Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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多大なるゆらゆらとした1139日目

 この『Rauta』における自動操縦は経路追従型を採用している。自動操縦の出番は専ら馬車の操縦時で、現在地から目的地までにあらかじめ設定されているナビゲーションパスを辿ることで自動操縦を名乗る。よってこの移動における事故やら何やらというのは考えていない──その辺すり抜けちゃったらリアリティもないし面白くないよね、で採用されなかったセーフティだけど、一応ナビゲーションパスを横切るようにオブジェクトがあったら止まるようには出来ている。それ以外の事故はノータッチ。

 現地民、というかNPCのデフォルト行動が「追従」に設定されている、というのはいつか述べた通りだけど、それもここのリアリティが関係していたりする。……まぁいたのだ、「生き物の基本動作は静止ではない」とかいうやつが。そいつは結局ついてこなかったけど。

 

 とにかく『Rauta』の自動操縦はそういう仕組みが採用されている。

 先程見た馬車の急旋回。あれは正しく自動操縦で起こる動きだった。それは間違いない。

 しかし依然としてエリアに馬車のオブジェクトIDは存在していない。存在した記録もない。

 そして私が作った檻とぶつかって消えたことから導き出せるあの馬車の正体は。

 

「小麦屋の馬車のクエスト? ……あー、なんか……記憶にあるような無いような」

「まぁそんなものだよね。私もさっきスクショ群スクロールしてて思い出しただけだし」

 

 それは調査クエストの一つ。序盤も序盤のクエストなのでクリアしていないプレイヤーはいないだろう。最初からこのゲームで別のことがしたくて来た人達……それこそ往年のさんみたいなプレイヤーはやってなかったかもしれないけど、多分大体のプレイヤーがクリア済みな序盤クエスト。

 内容は、小麦農家が荷出しに使う馬車が盗まれてしまったので見つけ出してほしいというもの。馬車自体は郊外に放置されているから割と簡単に見つかるのだけど、それを見つけて戻ってくると、今度は小麦農家がいない。未払いの報酬のためにプレイヤーが農家を探していると、馬車に乗って帰ってくる小麦農家と出会う。どういうことかと問えばどういうことかと問い返される。曰く、「さっき馬車を返しに来てくれただろう」と。報酬はその時支払ったよ、と。

 とうとう詐欺かと疑い始めたプレイヤー。そこへやってくるは焦った様子のもう一台の馬車。乗ってきたのは農家の息子。話を聞けば、父親に恩返しをするために馬車をプレゼントとしようとしていたところ、一台を盗まれてしまって、それを追いかけてきたのだとか。

 つまるところプレイヤーが見つけ出した馬車がプレゼント用の馬車で、なぁんだそういうことだったのか、で話は終わる……のだけど、当然疑問は残る。

 そもそも最初に馬車を盗んだのは誰だったのか、そして農家に馬車を返したのは誰だったのか。

 スキルポイントと少量のお金を報酬に貰ったプレイヤーが後日小麦農家を訪ねると、中には惨殺された二人の死体と血文字で書かれた『馬車代』という文字が……というのが『小麦屋の馬車』というクエストの終わり。

 

「確かにあったあった、そんなん。あれって結局一章のボスが犯人だったんだっけ?」

「そう。一章ボス、エドワード・クリーキング・ハース。下層マフィアの一人でプレイヤーこと異邦人を良く思っていない派閥の人間。彼は行く先々の悉くでプレイヤーのやることなすことを"台無し"にしようと頑張る」

「よく覚えてんなー。導線が悪いっつーか動線が悪いっつーか、冒険と保全が必須過ぎて調査クエでのストーリー進行すぐ忘れるんだよなこのゲーム」

 

 う、ぐ。

 

「もっと調査クエで冒険と保全に波及する内容のクエがありゃいいんだけど、ほとんど調査クエ内で完結するからとっかかりになりにくいっつーか」

 

 いや、まぁ、ストーリーライン考えたの私じゃないし。

 あくまでプレイヤーをこの世界に馴染ませるための難易度調整だったし。

 ぐさ、ぐさり。

 

「いつしか調査クエをやんなくなって早半年……もうすぐ一年か? 家族ができたことで前線から退いたってのは勿論あんだけど、ストーリー振り返り機能もないからもう調査クエなんか覚えてねんだわな」

