Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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絡繰り伝うは1229日目

 事の顛末。

 無事パックルPanは見つかった。空腹値ギリギリの状態で。

 その後ゆっくりと食事なんかをしてきたらしい二人がマイハウスへ帰ってきたのが十六時くらい。すっかり忘れていたとのことで、流石に平謝りする猫changとパックルPanにいいよいいよと言いながら帰路に就いた。ポロロイドとはフレンド交換をしておいた。

 

 そうして帰ってきて、すぐ実験室へ。

 

「成程ね……専用インスタンスの隔離空間移動……正確には開いただけ、か。それなら確かにログが残らないし、消えられる。世界が違うんだから検索にも引っかからない」

「しかし、そのパックルPanってプレイヤーもですけど、どうやってプレイヤーがスタッシュに入るんですかい?」

「それなんだけどね、なんかバグがあるらしい」

 

 頭の痛い話だけど、パックルPanが教えてくれたその「手順」。

 まず、共有スタッシュを開いてあと表示をオフにして、もう一度スタッシュを、今度は専用のスタッシュを開く。その状態で再度専用スタッシュを非表示にし、共用スタッシュへアイテムを何か入れると同時にスキルなどで自分の身体を前に出す。その後スタッシュの表示をUIの閉じるボタンから消すと、自動でスタッシュの蓋が閉まって中に閉じ込められることができる、と。

 実はゲーム時代からあったらしいバグ技で、その時は身体の向きが変わる系のエモートを使うことで脱出できた……らしいのだけど、今回できなくなっていて死ぬかと思った、と。

 で、なんでできなくなったかっていうと、多分アカシックレコードが原因。エモートが禁止されたわけじゃないけど、エモートでキャラクターが変な挙動する系はアカシックレコードが軒並み禁止……というか修正したことになっている。その修正挙動で専用インスタンスから出る仕組みだったから、できなくなって詰んだ、と。

 

「まーゲーム本編に関わらないバグ利用はそこまで目くじら立てないけど、なんつーか自業自得だな」

「ね。ただこれ、吸血鬼一派もそういうバグ利用してそうだよねって」

「大いにありそうですね」

 

 報告されていないバグ技……それもアイテム増殖なんかの"ズル"以外のバグ利用については全てを把握していないことがある。

 主要なものは全て潰したはずだけど、こういうパーティ的なもの……いわゆる"いけない遊び"というか"おもちゃ"みたいなものは全て見切れていない。世界移動の際に自然消滅するものがほとんどだったから、特にUI周りは気を付けていたんだけど……それでも残るか、と。

 で、問題の、「結局彼らはどこにいるのか」について。

 

「この……無数にある専用インスタンスのどっかにいる、って? 無理無理。んなもん見つけらんねーよ」

「ログアウトじゃないとわかったら……まぁ、私達が精力的に探す必要もないんじゃないか、って思いがあるよね。バグは修正すべきとはいえ」

「どうですかね。あの鐇泊克井田(まさかりかついだ)金太郎ってプレイヤーの言動をそのまま受け取るんなら、あいつは他者を強制的にその専用インスタンスへしまっちまえることになる。ブン屋に上がってたっていう冷却塔の信号の話も含めて、吸血鬼の頭がまだそういうくだらねえ動乱を視野に入れているんなら、オレらで対応すべきじゃねえですかい」

「んー、今回は俺もスノプリ寄りだわ。まず見つけ出すのが無理なのと、ログアウトじゃないんならどーでもいい。『Vesi』を一種族として認めるって方針が決まった以上は過干渉は不要だろ。ま、強い意志を以て絶対に関わらねえ、ってわけじゃねーからな。俺の力が欲しかったら呼べよって感じで」

「……了解しやした。じゃ、この件はオレ個人が与らせていただきやす。下層にゃオレの家族がいるんでね」

 

 それもまた良し、だ。私達は運営という一つの群れではあるけれど、総体ではない。意見の違うヤツがいるのも当然だ。

 私なんか割と頻繁に非難轟々食らうし。

 

「チュノスケ。情を前に選択を誤ることだけは、ないように」

「へい。肝に銘じておきやすよ」

 

 実験室からチュノスケが消える。

 あとに残ったのは静寂と。

 

「いちいち言葉選びがこえーんだよあんたは」

「そういう存在だ、仕方がない」

「だからさ」

 

 私だけ、だった。

 ……あれ?

