Rauta 作:Ubiquintetous / 五劫偏在
遺言「はい、よろこんで」の謎について、ダンスダンスに確認を取ったところ、恐らく『Vesi』の存在がプレイヤー側に漏れ、宗教化しているのではないか、との話だった。……つまり常日頃から元亡霊たちと連絡を取っていた彼女ですら「知らない」話なのだ。宗教化している可能性くらい私達も考えていたけれど、JOY福やsinohumiが生前に『Vesi』の名を口にしたことはなかったからね。その線は少し薄め。
ただ、裏方ーズから少し進言を受けた。「はい、よろこんで」は割合普遍的なワードだと。未だ二件である以上は法則性や関連性に固執する必要はないのではないか、と。
つまり、偶然、二人が死に際にその言葉を放った……というと出来過ぎに聞こえるけれど、そう返答するような言葉を投げかけられていたのなら話は別だ。
sinohumiの最期の言葉の続きが示すように、「その肉体を捧げよ」とか「我々の仲間になれ」とか、意図的であるかそうでないかはわからないけど、偶然返答が同じになる問いかけをしたのではないか、と。
今のままだと情報不足過ぎて埒が明かないからその線で行くことにした。次の被害者──あるいは加入者がその言葉を発さない限りは。
さて、気を取り直して。
美味しい食事と有力な情報提供を受け、案外やる気に満ち溢れている私は今、公爵家……即ち「吸血鬼の中で一番偉いプレイヤー」の家に来ている。
眼前。
足を組んで座る、右手にワインの入ったグラスを転がす──絵に描いたような吸血鬼。
「第一代ヘルカイザー公爵家当主、ヴラデスト・ヘルカイザーである。──して、そなたは?」
うわ、寒い。
……なるほど、チュノスケが嫌っていたのはコレかー。というかヴラデストって。まさかとは思うけどbloodestじゃないよね。the bloodestじゃないよね。そんな頭の悪いことしないよね。
というか君のプレイヤー名クリーチャーの血とか飲めんて、に見えてるんだけど気のせいだよね。
「好きな風に呼んだらいいよ。君、他人の名前覚える気ないんでしょ。さっきメイドさんのこともメイド呼びしてたし」
「──不遜な。ああ、だが、許そう。お前達も気を逸るな。彼我の差を理解できない人間の相手をするのも吸血鬼の名代の務めというものよ」
こっちもナルホドだ。昨夜、私を監視していた目……ここの手のものだったらしい。
それ以外にもなんだか心酔しているらしい子が幾人か。言動は激寒だけど実力はあるタイプか? ステータスは確かに超高水準だし。
「進言したいことがある──そなたは我が屋敷の門番にそう伝えた。この我、最高位の吸血鬼に対し、単なる人間のそなたが、だ。我も攻略組の者たちであれば含有する情報の重たさに耳を傾けたのだがな、そなたは全くの無名ときた。──して、そなたは我に何を進言するのだ?」
「現在、複数の吸血鬼の間で、"気付いたら別の場所にいた"、"意識を失ったと思ったら大きく移動していた"という夢遊病に近い病が横行している。これはひと月ほど前、上層にてヒト種やエルフ種の罹患した伝染性夢遊病と非常に近い症状を有している。──私は善意でこれを配る。上層にてそれが発生した時、免疫効果があると謳って無料配布されたアクセサリ。配った者は行方がわからなくなり、最早上層ではこのアクセサリをつけずとも夢遊病に罹る者はいなくなったけれど、下層で必要なら」
「不要だ。疾く立ち去れ、人間。──不快である。脆弱なヒト種や森林種と同程度と見られるとはな。吸血鬼は最強の種であるぞ。そのような病になど罹らぬ。……む、どうした? 我は立ち去れと言ったぞ、人間」
見極めていた。
無理をしているのかどうか、を。周囲が期待してくるから仕方なしに高慢を演じているのかとも考えたけれど……どうやらそうではないらしい。
いつまでその栄華が続くかはわからないが、少しでも長続きしたいのなら先人に倣えばいいものを。どうしてそこまで斃され歴史に葬られた暴政に倣うのか。