「……一応マイハウスにストーリー振り返り機能あるヨ」

「え、マジ?」

 

 はい。マジです。

 ……そっかぁ、「よく覚えていないから進めていない」も多分にあるのかぁ。

 それは……どう……すべきかなぁ……。

 

「あー、で? 小麦屋の馬車がなんで今回の犯人なんだ?」

「ああ……そだった、その話だった。あの時のクエストで、プレイヤーが乗って帰ってくる馬車以外に、小麦農家が乗って帰ってきた馬車と農家の息子が乗って帰って馬車があるわけじゃん。同じナビゲーションパスを辿る馬車が三つあるわけ」

「まぁ、そうだな」

「でもその三つの馬車のうち、プレイヤーが乗ることができる馬車はプレイヤーが乗って帰ってきた馬車だけ。他は馬車の形をしているNPCみたいなもんなんだと思うんだよね」

「あーな? NPCと馬車の一体となったオブジェクト、的な?」

「そう。今回アカラが振り落とされたっていう馬車はそのどっちかだと思う。馬車がどんな動きしたって乗れる馬車なら振り落とされることなんてない。というか慣性すら感じないじゃん、普段」

「確かに」

 

 そして、旋回してきて衝突してくる馬車の方。

 これは「旋回してくるところ」が見えたから旋回してきたように見えただけ。

 

「ん、ど、どういうことだ?」

「現場は猛吹雪だった。だから、遠のいていく馬車が横向きになったら"道を曲がった"か"旋回した"か、どっちかに思いこむ。私でもそう見えた。けど実際は"衝突回避でナビゲーションパスを途切れさせた最初の馬車"と"猛スピードで街中へ駆けてくる馬車"がすれ違っただけだった」

 

 それはつまり、盗まれた馬車を負う農家の息子の馬車だ。

 クエストにおける馬車道に障害物なんて無い。別インスタンスになるから。だから気兼ねないフルスピードで来る。

 その座標をずらしたものがここに現れていて、アカラや私に突撃してきたのがソイツ。

 

「ほー……で、なんで突撃してきたんだ?」

「だから、突撃しているつもりはないんだって。あの馬車は目の前の盗まれた馬車を追っているつもりだから、突撃するつもりなんか一切ない。ただ何も無い場所であってもナビゲーションパスを辿るNPCであることに変わりはないから、さっきみたいに正面からものをぶつけてやれば動作検証がおかしくなって消える……んだと思う。鳥井の攻撃でどうにもならなかったのは、側面攻撃じゃ障害物判定されなかったんじゃないかな」

「……面目ねえ。真正面から打ち破ってりゃ良かったのか」

「そんな判断一瞬でできるわけないし、あの時の最良をやってくれたでしょ」

 

 本当はもう少し複雑だ。

 私があの時口裂け女相手に作っていたのは「ナビゲーションパスの溝」を利用した檻。相手がNPC、ないしはNPC化の被害者であることを加味し、NPCが歩行する際に必ず辿るナビゲーションパスの「歩行不可メッシュ」で囲いを作り、本能的に動けなくする、というものだった。

 それなら不可視だし、プレイヤーには一切干渉しないから使い勝手が良い。

 それにぶち当たって消えたからこの仮説を思いついた。あれは急いでいただけでナビゲーションパスを辿っていたNPCなんじゃないか、って。NPCの馬車はぶつかってこない仕組みになっているので多分合ってる。

 クエストの方は正直「二台以上の馬車が出てくるクエスト」で検索をかけただけだ。裏方ーズに。他のクエストの可能性も大いにあるけど、猛スピードの件を考えるに合ってそう。

 

「でも、なんでこんなことが起きたのかは全くわからない。さっきからずっとそこの馬屋にアクセスしようと頑張ってるけどなんかメニューが出てくるわけでもなし。……私馬車使わないからわかんないんだけど、なんか借りたりしなきゃいけないっけ?」

「ああ、各地のこういう馬屋で馬を二頭借りる必要がある。馬車籠自体は無料でついてくるし、カスタムもできる。……ん、俺には出てくるぞ、馬を借りるポップアップ。あ、インベに許可証必要なんだっけな。ちゃんと覚えてねーけど」