 

 

 さて、実験室から戻ってきたチュノスケは、こめかみのあたりに指を当て、ふぅと一息を吐く。

 

 強い言葉が出そうになった。

 別に今日に限ってではなく、いつものことではあるのだが。

 井坂チュノスケ。そう呼ばれる前……この世界の人々には「力の根源」や「大いなる知恵」などと呼ばれていた頃の彼は、雪こもり姫やカルアルンとはまた別の存在だった。

 

 それでも敢えて彼らの"規格"に合わせるのなら、『"未遂"を司る聖霊』という呼び名になるのだろう。

 生まれてこなかった者。やりきれなかった思い。届けることのできない言葉。

 そういったものの集合体にして、そういったものそのものと言える概念。それが井坂チュノスケの前の姿だ。

 

 だから──最近特に、ひしひしと身を焼く想いに参っているところがある。

 一番それが大きくなったのは、やはりPVP禁止エリア解除事件の時だろう。あの時は"遂げられなかった"想いが棺桶じゅうに広がっていた。だというのに彼らは『Vesi』を……あの事件の主犯を一種族として認め、関わらないという方針を貫くことにした。

 理解のできないことである。

 不和を嫌うがゆえに声には出さなかったものの、どうして一刻も早く悲劇の原因を排除しないのか……理解が及ばない。

 勿論わかっている。彼ら彼女らとチュノスケでは立場が違うし、世界に対するスタンスも違う。それに、今回カルアルンが言っていたように、できない……現実的ではない、というのもあるのかもしれない。

 それでもチュノスケにとってこれは、見過ごせないことの一つであると言えた。

 

「こっちを最大限気遣ってくれてるってわかる分、お()さんには悪いと思いますがね……」

「別にそんなん思う必要ねーって」

「!」

 

 いた。目の前に。

 ニヤついた顔の、同僚が。

 

「……なにしにきた、カル」

「そう怖い顔すんなって。手伝いに来たんだよ」

「そいつ自体は疑いやしねぇが、どういう風の吹き回しだ、カル。手前はオレとは違うイキモノだろう」

 

 カル。カルアルン。

 チュノスケがお姫さんと呼ぶ彼女とは異なる性格・性質の持ち主。

 彼もまた概念を主体とした上位存在であることに間違いはなく、そのとっつきやすい言動やフランクさは彼の殻でしかない。

 

 チュノスケが"未遂"だとするのなら、カルアルンは"存続"だ。扱う概念の階層が違う。

 

「スノプリは部下のガス抜きって概念を知らねえだろ? 別に俺達に上下関係なんざ無いってのはその通りだが、俺もお前も自然とあいつには従っちまう。けど不満ってのはどーやったって溜まるんだ。それを全体のためを思って飲み込むなんて()()()()()。俺は健康になるための行動に手助けをしにきたってだけさ」

「……オレが聞きたいのは」

「裏も無いし、頼みたいこともなにもないよ。これでいいか?」

「あァ……それでいい。すまねえな、性分なんだ」

「だから気にすんなって。で、吸血鬼一派のことやんだろ? へへ、俺は自分で決めた方針や全体の方針を理解していながらそれに逆らえるって長所を持っていてね。スノプリも咎めてはこなかったし、バリバリやったんぜ!」

 

 正直な話をすれば、助かる。この一言に尽きた。

 カルアルン本人はこの調子であるし、基本前には出たがらないが、酷く有能である。何かと気が利くし、自身の役割も理解しているし。

 なにより"お姫さん"ほどではないけれど、力がある。

 

「そんなに言うんなら……手伝ってもらうかいね」

「よしきた。で、具体的になんか方針とかあんのか? なんなら今から鼠の獣族を作るのもできるぜ」

「ああ……それがいいかもしれねえ。ただし作るのは鼠じゃなくて蝙蝠だ」

「成程ダンピール。中層に隠れ住んでいたってのは尤もらしい理由になる。それで情報収集してこいって感じか」

「話が早ぇや。ああ、口調なんかでバレんのはやめとけよい。上層じゃ普通の言葉も下層(こっち)じゃ差別用語クラスのこともある」

「大丈夫大丈夫、その辺は頭に入ってっから。んじゃ行ってくるわ!」

 

