Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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羽搏く色とりどりの1195日目

 第二の事件はその二日後にやってきた。

 またも工房街、今度は屋根上。大きな音に驚いたというプレイヤーがマイハウスの外へ出ると、屋根の上に死体があって、ほどなくしてそれが消えた、と。被害者は恐らく男性。

 第三の事件はその翌日、場所は工房街と一団クランを繋ぐ通路の真上。被害者は誰も見ていないが、プレイヤーが消えるエフェクトだけは目撃したという報告多数。

 そして第四の事件が──今。

 

 一団クランに赴いていた私、ケッセウス、シハネの前に落ちてきて消えたプレイヤーがいて、場が騒然としている今が第四の事件だ。第三の事件の翌日である。

 

「また落ちて……。一体何人殺せば気が済むのですか……!」

「……成程ね。犯人はわかったよ、今ので」

「そ……それは、本当ですか?」

「うん。だから、そこにいる片眼鏡のプレイヤーを捕まえてほしいかな」

「──壮一? まさか、あなたが」

 

 行動が早かったのはケッセウス。それと、会話が聞こえていたのだろう一団クランの警備を行っているらしいプレイヤーだった。

 壮一と呼ばれた片眼鏡をかけたプレイヤー。彼が踵を返すだとか何かスキルを使うだとかする前に、取り押さえる。

 

「な、なにをする! 暴行はやめろ!」

「私も少しは気になっていましたからね。妙にこちらをちらちらと見てくるプレイヤー。犯人は事件現場に戻ると言いますが、あなたもそういう類で?」

「じ、事件現場に戻るもなにも──」

「コイツの職場は一応ここだよ。だとしても捕まえたがね」

 

 警備の言葉を受けて、シハネに視線を投げる。

 彼は……はぁ、と溜息を吐いた。

 

「雪国壮一。一団クランの職員の一人です。……どういう推理かを、お聞かせください、雪姫様」

「そこまで難しい推理でもなかったけどね」

 

 まず、と。

 

「第二の事件。大きな音に驚いたというプレイヤーがマイハウスの外へ出ると、って説明されたけどさ。マイハウス内じゃマイハウス外の音は拾えないんだよね。インターホンに投げかけられたプレイヤーの声とかは拾えるけど」

「……確かに」

「つまりその発見者のプレイヤーは共犯なんじゃないかな。一連の事件のパターンを覚えさせるための一手だった。ここでプレイヤーが本当に殺されたかすら怪しいかな」

 

 第一の事件では話を聞くにとどめていた私がこうして出張ってきたのは、エリアログを読むため。

 目の前で消えようがなんだろうがインスタンスに入場したログと死亡したログはそこのエリアに記録される。それを読めば本当に殺人が起きたのか、誰が死んだかなんて一目瞭然だから。

 そんな確認をしようとした矢先の事件。でも。

 

「第三の事件は本当に殺したかもだけど、落ちてきたかは怪しいよね。誰もその場を見ていない。見たのはプレイヤーが消えるエフェクトだけ。だというのにみんなはこの事件を一連の事件であると繋ぎ合わせたし、当然のように落下してきたものだと考えた」

「……成程。いわゆる水路付けというやつですね」

「良く知っているね、ケッセウス。そう、その通り。水路付け……板上などに零した水によってつけられた(みち)。次に通る水も倣うようにそこを通るという現象に準えてつけられた、心理学なんかの用語かな。前回前々回が何度もそうだったから、今回もそうなのだと思い込んでしまう現象」

 

 一度落ちてきて、二度目も落ちてきた風だった。だから三度目と四度目もそう、という錯覚。

 

「三度目も今回も、同じ地平にいる誰かがポイって投げ捨てただけだとしても、遥か高空から落ちてきたように錯覚する。現実じゃ死体の損壊具合でわかる高度も、このゲームっぽさが残っている『Rauta』ならわからない。プレイヤーの死体は損壊しない……というか投げ出された衝撃や地面と衝突したダメージを考慮しないから」