「マジ? ……危険は十も承知だけど、やってみてくれる? お金は……今度チェスカに借りて、返す」

「いいよいいよこんな端した金。つかこういう、なに? 攻略班がやるみてーな検証はわくわくすんな。不謹慎だけど」

「ああ、まあ、楽しいよね」

 

 裏で巻き起こる地獄に目を瞑れば。

 

 して……それが現れる。

 何の変哲もない馬車。御者はいない。

 ただし。

 

「あ、ほら。馬車籠に当たり判定がない」

「おー……うわホントだ。これ乗ったらそりゃ振り落とされるわ」

 

 乗車を促すように開いた馬車のドア。自然な思考をしていればそこを通るだろうし、多少衣装がめり込んですり抜けても気にしないのだろう。そうして座って馬車が発車する──と。

 

「おっと、危ない」

「ナイスキャッチあんど着地」

「へへん、任せな」

 

 見事放り出された私達。しかし空中で姿勢を整えた鳥井が私を抱え、綺麗に着地してくれた。

 すぐに降ろしてもらって見るのは旋回の動き。

 

「あー、ホントだ。入れ替わってら」

「しかもこの疑似Uターンの動きまで全部同一だ。設定された速度、設定された道筋を辿っているのがわかる」

「んでこれ今回はどうする気だ?」

「え。……ああ、まぁ避けるか」

「了解」

 

 冷静に道の脇に逸れる。特にルートを変更するでもなく猛スピードで通り過ぎていく馬車。それは街中に入ったあたりで忽然と姿を消した。

 

「消えた?」

「うーん。これがバグなのか下手人がいるのかすらわかんない状態だけど、仮に下手人がいて、傷つけたいプレイヤーが私とアカラ……まぁ特定人物だった場合、無差別に人を巻き込むのはよくないから、って範囲指定でコトを起こしてた、とかかなぁ」

「んだよそれ。……ハッカー、チーター、みてーのがいるってことか? よく三年間黙ってたな」

「正直挙動はバグくさいから鵜呑みにしないでね。仮にバグだった場合直す運営がいないから……ここの馬屋は使わないようにしましょう、になるのかなぁ」

「……運営なぁ」

 

 ん。……この反応は。

 

「雪ん子、一応……情報共有な。前、"気付いたら別の場所にいる"みたいな夢遊病が流行ったの覚えてるか? そんときそれを防止するって謳い文句で金もとらずにアクセを配ってたやつがいたんだよ」

「このアクセでしょ。つけてるよ、かわいいし」

「でもよ、俺達の間で"そんな一瞬で対処できるのおかしくね?"ってなったんだわ。実際に夢遊病はそれで対処できたし、一過性のモンだったのか最近じゃ発症例を聞かないけどよ。で……まぁアクセ開発はプレイヤーでもできるけど、流石に早すぎね、ってなって……まぁ、運営なんじゃないか、って疑ったわけだ」

「普通に怪しいよね。お金取らないのがかなり怪しい。アクセって材料費結構嵩むでしょ」

「ああ、かなり。……で、ソイツはまぁ……ハブられてたわけだ。その状態でクエ行って、行方不明になった。逃げたんじゃなく、クリーチャーに連れられて……探すのを断念した」

「……えっと、私に同情とか非道徳への怒りとか求めてる? 無いよ私」

「わかってるわかってる。いやわかってるもひでぇ話だが。……ま、後味は悪い。確かにな。んでクリーチャーの動きも別に変じゃなかった。プレイヤーを連れ去ろうとする行動はいつものことだ。だが……なんつーかな、怪しんだやつが消える、ってのは……ハブったから連係崩れて連れ去られたんだろって非難の声も勿論上がってんだが……あー」

 

 想像以上に怪しい配り方をしていたことをここで知るという。

 そりゃ怪しまれるよ。なにやってんのホント。

 

「つまり、疑われて当然の行動とか、死に急ぐような行為をするやつは運営かもしれない的な話でいい?」

「んー、そこまで極論になるつもりはないんだけど、まぁ、そう。特に問題への対処能力が極端に高いやつは怪しい。……で、雪ん子。お前も最初の頃怪しまれてた」

「え。……嫉妬?」

「俺もそう思って笑い飛ばしたよ。名探偵なんているわけないとか、事件が出てきて名探偵が出てくるなんて出来過ぎているとかさ。じゃあてめえらが解決しにいけよっつったらだんまりだった」

 

