第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン   作:名詮自性

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第20節:Mutant Blood

わざと起こした煙と埃にまぎれて、立香達からそれなりに距離がある空き地までやってきた。

教育に悪い戦いしかできそうにないので、いっそ誰もいない所まで来たかった訳だ。

ここなら多少泣こうが喚こうが、立香達には見えないし聞こえないだろう。ただしドッグミートは除く。

腰に提げておいた10mmサブマシンガンで追い立てるまでもなく、女海賊の二人が誘いに乗ってくれたのは楽でありがたい。

どうやら向こうも私に思う所があるようだ。

 

「付き合わせて悪いねー」

「構いませんわよ。私達の狙いもあなたですし」

「本当はカルデアのマスターを狙いたいけど、あんたがいるとそうもいかないでしょ?」

 

大きい方も小さい方も笑顔だ。一見かわいいけど、邪悪さがにじみ出ている。隠す気もないんだろう。

まず間違いなく、二人はデキてるな。で、気に入った男や女を間に挟み込んでボロ雑巾になるまですり潰し、搾りつくしてきたと見た。いい趣味してるわ。

本命は立香だけど、ついでに私もそうしてやろうと思っているんだろう。返り討ちにするけどね。

あと、立香に関してはマシュを忘れてはいけない。あの子は手ごわいぞー?

ま、その辺は私が勝てば問題ない。とりあえず名乗っておこうか。挨拶の重要性は古文書にも書いてあるとミスターカゴが言ってたような言ってなかったような。

 

「私はリッカ。ざっくり言うと、山賊だよ」

「これはご丁寧に。私はアン・ボニー。ライダーのサーヴァントで、海賊ですわ」

「僕はメアリー・リード。同じく海賊だよ」

 

色々と大きい方がアンで、慎ましい方がメアリーね。

やー、嬉しいな!こんなかわいい子達と敵対するなんてね。

立香やマシュの手前、色々我慢してるけど、私もウェイストランダーだからね。

奪っていいものは奪うし、自分の好きなようにするのだ。やっべ、よだれ出そう。

この先どうするか考えながらワクワクしていると、メアリーが問い掛けてきた。

 

「あっちはあんたがいなくていいの?あの怪物、全部で100は殺したよ?」

「黒髭もバーソロミュー・ロバーツも、性格に難はありますが、海賊としては一流ですわよ?」

「平気平気。あんた達の殺した奴等と、うちのフォークスは別格だから。正直、私も戦えって言われたら困るぐらい」

「そんなの、良く飼いならしてるね?」

「やっぱり女の魅力でどうにかしてるんですの?」

「フォークスはああ見えて性別がないから、色仕掛けは効かないよ。一緒にいるのは、親友だから」

「「えぇ……?」」

 

その困惑は、無性別の方かな、親友の方かな。

フォークスを親友と呼んで困惑されるのはいつものことなので、とりあえず放っておこう。

 

「さて、そろそろ始めない?おしゃべりの続きはベッドの上でってことで」

「そうですわね。あなたが生きていたら、暇に飽かせて作った私達の愛の巣にご招待しますわ」

「大きなベッドがあるんだよ!三人乗っても大丈夫!」

「おー、そりゃ楽しみだ!」

 

アハハ、ウフフ。

三人で笑い合いながら、それぞれの得物を構える。

アンはマスケット銃。メアリーはカトラス。私は斧の一品物(ユニーク)、ザ・ディスメンバラー。

なるべく殺すな、とのことなので、まずは手足を落としてみよう。

それでも折れないなら、マン・オープナーかジャックの出番だな。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「ちょ、フォークス!リッカはどこ行ったの!?」

 

立香が慌てて問い掛ける。いつものようにスムーズな返答を期待していたのだが、今回は様子が違った。

 

「グルル……」

 

振り向くことも、答えることもせず、フォークスが震えている。

力の限り歯を食いしばって、それでも堪えきれない何かが言葉ではなく音として漏れている。そんな様相だ。

 

―――戦ってる最中のフォークスに近付いちゃダメだよ。リツカなんて腕の一振りで弾けて死んじゃうんだから

―――例えで毎回私を殺すのやめてくんないかなぁ!

