第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン 作:名詮自性
わざと起こした煙と埃にまぎれて、立香達からそれなりに距離がある空き地までやってきた。
教育に悪い戦いしかできそうにないので、いっそ誰もいない所まで来たかった訳だ。
ここなら多少泣こうが喚こうが、立香達には見えないし聞こえないだろう。ただしドッグミートは除く。
腰に提げておいた10mmサブマシンガンで追い立てるまでもなく、女海賊の二人が誘いに乗ってくれたのは楽でありがたい。
どうやら向こうも私に思う所があるようだ。
「付き合わせて悪いねー」
「構いませんわよ。私達の狙いもあなたですし」
「本当はカルデアのマスターを狙いたいけど、あんたがいるとそうもいかないでしょ?」
大きい方も小さい方も笑顔だ。一見かわいいけど、邪悪さがにじみ出ている。隠す気もないんだろう。
まず間違いなく、二人はデキてるな。で、気に入った男や女を間に挟み込んでボロ雑巾になるまですり潰し、搾りつくしてきたと見た。いい趣味してるわ。
本命は立香だけど、ついでに私もそうしてやろうと思っているんだろう。返り討ちにするけどね。
あと、立香に関してはマシュを忘れてはいけない。あの子は手ごわいぞー?
ま、その辺は私が勝てば問題ない。とりあえず名乗っておこうか。挨拶の重要性は古文書にも書いてあるとミスターカゴが言ってたような言ってなかったような。
「私はリッカ。ざっくり言うと、山賊だよ」
「これはご丁寧に。私はアン・ボニー。ライダーのサーヴァントで、海賊ですわ」
「僕はメアリー・リード。同じく海賊だよ」
色々と大きい方がアンで、慎ましい方がメアリーね。
やー、嬉しいな!こんなかわいい子達と敵対するなんてね。
立香やマシュの手前、色々我慢してるけど、私もウェイストランダーだからね。
奪っていいものは奪うし、自分の好きなようにするのだ。やっべ、よだれ出そう。
この先どうするか考えながらワクワクしていると、メアリーが問い掛けてきた。
「あっちはあんたがいなくていいの?あの怪物、全部で100は殺したよ?」
「黒髭もバーソロミュー・ロバーツも、性格に難はありますが、海賊としては一流ですわよ?」
「平気平気。あんた達の殺した奴等と、うちのフォークスは別格だから。正直、私も戦えって言われたら困るぐらい」
「そんなの、良く飼いならしてるね?」
「やっぱり女の魅力でどうにかしてるんですの?」
「フォークスはああ見えて性別がないから、色仕掛けは効かないよ。一緒にいるのは、親友だから」
「「えぇ……?」」
その困惑は、無性別の方かな、親友の方かな。
フォークスを親友と呼んで困惑されるのはいつものことなので、とりあえず放っておこう。
「さて、そろそろ始めない?おしゃべりの続きはベッドの上でってことで」
「そうですわね。あなたが生きていたら、暇に飽かせて作った私達の愛の巣にご招待しますわ」
「大きなベッドがあるんだよ!三人乗っても大丈夫!」
「おー、そりゃ楽しみだ!」
アハハ、ウフフ。
三人で笑い合いながら、それぞれの得物を構える。
アンはマスケット銃。メアリーはカトラス。私は斧の
なるべく殺すな、とのことなので、まずは手足を落としてみよう。
それでも折れないなら、マン・オープナーかジャックの出番だな。
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「ちょ、フォークス!リッカはどこ行ったの!?」
立香が慌てて問い掛ける。いつものようにスムーズな返答を期待していたのだが、今回は様子が違った。
「グルル……」
振り向くことも、答えることもせず、フォークスが震えている。
力の限り歯を食いしばって、それでも堪えきれない何かが言葉ではなく音として漏れている。そんな様相だ。
―――戦ってる最中のフォークスに近付いちゃダメだよ。リツカなんて腕の一振りで弾けて死んじゃうんだから
―――例えで毎回私を殺すのやめてくんないかなぁ!
昨晩のリッカとの会話を思い出し、マシュとエレナに声を掛ける。
「もっと下がろう。今のフォークス、危ないよ」
「そう、ですね」
「聞いてはいたけど、ここまでとはね」
親切で理知的、小粋なジョークも交えながら明るく振る舞っていたフォークスの変容に、マシュやエレナも戸惑っていたが、提案通り一緒に下がってくれた。
敵陣を見ると、黒髭がボリボリと頭を掻いている。
「バッソよぉ。これって、あれか?アイツだけで俺達を何とか出来ると思われてるってことだよな?」
「そのようだね。中々の自信だ」
「ハッハ、そうだよなぁ、ハッハッハ」
バーソロミューが真顔で答え、黒髭も硬い表情で乾いた笑い声を上げる。
ひとしきり笑った後、黒髭はフォークスに向けて発砲した。
「なめやがって!!!こちとら天下の大海賊、エドワード・ティーチだ!怪物ごときにこの
憤怒を露にし、啖呵を切りながらなおも発砲する黒髭。
それなりに離れているにも関わらず、最初の銃弾含め全弾がフォークスの胸に直撃した。
「イタイ……」
フォークスが呟く。だがその身体は揺らがない。
私なら今ので座に還ってそう、と後方のエレナが思うほどの威力はあったはずだが、出血すらしていない。
それを認めた黒髭とバーソロミューが表情を失くし、目を細める。
「おい、バーソロミュー」
「ああ、エドワード。始まる前に終わらせよう」
二人が短い会話を終えた直後、フォークスが抑え込んでいた衝動を遂に解き放った。
「オ前達ハ、敵ダ……テキハゼンブ、コロス!タタカイ、ダイスキ!イィヤアァァァ!!!」
スーパースレッジを振りかざし、駆け出すフォークス。迎え撃つ大海賊二人は、ためらわず揃って宝具を発動した。
「
「
対軍宝具の同時発動により、フォークスを中心に砲弾の雨が降り注ぐ。
予測していなかったなりふり構わない攻撃に驚き、立香が叫んだ。
「マシュ、宝具お願い!」
「はい、マスター!
