Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

14 / 51
青臭いガビガビの1158日目

 街列車……棺桶は三層構造になっている。

 上層。表層とも呼ばれる街の中心地。現地民の経営する主要な施設が集まっている他、プレイヤーの開く露店なんかも上層の時計の公園にある。そこでしか開けないということはないけれど、皆の認識的に「売りたいものがあるのならそこ」となっているくらいには一番の大市場だ。他、一団クランの本拠地、【路地裏武器商】、【固い防具は一番屋】、【ガブ飲みMAXポーション】などの有名店も勢ぞろい。

 中層。内部路面列車(キャピラリー)と呼ばれる「列車の中にある列車」が走っているのが特徴で、オトナなバーやら有志製作の映像作品などが楽しめる娯楽図書館(ライブラリー)、自作蒸気人形(スチームマタ)蒸気武装(スチームコンバット)の展覧会が開催される蒸気機械工房(マシナリー)、料理系同好会の【食事は如何ですか?(カトラリー)】などが有名どころか。

 そして下層。ここへは上記二層が肌に合わなかった……もしくは迎合できなかったプレイヤー、そして「生きているだけで最大手のヒト種に迷惑を掛けてしまう種族」が住んでいる。代表的なのは吸血鬼、狼男、魔人。狼男以外の獣族も大抵ここにいるし、独立種族(ユニーク)と呼ばれるメインキャラクターが得た特典で解放が可能になった、他に仲間のいない種族のプレイヤーもいる。

 

独立種族(ユニーク)ね……オレは見たことありませんけど」

「え、いないの?」

「どこに隠れ住んでんのかはわかりやせんが、三年間下層を見てきて一度も見たことないってこたぁ、情報共有ができねぇままに死んでんじゃないですかね」

「あーね」

 

 ヒト種はともかく、人外種族になったプレイヤーは、何が苦手で何が弱点で、なんかを永遠探し回る羽目になったとか。特に厄介なのが「消化できない食材」や「中毒症状を起こす食材」の存在で、地球でペットを飼っていた人の知識や現地民の知識を頼りに探り探りで生きてきた、とか。

 そういう「種族ごとの情報共有」において独立種族は不利だ。疑似的な子供がキャラメイクできるという理由でゲーム開始当初、デスゲーム開始時点ではそれなりの数がいたドワーフなんかは、「血中鉱分不足」という病でバタバタ倒れ、晴れて希少種族の仲間入りを果たした、とか。

 移住をさせるというのならそういうサポートはしっかりしてやれよ、というご意見ごもっとも。プレイヤーが運営を蛇蝎の如く嫌っていなければそうしただろうね。

 

「今下層を支配してんのは吸血鬼の連中ですよ。あいつら自分たちで爵位をつけて、貴族面だ。ノリが寒いのなんのって」

「獣族って別に吸血鬼に弱いわけでもないでしょ。なんで遜ってんの?」

「単純に吸血鬼に強いプレイヤーが多かったってだけですよ。数も多けりゃステータスも強い。タメ張れるのは魔人の一部くらいで、他はへこへこするしかねぇ。もしくはオレたちみてぇに群れるか、だ」

 

 ふぅん。ま、別に良いと思うけれど。

 格差社会なんてまさに人間の作る構造社会だ。女王以外平等に働きアリって方が珍しい。

 

「私が一人で出歩いてると、なんか酷い目に遭ったりするかな」

「あー、干渉しなけりゃ大丈夫ですよ。道訊くとか話しかけるとか、そういうのをしねぇ限りは背景になれる。連中もなんか貴族になるために家訓だかいうのを作っているみてぇで、それに沿わない……弱者を甚振るような真似はしねぇんでさ」

「弱者、ねぇ」

「あ、いや、お()さんをそう言ってるわけじゃねえですよ」

「私そんな短気に見えてる?」

「……ご自分の過去の行いを見返していただけりゃ」

 

 失敬な。昔は昔だろうに。

 

「昼間はファミリーが見張りやってるんでしょ? いきなり行って仕事全奪いは心証が悪いし、何より眠らない部分を指摘されると痛いからね。初めは慣らし慣らしで行こうかと思って」

「それがいいでしょうね。ウチらのメンツも気にしてくだすってありがとうございやす。……しかし、下層にゃ暇を潰せる場所がないんですよ。中層ならまだあったんですけどね……。ああそれと、ここと反対側の車輪側区画には近寄ら、」

「まーまー。私なりに見たいとこ行ってくるからさ。午後には帰ってくるから気にしないで」

「……了解でさ」

 

 ピョン、と飛び降りるは雑居ビル。スキルではなく技術で衝撃を殺して着地。ここよりかは賑やかに聞こえる方面へと歩き出す。

 監視の目は三つ。チュノスケのとこのが一つと……あれ、アカラのとこのプレイヤーがついてきてる? なんで?

