ・プライムさえいなかったらな!
……いやマジでどうすんのコレ。最初にして最大の一手が見つからないんだけど。
こっそり潜入できる所でもないしなぁ。やっぱ私がなんとかするしかないかぁ?
後のことをフォークスに託せるのなら憂いもないんだけど、私との結び付きが強いから私が死んだらフォークスもドッグミートも消えるらしい。ダメじゃん。
地下道を抜けた先に切り札的な何かがなければ、腹を括るしかないか。
ま、とりあえず日も暮れたし、朝までゆっくりしようぜ!
私もフォークスとドッグミートに任せて寝るわ。
フォークスめ、遠慮なく殴りやがって。骨何本か折れたぞ。立香達も引いてるでしょ!
え?あれだけ殴られて打撲と骨折で済んだ私の方が怖い?サーヴァントでも普通死ぬ?
そこはほら、鍛えてますから。この程度で死んでたらウェイストランド歩けないし。
フォークスなんか打撲だけだぞぉ?お互い本気出したらこんなもんじゃないけどね。
うーん、今更だけど、人間扱いされるのに戸惑うなぁ。
遠い所まで来たもんだ。なぁ、フォークス?
「オ前ハ、人間ダ。ドウシヨウモナイホドニ、ナ」
褒めてんのか、けなしてんのかどっちよ。いや笑ってないで答えろよぉ!
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意識がぼんやりと覚醒していく。
パチパチとドラム缶の中の薪が爆ぜる音が聞こえ、その炎が視界をほのかに照らしている。
カルデア謹製の寝袋に入ったまま顔だけを動かし、地下鉄出入口の鉄柵の方を見やるも、外はまだ暗い。
立香は天井に顔を向け、迫り来る危機への対応策を考える。
トイレに行きたい。
水を飲み過ぎただろうか。欲求が強過ぎて目を閉じても眠れる気がしない。
トイレはホームのある空間を越えた先にある。寝る前にそうしたように、マシュを起こして一緒に行ってもらうか?
いや、あんなに安らかな寝顔のマシュを起こすのは気が引ける。
エレナはというと、こちらもサーヴァントとは思えないほど深く寝入っているように見える。諸々の心労や今後のことを思うとゆっくり休んで欲しいので、やはり起こしづらい。
敵性存在が出ないとは限らないので、単独行動は禁じられている。
仕方ない、本当に申し訳ないけどマシュを起こそう、と決めて寝袋から上半身を出した所で、近くにドッグミートが立っていることに気付いた。
尻尾を振ってこっちを見ている。何の用だろうか。
「付イテイクソウダ。何カアレバ俺モ駆ケ付ケル。安心シテ行ッテコイ」
焚火の番をしているフォークスが小声で言う。
一人と一匹の洞察力に少しの恐怖も覚えたが、感謝の心と尿意が勝った。
「あ、ありがとう」
「ヘッヘッヘッヘッ」
ドッグミートを連れ、まだ血の匂いがするホールを抜け、女子トイレへ。
壊された、というよりは風化した、という崩壊具合だが、個室はあるし水も流れるので用を足すのに問題はない。
ドッグミートはどこまで付いてくるんだろうと思っていたが、女子トイレの前で伏せたのでホッとする。
時々、リッカや自分より賢いのではないかと思うぐらい、ドッグミートには驚かされてばかりだ。
速やかに用事を済ませ、寝床としているドラム缶焚火の所まで戻る。
ドッグミートとフォークスに礼を言って寝袋に入ろうとしたところ、フォークスに呼び止められた。
「ダンディボーイ・アップルヲ煮タ、リンゴ入リ砂糖湯ダ。身体ノ中カラ温マルゾ。不要ナラ俺ガ飲ム」
「じゃあ、いただきます」
目が冴えてしまっていたのでありがたいと思いながら、立香はスプーンの刺さったマグカップを受け取り、フォークスの隣に座る。
フォークスがどういった存在なのかは、寝る前にリッカから聞いた。
ウィルスを投与されたことより変異した元人間、スーパーミュータント。
本来なら破壊衝動に支配され暴虐の限りを尽くすはずだが、何故か知性が残った変異個体。
しかし、破壊衝動がなくなった訳ではない。常に歯を食いしばり、己の中の悪魔に抗い続けている。
その特異性から他のスーパーミュータントに監禁され幾星霜。そこから助け出したリッカに感謝し、付き従っている。
戦闘の時は抑え込んだ衝動を発散させるため、あまり近付いてはいけない。
それ以外は物静かな読書家で常識人。わからないことを聞くと大体答えてくれる、などなど。
フォークスの話をするリッカは楽しそうだった。心から大切な存在だと思っているのだろう。
「オ前ハ、俺ヲ、怖ガラナインダナ」
「んー、全く怖くないって言うと嘘になるけどね。話は出来るし、リッカが信用してるし。そもそもの話、サーヴァントにとっては私なんかガラスより脆いからね。敵はともかく、味方にいちいちビビッてらんないよ」
「ナルホド、中々苦労シテキタヨウダナ」
「リッカほどじゃないかな」
火傷に気を付け、マグカップの中身を慎重にすする。リンゴの香りと砂糖の甘みが染み渡り、自然にホッと息を吐いた。
