Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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血塗れのどこにでもある1158日目

 オールトエンド・ダンスダンス。

 そんな長いふざけ倒しているのがメイドをしているプレイヤー……しかめっ面の吸血鬼の名前だった。

 

「そうしてくれていいと言われたから、ウィスパーで行くけれど。君、亡霊だろう。そしてポルターガイスト……嫌でここに雇われていたりする?」

「……違う。ご主人様も奥様も……吸血鬼としてドロップアウト気味だった私を拾い上げてくれた、とても心優しい方。だから、私はここを離れたくはないの」

「なのに迷惑をかけている。その理由は?」

「……他の吸血鬼の家にも、私と同じような境遇の存在がいるのよ。……つまり、吸血鬼や魔人なんかの身体を乗っ取ったはいいものの、文化に馴染めなかったり、言動の不一致から"気狂い"の烙印を押されてしまったりして……貴族社会にいられなくなった元亡霊たちが」

 

 ああ、そうか。

 上層はまだオープンなコミュニティだからケッセウスや他の元亡霊たちもなんとかなったけど、下層は閉鎖コミュニティで且つ人と人との距離感が密だ。だから、おかしくなったらすぐにわかってしまう。それこそ歩き方の一つで見抜かれてしまう。そしてそうなった時、信頼を取り戻す手段が彼らには無いから爪弾きにされてしまうのか。

 思わぬ亡霊チェッカーだ。私達のように中身を見ずとも表出するものだけで判断できるとは。

 

「言い方は悪いけど、それに甘んじる……拾われたことを快く受け止め、主人を大事に思う亡霊もいれば、隙を伺って下剋上や暗殺を狙うヤツもいるの。特に後衛ジョブの吸血鬼はそういうのに狙われやすい。……そして、つい先日、大規模な"決起"……一斉にそういうことを起こしてワンチャンスを狙おう、というあまりに愚かな作戦が実行に移されたわ。それが最近起きている吸血鬼宅でのポルターガイスト事件」

「ストップ。その言い方だとまるで、一度身体を得た君達が、再度誰かに乗っ取りを行えるように聞こえる。それともまさにそういうことなの?」

「そう。というより、運営(あなたたち)の目が行き届いている上層でわざわざ事を起こすのは、余程の自信家か余程の世間知らずだけ。運営(あなたたち)が把握している以上に死亡したプレイヤーは多いし、運営(あなたたち)が把握している以上に亡霊は強欲。攻略組でもない一般プレイヤーやストーリーNPCで満足するのは一握りと思った方が良い。そして水面下で動いている亡霊の技術は日に日に刷新され、より分かりづらく、より巧妙に、よりできることが増えていっているわ」

 

 ……まぁ、そこは人間か。

 手元に可能な手段があるなら、より良いものを目指し続ける。一度犯してしまった罪に対しては罪悪感が薄れる。

 元からそう言う生き物だ、彼らは。

 

「亡霊は強欲だから……ご主人様もターゲットになりかねない。だから私は、彼は私の獲物である、ということを周囲にアピールするためにポルターガイストを起こし続けなければならない。それも……いつかはバレてしまうことかもしれないけれど、これくらいしか抵抗の手段が思いつかなかったのよ、私には」

 

 成程、「要らないなら貰うよ」が成立してしまうし、守り方がわからないから、これで対抗するしかないと。

 ふーむ。

 しかし、乗り移ることも可能と来たか。変質プレイヤーを片っ端から捕まえて行っても、これじゃあいつか移住者一万人全員をしょっ引く羽目になりそう。

 対策を講じなければならない。けど、世界の法則には手を出したくない。

 

 それか……。

 

「地獄を作るのは、アリか……」

「……亡霊を血祭りにあげるってこと?」

「違う。この世界には現状人間界しか存在しない。だから、悪事を働いた死者の魂が行き着く地の底……冥界を作るのは手だな、って」

「世界を……新しく作る、って。……そんな簡単にできることなの? いえ、ゲームであると考えれば……」

「いやいや、ゲームだったら新たなワールドを作るのに結構な時間がかかるよ。善悪の判断システムもイチから作らないといけないし。でも、この世界は現実だから。我々は現実になら干渉がしやすい」

 

 早速裏方ーズに草案を投げ、とりあえずのシステムを作らせる。世界創生は裏方ーズにはできない所業だから詰めは私がやるけれど、うん、良い案だろう。

 地獄。冥界が無いから亡霊が溢れかえり、こうも簡単に乗っ取りなんて事件が起きる。現地民は死と同時に魂も精神も世界へ還すからこれら問題は起きなかったのだけど、移住者はそうではない、ということが知れただけで良かったか。

