Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

13 / 51
見慣れたありがちな1157日目

 ソファベッドに寝転がりながら、その記事を読む。記事……とはいうけどペーパーなアレというよりはデータで作られたパブリックな画像データである。

 【路地裏武器商】で武器が反乱。【世界崩壊の兆しか!?】という見出し。なんでも店頭にサンプルとして並べられていた新作の武器が突如浮かび上がり、暴れ出したと。その場にいた客によって速やかに退治されたが、店主(チェスカ)が軽い怪我。既に治療済み。

 何を言っているんだと流し読みしていたら、裏方ーズから連絡が。どうやらチェスカの扱う武器の一部が先日のハプバーの家具のようにクリーチャー化していたのだとか。

 チェスカの店はマイハウスではなくカテゴリー:お店という扱いの場所なので、確かに外部からいくらでも仕込み様がある……のだが、チェスカが自らの作っていない武器を放置するはずがなく。

 何より家具ときて次は武器……というのが、かなり気に入らない。まるで実験は順調であるかのように事が進んでいる。

 加えて前回は隠し通すことができたそれが……世に曝け出されてしまった。

 

 バグであると認識してくれるならまだいいけれど。

 グリッチを使うプレイヤーがいる、と……そう思われるのは、少し動きづらくなる。

 

 しかし、アカラとチェスカが順当に狙われたとなると、今度はsinohumiがわからなくなるな。バーのマスター……がVesiの関係者であったと仮定したとして、じゃあ彼はなんの恨みがあってsinohumiを殺したんだ?

 

 なんてことをつらつら考えながら蒸気人形(スチームマタ)の手入れをして過ごしたその日の翌日、

 今度は【R&R】でセリンが反乱!?【結局この世界はゲームなのか!?】という記事が。【R&R】はケッセウスの店だ。レンタル&リサイクル。セリンはお金の単位ね。

 で、その記事を読んだタイミングで裏方ーズからの連絡があって、これもまたセリンがクリーチャー化していたとのこと。

 百歩譲ってアカラとチェスカを狙うのはわかる。あのバーカン裏の隠し部屋でWANTEDになっていたから。個人的な恨みとかでまだわかる。

 けど、ケッセウスってなんだ。なんでこの並びにケッセウスが入る? ただの偶然? sinohumiがわからないから私の関係者を狙ったとは言い難くなっているのだけど……。

 

 第一、第二の事件、第三の事件とまた来ている。順当に行くのなら、次狙われるのは私か。……これでカルアルンやチュノスケが狙われたらとうとう裏切り者案件だ。

 そうそう、「はい、よろこんで」を知っている存在の話だけど、よく考えたら運営以外にもこの言葉を知っている存在がいたな、って。

 被害者のJOY福、そしてまだ見ぬ犯人だ。ただし、犯人……つまりVesiであれば「あんな殺し方」をする必要がない。だからJOY福なのではないかと考えている。

 ミズダニに融合したとされるJOY福。だけどもしこれが、意図的な亡霊化……自ら肉体を抜け出すための儀式であったとするのなら、今も不可視の状態でJOY福が生きている可能性が浮上する。

 運営からの流出や裏切り者を疑わないのならこの可能性が大きいかな、と。

 

「……家具、武器、お金……と来たら、次は何だろう」

 

 法則性とかあるのかな。家具、武器、お金……Furniture、Weapons、Money……うーん。

 NPC化についてはある程度のノウハウを得たからクリーチャー化の実験をしているのだと仮定する。本来そこに付随する「なんで?」は考えないものとして。

 ハウジング用家具、武器、お金。成程、カテゴリの違うオブジェクト類だ。セリンは一応アイテムとして取り出すことができるからね。

 共通点はインベントリに収納できるオブジェクトである、という点か? けどその共通項で他のものとなると……鉱石類なんかの材料? 

