Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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甲高いキンキンの1215日目

 アカレコ実装から約二週間が過ぎた。

 あれ以来大きなラグや不具合もなく、そしてオブジェクト変質のされた死体やプレイヤーも見つかっていない。依然として漂っていると思しきなにもできない騒霊(ポルターガイスト)は新規の肉体を作成・獲得できないはずなので、あの時点ですでに肉体を手に入れていた元亡霊だけが残りの『Vesi』ということになる。

 目下正体が判明しているのはあのハプバーのマスターくらいか。ブラックダリアに聞いたところ、プレイヤーネームはニーフレィデンというらしい。

 JOY福は……結局どうなったのかはわからない。ミズダニからの剥離は無理だと判断したから、もしあの融合が故意では無い場合はご愁傷様です、としか。

 ……ああ、あと、山中ゆう、だっけ? あの似非京都弁のヤツ。アイツも判明している一人か。印象に薄くて忘れてた。

 

 それと……行方を晦ませている公爵君。彼についてはノータッチを決め込むために得に調べてはいけないけれど、行方不明になってから今日に至るまでただの一度も発見されていないらしい。局所的PVP禁止エリア解除がアカレコで不可能になったから、かもしれない。そういう無法も封じちゃうからねー。

 そして……朗報。

 守護精霊の実装は一応うっかりやってしまったこと、にはなっていたけれど、段々皆がその便利さに気付き始めたらしく、こんなに便利なものが三年間放置されていたのか、勿体ない、という方向に世論が舵を切ったらしい。総団長だけは懐疑的だったようだけど、便利の前には砂上の楼閣。

 既に一部プレイヤーからは「他にも便利なものが眠っている可能性があるんじゃないか?」と長らく放置気味だった調査クエストへの興味がわいている様子だとか。やったね。

 

 こうなってくると本格的に私は様子見モードへシフトだ。殺人事件や窃盗事件が起きたって行ってやるもんか。我々が絡むことで起きる損失とかぜぇったい受け入れられないし。

 たとえチェスカからのメールであっても断ろう。たとえアカラからのメールであっても既読スルーしよう。たとえハナミからのメールであっても……ん、ハナミ?

 

「件名:この間はありがと~

 この間はちゃんと店に来てくれてシエシエ~。ついてはあの時の注文分の服が出来たので取りに来るヨロシ。アヨーッ」

 

 ……なんの話だろう。

 そういえば先日の同窓会でNPCと合同の服屋を開いているとか言っていたか。……それに、私が行った?

 

 いやまぁそこまで察しが悪いつもりはない。けど……私の姿を作ってあった、と? アカレコ実装前に……それで……でもそれでやるのが悪事ではなくショッピング……?

 ドッペルゲンガー、ただし中身は亡霊、だなんてタチの悪い冗談だ。あっちも数を用意できないだろうに、こんなことで使い潰すのか。

 

 ……仕方ない、向かうか。向かってコトが大きくなる前に掴み潰そう。

 

 

 Clothier Chronicle……縮めて【クロクロ】。それがハナミ……プレイヤーネームハナミは桜でSHOWの持つ店だ。

 中層は二番街に存在し、特徴はなんと言ってもNPCとの共同経営である、ということ。

 

「ハロー、ハナミ。いる?」

「お、始めましてのお客さんだね。いいかい、ここは──」

「あ、来たの雪ん子~。もー何言ってんのよウサ子、この子はこの前来て注文していった子だよ~」

「いいかい、ここは【クロクロ】。既製品からオーダーメイド服まで、なんでもかんでも取り扱うこの街最大手の服屋ってやつさ」

 

 まぁ、そうだろう。NPCは人と違って相手を見間違えることがない。

 どれだけ私に似せた姿形を纏っていようと、NPCからしたら別人だ。内部IDが違うのだから。

 

「まぁいいや。服取りに来たんでしょ。ほら、ウサ子、接客は私に任せて、服取ってきて。タグは雪ん子だよ」

「なにいってんだい。そいつは別のやつの商品だよ。もう一度頼みを聞かせておくれ」

「えぇ~? ゆ・き・ん・こだよ? 青の差し色が入ったやつ。持ってきて~」

「なにいってんだい。そいつは別のやつの商品だよ。もう一度頼みを聞かせておくれ」

 

 こうなるとテコでも動かないのがNPCだ。そういうところは変わらないらしいね。

 