「君が不要でも、君以外の脆弱な吸血鬼は必要かもしれない。そういう人たちがこのアクセサリをつけていても怒らないでね」
「我はそこまで狭量ではない。──立ち去れ、無知にして不遜なる人間。我の呆れが苛立ちに変わる前に」
いいだろう。ぜひ、そのままふんぞり返って、下層という砂山を統治してほしい。事実彼のおかげで多少治安は回復したらしいからね。
その屋敷を出た後の事である。
頭に配ればスムーズにプロテクトが配れるんじゃないかって思っての行動だったけど、断られたんじゃあ仕方ない、地道に売り込みでもしていこうかな、と思っていた矢先。
「ちょいちょいちょい! そこの! 人間!」
「ん?」
「あんた、夢遊病について詳しいんだって? 教えて教えて、あれの理屈!」
魔人、だろうか。大きな角と緑色の肌の特徴的なプレイヤーに呼び止められた。
恰好は執事っぽいのにたった二言でコメディ感が溢れ出ている。
「詳しいってほど詳しくはないよ。上層で似たようなことが起きてたから、その時の対処法を知ってただけ。このアクセサリつけるだけなんだけど、要る?」
「要る要る! めっちゃほしい! できれば複数個ほしい!」
「なんで? 知り合いに渡すの?」
「あ、違う。っていうかそう、自己紹介な! オレっちは
へえ、下層で商売。
いやまぁあるだろうとは思っていたけど、かなり珍しいんじゃないだろうか。しかも医者兼防具屋って、バラバラな。
それと……恒例になってしまっているけれど、一応視る。
ん、おっけ。変質プレイヤーじゃないね。
「で、あ、だから、オレっちは解析したいわけよ! そのアクセサリでなんで夢遊病が防げるのかとか、そもそも夢遊病とはなんなのかとか!」
「もし壊しちゃった時用に複数個ほしいって認識でいい?」
「それそれ! 言いたかったことつまりそれ!」
「うーん、無限にあるわけじゃないし、今手持ちにあるの以外だと上層のプレイヤーから貰わないといけないからなぁ」
「あ、製作はお前じゃないのか!」
「うん。私も貰ったのを持っているだけ」
変質プレイヤーではないけれど、一応警戒する。
彼が『Vesi』の崇拝者で、簡易的なつくりとはいえ免疫パッチファイルの一つであるコレが敵方に捧げられる、ということがあるかもしれないし。
「じゃ、じゃあ三つ! 三つだけくれ! あ、いや、セリンは払う!」
「いや無償でいいけど、なんでそんな必死?」
「医者だから! あ、というか、そう……初対面で話す話じゃないけど、オレっちってばリアルだとずっと病気でさ! 寝たきりって程じゃなかったけど、走り回るとかできない身体で、それがゲームだとできて、しかも、しかも、現実になったから、すげー元気になったんだよオレっち! あ、で、だから、こっちでの病気とか、自分のことみてーに胸が痛くなるから、治したくて治したくて……そんだけ!」
……そういう話で心打たれるほど感情的な人間ではないし、なんなら悲劇のヒロインってどっかでフラグ立てて死にそー、とか思うくらい冷酷なんだけど。
まぁ減るモンでもなし。実際はいくらでも作れるからね、これ。今は別の手段に移行しているから上層のプレイヤーは持ち腐れも良い所だし。
「はい、三個。と、私がつけてた一個。あげる」
「マジか!? マジでか!? あ、でも、それでお前が健康を損なったらダメだぞ人間!」
「大丈夫。私強いし」
背後から迫る拳。それを──避ける素振りすら見せない。
「──どこが強いんだ、ヒト種。私の拳も避けられないようでは……」
「そういう強さの話をしていないし、PVP禁止エリアなんだから避ける必要がないし。金太郎、この人知り合い?」
「ごめん! ほんとごめん! 親切に分けてくれてるのにマジごめん!! こいつ馬鹿でアホでクソ馬鹿でクソアホなだけなんだ、気を悪くしないでくれ!!」
