第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン   作:名詮自性

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作者の想定するアンメアが強過ぎてキャットファイトになりませんでした……
こうなりゃ仕方ねぇ!先生、出番ですぜ先生!


第21節:Survival Guru

この世界の空って、本当にきれい。

私の故郷であるキャピタル・ウェイストランドの空はいつも濁っていた。

地上に出た時からずっとそうだったから、空とはそういうものなのだと思っていた。

西海岸のモハビ・ウェイストランドで青空を見た時は驚いたし、日の出や夕焼けの美しさには言葉も出ず、ただただぼんやりと眺めていたのを覚えている。

 

なんで急に空について想いを巡らせているのかというと。

アンとメアリーに手痛い一撃を貰って、地面に転がって空を見上げているからである。

うーん、効いた。腹に大きな穴が空いて内臓が零れ、胸も大きく切り裂かれてしまった。

もうちょっとバストが小さかったら死んでたかも。

 

「殺す気でやりましたのに、元気そうですわね?」

「タフ過ぎだよ、あんた。宝具使うつもりなんてなかったのに」

 

私を挟んで立っている二人が、それぞれの得物を油断せず向けている。

この二人、反則だよ。

アンが射撃で牽制して、メアリーが突っ込んでくる……までは読んでたんだけど、まさかここまでメチャクチャだとは。

アンの撃った弾、前から来たのを避けたと思ったら背中に当たるんだよ?意味が分からない。狙ってそんな跳弾出来る?私は無理。

メアリーも小さい体でブロードフライみたいに縦横無尽に動くし、カトラスの一撃はデスクロー並に痛い。

斧一本で避けたり耐えたり流したりとあがいていたら、二人のコンビネーション技でずたぼろにされたという訳。

メアリーにはレイダーだったら泣いて命乞いをするぐらいのダメージは与えたつもりだけど、そこは流石の大海賊。戦闘に支障はなさそうだ。

さて、困ったな。スティムパックを使えば私もまだまだやれるんだけど、二人はそんな猶予をくれないだろう。

最初から殺す気でやってたら、ここまでやられなかったんだけどなー。

逆転の手札としては、サイドパックに用意しておいたボトルキャップ地雷を起爆させるしかない。

ただ、距離的に私が一番ダメージ喰らうんだよね、これ……

下半身が千切れかかったことはあるけど、実際に千切れたことはないし、スティムパックで再生する保証もない。

最悪、上半身だけで生命維持、なんて可能性も……あーヤダヤダ。

それもこれも、爆発で生き延びられたらの話だ。一か八かにも程がある。

誰だよこんなバカ威力の地雷作ったの。私だわ。

やるしかないかぁ……立香達のためにも、ただ負ける訳にはいかない。まだ相手を巻き込んで死んだ方がマシだ。

 

でも、どうせ死ぬのなら。

ウェイストランドで死にたかったな。

 

……あ、私もう死んでるからここにいるんだっけ。

いつまで経っても実感湧かないなぁ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

アンとメアリーにとって、この寝転がっている自称山賊は予想以上の難敵であった。

アンの死角からの跳弾を食らっても、怯みこそすれ有効打にならず。

メアリーのカトラス捌きにも対応し、斧で反撃さえしてみせた。メアリーの手足には大きく深い傷が刻まれている。

相手のタフさとメアリーの負傷によって、長期戦を嫌った二人は、殺害も止む無しと宝具『比翼にして連理(カリビアン・フリーバード)』を発動。重傷を負った山賊は地面に転がった。

人間なら即死してもおかしくない傷だが、見下ろす二人に苦笑いを返す程度には余裕がある。

まだ何かを隠している顔だ。二人は油断なく詰めに入る。

 

「さて、降参していただけると私達も助かるのですが」

「大丈夫、これ以上痛くしないからさ」

「んぁー、どうしようかなー」

 

はぐらかすリッカに、アンが発砲する。銃弾は右太腿を大きく抉ったが、山賊は呻き声のひとつも上げない。

 

「早く決めていただけません?メアリーの治療をしたいんですの」

「えー、私の方が傷深いじゃん。優しくしてよー」

「こいつ、態度でかーい。アン、手足潰そう」

「そうですわね……ッ!?」

 

