Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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心細いそらぞらしい1231日目

 話を聞いて、開口一番に。

 

「そりゃそうでしょ」

 

 と、返した。

 

「……そりゃそう、って。……この希死念慮の塊みてーな願いがか?」

「希死念慮ほどは行かないと思うけど。あれ、知らない? そういう人間が集まるように多少操作入れてるんだよ? 『Rauta』リリースする前の会議で家族や恋人と引き離すのはどうか、って話が出たから頑張ったんじゃん私。それなりの無理はしたけど」

 

 身寄りの無い、売名をしたいだけのギタリスト。恋人のいない三十代男性。詐欺師。友達のいないこどもおじさん。

 この『Rauta』をプレイする人間はそういう「縁から切り離された人間」だけである。そうなるように仕向けた。その中からさらにスチームパンク好きが来たわけだから、そりゃ『Rauta』の人気は「そこそこ」止まりになる。

 もう少し前の時代ならもう少し多かったんだけどねー。VR機器の普及が人と人との関係性を増やした結果、人類全体の「他人と縁を持とうとする衝動」が底上げされていったのは想定外だった。

 

「確かにそんな話が出てた覚えはあるけどよ、実行にまで移されてた……つうか、地球でまでそこまでのことができるとは思ってなかった、つうか」

「君達と私は根っこが違うからねー。そんなわけで、その人達に対しては特に何をする必要もないよ。生まれ直すやり方が成功するかどうかも知らないし、私でもキモいって思うけど、転生を夢に見た自殺なんかどこの歴史でも繰り返されてきたでしょ」

 

 カルト宗教によるものであったり、そもそもがそういう教義・信仰であったり。

 地球における魂システムがどうなっていたのかは知らない。ただ転生は無かったんじゃないかな、ちょっと掠め取らせてもらった限りだと。

 

 カルアルンとチュノスケ含む、すべての運営と私は根っこが違う。同じことができるし、同じような生態をしているけれど、原初は違う。

 だから彼らより多少融通が利く。といっても多少だ。地球で神のようなことをしろと言われたら難しいと首を振る。地球の神々や超常存在がこちらに来ても同じことを言うだろう。

 超常存在とは肉体を有しておらず、だからこそ同源の世界に対しての干渉がし易いものを言うのだから。

 

「チュノスケのやつが吸血鬼一派やら何やらに対してアクションすることについても放置か?」

「放置だね。ただまぁ、度が過ぎたと判断すれば、運営という枠組みを外れ、元のカタチに戻ってもらうかもしれないけれど」

「俺みてーのなら罰にはならんだろーけど、チュノスケには効くだろうなぁその罰。マフィアファミリーが相当大事らしいし」

「ねー。情に靡くのも絆されるのも私は"良い成長"と受け止めるけれど、縋るものが増えちゃあ本末転倒だよね」

「ノーコメントで」

 

 というか、それで言うと。

 

「カルアルンは家族とか友達とか恋人とかつくんないの?」

「……俺が元々どういうスタンスだったか知ってるくせによ」

「私達の中で一番の人間嫌い、でしょ。でも多少は情が湧いたとか言ってなかったっけ?」

「友達付き合い程度ならな。家族以上の愛情は無理だよ」

 

 肩を竦めさせてもらおう。こればかりはさもありなんではないからね。

 

 

 チュノスケが手に入れたブラックマーケットの台帳。そこから調べ上げた、「直近で"人間"を大量に購入している人物」。

 そこにあった名前は──。

 

「嘘だと思いたかったんですけどね……いや、慈善事業の可能性もまだある、か?」

 

 人間の購入。

 生まれ直すという目的が嘘偽りである可能性を彼は追っていた。なんらかの方法で消え、今はどこかに潜伏しているだけであると……そう読んでの台帳だ。

 下層には()という役職を持つヒト種がいて、一般の吸血鬼ならそこで血液を購入する。それ以外が食べられないということもないから、基本は他の食事で代替もできる。

 だというのに裏市場での大量購入なんてリスクを冒すプレイヤーは、相当に切羽詰まっている……長らく血液を摂取していないか、人数が大量である可能性が高い。

 

 そう読んでの入手、だったのだが。

 

 記載されていた名前はチュノスケの知るどの吸血鬼のものとも違っていた。

 だからその真偽を確認し、真意を問いただすために……彼は上層へまで上がってきたのだ。

 