 最後の一つは知らない目。これが下層の歓待かー。

 

 二、三十分歩いた辺りでファミリーの監視が消える。多分縄張りとか色々あるんだろう。

 さらに中心街に近付くとアカラのとこの監視が離れていった。ふむ。少し注意勧告を出しておくか。

 

 煌びやか……というよりは退廃的な灯りのついた中心街。

 どんな店があるのか全然知らないし、看板も掲げないものだから本当に何があるかわからない。現地民の店は頭に入っているから大丈夫……なつもりだったのだけど、現地民の店だったはずのところが閉まっていたり別の店になっていたりするのでもうわかんないね。立地が気に入れば不動産屋を通して立ち退きさせることは可能──倍近い手数料がかかる──なので一軒二軒はあるとは思っていたけど、十軒以上そうなっているのはびつくり。

 下層でも主な移動手段は馬車らしく、中央の道を行き交う馬車が目立つ。なんなら交通量は上中層より多いかも。

 

 そして……いるわいるわ、「背景」になっているプレイヤーの数々。

 壁の染み。地面の汚れ。淀んだ空気。目を凝らさなければわからない、なんてことはないのに、周囲があまりにも当然に無視をするものだから、つられていないものにしてしまいそうになるほど……力熱(ねつ)が感じられない。

 

 こんなんでもプレイヤーはプレイヤーなのに、どうして亡霊諸君はコレを乗っ取らないんだろう。彼らの方が簡単だろうに。

 

「え、雪姫?」

 

 声……は、すぐ近くに止まった馬車の中から。

 なんだなんだ、折角人が背景に徹しようとしていたのに。

 

 馬車から降りてきたのは……見知らぬ女性吸血鬼。おお、ハイグラファーか。珍しいジョブだ。

 

「うわなっつ! 久しぶり……あ、ちょっと待っててな、旧友と再会ってやつだから」

「ごめんどちら様?」

「えっ……って、ああ、サブ垢だからわからんのか。ほら、俺が初心者の頃街案内とかしてもらったんだよ。僕様君ちゃん、ってふざけた名前だった俺を見捨てなかったのあの頃雪姫だけでさ」

「ああ……なんか記憶にあるな。つかそっちも良く覚えてたねそんなこと」

「俺にとっては大恩人行為だったんだよ~! その時の知り合いが今妻ってくらいには人生の中で大事な縁を繋げてくれた人でもあるし!」

 

 覚えている。確か初VRが『Rauta』だとか言ってたかな。それで、僕様君ちゃん、というプレイヤー名で、初心者のクセに尊大な態度取りまくってたら誰にも相手にされなくなってて、それを憐れんだ珍しい私の気紛れによって案内までしてあげたプレイヤーだ。

 

「……丸くなったね」

「ぐ、ぐぅ。いやマジで黒歴史っつかあの時迷惑かけた人マジでごめんなさいだわ……」

「そんで、それが今じゃ吸血鬼。もしかして爵位持ちだったりする?」

「え、うわ、それヒト種にも伝わってんの? ちょいノリが恥ずくてヤなんだよな……一応侯爵にはなったけどさ」

「へー、高いじゃん」

 

 成程、チュノスケが寒いと言っていたけど、やっている側もそう思っている人間がいるんだな。

 多分上の……トッププレイヤーが内輪ノリで始めたものが、不幸なすれ違いによって全体に作用させざるを得なくなったとかそんなところだろう。

 

「なんで下層にいんの? 元々いなかったよな?」

「ちょい野暮用でね。しばらくチュウチュウファミリーのとこに厄介になることになってる」

「え、それ大丈夫か? あそこ……やってることマジモンのマフィアだぞ」

「あそこのトップが今の僕様君ちゃんと同じ感じ。ゲーム時代に人助けしてたのが効いたってことで」

「へー……すげーな雪姫。あ、で、今の俺の名前はそっちじゃなくてバルサ巫女ッス、だから」

「相変わらずふざけた名前なんだね」

「グサァ!!」

 