 ……まー、怪しまれるか。私別に頭良いで通ってきたプレイヤーじゃなかったし。

 やっぱり全功績をケッセウスに擦り付けるべきか……。

 

「正直なんて反応返したらいいかわかんないけど、じゃあ今回のこれをバグっぽいって言い切るのも疑われる要因になったりする?」

「あるかもしれん」

「じゃあ今後一団クランとかグループとか、フレンド以外からの緊急要請は全部蹴るけどいいよね?」

「そうなるよなぁ。……んで俺からの返事は、自分を大事にしてくれ、になる。良いことしたやつが疑われて村八分にされるとかありえねーし。自分たちが切り捨てたものの重みを知れって感じだ。つか運営なら事件の解決なんかせずにニヤニヤ眺めてるに決まってんだろ。そういうのわかんねーやつがこうやって……成功者を貶めるっつーか、そんで自分の首絞めんだから皮肉な話だよ」

 

 皮肉も何も大正解だからなんとも言えないけれど。あいや、ニヤニヤ眺めているつもりはないけれど。

 

「じゃ、しばらくはゆっくりさせてもらおうかな。これがバグじゃなかった場合、アカラと私が狙われてるってことになるかもしれないし」

「おう、そうしとけ。雪ん子は基本自分のマイハウスと農場だけで自給自足できてんだし、いいよ馬鹿どものことに首なんか突っ込まなくて。この間の殺人を解決してくれただけで俺の中じゃ英雄も良い所だからさ、幸せになってくれよ、こんな世界だけど」

「私は好きだけどね、『Rauta』の世界。仕事に追われずに温かいもの飲みながら趣味に没頭できる」

「そういう意味で言ったんじゃねーって。俺だって好きだよ『Rauta』。好きじゃなきゃやってない。作品と作者は別物だよな」

 

 その言葉が聞けて嬉しいよ。移住、早いところ完了しちゃってね。

 そうしてこの、君達の大好きな世界に骨をうずめるんだ。

 

「あ、そろそろ帰るけど、どうする? 護衛してく?」

「そういうの俺が持ち掛けんじゃねーかなフツー」

「童貞には言い出すのつらいかなって」

「だからもう童貞じゃねーって」

 

 そんなことを嘯きながら。

 

 

 帰ってきて、私自身が吐いたログを見ながら実際には何が起きていたのかを分析する。

 仮にあれらがクエストの馬車であるのならクエストタグがついている。けれどその様子はない。ただし該当クエストのNPCの動きを確かめたところ、今回の事件の馬車と完全一致したため、推理自体は間違っていないのだと知れた。

 問題は、どうしてエリアログに何も残らないか、だけど……。

 

「PVP禁止エリアでダメージ。防御力アップでどうにかなった。シールドバッシュで軌道を逸らせた。……んー」

 

 チキン鳥井の攻撃で馬車の軌道が変わったことから、あの馬車には当たり判定がなく、描画だけが独り歩きしている、という線は消えた。

 さながらゴーストライナーというか、蜃気楼のようなものであるという説だ。けど、実体はあった。

 

 馬屋から馬車を借りる条件は、チキン鳥井の言っていたように一団クランで馬車取扱許可証というのを買う必要があるらしい。この辺私が手を加えたわけじゃないから知らないことも多いなー。

 ……一瞬私が純粋なプレイヤーじゃないから出なかったんじゃないかって疑っちゃったんだよね。そんなはずないのに。

 

「お」

 

 メールが来る。運営の一人で、主にNPCの行動経路や行動のアルゴリズムなどを一手に引き受けていたやつからの報告書。

 

「『経路ノードの誤解釈』……いや私が聞きたいのはなんでこんなことが起こったか、なんだけど」

 

 つらつらと書き連ねてあるのは馬車が戻ったり急旋回する仕組みばかり。……聞きたいことの方はさっぱりだからせめて仕事してる感を出したってこと? 時間返せ。

 自分に能力がないってわかったらちゃんとわかりませんって言ってくれないかな。プライドなんか犬に食わせてくれ。

 

 個別通話が開く。

 

「ぴんぽんぱんぽーん。有能過ぎて困るで有名、カルアルンの参上だぜスノープリンセス」

「カルアルンの彼女歴。二番目の女は?」

「そう、あれは高校三年生の時……意を決した俺は偶然にも三年間同じクラスだった女子に告白をしたのだ……」

「米沢さんでしょ。知ってる」

「は!? なんで知ってんの怖っ!?」

 

