第五特異点逸聞 北米終末荒野ガーデン・オブ・エデン 作:名詮自性
三人に嘘を吐いた。
リバティ・プライムをなんとか出来る、なんていう大嘘を。
無理だよ。あれは無理。人の身で立ち向かっていいもんじゃない。
遠距離には核爆弾投擲、中距離ではレーザー、近距離なら剛腕。スティムパックを使う暇もなく蒸発するか肉片になる。
仮に私が武器弾薬使い放題としても、
ちなみに、エレナには嘘だとバレてたみたい。お礼まで言われてしまった。
正直に言おうかと、かなり悩んだけれど。
立香とマシュを絶望させたくなかったし、歩みを止めさせたくなかった。
疲れて休むのはいい。だけど絶望して足を止めたら、そこで旅は終わってしまう。
歩み続けてさえいれば、成長や発見が突破口になるかもしれない。
それが人生、なんて大きな主語を使うつもりはない。これは、私自身が生きてきて思うことだから。
だから今は、前を向こう。
なーに、最悪のケースでも私が命を懸けてなんとかするさ。嘘吐きは責任を取らないとね。
ただ、私がいなくなった後のことを考えると、エレナ以外にも味方が欲しい所だ。
私の力不足。そして人手不足。
勘だけど、どっちもなんとかなる気はしている。
私を喚んだ誰かが、今の状況を何とかするために、色々と手を打っている気配がするのだ。
このレイダーの集落もその一部だろう。
私も立香とマシュをカルデアへ送り届けたい。何だってやりますとも。
やりますけど、ご褒美にヌカ・コーラくれませんか。私の心が危篤なんです。
――――――――――――――――――――――――
「ダメです、カルデアへの通信、繋がりません!」
「やっとここまで来たのにぃー!!」
マシュが叫び、立香が吠える。
これだけを頼みの綱にホワイトハウスから逃げてきたのだ。悔しさも一入だろう。
「この世界におけるエンクレイヴの支配権は相当強力な様ね……しばらく続けてなさい、通話は出来なくてもあなた達が発信していることぐらいは伝わるかもしれないわ」
「わかりました、継続します」
「ロマニぃー!寝てんじゃないだろうなぁー!?種火送ってくれー!!」
エレナは届かない叫びを上げ続ける立香から、二人を見守るリッカへと向き直る。
「さて、二人が頑張ってる間に、私達は私達で出来る事をしましょう。リッカ、その左手の機械について教えてくれるかしら?」
「Pip-Boyについて?えーと、神経に接続しているから切り離せない、私の体の一部。出来ることはいっぱいあって、所持品の在庫や重量の管理とか、歩いた場所の地図を自動で作ったり、自分や視界内の敵味方の残り体力がわかったり、敵を狙う時、時間が止まったと思うぐらい思考速度を上げたり……あ、ラジオも聞ける」
「それを操作して何もない所から道具を取り出せると言っていたけど、生前は違ったのかしら」
「違うよ。所持品の一覧は自動で作成されたけど、それだけ。実物は背負った鞄に入れたり、腰に下げたりしてた」
「試しに何か出してもらえる?」
「いいよ、バットを出すね」
リッカがPip-Boyを操作すると、左手にバットが握られた。エレナが触れて確かめる。
「うん、うん……よく出来てるけど、しっかり確認すれば魔力で出来ているわ。収納は出来る?」
「もう一度タップすると……はい、消えた」
「魔力の流れがスムーズ過ぎて、余程注意しないと目で追えないほどね。バットは生前の所持品かしら?」
「バットもピストルも、あと今着てるジャンプスーツも、故郷を飛び出した時に持ってた物だね。旅を続ける内にもっと強い武器や防具が手に入ったから、推定死亡時には持ってないはず」
「弱体化した状態で呼ばれたサーヴァントが、全盛期ではなく成長過程の装備を持っていることはよくあるわ。あなたが昔の持ち物だ、と思っている点からも、未来、即ち全盛期の情報も霊基には刻まれているはずよ。霊基を成長させれば、もっといい装備が使える可能性は高いわね」
スラスラと述べるエレナに、やっぱ本職は違うなと思うリッカ。
「次、能力の低下について。これも機械で確認できるのよね?」
「うん、この画面」
表示画面を変えながら、身体能力の『S.P.E.C.I.A.L.』、技術の『Skill』、特殊技能の『Perks』を説明するリッカ。
この内、低下しているのは『Skill』だけだ。元は100だったものが25まで低下している。
「うーん、弱体化なら身体能力も下がるはずなのだけど……どうして『Skill』だけなのかしら?」
「なんでだろうね?『Perks』には『Skill』が一定数必要なものもあるけど、そっちは消えてないんだよね」
「全盛期のまま呼び出そうとしたけど不可能で、慌てて『Skill』と所持品を削った、とかかしらね。これ、召喚した側が召喚自体に慣れてない可能性が高いわね」
「リツカが私を喚ぶ時、女の声を聞いたって言ってたけど」