 消えるカルアルン。

 風のように出でて、嵐のようにまくし立て、水のように消えていく。

 "存続"の聖霊は、その実誰よりも刹那的であった。

 

 

 さて、ダンピールのキャラクターを新しく作り直したカルアルン。名前をハヌマンとしたそれで降り立つは、どこか閑散とした吸血鬼の住まい。

 臆することもなければキョロキョロもしないハヌマンがその地の門に手を掛ければ──。

 

「ちょーいちょい、どこの命知らずだいアンタ。ヒト種がヴラデスト様の屋敷に入ろうなんて、一瞬で死んじまうよ!」

 

 声を掛けてきた女性がいた。吸血鬼だ。

 

「そうなのか? でも誰もいないみたいだぜ。あとおれヒト種じゃねえから!」

「ちょっと家人みんな出ているってだけさ。で、ヒト種じゃないならなんなんだ。どう見てもヒト種だけど?」

「ダンピールってやつだよ! 知ってるかおばちゃん、ダンピー、」

 

 がつ、と顔を掴まれるハヌマン。

 

「成程半分同族なわけね」

「そ、そうそう。それでなんでおれは顔を掴まれてんだ?」

「生意気なガキにお仕置きするためさ。だぁれがおばちゃんだって?」

「いやいやおばちゃんって呼ばれたいからそんな喋り方してんだろ!」

「……若干そうだけど! お姉さんは気恥ずかしくあったけど! 初対面には初対面の礼儀ってもんがあんだろう?」

「ほら見たことか」

 

 ハマヌン。あるいはカルアルン。

 特技──ノンデリ。

 

「はぁ……ま、いいや。で、たとえ半分同族だとしても、この家に入るのはダメだよ」

「なんでさ」

「やんごとなき人の家だから。みだりには入れる場所じゃあないのさ」

「やんごとなきって……クリーチャーの血とか飲めんての家だろ、ここ。あいつのどこがやんごとなきなんだよ」

「──……へえ。あんた、名前は?」

 

 既に、である。

 彼女にあった時点で、ハヌマンは彼女のプレイヤーデータの全てを抜いている。upup0218。吸血鬼。料理人。フレンドリストにある名前は、ほとんどが吸血鬼邸の従者のもの。そして、鐇泊克井田金太郎、アンドゥーロなどの"一派"と、クリーチャーの血とか飲めんて、というプレイヤー。

 知っている。わかっている。全て理解した上でちゃらけている。

 これが彼だ。ハヌマン。"存続"を司る聖霊。

 

「おれはハヌマンってんだ。おばちゃんはあっぷあっぷ、だろ?」

「……そんな名前は聞いたことないって言おうとしたんだけどねぇ。なんだい、あの人からあたしのこと聞いていたのかい?」

「大分誇張されてたけどなー」

「誇張?」

「種族をゴリラと間違えた女、とか。アイツのジョブはバーサーカーでいいだろ、とか。PSクソザコの癖にタメ聞いてくる意味わからんやつ、とか」

「あの人があたしのことなんか誰かに話すわけない、って言いたかったけど……想像以上に親密な仲だね、あんた」

「どうだろな、それは」

「どういうことだい?」

 

 シミュレートする。ヴラデスト・ヘルカイザーを名乗っていた彼の会話ログから、「もし、一人だけ、気を許せるような存在がいたら」というシミュレートを。

 

「ちょっと前、上層(うえ)で事件があったんだよ。PVP禁止エリア解除事件。知ってるか?」

「……まぁね」

「それっきりさ。おれは心配して何度もあいつにメールを送ったのに返してこねえ。オフラインにゃなってねーから死んだわけじゃないだろうにあいつ……こういう時悪ふざけとかするやつじゃなかったから、……まぁ、なんか……おれが変なこと言って……縁を切られたか、なんかどーしても手の離せねえようなことしてるか」

「あんた……あの人の友達のくせに、あの人の表の名前を知らないのかい?」

「……表の名前? いや、あいつそんなのあるとか言わなかったけど。つか表も裏もねーよ。クリーチャーの血とか飲めなんて、があいつの名前だよ。強いて言うなら本名があるけどそういうネットリテラシーは高い方だったからぜってー言ってねえだろうし」