突如、アンの感覚に違和感が走り、マスケット銃を周囲に巡らせる。メアリーも同様に、リッカから視線を切り周囲を警戒する体制に入った。

 

「何の気配ですの……?」

「この辺りはきれいにしたはずだけどな……?」

 

そんな二人を見て、リッカはサイドパックからスティムパックを出し、腹部に注射する。

二人が警戒するのもわかる。Pip-Boyのレーダーに赤い光点がひとつ、またひとつと増えていっているからだ。

そして、リッカは気付く。

 

「空が、濁った」

 

まるでキャピタル・ウェイストランドのように。

 

「あれは熊、かしら?」

 

アンの言うように、少し離れた所にある瓦礫の向こうから、真っ黒な体毛に覆われた大型の獣が二頭、姿を現す。

熊程度なら片手間に対処できる。そう高を括ったアンとメアリーは、その油断に高い代償を払うことになる。

 

「ッ、速いっ!!」

 

メアリーが叫ぶ。アンが片方の頭をぶち抜いている内に、もう一頭に距離を詰められてしまった。

唸り声を上げ、前腕を振り上げながら突っ込んでくる獣の懐に入り込み、カトラスを振るう。

 

「ぎっ!?」

「メアリー!?」

 

獣の胸を切り裂き殺すことは出来たが、前腕の勢いが止まらずメアリーの上半身が爪で抉られる。

服も破れたため、あられもない姿になってしまったが、それを気にしていられる状況でもない。

 

「おー、やるやる。ヤオ・グアイ相手にそれだけできたら中級合格って感じかな」

「「!?」」

 

寝転がっていたはずのリッカが、大きな銃――ブラックホークを片手に笑っている。

胸と腹、太腿にあった傷はきれいさっぱり治っているし、先程まではあの銃も持っていなかったはずだ。

盛大に舌打ちをして、アンが苦い顔で聞く。

 

「やられましたわ。回復系のスキルか宝具を持っていますのね」

「まーそんな所かな。それより、次の先生が来たよ。近距離戦はオススメしない。頑張ってね」

「はぁ?何様だよ。こいつらが湧いてきたのはあんたの仕業?」

「んー、そこはよくわかんない。ただ、あんた達にとって不利な状況なのは確かだと思う。もう一回言うよ、死にたくないのなら頑張ってね」

 

人を食った態度にいっそ頭を撃とうか、とアンがマスケット銃をリッカに向ける。メアリーも止めはしない。

そんな二人が、自分達を覆うほどの大きな影に気付いた時には、既に遅し。

振り向くと、形容しがたい巨大な怪物が、長い爪のある両腕を振り下ろす所だった。

 

「ぎゃっ!」

「ぐうぅ!」

 

回避が間に合わず、挟み込むような腕の振り下ろしをまともに喰らい倒れ込む二人。

外側にあった腕は骨が見えるまで抉られ、胴体にも深い傷を負わされた。

二人を見下ろす怪物が、両腕を振り上げている。あれが下りてきた時が自分達の最期だと嫌でも思わされる光景。

だがその瞬間は来なかった。怪物の頭が、リッカの射撃で弾け飛んだのだ。

 

「だから言ったのに。デスクローの爪、痛いでしょ。気が付いたら後ろにいるんだよねぇ」

 

そう言うリッカの視線は、重傷を負った二人ではなく周囲を見渡している。

どうしたもんかな、と頬を掻いた後、リッカはブラックホークを腰に差し、代わりに背中の斧を手に取った。

 

「ちょっと忙しくなりそうだね。二人とも、負けを認めて大人しくしてるならこれ以上傷付けないけど、どうする?」

「冗談が、お上手ですわねっ!」

「僕達はまだまだ、やれるよっ!」

「じゃあ、しょうがないなー」

 

二人の返事に笑顔を浮かべ、リッカはアンとメアリーに向かって二度、斧を振り下ろす。

 

「ぎゃあっ!」

「がっ、はぁっ!」

 

抵抗もできず、片足を脛の辺りで切断された二人が悲鳴を上げ、のたうつ。

斧を背中に戻したリッカは、ジャンプスーツを破れた部分から細く裂き、二人の脚に巻いて止血をした。

 