 これでこの世界は一層良くなる。亡霊の被害者たちには深くお詫び申し上げるけれど、ブラッシュアップに犠牲は憑き物。より良い世界の礎になったことを噛みしめて沈んでほしい。

 

「『Rauta』は協力ゲームだし、デスゲーム化したのなら死が終着点になる。だから人間界以外のディビジョンは不要、という声が大きかった。けれどなにもできない騒霊(ポルターガイスト)の発生に始まり、今までの事件や此度の騒動から、やっぱり開発段階とサービス開始後とじゃ色々違う問題が出てくるものだなって実感するね」

「……私はいちプレイヤーに過ぎないから、何も言えないけれど。……その話を聞くと、あなたたちがこの世界を作り出したように聞こえる」

「他の認識があるの?」

「……亡霊……特に元亡霊で話し合う時、よく話題に出る。どうにもこの世界は元からあって、運営たちがこの世界にゲーム的になるような法則を作って付与したことで、私達がゲームとして遊び得る"余地"が生まれただけ。他の大部分にはゲームとして作るには不要な部分が多くあって、むしろゲーム部分という病巣が一部を間借りしているに過ぎないんじゃないか、って」

 

 素晴らしい。素晴らしい理解だ。

 亡霊の中にも頭のいい奴がいるみたいだね。さしずめ亡霊賢者とでも呼んでおこうか。

 

「非常に良い理解だよ、ダンスダンス。我々は無理を通して『Rauta』の世界を地球へ持っていった。その持っていった部分をゲームに作り替えて。そうしてそのゲームにダイブしてきた魂たちを『Rauta』へ引き込んだ。我々が君達の魂をどうこうしたというよりは、"世界が元に戻ろうとする力"に引っ張られた君達を、しっかり引っ越しできるようサポートしてあげただけなんだよ」

「これも……私はプレイヤーだから、何とも言えない。その言葉に憤る資格はあるけれど、一度死んだにも拘らず再び生を得ることができたのはこの世界のおかげだし。……でも、この身体の元の持ち主……本来のオールトエンド・ダンスダンスの命を踏み潰したのも事実だから、いつか裁かれなければならないという気持ちもある。でも、ご主人様を守るためには……」

「……そうだな。今の君の状態を我々に解析させてくれないかな。君が協力的な姿勢を見せてくれるのであれば、我々は君から命を奪うことはしないし、君の望み……バルサ巫女ッスとティアランを守り、オールトエンド・ダンスダンスの魂も守護した上で、君の存在も成立するような未来を掴んでみせよう」

「あまり希望に満ち過ぎている言葉は使わない方が良いわ。下層を日常とする人間は、甘すぎる言葉には靡けないから」

「じゃあ言い方を変えよう。君を丸裸にし、君が同胞を売ることに頷いてくれるのなら、君の大切な少量のものを守ってみせよう。──選びたまえ」

 

 彼女の仏頂面がさらに深くなる。

 おや、答えなんて決まっている……即答だと思ったのだけど、そこで悩むのか。

 既にケッセウスらとthouで粗方の「構造」は把握できているから、ここで「最新」を知っておきたかっただけなのだけど。

 

「もう……一人だけ、助けたい……酷い目に遭ってほしくない元亡霊がいるの。その子も……助けてくれるなら、頷く」

「流石亡霊、強欲だね。いいよ、一応精神鑑定はさせてもらけれど、その子も勘定に含めよう」

「なら……私の身がどうなっても、それは構わない。それで……私の存在が成立しなくなっても、いい。今の私は……ご主人様への恩だけで生きているようなものだから」

 

 と思ったら無欲だった。強欲極まるのに自分の身は大切にしないとか、成程バルサ巫女ッスがメイドに選ぶわけだ。

 

 さて、そうと決まれば即行動だ。

 囚人の監視なんかより有力な情報源が手に入るというのなら、私はこっちに注力する。という旨をチュノスケにメールすれば、秒で「大人しくしてるはずねぇと思ってやしたんで、こっちのことは気にしなくて大丈夫ですよ」との返事が。まったく、人をトラブルメーカーのように言うじゃないか。

 

「手を。私の手に重ねて、目を瞑って」

「……待って。その……ご主人様と奥様に、お別れは……言わせてほしい」

「いや別に命を獲る気ないってば」

「……本当に?」

「本当に」

 