 心を落ち着け、平静を装い、手続きを行って……そこへ通される。

 ドアを、ノックする。

 

「ん、ああ、今確認した。井坂チュノスケさん……下層の、チュウチュウファミリーのお頭さんか。どうぞ、入ってくれ」

「ええ、失礼しやす」

 

 入る。──総団長執務室と書かれたそこへ。

 

 中には、ヘスト語の書かれた石の破片をまじまじと見つめ続ける彼がいた。

 

「すいやせんね、アポイントメントも取らずに」

「いや、構わないさ。その顔を見ればわかる。急用だろう?」

「ええ、かなり。……ここ、座っても構いやせんか?」

「っとすまに、俺が促すべきだったな。どうぞ座ってくれ」

 

 一団クラン総団長フック・タイサン。上層のプレイヤーを取りまとめる役割を持ち、ハイメディックであるにもかかわらず高い戦闘能力を有するトッププレイヤーの一人。

 そんな彼が、まさか。

 椅子へ座り……そして、チュノスケは切り出す。流されてしまわないように。

 

「単刀直入に聞きやす。総団長、あんた吸血鬼を匿ってやすか?」

「ん、何の話だ?」

「この棺桶にはブラックマーケットってもんがあるんでさ。その存在はご存知だと思いやすが。お宅のシハネさんが探りに来ていたこともあったとか」

「ああ、報告は受けている。が、別に取り締まる気はないな。セリンを介さない売買があっても別に良いと思うし、売られている違法なもの、というのも結局は俺たちがとりあえず案で違法に指定したものがほとんどだ。訴えかけがあれば合法になるものも多い」

「そのブラックマーケットの台帳に、アンタの名がありやした。これはどういうことですかいね」

 

 フック・タイサンの顔が……「何を聞かれているのかわからない」から怪訝なものに変わる。

 どういうことだ、と。

 

「いや、すまん。知らんぞ。それは……俺じゃないんじゃないか?」

「アンタ以外にフック・タイサンがいるんですかい?」

「名前の被りはあり得ない……が、名前の酷似はあり得るんじゃないか?」

 

 言われて。

 凝り固まっていた頭が氷解する。そしてべちっと自分の目元を手で押さえるチュノスケ。

 メール。「君が真っ先に気付くべきだったのにね」という件名だけが見えている。ああ、本当にその通りだ。

 

「……すいやせん。フレンドを交換してもらっても良いですかい」

「ああ、構わない。これは俺が井坂チュノスケへ送るべきだな」

 

 来る。フック・タイサンからのフレンド交換申請が。

 それを受け入れつつ、台帳に入力された名前と見比べれば──「フック・タイサン」と「フック・タイサン」の二つが並ぶ。

 崩れ落ちるチュノスケ。

 

「大丈夫か」

「……くっだらねぇことでした。クソ、騙された」

 

 中黒の全半角である。

 けれど、チュノスケは過去に同じ手に引っかかっている。学ばないと言われても仕方のない失態だ。

 

「だが、くだらないで済ませられることじゃないさそうだな。つまりそれは、吸血鬼を……恐らく口ぶりからしてヴラデスト・ヘルカイザー公爵を匿っている人物が俺を騙っている、成り済ましている可能性が高い、ということだろ?」

「そうですね……。一団クランの総団長に成り済まして、ブラックマーケットで買い物なんてことをやっても……怪しまれていない誰かがいる、ってことになる。……すいやせん、一件、下層で起きたとある事件についての共有をさせていただきやす。この事件を経験しておいてなんで気付かないんだ、なんて言われちゃ返す言葉もないんですけど……」

 

 JOY福消滅に関するレポート。運営の話を抜きにした、一般向けのそれも作成していたチュノスケ。

 それをフック・タイサンに渡す。

 

「……成り済ましに……クリーチャーとの融合。そして……『Vesi』、ね。最近よく聞くようになったが……これ、日付結構前だな。こんな前から出ていたのか」

「プレイヤー全体に関わることだ、周知できていなかったのかオレに責任がありますんで、罰があれば受けやすよ」

「いや、上層中層下層全体が一丸となって事の対処に当たろう、みたいな風潮はごく最近の流れだしな。それを言うなら上層で起きた事件のほとんどの詳細を一団クランは明かしていない。お互い様だろう。……だが、これからはそうも言っていられない、か?」