「そうして……私達がまた投げ捨てられたのだと、どこか高空から落とされたのだと上を、煙突を探している間に、犯人は悠々とその場を去ることができる。……いえ、その場にいるからこそ容疑者から外れることができる、ですか」

「うん。だから私は死体が落ちてきた瞬間に周囲を見た。上へ向かう視線を無理矢理戻して、周りを。そうしたら彼が投擲スキルの形をした格好で止まっているものだから、そんなにわかりやすいことはないよね」

「で……出鱈目だ! あの時その女も上を向いていた! アホ面を晒し、何も無い空を見上げていた! 証拠だってある──」

「ああ、そんな理由での殺人なんだ。なんだろうね、やっぱり人って安定すると欲が出るというか、おかしくなっちゃうのかな。誰もがアホ面を晒して上を見上げている画像を撮って悦に浸りたい。そんなくだらないことが動機。誰が殺されたのかは知らないけれど、数日前に亡霊なんてものの存在が確認されていて、よくそんなことをしようと思うよね」

 

 身長は私の方が低いけれど。

 地に抑えつけられている雪国壮一を──見下す。

 

「そう──そうやって、そうやって……貴様も俺を見下すのか……! シハネも、悠乱も、タイサンも……俺より弱いくせに、考える頭もないくせに!!」

 

 うわぁ。

 なんか個人的な恨みというか……被害妄想に苛まれて現実が見えなくなっちゃった系か?

 

 トリック自体は大胆不敵のそれなのに、犯人が小物すぎるッピねぇ。

 

 周囲もみんな「なんだ……」みたいな空気になっているし。

 殺されたプレイヤーもこれじゃあ浮かばれない。……そういうプレイヤーが地獄へ行って、けれど然したる善行を積んでいなかった場合ってどうなるんだろう。地獄担当の采配に依るだろうけど、これで順番待ちになったら憐れなことこの上ないな。

 とにかくこれで事件は解決──。

 

 どさ、と。

 取り押さえられている雪国壮一、取り押さえているケッセウス、警備。それを見下す私、難しい面持ちで雪国壮一を見るシハネ。

 これらの、丁度中間のあたりに──死体が降ってきた。

 

 上へ向かう視線。けれど──落ちてきた死体の異様さが私に警鐘を鳴らす。

 

「っ、伏せろ!」

 

 一拍遅れた。だからそれは、埋め合わせで間に合わせる!

 

蒸気製作(スチームクラフト)蒸気人形(スチームマタ)組み壁(ウォール)!」

 

 せり上がるは壁。蒸気人形で作り上げたその壁は、その場にいた者の前に出現し、文字通りの肉壁となる。

 なんせ、落ちてきた死体が──爆発を起こした、のだから。

 

「っ、なに──」

「周りのプレイヤー! 水、雪系! 使える奴ぶちこんで! 私使えない!」

「錬金スキル:雪化粧!」

蒸気技術(スチームテック):水風船」

蒸気技術(スチームテック):水槍!」

 

 騒動を見守っていた一団クランの職員・団員らからスキルによって生成された雪や水が殺到する。

 ……が、一向に収まる気配のない爆炎。まさか可燃性液体? 反応性化学物質? ……いや、水によって火勢が強まる気配がないからそれはない、か。

 ただただ消えていない。……つまり。

 

「術者が近くにいる、のか?」

「"そんなスノープリンセスに報告~。さっきからログ見てるけど術者っぽいのはいない。つーかそれ本当に燃えてる? 燃焼系のログの一切が確認できないんだけど"」

「……まさか」

 

 蒸気人形(スチームマタ)で作り上げた壁から、少しだけ身を晒してみる。

 ……熱を感じられない。

 

「雪姫様、危険です!」

「いや……多分これもハッタリだ。ケッセウス、そっちの警備の人。雪国壮一は」

「ご安心ください。逃していませんよ」

「たとえ爆炎にぶっ飛ばされても離さねえよ」

 