「女の声……アメリカで?候補は絞れるけど、まぁ今は重要じゃないから置いときましょう。次、背中向けてしゃがんでちょうだい」
「へ?いいけど」
言われた通りに、エレナに背を向かて屈むリッカ。
「背中に触って、魔力の流れや霊核の状態を見るわ。ないとは思うけど、頭痛や吐き気、手足のしびれが出たら教えてちょうだい」
「はーい」
リッカが軽く返す。頭蓋骨骨折や内臓の露出、手足のちぎれが日常茶飯事なので、エレナの忠告に一切警戒していない。
呑気な子ね、と思いながらエレナは手を置く。
「……やっぱりね。心臓にある霊核と、Pip-Boyとが太いラインで結ばれている。Pip-Boy自体、第二の霊核と言ってもいい程に魔力を内包しているわ」
「私にとっても重要だしねぇ。これがなかったら生き残れなかったし」
「霊基を強化できれば、霊核の強度と共にPip-Boyが強化される可能性は高いわね。それにこれは、大地との繋がりと……Pip-Boyに、あなたのじゃない魔力が含まれているのだけれど」
「あ、昨日ここにいた連中を殺した時になんか吸収してた。でもPip-Boyに変化はなかったよ」
「そりゃあそうよ、あなたに馴染んでないもの。このまま同調させるわね」
えっそんなことできるの、とリッカが返す間もなく、心臓と左手首が熱を持ち始める。
不快だったり、負担が掛かったりはしていない。
それでも慣れない感覚にむずがゆく思っていると、その熱が全身へと散っていく。
「はい、終わり。Pip-Boyを確認してもらえるかしら」
「えーと……あ、『Skill』が全部30になってる。アイテムは……おー、武器と防具が増えてるね。昨日の連中が持ってたナイフとかライフルとか、アーマーとか。スティムパックと弾薬も増えてる」
「少しとはいえ、霊基の強化が出来てよかったわ。これもマハトマの導きね!」
「まは……?」
「マ ハ ト マ の、み ち び き ね!」
「アッハイ、まはとまのみちびきです」
「よくってよ!」
なにがいいのかはよくわからないが、とにかくそういうことになった。
微笑むエレナ、遠い目をするリッカ。そこに立香とマシュがトボトボと寄ってくる。
「カルデアとの通信、成功しませんでした……」
「うっうっ、ダ・ヴィンチちゃんの声が聞きたい……エミヤのお弁当が食べたい……」
そんな二人を励まそうと、エレナが成果を告げる。
「こちらはリッカの強化に成功したわ。マハトマの導きでね!」
「それはよかったです!マハトマのおかげですね!」
「マハトマ、ばんざい!」
「よくってよ!」
素直にマハトマを称える二人に、エレナも気分が良さそうだ。
ただ、二人をよく見ると、目に光がない。リッカと同じく、よくわからないけどとりあえずそういうことにしているようだ。
「それで?どう強くなったの?ロボット倒せる?」
「ちょっと武器と防具が増えただけだね。まだまだ足りないよ」
「そっか、じゃあこれからどうしたらいい?」
「他の霊脈についても探知は出来てるわ。カルデアと通信できる可能性もあるし、次に向かいましょうか」
エレナが今後の道筋を示す。じゃあ荷物まとめよっか、と立香とマシュが動き出すも、リッカは何かを品定めするように辺りを見回している。
「リッカ?どしたの?」
「あー、うん。ちょっと物足りなくてさ。エレナ、この街を見てどう思う?」
「どう思う、ね。独立戦争の時代とも、私の活動した時代とも、もちろん現代とも違う。おそらく、あなたの時代のものだと思っていたけれど」
「仰る通り。ここにいたレイダーと同じで、私の時代のもの。ただ、エンクレイヴ……特にエデン大統領は、汚染された大地を嫌っていて、そこに住む生物は皆殺しにしようとしていた。この街やレイダーが存在するのはおかしいんだよ」
「つまり、この街は霊脈を起点に何者かが割り込ませたもの……?」
「私もそう思う。何者かってのは、リツカに呼び掛け、私を喚んだ誰かさんだろうね。つまり、この街はエンクレイヴへの抵抗なんだよ。私と同じで」
だからってレイダーまで喚ぶのはどうかと思うけど、と苦笑するリッカ。
しばらく俯いていたエレナが、リッカの思惑に気付き、驚いた顔を上げる。
「あなた、もしかして」
「あ、気付いてくれた?エレナがいるから取れる戦法だよ。魔力の流れがどうとかさっぱりだし。出来そう?」
「……技術的には可能よ。問題はあなたという器の耐久力ね」
「なんだ、それなら大丈夫。頑丈さには自信あるから!」
胸を張り笑うリッカ。
立香とマシュは困惑し、顔を見合わせた。
「わかった?」
「わかりません」
「よし、素直に聞こう。リッカ、結局どうするの?」
「私もレイダーと同じで、ウェイストランダーってこと。使える物は何でも使う、奪える物なら何でも奪う」
「使う?奪う?この集落の物資は全て集めたと聞きましたが、まだ何かあるんですか?」
「あるじゃない。でっかいのが」
リッカは大きく手を広げ、宣言する。
「この街を構成する魔力、丸ごと私が貰う!」