 あるいは今度はインベントリに入らないもので来ようとしている? それこそ……私と言えば、蒸気人形(スチームマタ)、とか。

 うわ、ありそー。蒸気人形(スチームマタ)は一応テイムしたクリーチャー扱いだ。イチから作っているのだけど。そこを暴走させるとか乗っ取るとかしてきそー。

 

 ……だけど、蒸気人形(スチームマタ)じゃマイハウスには入れないぞ。どうする気だろう。

 トンデモ座標の応用をするとかで無理矢理入れるのかな? 入れて、で、どうするんだろう。襲わせる? でもそれだと世に知らしめることができないと思う。私喧伝しないし。

 ただ襲いたいだけの可能性もある? sinohumiが殺されたように、チェスカとケッセウスが対処できてしまっただけで、本当は殺すつもりだった、みたいな。

 ……まぁだとしたら楽なんだけど。その程度に殺されてやるつもりはないし、私眠らないから隙もできないし。

 

 結論。

 私のところに来るのなら、なんだってウェルカムかな。追うより迎え撃つ方が楽だし。

 

 

 ──そうして待つこと二日ほど。

 ソファに座って、何も入っていないカップを両手で持って、ぼーっと虚空を眺めて待ち続けた二日間。

 その間特に誰々が襲われたとか新しい事件があったとかもなく、ただただ過ぎていった時間に──ようやく痺れを切らしてくれたらしい。

 

「ねえ、わたし、キレ──」

 

 掴む。顔面を。ソファベッドの斜め後方に現れたそのぐちゃぐちゃの顔を。

 ノールックで、虚空を見つめたままに、カップをミリとして動かさずに右手で掴む。

 

「こうやって部位だけを動かすと一気に人外味増すよね」

「……っ!」

「ああ、逃げようたって無駄だよ。君の逃げ方はもう解析済みだ。我々も暇ではないんだけどね、二度も三度も同じ手が通用すると思ったら間違いだ。蟻一匹を踏み潰すための努力はするさ」

 

 右手が掴まれ、爪を立てられる……けれど、一切それが入っていくことはない。

 存在を薄めようとしてもできない様子だ。そういうことができないような空間にしたからね、ここを。

 

「しかし、成程ね。君達が得たかったノウハウはクリーチャー化じゃあない。その逆だったんだ」

 

 即ち、クリーチャーのオブジェクト化。いや、双方どちらにもなれることそのものへのノウハウか。

 NPC化もそうだったりするのかな。NPCからプレイヤー、プレイヤーからNPC。この口裂け女ちゃんはクリーチャーからプレイヤーだから、その反対もやってきそう。

 

 とすると。

 

「君達は……プレイヤー、NPC、オブジェクト、アイテムといった括り……垣根を失くそうとしている? ああ、だから『Vesi』なのか。水……この世界における水は最も『万物』に近いものだから」

 

 ゲーム時代における水はオブジェクトでありながらアイテムという立ち位置にあった。渇水値を満たすアイテムでありながら、街の各地の蒸気機関に必須の存在。雪や雨は毒となり、水循環の良好(=保全の目安)は街の中心にある時計の公園にある噴水で測ることができる、という仕様。

 実はプレイヤーだけでなくNPCにも渇水値が設定されているので、双方の体内に常存在するものでもある。

 

「……この世界がまだゲームであることが許せないのか?」

「……」

「確かに現実のマテリアルには括りというものが存在しない。万物は原子と分子で構成され、そこに余計な括りも垣根も無い。こういうものがある限りは『Rauta』はゲームで在り続け、世界とは呼べなくなる。そういうことを主張したいのか?」

 

 口裂け女は……暴れるのをやめた。顔面を掴まれたままに、こちらをじっと見てきている。

 

「ねぇ、わたし、キレイ? 以外言えないのか? 前は"えっ"なんて驚きを漏らしていただろうに」

「……耳ざとい、のね」

「なんだ、喋れるじゃないか。さ、早く話せ。聞いてやる。君達の主義主張はなんだ。聞き届けるかどうかは別として、この世に住まう者の意見を聞く義務が我々にはある」

 

 彼女は──。

 

「そう、よ。概ね、あなたの言うことが、正しい。わたしたちは、げぇむ、というものに区別されるようになった、わたしたちの世界が、許せない」

「……」

「はじめ、わたしたちは、言葉を持たなかった。わたしたちは、今、あなたが言った、マテリアルと、そう呼ばれるべき、存在。わたしたちは、ただあるだけで、悩み、苦しみ、悲鳴を上げ、けれどそれを表現できない、存在だった」