ふと壁の方に目をやると、リッカが眠っているのが見えた。
どこからか拾ってきたよれよれの段ボールを敷き、酒の詰まった鞄を枕に、ライフル銃を抱いて仰向けで寝ている。
余っている寝袋を勧めたが、手足が拘束されると落ち着かないとあのような寝姿になっている。
その横では、ドッグミートが丸まっていた。
「朝マデ起キナイカラ、愚痴ヲ言イタケレバ今ダゾ」
「そんなに深く眠ってるんだ」
「Pip-Boyノ機能ダ。安全ナ場所ニ限リ、セットシタ時間マデ、強制的ニ眠ラセ、体力回復ニ専念サセル。外デハ普段使ワナイガ、俺ガ勧メタンダ。スパーリングデ、怪我ヲサセタ詫ビダヨ」
「やり過ぎちゃったの?」
「イヤ、イツモ通リダ。戦イノ中、リッカガ原因デ傷ヲ負ッタコトモ、沢山アル。オ互イ様ダナ」
「えぇ……」
困惑の声を上げ固まる立香を横目に、フォークスが手に持った鍋をすする。中身は自分のもらった分の残りだろう。
リッカが集落で回収していた大きめの手鍋なのだが、フォークスが持つとちょっと大きいカップにしか見えない。
「コレガ、俺達ナリノ、遠慮ノナイ付キ合イ方ナンダヨ」
「怪我したりさせたりで、怖くないの?」
「ナイトモ。俺モ、リッカモ、ソノ程度デハ死ナナイ。オ互イニ、ソウ信ジテイル」
「うーん、ちょっと理解できない。マシュに大怪我させたら一生悔やむ気がする」
「ソレデイイ。理解ヲ求メテイル訳デモナイ。人ソレゾレ、トイウヤツダ」
人それぞれ。リッカも口にした言葉だ。
リッカも、フォークスも、自分達が常識の外にいることを自覚している。
それでいて、常識の中で生きる人達を守るため、その身を削ってきたのだろう。
人類最後のマスターとなってしまった自分は、そこまで出来るだろうか。
まだ答えの出せない問いを飲み込むように、カップの中のリンゴをかじると、甘い香りが口いっぱいに広がる。少し気分が落ち着いた気がした。
「フォークス、料理上手だね」
「マサカ。コレヲ料理ト呼ブノハ、人類史ヘノ冒涜ダ。リッカガ生肉ト、酒トコーラデ済マセルノヲ、見テラレナクテナ。焼ク、煮ルグライハ、俺デモ出来ルトイウダケダ」
「リッカ、文明を知らない野生児みたいだね」
「少シ目ヲ離スト、裸ニナルシナ」
二人で笑い合う。
その後もフォークスからリッカのトンデモ話を聞きながらマグカップをすすり、リンゴを食べる。
結局、フォークスの愚痴を聞く形となったが、カップが空になる頃には、立香は眠気由来の倦怠感に包まれていた。
「ふわぁ……」
「横ニナルトイイ。良イ夢ヲ」
「ありがとう、フォークス。見張り、任せてごめんね」
「気ニスルナ。静カニ考エ事ヲスルノハ、嫌イデハナイヨ」
寝袋に入って間もなく、立香は眠りについた。
朝食の用意が出来たと、マシュが遠慮がちに起こしてくれるまで、何か良い夢を見ていた気がした。
逆側の出入口を抜けると、今までの荒野とは全く違う景色が広がっていた。
並び立つビル。正確には、ビルだったもの。
程度の差はあれ、どれもこれも破壊されていて、間を縫う道路上にも瓦礫があちこちに転がっている。
ビルの中に入るのは止めた方がいいだろう。今にも崩れ落ちそうなものばかりだ。
「現在地がおかしいわね。地下を通った距離の何十倍も東に移動して、最後のポイントのすぐそばに着いたわ。この環境を作った何者かの仕業かしら」
「距離が短くなったのはありがたいですが、少し気味が悪いですね」
エレナの指示に従い、霊脈の集まる場所を目指してビルの間を進んでいく。
遮蔽物が多く、どこから敵が現れるかわからないので、フォークスとドッグミートが先に進み、少し離れて他の四人が付いていく。
全方位を警戒しながら進むこと、しばし。
「あれは……フォ、じゃなくて、えーと」
「スーパーミュータントだね。死んでるけど」
瓦礫に背を預け、事切れているスーパーミュータントがいた。
立香をリッカがフォローする間に、フォークスが死体を調査する。
「銃デ頭ヲ撃タレテイル。イイ腕ダナ」
「へぇ、レイダーかエンクレイヴかな?」
より警戒を強めながら一同が進むと、またスーパーミュータントの死体があった。それも2体。
「片方ハ銃、モウ一方ハ刃物デ、ヤラレテイル」
「刃物……なんか私の思い描いてる連中とは違う気がしてきたな?」
その後も、道路や周囲の瓦礫に数多くのスーパーミュータントの死体が転がっていた。
襲われることはないが、決して安心できる状況でもない。
不気味な沈黙が続く中、ビルの間を歩み続け、遂に最後のポイントに辿り着く。
そこで一同を待っていたのは。
「へっ、ようやくお出ましか。待ちくた」
「新鮮なメカクレだああぁぁぁ!!」
「うるせぇぞバッソ!まだ拙者が話してるでしょうが!!」
「ねぇアン、あの背の低い方の茶髪の子、処女かな?」
「きっとそうですわ。どんな声で鳴くのか楽しみですわね、メアリー」
歴史に名立たる、四人の海賊達だった。
トイレにラッドローチを配置しない程度の良心が、まだ作者の中にもあった―――