「ハナミ、ちょっとメール見て」

「メール?」

 

 メール。今しがた送ったもの。内容は、「大声は出さないように。現地民の反応は正しいんだよ、ハナミ。以前注文しにきたっていう私、多分成り済まし。で、私はそいつを捕まえたい。もし代金なんかのやり取りで履歴にそいつが残ってるのなら、そこから再度完成メールを飛ばしてみて」と、とりあえず簡潔に。

 ハナミは……メールウィンドウと私を何度も何度も比べ見て、ごくりとつばを飲み込んだ。

 メールが返ってくる。「マジで言ってる? 一団クランに通報した?」。首を縦に小さく振る。

 

「ちょっと中見せて。いいでしょ?」

「……うん。勿論」

 

 演技ができないのか、明らかに神妙な面持ちになったハナミに少し笑いながら店内へ。

 店内は色とりどりの服と色とりどりの布で彩られた、あんまり外では見慣れない空間。

 布……畜産を行っている場所はあるけれど、NPCは基本布素材を売っていない。だというのにこれほどのものをどうやって……。

 

「ああこれ、蜘蛛糸か」

「わかるんだ。すごいね、雪ん子」

 

 ずっと店頭にいるわけにもいかないのだろう、普通に追従してきたハナミ。

 唐突の事態に固まりはしたものの、服のこととなれば元のエンジンを取り戻す。

 蜘蛛糸。確か地球じゃ五十年くらい前には蜘蛛糸で作った服が世間を騒がせていたかな。

 こっちの世界の蜘蛛……つまりクリーチャーの蜘蛛は吐き出す糸が比じゃないからね。太さも硬さも量もあっちとはレベチ。だから使いやすいんだろう。

 

「粘着性さえ落としちゃえば凄く使いやすい素材でさ、染色もこれ全部クリーチャー。地球には無かった複雑な色味とかあって、かなり面白いよ」

「へえ。そのまま装備にも活かせそう」

「まさにまさに。時代はインナーから防御力アップ! 防寒防刃でいて可動範囲を損なわないんだからウチの服が一番、ってね」

 

 ……成程。

 だからここへ来たのか、ドッペルゲンガーは。

 

「あ、こっちに待合室あるから、ちょっとそこで待ってて」

「ん。メールは?」

「もう出したよん」

 

 じゃあ、待たせてもらおうか。

 ……といってただ待つほど暇ではないので、冥底関連で来ていた質問や要望を処理する。

 案外……というべきか裏方ーズが優秀というべきか、アカレコ関連の問い合わせはほとんど来ていない。実装日だけで全て片付いているらしい。

 ああ、あと忘れない内に殞力の報告もしておいて……死んだプレイヤーと冥底入りしたプレイヤーの数及びIDが一致していることも確かめて……。

 

「とか、言って」

 

 そうこうしている間に来たらしい。メールで「きた」とだけ送られてきた。

 とりあえず向かいの店の壁際に獣族の青年を凭れ掛からせる。街路を行くNPCが良くとる行動の一つ。まさか彼が運営の一人だとは思わないだろうし、まさかそいつの目から私が視ているとも思わないだろう。

 

 さて……どんなクリーチャーが私の真似をしているのか。

 

「えっ、可愛いじゃん」

 

 ハッ。

 ……いやまぁ、私の思う可愛いを詰め込んだのがこのアバターなのだから当然にしても、可愛い。し、あっち系の服も似合うな。……なんだよセンスいいじゃんか。

 どこか硬い笑顔のハナミと話している私。キャラメイクはまんま私だ。黒髪がフードの中に入っていて、それが腰の辺りまで伸びていて。艶のある前髪のふわふわ感とか、目のくりくりした感じとか、ちょっと褐色入ってる肌とか、作れる限りの最低身長とか。

 顔の見分けは付かないし、遠巻きで拾う限りのボイスデータも同じなんだとか。流石に言葉のニュアンスで違いはわかるって今視界を借りている運営が言っているけど、余程長くを過ごしていないと判別できないということでもある、か?