 

 ……アニミズムの概念か。

 理解はある。地球……というか日本がそういう場所だった。あらゆるものに人格を見出す……こちらでは慣れない味だが、はじめからあるとすれば……。

 

「いくつかの、偶然があった、わ。あなたたちが呼ぶ、亡霊。あちら側から来た、名をコアとする概念体。それがわたしたちのなかに、入り込んだ」

 

 名をコアとする概念体。描画されないプレイヤーIDをコアとする亡霊のことだ。

 やはり最初は偶然か。

 

「そこで、亡霊と、わたしたちは、邂逅を果たした。亡霊は生き返りたいと、言った。わたしたちは、彼らの手助けを、した。彼らが、わたしたちの手助けを、してくれるというから。けれど、その悉くが、あなたたちに捕まった。捕まらなかった個体は、わたしたちを忘れ、あなたたちに与した」

 

 ケッセウスのことか。それと、数名の彼が連れてきた同胞……。

 ……sinohumiもそういう境遇だったのか? そんな報告は貰っていないが。

 

「だからわたしたちは、亡霊への期待を、やめた。わたしたちは、わたしたちだけで、わたしたちの世界を取りもど、す。異物を排除し、世界の変容を受け入れられなかった者は、置いていく」

「……ならばなぜゲーム時代のキャッチコピーなんかをメッセージに入れ込んだんだ」

「……なんの、こと?」

 

 アカラの事件を第一の事件として、私に至るまでに使われた犯人及び凶器。

 馬車(Carriage)家具(Furniture)武器(Weapons)お金(Money)、……そして物語(Story)、かと思ったけど悲鳴(Scream)かもしれないな。

 C.F.W.M.S.……なんのこっちゃなキャメルケースは、こと運営が見た時だけ「あっ」となる文字列に変わる。

 Called for the world of metal and steam──金属と蒸気の世界を呼び覚ませ!

 それこそが『Rauta』のゲームとしてのキャッチコピー。メッセージとして受け取るのならこうだと踏んだ。

 

「そんなつもりは、ない。そんな言葉は……知らない」

「じゃあ、そこも逆だったんだ。期待を打ち切ったのは君達じゃなく、亡霊たちの方。君達に対する情報開示をやめ、こうして尖兵として扱うようになった。君達の目的は確かに全存在の括りの喪失やもしれないが、彼らは違うのだろう」

「そんな……そんな強い意志が、あるはずが、ない。そんなに強い心を持てるの、なら、初めから亡霊になんて、なっていな──あ」

 

 ぐちゃ、という音がした。そのまま、そのまま……背後にいる口裂け女の身体が、ばき、ぼき、と小気味いい音を立てて圧し折れていく。……いや、テーブルらしきものに変質していく。

 それを──止める。

 

「……口封じか。しかしくだらない。どうしてこの家にそんな過干渉ができると思ったんだ。むしろアクセス記録から現在座標を逆算されるとか考えないのか?」

「わたし、は……切り捨て、られた、の?」

「ふむ」

 

 状況的にそうだろうね、と返そうとした口を無理矢理閉じて、違う音を漏らす。

 特に問題なく話すことができているのはそもそもが生物でないからか。まぁ良い、死んでいないのなら使い道がある。

 

「君、生きたいか?」

「……どういう、こと」

「こんなところで志半ばに死ぬのは嫌だろう。括りを失くしたいというのなら、人間側の視点も知らなければ嘘だ。加えて言うのなら、我々は君達とは違うやり方なれど、彼らをこの世界に馴染ませ、ゲームという要素を拭いされるように動いている。つまり、同志なんだよ」

 

 アクセス元の解析をしながら、口裂け女の構造も掠め取る。

 ……なるほど、ガワはプレイヤーにできたけど、肉体の素体がわからなくてクリーチャーで代用したのか。まぁそうだろう。現地民の肉体はこの世界のマテリアルで構成できるけど、プレイヤーの肉体は少し特殊なものを使っている。乗っ取り以外では"新たなプレイヤー"と呼べるものが出てきていない──乗っ取りも過去のプレイヤー──あたり、その辺のシステムには一切手を付けられなかったと見た。