 馬鹿にしないでほしい。裏切り者の話を少し前にもしたけど、「近い」幹部であればあるほど身辺調査は必須だ。

 ──地球人に絆されてしまっていないか、という調査は。だから知っている。

 

「気を取り直して、報告して。何用?」

「気を取り直せない動揺があるんだが。……えーと、まず、お前を襲った口裂け女について。クリーチャーデザイナーのやつらが話し合った結果、ありゃシカディダエの混成だろうって話だ。夏になると出てくる巨大セミな」

「それで?」

「夏にならんと出てこないクリーチャーがいるってのがまずおかしいだろ? だからお前が前言っていたやつを加味して考えて、意図的にシカディダエにしたんじゃなく、なっちまっただけなんだと推測した」

「なるほどね」

 

 故意でやったんじゃなく、偶然そうなっただけのパターン。

 

「そこからちょいと発想は飛躍したんだが、こないだのミズダニ融合事件も踏まえて、亡霊共の中には悪党だろうが善人だろうがプレイヤーを乗っ取るのは嫌、って連中がいんじゃねーかな。そいつらが目を付けたのがクリーチャーだった。その適合実験をJOY福でやって。いざ自分たちも融合してみたら、ヒトガタまで持っていくことができた……みたいな」

「……じゃあ本当にあの"わたし、キレイ?"は"キャラメイクあの頃みたいになってる?"とか"上手にできてる?"みたいな意味合いだったのかも」

「ああ、かもしれん。そんでもって……その口裂け女はお前らの……咋・明白とお前の知り合いだったって可能性、ないか? 旧友に会いに来た的な」

「なんでアカラが出てくんの? 口裂け女に襲われたのは私だけだけど今のところ」

「ん……すまん幽霊馬車と混同してた。忘れてくれ」

「うん。あと私の知り合い……というか友達レベルのひとで、この三年間に死んだ人はいないかな。知り合い止まりなら大勢いるけど」

「そうか。じゃあ本気で忘れてくれ」

 

 なにしんみりしてんだか。

 仮にそうだったとしても何の躊躇もなく殺すし解析するし、なんの躊躇いも罪悪感も覚えないぞ。

 少し絆され過ぎじゃないか、カルアルン。

 

「で、だ。その話の中でデザイナーのやつが言ってたんだけどよ。あのエリアに別のエリアが重なってるって説はないのか?」

「そんなの調べたら一瞬でしょ」

「いや、だから、別のエリアで、座標がとんでもない数値に設定されていて、それが繰り広げた一連の流れ。当然ログは見えている直下のエリアじゃなく発生したエリアに溜まる……よな?」

「……ふむ」

 

 あり得ない話ではない。あのエリアの下に別エリアがあって、そこで発生したものが見えているだけ、という風に最初は聞こえたけれど、それはこいつの説明下手が出ただけか。

 成程、別エリアの事象が重なって見えているだけ。溜まるのはそこのエリアログであってこっちじゃない。

 

 ……捜索範囲が膨大になってしまうけれど、裏方ーズを信じて投げるか。

 どの道しばらくは私も暇になるだろうし。

 

 ──その時、液晶テレビが勝手に点いた。

 心霊現象とかではない。個別通話が開いてそれが映像付きだった場合に起こる設定だ。

 

 映ったのはアカラ、マルハノ刃、他複数人のプレイヤーと──室内をびゅんびゅん駆け回る、壁さえも無視して通りすがり続ける馬車の姿。

 撮っている運営が声を出せない状態にあるのか、テキストで「救援求む」とだけ書かれていて。

 

「行ってくる」

「疑われるぞ。俺が行った方が良い」

「……いや、万一を考えるなら、疑いは私に集中した方が良い。以降運営はプレイヤーとして私に近付かないことを徹底して」

「いいけど、お前はいいのかよ。お前は……あんたは俺たちとは事情が違うだろ」

「いいから。一刻を争うっぽいから、じゃあね」

 

 個別通話を切り、家を出る。

 馬車は使わない。──走った方が早いから。

 

 しかしなるほどね。

 別エリアを起点としたトンデモ座標の投影──良い着眼点だ。

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