「何を言う。ヴラデスト様のところに現れた似非宗教家兼詐欺師との話だ。お前もおかしなものを受け取るな。後で架空請求を食らうぞ」
「仮にも物品はあるんだから架空請求ではなくない?」
ギロリ、と鋭い眼光を向けてくるは、私を通り過ぎて金太郎の隣に並び立った青年。こっちは……狼男か。
最大身長にしているらしく、首の痛くなる高さから睨んできている。
「聞けば、それは運営と疑わしき人物から配布されたものらしいではないか。運営──少数の集団によるのべ一万人の殺害者。そんなものと疑われるような存在からの配布物など、毒やウイルスが仕込まれていたっておかしくはないだろう。上層の平和ボケした連中らしいことだが、私達は騙されんぞ」
「馬鹿、口を慎めよアンドゥーロ! 彼女は病気が横行してるって聞いて善意で配りに来てくれたんだぞ!? それをお前、言うに事を欠いて宗教家とか詐欺師とか……そういうこと言うやつが人類の繁栄に蓋をするってわかんないのか!?」
おお。良いことを言う。
医者が魔術師扱いされていた時代を生き抜いてきたかのような気迫があるな。
「……あとになって後悔しても知らんぞ、金太郎」
「しねーよ。するとしたらここで受け取らなくてまた夢遊病に出会って、あの時受け取っておけば、ってなる後悔だけだ」
何かしらないけど、友情パワーで引き下がったのかな、これは。
あんまり長居しても公爵さんちの飼い犬が絡んできそうなので、三個のアクセを金太郎に渡して敷地を出る。
二人がついてくる様子はない。金太郎は違うかもしれないけれど、アンドゥーロの方は「お抱え」なのかな。
「じゃあね」
「ああ、ありがとな!」
「……ふん」
下層は下層は、色々あるようで。
バルサ巫女ッスの屋敷へも一旦のお別れを告げた。この家にいてもできることは少ないからね。
ダンスダンスが多少不安そうにしていたけれど、メンタルケアは巫女ッスたちがやるでしょう。
チュウチュウファミリーの雑居ビルへ帰ってきて行うのはケッセウス、thou、ダンスダンスの身体の
外界・内側からの干渉が不可能な「一室」に作り上げるその三体に対し、「受け皿」の
ちなみにチェスカの呪いの装備シリーズについてだけど、これは本来「より良い装備を手に入れた場合、自動で換装する」というオプション機能を利用した装備群になる。攻撃力は下がっているのにより良い装備扱いになる上で、「装備すると武器が破壊されるまで外すことができない」という素晴らしい無力化性能を有する存在になるわけだ。
なお、彼女も言っていたことだけど、これはまだ世にあまり出ていないものらしく、対策も理解されていない。実は簡単にこれを外すことのできるすべがあるのだけど、しばらくは囚人の無力化に使われるだろうから説明しないでもいいだろう。
守護霊実装は確実な話になっている。形となり次第、クエストか、それともサイレント実装か。どちらかの方法でプレイヤーに備わらせる予定だ。
これで『Vesi』の騒ぎは沈静化すると思いたいけれど、クライアントとチーターは基本いたちごっこが常。できれば主犯格を捕まえておきたいというのが開発心。
……うーん、でもやっぱり、亡霊そのもののサンプルがあるとやりやすいんだけどな。シュミテットリスズ君を砕いたのはやっぱり早計だったか。
個別通話が開く。
「ん、お
「なに? 耳は聞こえているし口も動くから対応できるよ」
「ああいや、用ってほどの用じゃないんですがね。
「了解。ああそうだチュノスケ、JOY福が同化したと思われるミズダニのテイマーって今会える? あそこの家主」
「ええ、いつでも」
それくらいか。
あとは現在いる囚人の部屋に監視の目を置いて、と。
次使う時は一から作らないとねー。
と……メールが届く。
ブラックダリアかな、と思って差出人を見たら……ありゃ、ケッセウスだ。なんだろう。
「拝啓、横島中身へ。こちらの方でちょっとした事件があったのですが、あなたたちの裏技の手を借りることはできますか?