 

「あなたたち、は……何者、なの」

「最初に我々の……私の前に現れた時。そしてVesiと名乗りを上げた時、さらに今。気付いているのではないか? 我々が君達を見放した者達とは違う存在であると」

「おかしな、ことを……言うのなら。……どこか、懐かしい。かつてこの世界、には、あなたたちのような存在が、いた。いつの間にか、煙と塵の向こうに行って、顔を出さなくなってしまったけれど、確かに世界は、あなたたちのような存在を、見上げていた」

 

 元となった存在に明確な名称はない。この世界の一マテリアルであり、移住による影響で悲鳴を上げた……押しやられたレイヤーのインク、その一滴。

 

「"もう一度問いをかけよう。其、人として生きてみる気はあるか"」

「……行き場が、あるのなら」

 

 ならば叶えよう。

 なに、存在を作り替えるノウハウがあるのは彼らだけじゃあないのさ。

 

 

 しばらくして。

 

「嘘じゃないんだって~! お姉さんの武器がね、こうふわ~って浮き上がったと思ったら、ぐさぁ、ぐさぁって~!!」

「いやぁ……嘘っぽい」

「ところが本当らしいんだよ雪ん子。俺のフレもその場にいてさ、撃退したのソイツなんだよ」

「えぇ……? 新聞屋にお金積まれてない?」

「うわ最初の俺と同じ疑い方してる」

 

 チェスカの武器屋に顔を出した。

 あんなことがあった後だけど、彼女の店は再開していた。お金には余裕があるので護衛を常に一人雇う形にしたらしい。ま、事件のことがなくてもそれが一番だね。

 

「で、似たような被害にあったそっちもまさか本当だったりするの?」

「ええ、本当ですよ。セリンが襲い掛かってきました。幽閉天獄、という凄腕プレイヤーがそばにいたのでなんとかなりましたが」

「なんか聞いたことあるような名前」

「幽閉天獄といやぁ、デスゲームになってもバリバリ前線で活躍してたプレイヤーだな。今もなまっちゃいねーのか」

 

 なぜかケッセウスもいる。まぁ彼は上層ならどこでも居る、って言われるくらい色んな所に顔を出しているみたいなんだけど。

 

「けど、なんだったんだろうねその事件。チェスカとケッセウスってなんか繋がり合ったっけ?」

「先日の同窓会でお会いしたのが初めましてであるくらいには何のつながりもありませんね……」

「商売人同士、とか? っていうかお姉さん的には他に同様の事件が無いことの方がぷんすかなんだけど。これじゃあ私とケッセウスさんが嘘吐いてるみたいじゃーん」

 

 あれから同様の事件は起きていない。

 解析したアクセス元にいた変質プレイヤーは捕まえた……が、どうもソイツも尻尾切りらしい方法しか持っていなかった。あのハプバーのマスター、チュノスケに成り済ましたやつ、そして運営に裏切り者がいないのであれば、姿形を変えたJOY福。そのあたりがまだ見つかっていない。

 こっちも急いでシステム面を超強化しているけれど、プレイヤーIDそのものが変更される現象は防げても、存在の再定義に伴うプレイヤーIDの変更は防げない。それを防ぐと世界の法則にまで手を出す必要が出てくるから。

 

 裏方ーズも私も頑張っているけれど、どうにも八方塞がりだ。だからこうして気晴らしに街へやってきたのだけど。

 

「あ、あのあの、待って、ちょっと待っテ」

「ん? ああ、何してるの? 早く入りなよ」

「え、姫誰か連れてきてたの? 外寒いんだから中入れてあげなよー」

「いやなんかヘンなところでシャイなんだよね。はい、面倒だからとっとと入る」

 

 なんかマゴモゴしてるそいつの手を引っ張って店の中にいれる。

 ぐん、と引っ張ってやれば、ワタワタしながら出てきて……あ、転んだ。

 

「ありゃ可愛い。じゃなくて、大丈夫? ダメージとかは入らない仕組みになっているはずだけど」

「知らんプレイヤーだなー。初めましてー?」

「私と似た理由で郊外で暮らしてたらしいんだけど、色々立ちいかなくなったってことで連れてきたんだよこの子。多分知り合いとかいないんじゃない?」

「えと、えと……」

 