 少なくとも一度ハナミが騙されているのだから腕は確かなのだろう。あと可愛い。

 

 メールが来る。「どうしたらいいこれ」。返信は「この待合室に入れちゃってよ。ここマイハウスでしょ? 出られない設定とかにできたら最高」と。

 ややあって、服を用意してきたNPCウサ子に制止をかけながら、件の私を店内へ促すハナミ。

 ん……抵抗しているな。「強制はしなくて大丈夫。今一団クランのハイスイーパーとハイシーフが到着した。もう逃がしても大丈夫」と再度メール。

 衣服の受け渡しがあったのを確認。ありがとね~……の声のあと、ハナミが待合室に入ってくる。

 

「やば! やばすぎ! どう見ても雪ん子だったってアレ……リキャラメイクのアイテムとかどっかで買えるのかな。成り済ましエグいんだけど」

「ゲーム時代の課金アイテムが残ってたとかじゃないかなぁ。……けど普通にお金は払った感じ? 私に擦り付けたりは」

「ああ、そういえばされなかったかも。……え、こういうのって普通詐欺とか代金擦り付けとかするんじゃないの? しないんなら何が目的?」

「……私が可愛すぎて、私になりたかった、とか……」

「雪ん子っていつもはあんまり表に出さないけど自分のキャラ超好きだよね」

「当然」

 

 ログと目視の二つで尾行をさせている。

 実際、何が目的だったのかがわからない。いや、ここへ来た理由はわかるんだけど、なぜ私を模したのかがわからないというべきか。

 

 アカレコ実装によってもう派手なことはできないはずだけど……。

 目的という点で言うなら、先日のPVP禁止エリア解除の理由もちょっとよくわかっていないのが事実だったりする。プレイヤーを殺したかったのか、なんらかの警鐘を鳴らしたかったのか。公爵君の動きのためだけの陽動とするにはあまりに規模が大きかったからね。

 

「私、ここで緊急脱出使うよ。もしこの店が監視とかされてたら、偽物の後にすぐ私が出ていくのはマズいから」

「ごめんねホント~。これからはちゃんとフレンドリストで確認メールとか飛ばして確認する~」

「うん、それがいいよ。今回は無かったけど、詐欺とかあると怖いしね」

「ね~」

 

 緊急脱出を使う。仮想インスタンスが生成され、ワープゲートが開く。

 

「じゃ。色々落ち着いたら普通の客として来るから」

「うん。じゃあね~」

 

 そこへ入れば──ロビー、と。そう称される場所に出た。

 緊急脱出を使ったプレイヤーが放り出される場所、ロビー。門番のように立つ防護服を着たNPCと目が合う……けれど、何も言われない。

 

 個別通話が開く。

 

「シーカーA10より入電。対象はまっすぐ後方車両を目指している模様。捜索の甘さを考えるに後方車両は敵の巣である可能性が高い。危険度大。判断を求む。オーバー」

「入電でもないし君の判断でどうこうしてくれていいし」

「シーカーA10より入電。正直めっちゃビビってる。最初の姫以外全員やられたやつ覚えてる? おれあん時身体動かせないままションベンちびりそうだったんだよね。オーバー」

「フレンド何人?」

「ゼロだが。あ、シーカーA10よりオーバー」

「じゃあ肉体捨てていいね。もし死んだり乗っ取られたりしたら抜け出してきな。新しいアバターあげるから」

「鬼か? いや悪魔か?」

「健闘を祈る。オーバー」

 

 後方車両へ行けば行くほど雪が多くなる。これは保全が行われていないからだ。一両目の保全だけで全体が賄える使用なのが悪いと言われたらまぁそれまでなんだけど、後方車両は企保保全が行われず、だから蒸気機関も動かない。これによって熱が放出されないため雪も解けない。結果真っ白な景色が積み重なる、と。

 正直建造物の無い外で猛吹雪な方が視認性は良い。建造物があるのに真っ白にしか見えない後方車両は怖い。遠近感がバグる。『Vesi』がどうとか以前に私もあっちはあんまり行きたくない。眩しいし。

 

 そんな突き放したような指示を出して、さて帰るかぁ、なんて伸びをしていたところ、背後でプシューと扉が開いた。

 

 ここはロビー。冒険クエストに出ていた採掘者たちが帰ってくる場所。

 入ってきた防護服のプレイヤー数人。うち一人が他のプレイヤーに肩を借りている。……どうしたんだろ。

 

「あー、すまない、防護服で良く見えないが、そこのプレイヤー。よければ一団クランか医師団(メディック)に連絡を入れてくれないだろうか」

「いいけど、なんて言えば良い?」

「それが、わからないんだ。冒険クエ中、突然体調を崩して……」

 