展開される光の壁の向こうで、数え切れない砲弾が着弾、炸裂し、空間を爆炎が満たす。
地形すら変わりそうな衝撃が地面を揺らす。立っているのもやっとだ。
もっと近くにいれば、フォークスだって守れたのに。立香が心中で悔やむ。
やがて砲撃が終わり、またも周囲は煙と埃、そして炎で覆われてしまった。
「フォークス……」
立香がフォークスの身を案じ、小さく名前を呟く。
リッカの采配は、自身の判断は、間違っていたのではないか。
大海賊相手に、戦力を分けてはいけなかったのではないか。
そんな後悔が次々と湧いてきて、知らず拳を強く握りしめてしまう。
立香はまだ知らない。フォークスの真価を。
あのリッカが親友と呼ぶことが、どういう意味を持つのかを。
「勝ったッ!第5章完!」
黒髭が爆炎を睨み叫ぶ。ただし警戒は解いていない。バーソロミューも油断なく構えている。
どちらかだけの宝具でも、ほとんどの相手は消し炭に出来る。それを二人同時に放ったのだ。爆心地に立っている者などいるはずがない。
そのはずなのだが、二人の海賊としての勘が警鐘を鳴らし続けている。
嵐はまだ終わっていない――いや、始まってすらいなかったのではないか。
「
雄叫びと共に、フォークスが爆炎から飛び出してきた。
その姿、多少の出血はあるし煤けているが、行動に支障が出る怪我は見受けられない。ほぼ無傷である。
「うっそだろオイッ!!」
あまりに理不尽な耐久力に、悲鳴に近い抗議の声を上げる黒髭。
しかもフォークスは黒髭に向けて突進してきていて、ハンマーの間合いまで詰められてしまった。
「チッ!」
黒髭はひとまず大振りのハンマーを避けるため、バックステップを選択……したのだが。
「っ!?」
左足に痛みが走ると共に、強く引っ張られて移動に失敗。
反射的に視線を向けると、そこには左脛に噛み付く犬……ドッグミートの姿が。
「ちょ、おま」
それ以上、黒髭に言葉を発することは許されなかった。
フォークスの振るうスーパースレッジが黒髭の鳩尾に着弾。
その全力スイングに、一瞬とはいえ拮抗するドッグミート。
黒髭の身体を使って行われる地獄の綱引き。続いた分だけ衝撃が留まり、内臓を引き潰す。
やがてドッグミートが牙を外し、振り抜かれるスーパースレッジ。
黒髭は七孔噴血しながら、遥か後方のビルまで飛んで行き激突、その衝撃で崩れた瓦礫に飲み込まれた。
「ツギハ、ガンバレ」
「ワオーン!!」
瓦礫の起こす土煙を遠目に、フォークスが呟き、ドッグミートが吠える。
その姿を見ながら、バーソロミューは既に両手を上げ降参の意を示していた。
やがて振り向いた両名に、改めて言葉でも告げる。
「お見事、降参だ。君達の強さはわかった。この特異点の攻略を任せるのに十分だとも。微力ながら私も」
「サア、オマエノバンダ」
「話を聞いてもらいたいのだが!?」
バーソロミューが冷や汗を流しながら説得を試みる間にも、フォークスはスーパースレッジを構えたまま向かってきている。
ドッグミートはその場から動いていない。フォークスに任せるとでも言いたげに、ただそこに佇んでいる。
誰か止めてくれないのかとカルデアのマスター達を見るも、全員顔を逸らして目を伏せていた。
「嗚呼、神よ」
目を瞑り、天を仰ぎ、静かに祈る。
自らの死を受け入れた海賊紳士、バーソロミュー・ロバーツの頭部へ、フォークスのスーパースレッジが振り下ろされた。
「…………うん?」
だが、いつまで経ってもバーソロミューまで届かない。
不思議に思ったバーソロミューが目を開けると、フォークスと自身の間に、両手を広げて立つ者がいた。
同じ頃、肉や骨の潰れる音が聞こえないことを不思議に思った立香も、恐る恐る薄目を開けた。
バーソロミューとフォークスの間に、両手を広げた誰かがいる。目をちゃんと開いて見てみると。
「……えぇ?あれって……」
古代ローマにいた人達が着ていたような、ゆったりとした布の服。
右手には松明を、左手にはまな板ぐらいの大きさの何かを持っている。
茶色い髪の生えた頭部には、七つの突起に囲まれた冠。
現代人なら誰でも知っている、ニューヨークのシンボルにそっくりな女性がそこにいた。
「自由の女神!?」
お詫びとお知らせ
・前話のバーソロミューの台詞の内、「女神様」を「御婦人」に変更しました。
「自由の女神」って呼ぶの、日本人だけなんですって。知らなかったそんなの……
・和名女神様との交流は次々回以降となります
・次回は趣味全開の流血切断キャットファイトです