以下、事件概要の添付です。できるだけ早く返信をくれると私としては大助かりです。敬具」
というメール。あいつ、いちいち横島中身を言わないと気が済まないのか。
で、添付された資料を見る。殺人や窃盗……ではないのか。中層で起きている幽霊剣騒ぎ? なんじゃそりゃ。
しかし中層ってことはブラックダリアも同じ件かな。なんでケッセウスが巻き込まれいるのかは知らないけど。
……ああ、なんだ。簡単な話だった。これなら彼だけで充分だろう。
なので、「自分で解け怠け者」とだけ返信して作業に戻る。私は暇ではないのだ~。
彼──ケッセウスは溜息を吐いた。今しがた送ったメールの返信……「自分で解け怠け者」というあまりにもあまりにもな文面をもう一度読んで、もう一度溜息を吐く。
中層は
しかし同時にそう返してきたということは内部処理ログなどを洗う必要のない事件、ということなのだろう。さらに言えば、彼女には真相が理解できていると。
「ふむ」
「どう、……だっタ?」
「ダメでした。あなたもいる、と言った方がよかったかもしれませんね」
thou。ケッセウスが見抜いている通り、彼と同一、あるいはさらに深いところからの「客人」は、心配そうな声で彼に問いを掛けた。
そんな彼女に否を返し、改めて現場を見るケッセウス。
現場は
そんなもの事故につながる重大インシデントなので早く抜くべき……なのだが、誰もそれに触れることができないと来た。列車の運行は完全に現地民に依存しているために列車を止める、というようなことはできない。今まで色んな冒険者が引き抜こうとしたりスキルを当てようとしたりしてきたが、全て無駄だった。そうしている内に次の列車が来るまで三十分というところになってしまっている。
三年間、
「ケッセウス殿、状況は」
「見ての通り、誰も歯が立っていませんよ。そしてそちらも」
「ああ……雪殿を見つけることはできなかった。下層にいるらしいのだが、下層は広大且つ入り組んでいる。そこを探している時間はない……」
「私も今彼女にメールを出したのですがね、彼女が返信をくれる頃には列車が通り過ぎてしまっているでしょう」
決して無下にされたとは言わないケッセウス。ブラックダリアの中の「名探偵像」を壊さないためか、単純に後で何か言われるのが面倒臭いからか。
「列車の方も止められる様子はありませんか」
「ああ。だが、十番から十七番までの駅でプレイヤーが遅延を行ってくれている。具体的には駆け込み乗車をしたり、ドアの間に立ったりという迷惑行為だ。現地民はそういうものにはしっかり対応してくれる故、いくらか遅らせることはできる」
相手がシステム寄りの思考をしているからこその時間稼ぎだ。なんとも現代的な話ですね、なんて独り言ちるはケッセウス。
さて、彼女が「任せても大丈夫だ」と判断したのなら、まぁ、やる気を出してみるのも彼である。
「確認するのですが、この剣は四時間前には無かったのですよね」
「ああ、そうだ。十八番駅近くで乗って二十番駅で降りるプレイヤーが証言している。その他、ここの近辺を通るプレイヤーもこんなものはなかったと言っている」
「つまりこの四時間の間に現れたもの、というわけです。その上で、一本前の列車に乗っていた客は、衝突音のようなものは聞いていない。そうですね」
「肯定する。特に今日は二日酔いの覚めやらぬままに
「あまりにどうでもいい情報ありがとうございます」
となれば、この四時間以内どころか、前回の列車が去ってから現れたものと見るべき。
「そして触れることができない。スキルによるエフェクト、武器攻撃、他アイテム。全て試したのでしたか」
「セリンを含めてアイテムというアイテム、スキルというスキルを当ててみたが、通り抜けるばかりだった」
となると、恐らくこのフィールドに無いものなのでしょうねぇ、というのがケッセウスの見解。
ならば衝突の危険性もないかと問われたらそんなことはない。むしろ列車も同じ別フィールドの……と。
そこまで考えて、ふと、と言った様子でthouが言葉を吐く。「オシゴト」を邪魔しちゃいけないと身を引いていた彼女が。
「チョット……似てる。馬車、事件に」
「……ああ、成程」
そしてそれは、ケッセウスにとっての鍵だった。