 雪に爆炎の光が反射する。元々の炎もかなりの光源だけど、周囲も相当だ。目がくらむ。

 けど……やっぱり熱を感じられない。私が焦ったせいで周囲に要らない勘違いを与えた……思い込みを助長させたかな。

 

 炎に手を伸ばし。

 燃えているように振る舞う死体に手を触れ──インベントリにしまう。

 瞬間、あれだけあった爆炎も光もすべてが消え去った。

 

 ……インベントリ内部で煌々と輝くその死体。アイテム名は……文字化けしている。

 オブジェクト変質で作った全く新しい模造死体、ということか? だとして何が目的で……。

 

『あー、あー。こちら一団クラン総団長フック・タイサン。伝声管より失礼するぜー』

 

 一団クランの屋上からその声がした。一団クランの総団長。声、初めて聞いたな。

 伝声管の声を拡声しているみたいだけど、どういう仕組みでやっているんだろう。スピーカーに類似するものはこの世界じゃ作り様がないのに。

 

『現在この辺一帯に燃え上がる死体が複数落ちてきているみてーだが、それ燃えないっぽいから安心してなー。すぐにクランの職員が回収にいくんで、位置の報告だけヨロ。んじゃあな、愛しているぜプレイヤー諸君!』

 

 ……ここ以外にも降り注いでいる?

 

「"カルアルン"」

「"もうやってんよ。が、ちとおかしいな。冷却塔付近にそれっぽい影なし。棺桶上空にクリーチャーの反応がある。数十匹の……ユスリカ? どうやらこいつらが燃える死体を落としているみてーなんだが"」

「"お()さん、カル、ちと割り込んで済まねえが、thouの嬢ちゃんがなんか伝えてぇことあるってんで一瞬念話と肉声を繋げやすよ"」

 

 てんでさっぱり目的が読めない。燃えない火炎弾を降り注がせることにどんな意味がある。

 目晦まし? みんなの注意を空に引きたい?

 

「"聞こえル?"」

「"なに、thou。どうしたの"」

「"聞こえル。雑音。沢山。攪乱。あなたタチ、危険!"」

 

 なんだ、いつも以上にカタコトじゃないか……なんて考えたのも束の間。

 

「"──カルアルン、解析を切れ!"」

「"妨害、繋がり、断つモノ!!"」

 

 直後それが起こる。

 竜巻のように空へと立ち昇った炎の光。それは我々のネットワークをぐしゃぐしゃにして、さらに棺桶上空に敷かれていた結界までをも断ち切った。

 

「……マズいな」

「なんだ、何が起きたんだ!?」

 

 我々のネットワークに関してはまぁどうでもいい。後で繋ぎ直せばいいだけだから。ただ、この緊急事態にそれが使えないのは結構痛い。

 それよりも、だ。

 

「シハネ、今すぐタイサンに宣言させろ。非戦闘員は連絡があるまで自身や友人のマイハウス内に引き籠れ、と」

「どういう……ことですか?」

 

 説明の前に二つのことが起こる。

 一つは警備のプレイヤーが取り押さえていた雪国壮一。彼が「ぐぎゃっ」なんてカエルの潰されたような悲鳴を上げたこと。

 PVP禁止エリアであるからこそできていた「無理な固め技」が思いっきり()()()音だと皆が気付くのにどれほど時間を要するか。

 

 そしてもう一つは、私達の目の前に巨大ユスリカが降りてきたこと、だ。

 

「──な」

「戦える奴は武器を取れ! 多分だけどPVP禁止エリアの(ルール)が解かれた! クリーチャーが襲ってくるぞ!!」

 

 阿鼻叫喚が、訪れる。

 

 

 その時から一時間ほどを経た。

 果たして何人のプレイヤーが巨大ユスリカに連れ去られ捕食されたのか。一体どれほどの敵をこちらは殲滅し得たのか。

 