「ですね。首脳会談じゃあありませんけど、各層トップのやつら専用のグループC・VCとか作っておきやすか?」

「良い考えだ。俺の方から作成と周知を行おう」

 

 それで、と。

 

「この『Vesi』ってのは、いわゆるハッカー集団と見做して良さそうだな。ああクラッカー集団って言った方がいいのか? その辺詳しくないんだが」

「わかりやすさ重視でハッカー集団でいいんじゃないですかね」

「よし、じゃあハッカー集団にしよう。こいつらの技術力は群を抜いていると見た方が良いよな。名前の変更まではなんとなく頑張りゃできそうだと思えるが、PVPエリアの解除は普通にやり過ぎだ。そんで……見た目? キャラメイクの模倣ってものまでできるのはちと困る。多分だがこの声も模倣されているよな」

「恐らくは」

「……困った。これどうやって対策すればいいんだ? 俺は総団長だが、ぶっちゃけいちプレイヤーでしかないぞ」

「オレもです。この事件の後は予め合言葉を決めておく、って対抗手段を取りやしたが……それを全プレイヤー全交流で、ってのは厳しいでしょうね」

 

 ここで少し補足を入れるのであれば、いくらフック・タイサンが超人的な直感を有しているとしても、特に怪しい動きを見せたわけでもないチュノスケのことは疑えない。あれはあくまで彼女がボロを出したが故の疑いであって、むしろ売買履歴を購入するといった地道な動きを見せているチュノスケを運営の一味であると疑うのは無理な導線だ。

 さらに「そういうことが可能そうなやつに心当たりがある」とも言わない。不審や匂わせがどういう悲劇を生むのか彼は充分に理解しているし、恐らく手を貸してはくれないだろうことまでわかっているからだ。

 

「すいやせんね、決めつけで厄介事を持ってきて、解決方法を有していないなんて……不甲斐ねえ」

「これはプレイヤー全体の問題だ、気にすることはないさ。……が、こうなってくると俺の放蕩癖は少し見直した方が良いな。メールでのやり取りより実際に現地に赴いた方が血肉が通っているだろう、の気持ちでやってきたが……一団クランに居続ける印象に切り替われば、俺の偽物は行動し難くなるはずだ」

「ええ、『Rauta』に転移系のスキルはない。ああいや緊急脱出がありやすが。……問題は、誰の偽物が何人いるか、じゃないですかい?」

「オイオイ流石にフック・タイサン以外は作れないだろ。……フック・夕イサン、とかか?」

「二人同時に現れて、どっちかが本物主張して争い合って、実はどっちも偽物でしたのパターンもあり得るでしょうし、現地に赴いた判別員が偽物でしたのパターンだってあり得ますよ」

「頭が痛くなるな……」

 

 頭の痛い話だ。

 確かにアカシックレコード、守護精霊の実装によってこれ以上の変質プレイヤーは現れなくなった。

 だが、予め用意されているものについてはノータッチだし、それがどれほどであるかは誰も把握していない。

 極論この棺桶内のプレイヤー全員の偽物を用意してあります、だってあり得るのだ。

 

「……一度上層、中層、下層ごとに別れて……セミナーとか協力会とかのような形でプレイヤーを集め、全体のグループC・VCを作る、というのはどうだ」

「集まらなかったプレイヤーは見捨てる方針ですかい?」

「そうなるのも仕方がない事態だとは思うが……一団クランのトップからその言葉を吐くのは難しいか」

「なんか無いですかね、そういう無関心なプレイヤーも必ず巻き込めるような話題は」

 

 ふむ、と顎を擦るフック・タイサン。

 

「ずっと考えていたことがあるんだが……俺達プレイヤーは、当然プレイヤーネームで管理されているわけじゃなかったはずだ。少なくともゲームだった頃にはIDがあって然るべき……だというのは、考えとして正しいよな? 俺が昔のゲームばかり遊んでいたからじゃないよな?」

「正しいと思いやすよ。でないと色々なもんが回らなくなると思いますし」

「だが、ゲーム内から自身のプレイヤーIDを把握するすべがどこにもない。……けど、オンラインゲームやソーシャルゲームというのは、機器の代替や乗り換えなんかの時用に自身のIDを要求するもの……だと思う。全部が全部ってわけじゃないが……」