 信用無いなー、って思ったけど、そういえば運営(当たり前)だった。

 そりゃプレイヤーからの信用はないわ。

 

 恐る恐る……といったふうに手を出してきて、ゆっくりと目を瞑るオールトエンド・ダンスダンス。

 

 その内部データを見る。

 ……大まかにはケッセウスやthouと変わらない。元の人格データを奥底に沈めてしまった変質プレイヤー。いやthouはちょっと違うんだけど。

 ただ二人と大きく違うのは、出力用(アウトプット)の仮想器官が作られていることか。恐らくこれが乗り移るための仮想の臓器。……ああ、シェフルが有しているソレとよく似ている。

 恐らくプロセスの簡略化に成功したんじゃないだろうか。シェフルやそれに類する手段を使う場合、まずプレイヤーをNPC化してからそこに亡霊が入り込む、という手順を踏む必要がある。

 しかし、乗り移りが可能な亡霊たちはそこにNPCという手順を挟まない。そのままそのままで乗り移っていける。

 ……thouの有していた「括りや軛を失くす」という思想はこの手段を可能にするための踏み台にされた可能性が高いな。そして事件らは技術の試金石……。

 

 あ……待って、だからこれは……。

 そうか、亡霊が入り込んでいるのはその人間そのものというより(記録)の部分なわけだから、ここの部分をそもそもの生命であると認めてしまえば……。

 

 どかどかと裏方ーズに草案を投げていく。正直地獄を作るよりこっちの方がローコストだ。名付けるのなら守護霊実装か。

 自身が積み重ねた記憶。静的な記録ではなく動的に更新され続ける"人格モデル"。過去と現在の自分が同時に格納され、主人格だけが未来を生き続ける。ログ同士が相互参照をし合うことで整合性が保たれ続け、仮に亡霊によるクラッキングを食らっても再参照後に再構成が可能となる仕組み。

 自らのつけた足跡が、第二の自分として自分を守る。亡霊対策としても守護霊実装は非常に味があるな。

 

 ──うん、充分なインスピレーションだ。

 今回の件、精力的に動く理由になる。

 

「オッケー。もう目を開けていいよ」

「……これ、とても……表現が難しいけれど、頭の中……脳を羽根でくすぐられている、みたいな感覚になるわ」

「痛みが無いならそれでいいでしょ。……さて、これからのことだけど。まず、過激思想の吸血鬼の弾圧と対策案実行までの間にそれなりの時間がかかる。だから、これ。今簡単に作ったプロテクト。これを二人につけてもらうことで、肉体の融合による魂の変質は抑えられるはず」

「……どうにかして、付けてもらえるよう、言いくるめろ、ということね。……できればもう少しデザインを変えてもらえるかしら」

「そこも君がどうしたいかだね。正体を明かしてしまった方が色々楽だと思うけど」

「そんな恐ろしいことはできないわ。私は……殺人者なのだし」

「君を見初めた善良の二人が君に恐ろしいことをするとは思えないけれど、まぁその辺は任せる。ああ、我々についての発言や知識には少しだけ制限をかけさせてもらうよ」

「勝手にしてくれていいわ。それで、ここの差し色だけど……」

 

 ……。

 そこからミッチリデザインについての要望を食らった。いや強欲っていうか君ね……。

 

 

 夜。沢山のコウモリの飛び交う貴族街。

 この日、侯爵家では、今月に入ってから珍しくポルターガイスト被害が起きないことで、「良い夜」が過ごされていた。

 

 ──そんな侯爵家の屋根上にて、目の前に左腕を突き出して立つ人影が一つ。

 私である。

 

 眼下に広がるは赤い点々。

 暗闇に潜み、紅く目を(ひか)らせる吸血鬼たちだ。君達の活動時間(こんな夜更け)とはいえ他家にどんな用事があるのか、じぃっと彼らの見つめる視線の先にいるのは、静かな夜に気分を良くしたバルサ巫女ッスとティアラン夫妻。後ろに控えたダンスダンスが静かに、けれど緊張の面持ちで二人を見ている。

 

 口から音が零れる。

 

「──掌握、プレイヤーID2930634。掌握、プレイヤーID3412903。掌握、プレイヤーID4627906。掌握、プレイヤーID63752。掌握、プレイヤーID2894768……」

 