「……警備の君。プレイヤーネームは?」

「あんま名乗りたくねーんだけどな。陽気なヤンキーって名前でやらせてもらってるよ」

「素晴らしいね、今のこの場においては」

 

 シハネ、ケッセウスとは逸れた。他、フレンドの生存確認をしている暇もない。雪国壮一は早々に持っていかれた。助けられたのか……普通に食われたのか。

 運営のネットワークは今も断たれたままだ。現状を確認するすべは目視しかない。

 

「一団クランの施設はマイハウスとして機能するんだっけ?」

「いや、宿舎は機能するが、受付のあたりは無理だな。NPCの店と同じ扱いだったはずだ」

「……テロ、になるのかな、こういうのは」

「人為的ならな。単純にクリーチャーが入ってきちまっただけならなんねーだろうが、あの死体にPVP禁止エリアを解除する力があったってんなら、やっぱ人為的なんだろーよ」

 

 何人が。

 ……淘汰の末に……人間関係の末に死ぬのなら見逃すけれど、こういう悪意で死に絶えるのは。

 彼らを……『Vesi』を一陣営一種族と言って放置し、対策をしたからと良い気になったこちらの落ち度……なのか。

 

「もう戦えないってなったらいいなよ。その宿舎までの護衛くらいはしてあげるから」

「ヘッ、ジョーダン。ことゲームにおいて男女を気にするクチじゃねえが、あんた別にそこまで強いプレイヤーでもないだろ。そんな奴より先にヘバれるかよ」

 

 ……インベントリから一本の大剣を取り出し、投げる。

 

「お、っと。……蒸気武装(スチームコンバット)? だが、初めて見るタイプだな」

「私が作った。本来の私は蒸気人形(スチームマタ)の調整師なんだけど、まぁ、チェスカ(友達)に乗せられて、一度だけ。案外いい出来だったから取っておいたやつだけど、私には無用の長物だから、やる。攻撃力と耐久力特化のじゃじゃ馬だから、ここぞという時に使うように」

「おいおい、強い武器を託すとか、死亡フラグ立てまくるじゃねーか。死ぬなよ、死んだらシハネになんて言われるか」

「シハネが生きているとも限らないでしょ」

「あいつなら化けて出るね。絶対」

 

 ……それが起きないように地獄を整備した身で言うのもなんだけど、わかる。シハネって妙なところでねちっこいからなぁ。

 

「と……追加が来たぜ。息は整ったかよ」

「いつでも」

「んじゃ今まで通り、スリーカウントだ。三、二、──」

 

 物陰から転がり出る。

 視界に映るは巨大ユスリカ。獲物を探して地を歩くその愚行に一撃をお見舞いする。

 

「一! 大剣スキル:カチ割りィ!」

 

 この挟撃により、成す術も無く倒れる巨大ユスリカ。仕様上死体は残らないけど、もし残っていたら彼らの山ができていただろうくらいにはこの方法で討伐を終えている。

 

 あと何匹同じことをやればいいのか。あとどれほど耐えれば夜明けが来るのか。

 なんて。

 私の集中力は当然切れないし、陽気なヤンキーもアドレナリンドバドバみたいだから、たとえあと一日続いたって笑っていられるだろう。

 

 ──華蘭(カラン)、と。音がした。

 華蘭(カラン)胡崙(コロン)と……下駄の歯を転がす音だ。

 

「……下駄、って。『Rauta』はスチームパンクなんだけど」

「んだ、この音」

 

 金属で出来た地面を跳ねる下駄の音。それは段々と近づいてきていて。

 

「陽気なヤンキー。私のそばを離れないでね。守れなくなるから」

「そりゃこっちのセリフだが」

 

 そいつは、現れる。

 隣に二体。巨大ユスリカと巨大トゲワラを従えた……和服の女性。両越しに刀を帯刀していて、音通り下駄を履いて歩いてくる。

 

 うーん。

 