 ……僕様君ちゃん、もといバルサ巫女ッスの声が大きいせいで周囲の注目が痛いな。

 これ睨み返すのは干渉になるんだろうか。

 

「っと、スマンなんか悪目立ちしたな。そうだ、この後なんか予定あるか? 無いなら昼飯ウチで食ってかね? さっきちらっと自慢したのスルーされたけど、俺の奥さん料理上手いんだよ。スキルに頼らず料理できるからガチ美味いぞ」

「おー、スキル無し料理を食べるのは久しぶりかも。ご馳走になるよ」

「おっしゃ! んじゃ乗ってくれ! あ、中にもう一人吸血鬼いるけど気にしないでくれ。仏頂面で顔怖いけどいい奴だから」

「り」

 

 促されるまま馬車に乗る。

 すると、成程「顔の怖い吸血鬼」がいた。凄まじい仏頂面。不機嫌……というよりデフォルトがこの顔であると見た。

 ……というか、この人。

 

「──お願いだから、後にして」

「……いいけどね」

 

 あっちも気付いたか。

 ま、いいよ。生者(プレイヤー)に迷惑を掛けないのなら別に干渉しない。

 たとえその吸血鬼が、変質プレイヤーであるとわかっても。

 

 

 ご馳走様でした、と言う。

 

「超、美味い」

「だろ!? 俺の嫁さんの料理世界一だろ!?」

「ミコスあんた……それ吹聴するのやめてって言ったでしょ。はずいんだって」

 

 豪邸である。隣り合う六軒分の土地を購入することで設置できる『洋風の豪邸シリーズ・豪邸C』。

 

「へへ、だって事実なんだもんよ」

「いや実際美味しかったよこれ。巫女ッスの奥さん……ティアランさん、だっけ。実際すごい美味しいよこれ。私一回【食事は如何ですか?(カトラリー)】でご飯食べたことあるけど、フツーに並ぶ。あぁでも私以外のヒト種にご飯出すなら血は抜いた方が良いかもね。私は血も楽しめるから良い調理具合なのも楽しめるんだけど」

「え? あ、そっか、ヒト種か。……ごめん、忘れてたわ」

「いいよいいよ。なんなら私人肉も行けるし」

「いやなんでいけんだよ雪姫……。行けちゃダメだろ……」

「冗談だよ冗談」

 

 虫がいけるんだから人だっていけるよ。

 

「スキル使わない料理かー。……無限大だねーホント」

「なにが? ってああ、可能性がってことか。な。俺もティアランの手料理食ってからそう思うようになったわ。スキルで脳支配されるのは勿体ねーなーって」

「二人とも褒め過ぎだって……嬉しいけど」

 

 ほーぅ。

 個別通話(ウィスパー)を流す。

 

「こういうところが可愛くて惚れただろう」

「なんっ……いきなりウィスパー繋ぐやつがあるか! ……で、そうだよ、そこに惚れた。他もいっぱいあるけど」

「ちなみにどっちが侯爵なの?」

「……爵位貰ってんのは俺の方。でもティアランも伯爵だからそんな変わんないな」

「お貴族カップルだー」

 

 む、とティアランの眉が八の字を描く。

 

「……今もしかしないでもウィスパーしてるでしょ。なに、本人前に堂々陰口?」

「ティアランに直接言ったらバチ切れしそうな言葉で褒めまくってた。惚気てた」

「どういうところに惚れたのか聞いたら大量の砂糖で押し流された感じ」

「……もう」

 

 ヒューゥ。赤くなってるぅ。

 

「……しかし、ティアランさんがからかわれてばかりなのは可哀想だし不公平だ。だから私は今からティアランさんにあるスクショを送ろうと思う」

「なに? ……なにこのドヤ顔のヒト種……ん、どっかで見たことあるような」

「バルサ巫女ッスの黒歴史、ふんぞり返り時代の正面スクショだね。僕様君ちゃん」

「オオオオイ!? なんでそんなの持ってんの!?」

 