 ふぅん、と言いながら一団クラン……シハネに連絡を入れる。シハネ、大分落ち込んではいたけど、最近はそれを忘れるように仕事へ打ち込んでいるから……ま、私なりの慰めかな。

 

「HPは? 毒食らってるとかならHP次第で死んじゃうよ」

「いや、HPはMAXなんだ。状態異常も回復させてある。酒を飲んだわけでもない」

 

 周囲のプレイヤーが防護服を脱いでいく。中には見知ったプレイヤーもいたけど、今はこのプレイヤーだ。

 して、体調の悪そうなプレイヤーの防護服が剥かれる。

 

「……吸血鬼?」

「ああ、そうだが……。と、安心してくれ、こいつは悪い奴じゃない」

「ああいいよ偏見はないから。ただ、この防護服ヒト種用だね。だからだと思うよ、その症状」

「えっ……何か違いがあるのか?」

 

 そりゃね。種族別に分けられているんだから、そこには理由というものがある。

 

「吸血鬼は高代謝なんだよ、ヒト種より。具体的なパーセンテージは忘れちゃったけど、だからヒト種より酸素欠乏になりやすいの。ヒト種の防護服は外部の汚染の一切を体内に入れないための作りになっているけれど、吸血鬼用の防護服はそこを若干甘くして酸素供給を増している。吸血鬼は種族的に強いから多少なら耐えられるのさ」

「……そうだったのか。知らなかった」

「まー基本は別にヒト種用でいけちゃうからね。彼が特別呼吸数が多かったとかそういうことなんじゃない? この時点からの対処法は、こうやって大きく息が吸える場所に落ち着かせること、変に人工呼吸みたいなことをせずにあんまり触らないこと、一気に温かい場所に晒したりせず温度変化を最小限に抑えること……くらいかな。HPが減ってないんだったらまー大丈夫。プレイヤーはHPバーの欠損以外じゃ死なないし。あ、あとは渇水値だけ気を付けてね」

「何から何まで……ありがたい! というか、凄まじいな。もしやあなた自身が医師団(メディック)の一員だったりするのか……?」

「え、全然。ああでも吸血鬼の友達がいるからね、それで知ってただけ」

「そうか……。……あなたのようなプレイヤーがいて、救われた気分だ。吸血鬼にはもう……居場所はないものと思っていたから」

 

 まぁナイーブになる気持ちも分かる。

 それだけのことを公爵君はしてしまっている。彼以外が彼から離反したと公表されたとて、初期の方は彼の肩を持って吸血鬼の利権だの貴族がどうのと叫んでいた連中も含まれている。

 趨勢が悪くなったから鞍替えした、という風に見られてもおかしくはないし、実際下層じゃ肩身の狭い思いをしている吸血鬼も多いのだとか。

 

「よく見たら、君は魔人か。もしかして吸血鬼の彼に仕えていた的な?」

「いや、俺もこいつも住処は中層だよ。普通に暮らしていた。だが……あの宣戦布告から、昔馴染みの連中までもが俺達をそういう目で見るようになってしまった。今ここで共に冒険に出てくれたメンバー以外、皆……俺達を、こいつを、空気のように扱って……」

 

 それでいて今当の本人が行方を晦ましているときた。被害を受けただけの吸血鬼はやりきれない思いだろうなぁ。

 

「……ちなみになんだけどさ。彼が起きたら、クリーチャーの血なんて飲めんて、って吸血鬼のプレイヤーを知らないか聞いてくれない? 知り合いなんだけどさ、ここ一、二年くらい姿を見てなくて、心配なんだよね」

「フレンドリストからメールを飛ばすことはできないのか?」

「『Rauta』じゃまだ友達になってなかったんだよ。連絡しようとしてフレリスに見つかんなくて思い至ったんだけどね。あ、知り合いってのはリアルの話でさ」

「ああ……。成程、了解した。その……恢復がいつになるかはわからないから」

「勿論勿論。急かしたりしないって。あ、一団クランと医師団(メディック)きたよ。お、ちゃんと担架持ってきてる。偉いな」

 

 全く。

 干渉はしないと決めたはずなのに。

 ただ……少し、このタイミングの前兆は気になるからね。

 

 ヴラデスト・ヘルカイザー君。君の所在をあくあまでプレイヤー目線で見つけさせてもらおうか。

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