「ちょろちょろされると守り切れないから、動けないようにさせてもらったよ。暴れるようならもう一本も落とす。あとで治してあげるから、じっとしてなさい」

「縛るとか気絶させるとか、他にいくらでも方法があるでしょう!?」

「こいつマジで頭おかしい!!」

「えー、一番手っ取り早いじゃない。急いでるのこっちは。ウダウダしてたらあんた達も死ぬんだし、我慢して」

 

止血を終え、立ち上がったリッカはPip-Boyを操作。背中から斧が消え、代わりに身の丈ほどもありそうな長い銃が現れた。スナイパーライフルの一品物(ユニーク)、バックガード・ライフルだ。

他にも必要そうな物を取り出しては腰に差していく。銃弾、爆薬、スティムパックの補充も忘れずに。

最後に、興奮剤(サイコ)を取り出して自身に打ち込む。

 

「間に合ったな。さて、やるか」

 

リッカが準備を終えた頃、瓦礫の向こうからまたもヤオ・グアイが二頭、顔を出した。

別の瓦礫からはデスクロー三体と、キングに率いられたミレルークの群れが。

地面からは巨大な白い蠍――ブリーチ・ラッドスコルピオンが他の蠍を引き連れて出てきた。

 

「ミュータントの見本市かぁ?面倒だけど、なんか懐かしいな!」

 

リッカはサイドパックから、弁当箱のような物――ボトルキャップ地雷を取り出し、蠍の進行方向に向けて放り投げた。

続いてグレネードをミレルークへといくつか投擲。

どちらの爆発も見届けず、腰に下げた手作り感のある武器――ダーツガンを構え、三頭のデスクローにそれぞれ命中させる。

ダーツの矢に塗られている毒で、デスクローの歩みが遅くなる。これで距離を詰められるまでの時間が稼げた。

ダーツガンを腰に戻し、背中のライフルを構える。目標はヤオ・グアイ。

間合いまでもう少しの所まで詰められていたが、二発の射撃で二頭を仕留めて事なきを得る。

振り向いてデスクローへ一発。見事命中し、一体が頭を吹き飛ばされて絶命した。

リロードしながら周囲を見渡すと、ボトルキャップ地雷の爆発を生き残ったブリーチ・ラッドスコルピオンが、減った脚でよたよたと寄ってきている。

ライフルで大きな尻尾目掛けて三発射撃。ブリーチは全身から体液を飛び散らしてバラバラになった。

すぐさまリロードし、脚を引き摺るデスクローを一射一殺。

ミレルークの群れへ銃口を向けると、キングが音波による遠距離攻撃を行うために身体を仰け反らせ始めた所だった。

そのまま頭部に向けて射撃。キングは姿勢を戻すことなく、後ろに倒れて動かなくなった。

 

「終わりかな?お、Pip-Boyが吸収してるな。後でエレナに見てもらわないと」

 

ライフルをリロードしながら油断なく周囲を見渡す。Pip-Boyのレーダーに反応はない。

 

「あの数を、ほとんど一瞬で……」

「戦い慣れし過ぎだよ……」

 

痛みに顔を歪めながらも、一連のミュータント掃討を見届けたアンとメアリーが驚愕の言葉を口にする。

人間相手なら似たようなことも出来ようが、あれほど多種多様な化け物を相手にするのは、今の自分達では無理だ。

自分達と戦っていた時より動きのキレも良かった。使った武器の種類からも、相当の手加減をされていたことがわかる。

最初に投げた地雷だけでも、もし使われたら勝負はどう転んだか。

 

「うん、敵性反応なし、と。リーヴァーがいなけりゃこんなもんだね。……お、空も青くなったな」

 

見上げながらリッカが言う。アンとメアリーはそれどころではなかったので、空の色の変化には気付いていなかった。

何故、突然ミュータント達が現れたのか。空の変化と関連はあるのか。

謎は残るがエレナに聞けばいいだろうと、リッカは丸投げを決めた。

 

「お待たせー。とりあえず怪我治そっか」

 