 

 まるで感情的に。まるで「おれの方があいつと仲良いもんね」と言わんばかりに。

 そのあまりにも人間らしい言い草に──どうやったって引っかかる。

 ああ、もしかしたら彼は、そういう友達を一人だけでも作っておきたかったのかもしれないな、と。

 

「……もしかしてだけどあんた、下層には絶対来るなとか言われてなかったかい?」

「え、なんでわかんの? めっちゃ言われてた。絶対来てほしくないとか来るな馬鹿とか。まぁほら俺ダンピールだからさ、結構脅されてて来なかった節もあるよ。差別が凄いとか言われてたし」

「でも、来ちまったわけだ」

「いやだって連絡途絶えたら……心配だろ、普通。まぁ約束破ったのはそーだけどさ。……おれでも結構我慢したんだぜ?」

「なんで我慢できなくなったんだい?」

「ああそれな。おれ中層に住んでるって言ったじゃん。言ったっけ? まぁいいや、で、中層に獣族が……あごめん、異族が上がってきてさ」

「別に気にしないよあたしらは」

「ああそう? で、獣族の鼠のやつが上がってきてさー、そいつに下層の状況を聞いたわけよ。主に吸血鬼が……なんかさ、騒動起こしたらしいじゃん。起こしたやつの名前は知らねーけど。で、ネズ公が言うわけよ。もう吸血鬼に居場所は無いだの、吸血鬼の屋敷もすぐに取り壊しが決定するだろうだの……とにかく悪口をさ」

 

 あっぷあっぷは──気付かない。

 今、思考に一つのロックが嵌ったことになど。話術ではなく機能から思考を制限されていることになど。

 

「頻繁に上へ行く鼠……アイツらだねえ」

「でさおれさ、あったまキちゃって。ノメンテのやつの家、おれフレだからさ、実はわかるんだよ。位置っていうか区画標識を選択すると区画の家所有者がリストアップされる機能で位置まで特定したんだけど。あいつ言いやがらねえから」

「うわあったねえそういう機能。よく覚えてたね」

「おうよ。でここまで来たら、おばちゃん登場ってわけ」

「もうおばちゃんでいいけどね。……そうか。……うーん。そうか。実を言うとね、あたしもノメンテのフレなのさ」

「いやだから、知ってるって。実はゴリラなのも知ってる」

「ああそうだったか……。そう、実はあたしはゴリラなんだけどね」

「ゴリラなの!?」

 

 ハヌマンの顔が掴まれる。痛みは無いのにギリギリという音が聞こえて冷や汗を垂らすハヌマン。

 

「あの人は……なんだ、少し遠いところへ行っててさ」

「えやめてくんないその言い回し。死んだみたいじゃん」

「……」

「え、いやいや。フレリスオンラインだって。死んだらオフラインなるでしょ。だから死んでないってば」

「……あたしらプレイヤーはさ、死ぬと……肉体を、遺せないだろ?」

「え、あぁ、うん。そういうシステムだからな」

「あの人はね、それが嫌だったんだよ」

 

 既に解析は走らせてある。

 わかるのは、この家には何の痕跡も無いということだけだが。

 

「……時々言ってた、プレイヤーはどこへいくのか、って話のこと言ってる?」

「ああ、聞いていたんだね。そう。……それで、あの人は……プレイヤーが消えてさ、泡みたいになって……どこにもいなくなるのが嫌で、死体を遺せる死に方を模索してたんだ」

「死体を……」

「そうしているうちに、或る偶然と繋がりを得た。当時から棺桶じゅうを模造死体とかいうやつで騒がさせてた組織があってさ。それ自体はなんというか、その辺にあるオブジェクトを死体の形に整形し直す、ってだけのことだったんだけど」

「そんなこと……できんのか」

「どうやるかはあたしも知らないさ。けどそれはあの人の求める死体じゃない。プレイヤーが死んで、その肉体が天へと還らない……世界に還らないこと。それがあの人の目的で、それができるかもしれない、というのをその組織の内の一人が持ち掛けてきた」

 

 おもむろに──あっぷあっぷは、自身の腹部へ、手を当てる。

 