「その……さっき言った二日酔いのプレイヤー。なぜそんなことが知れ渡っているのですか?」
「ん、ああ。あまりにもひどい状態だったことを見かねてウチの警護隊の者が介抱したそうなのだ。最後尾の車両で窓を開け、風に当たらせて事なきを得たらしい。前方車両だと蒸気機関の灰で余計に気分を悪くする可能性がある故な」
とすると。
……ケッセウスは──指を鳴らす。特に意味はない。
「ブラックダリアさん。列車より速く走ることのできるプレイヤーを招集できますか?」
「俺が行ける。何かわかったのか?」
「ええ、ですが、説明している暇がなさそうです。指示をしますので、これを実行してください」
「わかった。どうすればいい?」
「簡単です。次の停車駅まで走って、列車に沿う形で線路に降り、列車よりも速く走ってこの線路上まで来て、剣を抜いて、十九番駅で線路上から出てください」
「……わかった。信じよう」
「ええ、お願いします」
スプリントスキルが行使される。ケッセウスには決して出せない走力を得たブラックダリアが小さな粒となったのを見送って、十分後。
線路上、彼方──猛ダッシュしてくるブラックダリアの姿が。彼は剣のある所にまで辿り着くと、いとも簡単にそれを引き抜き、そしてまた走り去っていった。
口の形は明らかに「うおおおおお」となっていたのに無音。推理……というか憶測が当たっていたことをうんうんと頷いて噛みしめるケッセウス。
しばらくして、十九番駅の方からブラックダリアが戻ってくる。
「いや、いや。助かった。本当に良かった」
「お見事です、ブラックダリアさん」
「しかし……簡単に抜くことができたが、どういうことだったのか」
「簡単な話です。列車は干渉不可能。これはこの三年間でわかったことでした。現地民の運行する列車は先程ブラックダリアさんの言ったような遅延行為をしない限りは邪魔できない。どんなに強いスキルで攻撃を加えようと弾かれる。これは列車が強いからではなく、列車が別の次空を走っているから、だったのです」
「別の次空……」
「先日起きたバグ馬車事件と同じですよ。別の次空にあるからマイハウスの壁も通り抜けてしまう。列車も別の次空にあるから干渉できない。そして此度の幽霊剣も同じ。であるのなら、同じ次空に入れば簡単に干渉できる」
thouの感覚は正しかったのだと。恐らく自覚していないだろうファインプレーにウィンクを送るケッセウス。「?」が返ってきた。
「恐らくですが、その剣は二日酔いだったプレイヤーの持ち物です。窃盗事件があった後だというのにアイテムを実体化して持ち歩くタイプのプレイヤーだったのでしょうね。そのプレイヤーは酔い覚ましに窓の風を浴びて、手を滑らせて剣を落としてしまった。気付いたか気付いていないかは定かではありませんが、列車から飛び出た剣は上手いこと線路に突き刺さる。けれどそれは列車と同じ次空の話だから、他の次空からは"見えはするけど干渉できない"オブジェクトとして映るようになった。真相はこの程度のことでしょう」
「すぐに確認を取ろう。しかし、だとすると……列車に触った状態で線路に降りさえすれば、列車への妨害が可能、ということになりかねないな」
「不都合ですか?」
「あまり多くは知らない方が良いだろう。三年を経て人間の悪意が露呈し始めている。
成程、想像に難くない未来ですね、なんて肩を竦める。ケッセウス自身悪意──確信犯たる悪意から生まれ出でたようなものだ。愉快犯が出てこないとも限らない以上、知る者は少ない方が良いだろう。
「あ、列車、来た」
thouの言う通り、列車が来る。何事も無かったかのようにその地点を通り過ぎていく列車。周囲から安堵の声が漏れた。
「後始末……になるのかはわかりませんが、そのあたりはお任せしますよ。私とthouはこれにて失礼」
「ああ。本当に助かった。ありがとう、ケッセウス殿」
「いえいえ。前回のセリン反乱騒ぎでは警護隊の方にお世話になりましたから、お互い様ですよ」
では、と帽子を傾けて礼とし、過ぎ去っていった列車を口を開けて見送っているthouの手を掴むケッセウス。
「行きますよ」
「……うン」
このポケポケした「客人」に多少の溜息を吐きつつ。
ケッセウスは、次に控える商談へと意気込むのであった。