「ご機嫌、」

「うーんミスマッチ。あごめん被っちゃった」

 

 ちなみにこれで陽気なヤンキーが敵だったパターンも考えたけど、彼のことは普通にスキャン済みなのでそういう展開にはならない。

 

「……ご機嫌麗しゅう。ウチ、山中ゆう、言うものどす」

「お嬢様言葉なのか似非京都弁なのかどっちかにしない?」

「実は俺京都出身だから言うけど、京言葉なら、言うものどす、じゃなくて、ちゅうもんどすになるかな、コテコテだと」

「……」

「あ、黙った。これ怒ってるかな逆鱗ぶち抜いたかな」

「いやここまでさも敵さんの親玉ですよアピールしておいてこんな煽りでキレるわけ」

 

 とか言いながら目の前のプレイヤーを探る……探ろうとして、違うことに気付く。

 プレイヤーじゃない。プレイヤーの形をしているけれど……こいつ、クリーチャーだ。それも女王タグのついた……。

 

「人がせっかく体面を整えて名乗ってあげたんに、不躾な方々どすなぁ」

「うーん理解度十点。せっかくこちらがきちんと名乗らせてもろうておりますのに、ほんまご無礼な方々。とかで止めた方がぽいぜ」

「おおー。私も正解を知らないから陽ヤンのそれが合っているのかすらわからない」

「……やってまって」

 

 襲い来るは二体のクリーチャー。挟撃の隙のないその強襲は。

 

「はいどいたどいたァ!」

 

 横合いから現れた、圧倒的な暴力によって()()()()()()

 

「……わお」

「おお、総団長! 流石だぜ!」

 

 ジョブはハイソルジャー。見た目は筋骨隆々の男。普通に冬なのになんか夏っぽい服着てる。

 彼が……一団クランの総団長、フック・タイサンか。

 

「今吸血鬼が面倒で忙しいんだよこっちは! プレイヤー同士の争いとかやってんな馬鹿!」

「ああ、やっぱりこれ、吸血鬼が……っていうかあの公爵君がPVP禁止に縛られずに人を襲うためのやつ?」

「お、状況の理解が早いやつがいるな! ……身体的特徴と服装からして、お前が雪ん子で合っているか!」

「そう。で、そこにいるのプレイヤーじゃないと思うよ。プレイヤーの形をしているだけで、クリーチャーなんじゃないかな。さっきのクリーチャーが従っていたってのも理由の一つだけど、なにより今投げた『匂い玉』を目で追ってしまっていたし」

 

 簡単に言えば、クリーチャーだけが感じ取れる芳醇な匂いのする玉を投げ、クリーチャーがそれに群がっている間に洞窟の中などへ逃げるためのアイテムだ。

 とんでもなく美味しそうな餌の香りがするらしい。プレイヤーには何もわからないが。

 

「ほーぉ。プレイヤーの形をしているクリーチャー、ね。……色々考えることはあるが、しかし! 今は吸血鬼で忙しい! から帰ってくれ! とても邪魔だ!!」

「そないなことを言われて大人しく引き下がると思てはんの?」

「ん、ん? すまん採点できなかった。それもう大阪弁じゃね? いや大阪弁にも失礼か。似非関西風ことばっつーか」

 

 まぁまぁ、そんながっつかないでよ。

 どの道君達は撤退せざるを得ないんだから。

 なんせ──。

 

「ん?」

「お」

「っ!?」

 

 回復する。上空を薄膜のようなベールが覆い、中を闊歩するクリーチャーたちが塵のように消えていく。

 

「おお、復旧とかするのか! 俺はこのままなのかと考えていたが、まぁするか!」

「システム的に復旧したのか、それともやっぱり運営とかいうのがいるのか」

「陽ヤン、総団長! そいつの足止めして! もしクリーチャーなら、撤退じゃなく──」

「確かに殺した方が都合は良いか!」

「任せな! 初使用、蒸気武装(スチームコンバット)!!」

 

 は、初使用? 使ったことないの? だとしたらマズい!