()()()()()()()()()。そいつはそう言ったよ。そして今ここには、あの人から受け継いだ、あの人が入るべき器がある」

「……えと、マジで言ってる? これおれが馬鹿だから勘違いしてるとかじゃないよな?」

「全然。むしろ賢いよ、あんたは。……だから、ノメンテはここにはいない。遠くへ行っていて……いずれ、帰ってくる。今度こそ正しい肉体を得て、正しく死ぬために」

 

 沈黙が降りる。

 ハヌマンはパクパクと……理解ができない、という顔で口を開閉し、あっぷあっぷは、だろうね、という顔で彼を見る。

 しばらく無言の時間が続いて。

 

「あー……周りは? なんか言わなかったの? いや……そうか、おれが相談されてない時点で」

「そうだね、濁されていた。周囲のやつには"正しい死を迎えられるようになるための手段"としてだけ伝わっていたよ。生まれ直す、というのは誰も口にしてなかった」

「……よし。いったん飲み込む」

「おお、すごいね」

「そう。……で、気になったんだけどさ。いやこれすげーノンデリなことだけどさ」

「なんだい。良いよ、あの人の代わりに答えてあげる」

「ノメンテは……あー、なんだ? その……おばちゃん……というか、その、あんたの身体と……縁? pass? みたいなのがあるわけじゃん」

「そうだね」

「だから……まぁ、百億歩譲って、帰ってくることができるのはわからんでもないわけよ。……他の連中は? 同じような手段を取ったとして、どーやって帰るの? その辺の説明なしにそーゆーもんかーって頷いたの?」

「まぁ、半ば信者みたいな感じだったからね、あの人の周囲にいたのは。帰り先……接続先の無いやつらがどうなるかはあたしでも知らない。ノメンテも知らないんじゃないかな。別にノメンテは後を追えとは一言も言ってないし」

 

 ぽかんとした顔で。事態が上手く呑み込めていない顔で。

 一瞬だけ開いた念話のチャンネルに、「"最悪だな──無責任が過ぎるだろう"」と吐き捨てた。

 

「あー……まぁ、いいや。そいつらがやるかどうかもわかんないし、その手段も知らないし。え、で、生まれ直したあいつに記憶はあんのかな。おれのこと覚えてると思う?」

「その組織のやつら曰く、記憶は持ち越せるらしいよ。じゃなきゃこの手段は取らないって。……あの人が生まれてきたら、あたしも誰かにpassを通して、同じことをするつもりさ。そうなった身体はもうUIなんて見えないし、メールもグループ通話もできない、スキルやステータスも確認できない……普通の人間の身体になる。あんたもどうだい?」

「いや、えっ……そんな気軽に誘われるのこれ!」

「女と違って男は簡単にpassを繋げられる。理由はわかるだろ?」

「いやいや言わせんなって、じゃないって……。ああ、でも……このアバター? キャラクター? が誰かに所有されている、って感覚はちょっとわかるんだよなぁ」

「あたしらはそれが嫌で嫌でたまらなかった。それだけさ」

 

 うん、うんうん、と三度頷き、ハヌマンは……手を差し出す。

 

「ごめん、すぐには決めらんない。っていうかノメンテがちゃんと生まれ直せるまで決めらんないかもしんない」

「大丈夫さ。吸血鬼の寿命は長いから」

「だから……フレンド交換だけしない? あ、いや、このシステムが嫌いで、っていうのはわかってるんだけど、ノメンテみたいにいきなりいなくなられたら今度こそどうしようもないから……」

「わかってるわかってる。そんな言い訳しなくても大丈夫。あたしらが嫌なのはあくまでシステムに縛られることだからね。そら、フレを飛ばしてやったよ」

「お……upup0218、で合ってる?」

「合ってなかったらとんでもないタイミングであんたにフレ申請したやつがいることになるね……」

「いやとんでもないタイミングでフレ申請されたかもしれないじゃん! はい承認! ……ちなみにいつ生まれそうとかってわかるの?」

「人間と同じ周期でいいのかわからないから、そればかりはなんとも」

「だ、だよな。ごめん。……あ、安心しろよ! あいつに誓って、このことは口外しないからさ!」

「ん、信用するさ。数少ないあの人の友達、だからね」

「おう!」

 

 ──こうして。

 彼は情報を手に入れたのだった。あまりにも受け入れ難いその情報を。

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