「確かに。見ませんね、『Rauta』でそういうの」

「どこかにあるんじゃないか? 俺たちが誰も見つけられていないだけで、そういう機能があってもおかしくはないと俺は考える」

 

 確かにそういうものがあるのなら、変化にも成り済ましにも気付きやすい。

 けれど。

 

「三年……リリースから考えたら五年くらい経ってるってのに誰も知らねえ機能なんかあるんですかい?」

「少なくとも守護精霊のことは誰も知らなかったし、ロビー空間の奥も最近になって発見された。あり得る、と俺は思う」

「その……あるかもしれねえ可能性に縋んのが、『Vesi』対策、と?」

「まーどうやっても見つからなかったら一団クランからどうにかしてIDを発行するのもいいかも知れん。採掘者用の個人ID画像だ。なんとかして複製も不可にしたい……が、その辺は一団クラン(ウチ)の技術班が頭を悩ませる」

 

 もしプレイヤーIDがプレイヤー側で把握できるのなら、成り済ましなんてものは土台成立しなくなる。

 対策としてこれ以上ないものであると同時、藁にも縋るとはこれこのこと、という感じでもある。

 

「もしかしたら俺達が知らないだけで、知っているプレイヤーがいる可能性もある。ブン屋や著名者に連絡をして情報収集を手伝ってもらうのはアリだと思う」

「ですね。集合知は侮れない。オレもファミリーや下層の連中に協力を仰いでみやすよ」

「そうしてくれると助かる。それと、そもそもの件、吸血鬼公爵殿の行方についてだが、こっちにも一件気になる話が上がってきている。チュノスケさんを信頼してこの情報を共有するが、できればまだ口外はしないでくれ」

「へい、勿論で」

 

 メールの形で送られてくるは"あるレポート"。

 そこに書かれていたのは。

 

「棺桶外殻に居住の痕跡……? 加えて……近付いたら武器が使えなくなった……ですかい」

「ああ。通常、俺達はロビーからフィールドへ出る時、射出されるようにして外気に晒され、蒸気圧噴射走行機(ジェットスキー)で洞窟等々に辿り着く。が、その時、まだ要検証の段階でしかないが、引っかかるようにして外に出ると、上手い具合に棺桶外殻に着地できるみたいなんだ。ただ、そこはしっかりフィールド……冒険のための場所だった……んだが」

「そこに居住スペースのようなもんがあって、しかも中に入ったらPVP禁止エリアっぽかった、と。……なるほど、解除ができるなら作成もできるってことですかい」

「恐らくな」

 

 さらに言うとアカシックレコードは棺桶の内部しか相互参照し合わない。

 外側に安全地帯を作ることができるのなら、やりたい放題が実現するだろう。

 

「で、そんな外に出てすぐの場所なんて、ウチの検証班がやったようにうまくやれば行けちまう場所だ。だが、そこから壁伝いにどこぞかへ行っていればもう場所はわからん。棺桶自体はかなりデカいし、あー、山中ゆう、だったか? 飛行クリーチャーに乗って移動する『Vesi』の一員も確認されている。そういうことができたらもうお手上げだ」

「……オレじゃ調べようがないが……一応ファミリーのやつらにも言っておきますよ。射出の際に背後を振り返ってみろ、ってね」

「それくらいしかないよなぁ。……というわけで、不用意に真似して手掛かりをなくしたり、万が一にも敵と鉢合わせちまうプレイヤーが出ないように、この話は一団クランの小数人だけしか知らんようにしている」

「ご安心を。ウチは一応マフィアの形を取ってんだ。勿論本物にゃ劣ると思いますがね、口の堅さも覚悟の強さもあるつもりですよ」

「そう考えると怖くなってきたな。俺はさっきまで勘違いでマフィアのボスに詰められていたわけだ」

「だからすいやせんってば……」

「ハッハッハ、冗談だ。よし、動きだそう。敵の動きに負けないように」

 

 まずは情報収集だ。フック・タイサンは読解スキルの育成もある。

 遠出をしなくなる、というのはある意味助かる話ではあったのかもしれない。スキル育成が捗るから。

 

 こうして二人は解散する。

 少しずつ進んでいく調査と……やってくる暗雲に顔を顰めながら。

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