 ふ、私は案外写真好きだからね。印象に残ったシーンは自身の好悪に関係なく十数枚撮っておいてあるよ。

 

「あと、これとか。あ、これボイスメモついてるね。"我が名は──僕様君ちゃん! 敬意を持って僕様と……あちょっと待ってちょっと待って君に見捨てられたらおれ……僕終わりだから!"」

「マジでなんでそんなの持ってんの!? メインキャラのボイスとかマジ久しぶりに聞いたんだけど!?」

「うわ……大分ロリ趣味じゃない? 甘ロリみたいなボイチェンかけてて引くんだけど……」

「引かないで!? 俺の趣味がロリに寄ってるのはこの二、三年でもうわかってただろ!?」

「好きなのはともかく自分がなりたいのは違うよね」

「雪姫追い打ちヤメテ!!」

 

 前にも少し触れたけど、いわゆるネカマ、ネナベ、というのはそれなりの数がいた。『Rauta』はボイスチェンジャー対応で、VR機器側にボイチェン機能がついていたので、キャラメイク時にVR機器に登録してある声を対応させる、という項目を選ぶことでその声を使うことが可能だった。

 昔のロボロボしたボイスチェンジャーは見る影もなく、既に肉声となんら聞き分けがつかない、というところまで来ていたから、この声もなんら違和感がない。

 多分今バルサ巫女ッスが話している声もボイチェンの声だ。

 

「でもティアランさんも……だよね?」

「え、わかんの雪姫」

「ああよかった、隠してなかったか。今一瞬やばいかと思って焦った」

「大丈夫。……ま、元々私はジェンダーレスだから……もし無性が選べたらそれにしてたかな」

 

 一応中性を実装しようという声は上がっていた。が、現地民にそれに該当する性がいないので却下になった、という経緯がある。

 

「三年で大分"矯正"はされたみたいだけど、重心の位置とか筋肉の使い方とかで男女は案外見分けられるよ」

「へー……すげーな」

「まぁ吸血鬼は翼があるからヒト種とちょっと違うんだけど」

 

 有翼種族は大抵重心が少し前にある。じゃないと倒れちゃうからなんだろうな。

 尻尾持ちも前重心であることが多いけど、こっちは逆に尻尾で体勢を整えられるからだと思う。別々の理由で同じ姿勢になるの、面白い。

 

「あ、そうだ。二人に聞きたいことあるんだけどさ」

「ん、なんだ?」

「下層で、物が勝手に動いたとか、セリンが勝手に無くなったとか、そういう話って出てない?」

 

 そう聞くと、二人は驚いた様子で顔を見合わせる。

 

「……実は食事後のリラックスが終わったら相談しようと思ってたんだよ。なんか上層で似たようなこと起きてないか、って」

「というと、心当たりあるんだ」

「アリアリはべり。ウチの食器とか家具類が最近よく物音を立てるっつーかさ、ポルターガイストみたいなことが起きるようになってて、ウチのメイドが怖がっちまって怖がっちまって。ほら、一緒に馬車に乗ってきた仏頂面いただろ? あいつがウチのメイドなんだけどさ」

「襲われたりはしていない?」

「それはない、かな? あーでもウチがないだけの可能性もある。吸血鬼ってもうプライドの塊になっちまっててさ、言わねえんだよそういう面倒事」

 

 まぁ、当然疑うのはそのメイドなんだけど。

 私に口止めをしてきたくらいだ、ここ気に入ってんじゃないの? なんでそんなことしてんの?

 

「私のフレとか知り合いもその件で被害に遭っててさ。今それがこの世界がゲームだったことの名残り……バグなのか、意図的に引き起こされたことなのかを調査してる段階なんだよね」

「雪姫が調査してんの?」

「うんにゃ、私は別の事してる。だけど情報集めは誰がしたっていいわけでさ。……メイドさん、だっけ。その人もプレイヤー? あとで少し話聞きたいんだけど」

「いや、今呼び出すよ。話があるならウィスパーでやってくれて構わねえからさ」

「ん」

 

 ……へえ。

 ただの馬鹿かと思いきや、気を遣えるし空気が読めるのか。

 

 個別通話を開く。

 

「もしかしてこういうところに惚れてたりして?」

「……まぁ、ガラにもなく、だけどね」

 

 ヒューゥ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告