 この「しばらく」の間、キャラメイクを頑張りに頑張ったのだから、それを見せる良い機会だろうに。

 万物の悲鳴。アニミズムの概念体。そんな存在であるから"人間の美醜"を理解できなかった彼女が、この数日で学びに学んで学びを得て作り上げた至高の素体。

 

「は……はじめましテ。thouト……いいまス」

「ザウちゃんねー。よろしくー」

 

 ま、気恥ずかしさ以外にも後ろめたさもある様子。一度は殺そうとした二人なわけで。アカラも入れたら三人か。

 ちなみにどうしてあの四人……sinohumiも入れた四人を狙ったのかは「知らな、い」のだそう。期待するのをやめたとか言ってたけど、そもそもあっちは彼女らを利用する気満々だった──有無を言わさず使役していたみたいね。

 だからそっちはまだわからない謎として保留。

 

 ふとケッセウスを見れば、とんでもなく懐疑的な目でthouを見ている様子。えー、正解っ。

 

「この子ゲーム時代からずーっとぼっちで引き籠って絵だけ描いてて、そのままデスゲ化でどうしようもなくなってたみたいでさ。クエストも全然やったことないらしいから誰かお守してあげられる人いない?」

「姫以上のぼっちがいたなんて」

「絵だけ描いてて、って、じゃあ上手いのか?」

「うまい、かは……わからない、ケド、絵は、好き」

「芸術系なら【稼がれない互助会】行ったらどうだ? あそこ、そういうやつらも斡旋してくれるぞ」

 

 ああ、いいかもしれない。

 人間を学ぶには人間の巣穴に入るのが一番だ。私がお世話するなんてそんな面倒見の良さ発揮するわけもなし。

 

「んじゃ私もう帰るから、thouのことヨロ~」

「えー姫ちんもう帰んのー?」

「なに、なんか用あんの?」

「ないけどさー。お姉さん幽霊に襲われたんだよ~優しくしてよ~」

「だそうだけど、ケッセウス。君は私の優しさ、要る?」

「火の粉も良い所ですが、不要ですね。聞きしに勝るマジレスプリンセスの優しさ……どれほどの毒物か想像もつきません」

「毒なんか入ってないよ。飲み込む時にトゲが全方向に射出されるだけ」

 

 ということで。

 その子のこと、よろしくね。

 

 

 こんな風に彼女を無理矢理切り離したのにはちゃんと理由がある。

 

「オレたちとしちゃありがたい限りですけどね、いいんですかいお()さん。下層はあんたにゃ住みづらいでしょうに」

「カタがつくまでは行き来面倒だからねー」

 

 下層、チュウチュウファミリーのアジト。

 私はそこの応接間にて、井坂チュノスケに迎えられていた。

 

「ここからはウィスパーで喋るけど。……アシャドマン、いなくなったんだってね」

「へえ、面目ねえ限りで。今度は成り済ましの類は無かったようなんですが、恐らく同じ手口でやられましたね。今後クリーチャーを使った拘束術は使えないものとして見て、チェスカ殿の無力化装備で凌ぐしかなさそうだ」

 

 そう、チュノスケが捉えていたアシャドマンがいなくなった……及び拘束に使っていたミズダニのIDが変わった、という報告があった。

 そんなポンポン変えられちゃあ困る。今回は下手人の姿も無い。完全にしてやられた形である。

 よって、対策と監視も兼ねて、眠る必要のない私がやってきた、というわけ。

 

「ファミリーにはなんて?」

「オレの大恩ある人物、と」

「……繋がりは決してバレないようにね」

「肝に銘じやす」

 

 下層。

 上層とは文化圏がかなり違うここ。

 

 もし、未だ……私がターゲットとしてあるのなら。

 これ以上は面倒臭いから、ここで決着を付けたい。そのために迎え撃つのだと。

 

 ついでに我々としても下層が今どうなっているのか、というのは調べたかったし。

 

「しばらくよろしくね」

「ええ、ごひいきに」

 

 ……その挨拶はなんか違わないか?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告