スティムパックを出しながら、二人に歩み寄るリッカ。

傷を癒す手段を持っているのはわかっていたが、リッカが用意したのは小さな注射器だ。二人としては信用できるはずもない。

 

「脚を切断した上に、薬漬けにするつもりですの?」

「うわー悪趣味。正々堂々、素面で勝負しろ!」

「信用ないなぁ。無理矢理打つから別にいいけど。はい、ちくっとしますよー」

 

傷の多いメアリーから順に、重傷箇所へと注入していく。

やめろー、へんたーい、おまわりさーん、と声を上げ嫌がっていた二人も、傷の治りを目の当たりにしては黙って受け入れるしかない。

 

「傷の治療はともかく、脚が生えるとかホント気持ち悪いですわね」

「やばい副作用とかありそう」

「まぁ実際、出る時は出る。というか、破れた服も直るの羨ましいなぁ!」

「魔力で編まれてるから当然のはずですが。寧ろ、どうしてあなたは直らないんですの?」

「黙ってたけど、おっぱい見えてるよ」

「知ってる。服が破れるの慣れてるから気にならないんだよね……はい、治療終わり。これからどうする?さっきの続き?」

 

三人で立ち上がると、アンとメアリーが顔を合わせる。

 

「興覚めですわね。引き分けでどうです?」

「その代わり、第二回戦はベッドの上で!」

「よし来た!じゃあ行こう!」

「えっ、今からですの?」

「向こう放っておいて?」

「大丈夫!2、3時間はフォークスがなんとかしてくれるよ。レッツゴーレッツゴー!!」

「ちょっと、どこ触ってるんですの?」

「この手付き、相当触り慣れてるな!」

 

アンとメアリーの間に挟まり、抱き寄せてあちこちをモゾモゾと触るリッカ。二人もまんざらではないのか、振り払おうとはしない。

そのまま二人曰く『愛の巣』へ向かおうとしたのだが。

 

「ワオーーーーン!!」

 

聞きなれた遠吠えにリッカがびくりと震える。

油の切れたプロテクトロンのようにゆっくりと振り向くと、瓦礫で出来た小高い丘の上からドッグミートが見下ろしていた。

目が合うと、駆け下りてきて吠えたてる。

 

「ワンッ、ワンッ!」

「いやいやいやいやドッグミートさん、ワタシ、コレカラ、イイコト、スル。お前だって邪魔されたら嫌だろう?まさかフォークスが負けたとか言わないよな?」

「ワフッ」

「だよねぇ。じゃあちょっと時間ちょうだいよ」

「グルルルル……」

「えぇーマジギレやん……何があったんだよぉ」

「ウゥーーー」

「わかった、わかった!股間を見ながら唸るな!もう食い千切られるのはゴメンだよ!」

 

手で股間を隠しながら、リッカが降参を宣言する。

数多のミュータントを瞬殺したリッカが飼い犬一匹に勝てないという状況に、アンとメアリーはどう反応すればいいのかわからない。

それはともかく、二人にとって聞き捨てならない単語が出てきた。食い千切られる、ということは……

 

「歩き方がおかしいとは思ってましたけれど」

「あんた、男なの?」

「男のアレが生えた女。さっきあんた達に使った薬の副作用でね」

「マジですの!?メアリー、どうです、どうなんです!?」

「生えてないよまさぐらないで!アンこそどうなのさ!?」

「残念ながらですわー!」

 

二人して天を仰ぐ。遊び慣れてんなぁと思いつつ、リッカは今後の方針を口にする。

 

「という訳で、このままだと()()()が食い千切られた挙句、後ろ足で砂かけられますので、誠に残念ながら一回戻りましょう……」

「実際、やられたことありますのね?」

「はい……体の痛みより心の喪失感が酷かったです……」

「何やったら飼い犬にそんなことされるんだよ……」

「肉欲に逃げてた時期があって、色々とね……」

 

当時のことを思い出したのか、顔面をしわくちゃにしながらトボトボと帰路に付くリッカ。

アンとメアリーは顔を見合わせて肩をすくめ、リッカの煤けた背中に付いていった。

 




次回から諸々の謎解き回です。少し間が空くと思います。
頑張れ和名自由の女神!
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