 

昨晩のリッカとの会話を思い出し、マシュとエレナに声を掛ける。

 

「もっと下がろう。今のフォークス、危ないよ」

「そう、ですね」

「聞いてはいたけど、ここまでとはね」

 

親切で理知的、小粋なジョークも交えながら明るく振る舞っていたフォークスの変容に、マシュやエレナも戸惑っていたが、提案通り一緒に下がってくれた。

敵陣を見ると、黒髭がボリボリと頭を掻いている。

 

「バッソよぉ。これって、あれか?アイツだけで俺達を何とか出来ると思われてるってことだよな?」

「そのようだね。中々の自信だ」

「ハッハ、そうだよなぁ、ハッハッハ」

 

バーソロミューが真顔で答え、黒髭も硬い表情で乾いた笑い声を上げる。

ひとしきり笑った後、黒髭はフォークスに向けて発砲した。

 

「なめやがって!!!こちとら天下の大海賊、エドワード・ティーチだ!怪物ごときにこの(たま)取れる訳ねぇだろうが!!!!!」

 

憤怒を露にし、啖呵を切りながらなおも発砲する黒髭。

それなりに離れているにも関わらず、最初の銃弾含め全弾がフォークスの胸に直撃した。

 

「イタイ……」

 

フォークスが呟く。だがその身体は揺らがない。

私なら今ので座に還ってそう、と後方のエレナが思うほどの威力はあったはずだが、出血すらしていない。

それを認めた黒髭とバーソロミューが表情を失くし、目を細める。

 

「おい、バーソロミュー」

「ああ、エドワード。始まる前に終わらせよう」

 

二人が短い会話を終えた直後、フォークスが抑え込んでいた衝動を遂に解き放った。

 

「オ前達ハ、敵ダ……テキハゼンブ、コロス!タタカイ、ダイスキ!イィヤアァァァ!!!」

 

スーパースレッジを振りかざし、駆け出すフォークス。迎え撃つ大海賊二人は、ためらわず揃って宝具を発動した。

 

さっさと終わらせて盾の(ブラック・ダーティ・)少女をもっと近くで愛でたい(バーティ・ハウリング)!!!」

趣味ではないけどそれはそれと(クイーン)してあの巨乳のネーチャンと(アンズ・)くんずほぐれつしたかった(リベンジ)!!!」

 

対軍宝具の同時発動により、フォークスを中心に砲弾の雨が降り注ぐ。

予測していなかったなりふり構わない攻撃に驚き、立香が叫んだ。

 

「マシュ、宝具お願い!」

「はい、マスター!仮想宝具 擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!!」

 

展開される光の壁の向こうで、数え切れない砲弾が着弾、炸裂し、空間を爆炎が満たす。

地形すら変わりそうな衝撃が地面を揺らす。立っているのもやっとだ。

もっと近くにいれば、フォークスだって守れたのに。立香が心中で悔やむ。

やがて砲撃が終わり、またも周囲は煙と埃、そして炎で覆われてしまった。

 

「フォークス……」

 

立香がフォークスの身を案じ、小さく名前を呟く。

リッカの采配は、自身の判断は、間違っていたのではないか。

大海賊相手に、戦力を分けてはいけなかったのではないか。

そんな後悔が次々と湧いてきて、知らず拳を強く握りしめてしまう。

立香はまだ知らない。フォークスの真価を。

あのリッカが親友と呼ぶことが、どういう意味を持つのかを。

 

「勝ったッ!第5章完!」

 

黒髭が爆炎を睨み叫ぶ。ただし警戒は解いていない。バーソロミューも油断なく構えている。

どちらかだけの宝具でも、ほとんどの相手は消し炭に出来る。それを二人同時に放ったのだ。爆心地に立っている者などいるはずがない。

そのはずなのだが、二人の海賊としての勘が警鐘を鳴らし続けている。

嵐はまだ終わっていない――いや、始まってすらいなかったのではないか。

 