 

「どぉりゃ──のぁああっ!?」

 

 剣の峰から噴き出した蒸気。本来剣速を上げるために使われるその推進力は、持ち方の甘さから陽気なヤンキーをぶっ飛ばすに終わる。いや終わるというか、さらに射線上にいた総団長まで巻き込んでようやく止まる。

 ……馬鹿が。使えないなら見栄を張るんじゃないよ。

 

「馬鹿で助かった。──じゃあな、クソ人間ども! これで終わりじゃないことを知れ!」

「え、京ことばは? 去り際の捨て台詞京都弁ver.を期待してたのに」

「さいなら三角またきて四角!」

 

 ぶぅんと高空よりやってくるは巨大ユスリカ。その足を掴んだ和服の女……えーと、山中ゆう、だっけ。が、どこぞの怪盗三世よろしく一瞬で空の点となり、閉じ切る前のベールから逃れて雪空に消えた。

 

 いや、なんていうか。

 ……悪役……でいいのかな。『Vesi』の最高傑作とかそういう系だよね、多分ね。

 

「すまん団長……想像の百倍使い方がムズい……」

「おう、要練習だな。まぁ失敗は誰にでもある! 次に活かせ! で、俺は吸血鬼の方を見に行くから、あとの諸々はシハネとか悠乱に聞いてくれ!」

 

 一応緊急を要することと判断。

 なので、ぐしゃぐしゃになっているネットワークを上書きする形で全員を繋げる。

 

 一瞬にして開く無数の個別通話。が、皆何を言うでもなく各々がやるべき作業に戻っていく。多分みんな幻視したし幻聴を耳にしたのだ。「私の安否なんかわかりきってるんだから聞く意味ないよね?」って言う私を。

 

「"ぐあー……チャフ&ビーコンとは驚いた。解析に使ってた触肢が焼かれた感じの痛みだぜ……"」

「"中層、下層にもクリーチャーが入ってきやしたが、主に吸血鬼がヒト種の盾になってやしたね。これが彼らの信用回復のための策だとしたら天晴ですが"」

「"多分バルサ巫女ッスが先導してそういう役割を担ったんだろうな。で、公爵君の動向は?"」

「"とりあえず屋敷にはいませんね。ブラックダリアさんとメールでやり取りしてたんですが、中層を一瞬無数の蝙蝠の群れが通ったってんで、中層を無視して上層にいったもんだと思います"」

「"上層にそれっぽいのが入ってきたログはないけどなー。俺が焼かれてた時なら知らん。遡ろうにも色々膨大過ぎてエギー"」

 

 ……意識が動機の方へ向いていたから対応が遅れた。

 こんな意味の無いものを降らせる理由は、というのを問う前に、これはなんだ、を問うべきだった。

 そうすれば……もう少し被害も抑えられただろうに。

 

 失態だな。本来私にはホワイダニットなんてどうでもいいのに、それを気にする癖が習慣付けられてしまっていた。

 これもある種の水路付けか? だとしたら、あのくだらない動機の殺人にも意味はあったか。

 

「"殺気が念話に乗っちまってるぜ、スノープリンセス"」

「"お姫さん、自責の念はわかりやすが、万事に対応しろってのは無理な話ですぜ。オレらは俗にいう神じゃねえんだ、できることとできないことがある"」

「"わかってるけどね。……そういえば、thouは?"」

「"ご安心ください。しっかり保護してありますよ"」

「"今後彼女の言動にも気を配らないとだね。世界の触覚とも言える彼女のアラートがかなり役立つって今回わかったわけだし"」

 

 あそこまで具体的な警告を発することができるのなら……その仕組みを解析してシステム化できないものか。

 

 ……いや、その辺はまたあとでいい。

 今は私のミスで死したプレイヤーへの追悼をするべきだな。申し訳ない振る舞いだったよ、本当に。

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