 いつもの私を知っている者が聞けば、どうした? となるくらい機械的で冷たい声。システムボイス。

 当然だ。今の私は、この操作によって発生する内部処理ログをテキストベースから音声ベースに切り替え、リアルタイムで通話を繋げた裏方ーズに送信しているに過ぎない。つまり中継器の代役をしているということ。

 プレイヤーIDを呼ばれた吸血鬼たちは一瞬苦悶の表情を浮かべ、その後ストンと膝を崩していく。そののち、憑き物が晴れたような顔で周囲をキョロキョロと見渡す。

 まるで、自身がなぜここにいるのかわからない、といった風に。

 その様子を見て──勘の良い者は何が起きているのか気付いたのだろう。一目散にその場を離れようとして、また膝から崩れ落ちる。

 

 逃がしはしない。処理の量が膨大であるために少し遅延がかかっていて「順番に」処理しているように見えるかもしれないけれど、その実実行は「一斉」だ。

 ここに集まった時点で掌握は終わっている。

 

「──掌握、777777……なに?」

 

 思わず意識を取り戻してしまった。

 それくらい、衝撃があった。

 

「え、777777って言いました、プリンセス?」

「聞き間違いじゃねえよな。……ああ、テキスト出力も今来た。間違いじゃない」

「嘘だろ……マジでいたのかよ」

 

 ゾロ目のプレイヤーID。

 そうでは無い場合もあるけれど、桁数が偶数でゾロ目IDは──運営だ。

 

「掌握、引き寄せ」

 

 掴んだゾロ目IDをこちらに引き寄せる。亡霊はプレイヤーIDをコアとする不可視存在。肉体を失った彼らは一度無力な状態に戻り、再度肉体を探さねばならない状態になる……のだけど、初手で強大な吸血鬼に入り込めなかったあたり、まだ何か私達の知らない条件があると踏んでいる。

 だから一旦泳がせることにした彼らの中から、そのIDを持つ存在を引っ掴んで引っ張る。

 

 そして──蒸気人形(スチームマタ)に無理矢理そいつをねじ込んだ。

 この蒸気人形(スチームマタ)は彼らのやり口を参考にして作った「受け皿」。チェスカの呪いの装備同様、入りたくなくても勝手に入ってしまう呪いの人形だ。

 

「プレイヤー名表示。──シュミテットリスズ。裏方ーズ、こいつ、誰?」

「少なくとも我々ではないな」

「地球出身のマップデザイナーじゃねえかな。それこそ下層の街作りをしてたやつ」

「メンバーリストに該当有り。下層のマップデザイナーで合ってる」

 

 ……地球出身か。

 地球出身の運営は、我々に比べたら少ないけれど、いるにはいる。

 我々の考えに同調を示した者達。我々の誰かが見初め、乗船を許可した者達。

 しかし、敵になるようではな。不要なデータの積み重ねでしかない。

 

「シュミテットリスズ。誰かに操られていたのならそう言うがいい。その者が真に存在すると判断した時、君の命は助かる。そうではない場合、君はここで終わりだ。温情はない」

「……カルアルン。カルアルンのやつにやれって言われて!」

「そうか、それは残念だ。私と距離の近い奴を狙って不和を誘う作戦は見事だが、カルアルンは裏切り者ではない。──なぜなら私と奴がこの移住計画の一番の推進派だったのだから」

 

 我々は一枚岩ではない。それは重も承知だ。

 だが、だからこそ「絶対に取るはずの無い行動」というものもある。我々はある種人間よりも象徴的な存在ゆえに。

 

「──魂の掌握、完了。石芒(いしすき)周斗(しゅうと)。遺言はあるかな?」

「ひ……嘘、な、名前……!」

「"ひ……嘘、な、名前……!"。ふむ、特徴的な遺言だが承った。──さようなら、君の人格データは完全に破棄され、君の行いとその記録は我々が隅の隅まで調べ尽くす。はじめまして、プレイヤーさん。『Rauta』へようこそ!」

 

 魂を砕く。

 精神を引き裂き、肉体たる蒸気人形(スチームマタ)を停止させる。

 

 さて。

 

「思わぬ収穫だ、裏方ーズ。この砕け散った魂から良い感じの情報をサルベージするように」

「情報サルベージ目的なら砕かないでくれよー」

「黙らせて封印とかでよかったですやん……なんで砕くねん」

「普段は良い上司なのに一度ノり出すと止まんないんだよなこの人なー」

 

 うるさいよそこ。口より手を多く動かすように!

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