ゲームオーバーダ(Game is over)!!!!!」

 

雄叫びと共に、フォークスが爆炎から飛び出してきた。

その姿、多少の出血はあるし煤けているが、行動に支障が出る怪我は見受けられない。ほぼ無傷である。

 

「うっそだろオイッ!!」

 

あまりに理不尽な耐久力に、悲鳴に近い抗議の声を上げる黒髭。

しかもフォークスは黒髭に向けて突進してきていて、ハンマーの間合いまで詰められてしまった。

 

「チッ!」

 

黒髭はひとまず大振りのハンマーを避けるため、バックステップを選択……したのだが。

 

「っ!?」

 

左足に痛みが走ると共に、強く引っ張られて移動に失敗。

反射的に視線を向けると、そこには左脛に噛み付く犬……ドッグミートの姿が。

 

「ちょ、おま」

 

それ以上、黒髭に言葉を発することは許されなかった。

フォークスの振るうスーパースレッジが黒髭の鳩尾に着弾。

その全力スイングに、一瞬とはいえ拮抗するドッグミート。

黒髭の身体を使って行われる地獄の綱引き。続いた分だけ衝撃が留まり、内臓を引き潰す。

やがてドッグミートが牙を外し、振り抜かれるスーパースレッジ。

黒髭は七孔噴血しながら、遥か後方のビルまで飛んで行き激突、その衝撃で崩れた瓦礫に飲み込まれた。

 

「ツギハ、ガンバレ」

「ワオーン!!」

 

瓦礫の起こす土煙を遠目に、フォークスが呟き、ドッグミートが吠える。

その姿を見ながら、バーソロミューは既に両手を上げ降参の意を示していた。

やがて振り向いた両名に、改めて言葉でも告げる。

 

「お見事、降参だ。君達の強さはわかった。この特異点の攻略を任せるのに十分だとも。微力ながら私も」

「サア、オマエノバンダ」

「話を聞いてもらいたいのだが!?」

 

バーソロミューが冷や汗を流しながら説得を試みる間にも、フォークスはスーパースレッジを構えたまま向かってきている。

ドッグミートはその場から動いていない。フォークスに任せるとでも言いたげに、ただそこに佇んでいる。

誰か止めてくれないのかとカルデアのマスター達を見るも、全員顔を逸らして目を伏せていた。

 

「嗚呼、神よ」

 

目を瞑り、天を仰ぎ、静かに祈る。

自らの死を受け入れた海賊紳士、バーソロミュー・ロバーツの頭部へ、フォークスのスーパースレッジが振り下ろされた。

 

「…………うん?」

 

だが、いつまで経ってもバーソロミューまで届かない。

不思議に思ったバーソロミューが目を開けると、フォークスと自身の間に、両手を広げて立つ者がいた。

 

同じ頃、肉や骨の潰れる音が聞こえないことを不思議に思った立香も、恐る恐る薄目を開けた。

バーソロミューとフォークスの間に、両手を広げた誰かがいる。目をちゃんと開いて見てみると。

 

「……えぇ?あれって……」

 

古代ローマにいた人達が着ていたような、ゆったりとした布の服。

右手には松明を、左手にはまな板ぐらいの大きさの何かを持っている。

茶色い髪の生えた頭部には、七つの突起に囲まれた冠。

現代人なら誰でも知っている、ニューヨークのシンボルにそっくりな女性がそこにいた。

 

「自由の女神!?」




お詫びとお知らせ
・前話のバーソロミューの台詞の内、「女神様」を「御婦人」に変更しました。
 「自由の女神」って呼ぶの、日本人だけなんですって。知らなかったそんなの……
・和名女神様との交流は次々回以降となります
・次回は趣味全開の流血切断キャットファイトです
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